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暗躍する人達の狂想曲 その3

 イエログループとシャルンエッセンスグループが、ヤルメキスの結婚式と披露宴が行われる日に何かを画策しているのはわかったのですが、困ったことにお互いの意思疎通がうまくいっていなかったのと、シャルンエッセンスの勘違いが重なって、その何かが見事にダブルブッキングしていたらしく、イエロとシャルンエッセンスはことあるごとに店の裏に行っては話合いをしているのですが、毎回物別れに終わっているらしく……

 で、まぁ、あんまり首を突っ込んでも行けないかなと思って、しばらく静観していたんですけど、両陣営の話合いが平行線を続ける中……

 イエロが狩りにいかなくなり、
 シャルンエッセンスが店を留守にして、と

 仕事をほっぽり出して話合いをし始めたため、
「ちょっと2人ともいいかな?」
 さすがにまずいと思い、僕は2人を店の裏手に呼び出しまして、事情を聞くことにしました。

「いったい何があったんだい? 僕で良ければ相談にのるから言ってみてよ」
 僕がそう言うと、イエロとシャルンエッセンスの2人は、何やらうつむいてしまってモジモジしています。
「あ、主殿に相談となると……」
「ち、ちょっと困りますわ……」
 2人は最初、そんな事を呟きながらうつむいていたのですが
「お主が譲らぬからこのようなことに……」
「それはこちらの台詞でございましてよ」
 いつしか、そんな言葉を互いに呟きあいながら肘で小突きあいを始め、
「お主、拙者にも我慢の限界というものがだな!」
「上等ですわ、受けて立ちますわよ!」
 いつの間にか、互いに怒鳴りあいながら、互いの胸ぐらをつかみ合い始める始末でして……
 ってか、シャルンエッセンス、お前、腕力でイエロに勝てるわけないだろう?
 今も軽々と片手で持ち上げられてるってのに……
「店長様、絶対に負けられない戦いがここにあるのですわ」
 と、どこかで聞いた事があるような事を言いながら、持ち上げられたまま、足をばたつかせているシャルンエッセンス……

 で、まぁ、この2人をですね、怒ってなだめて優しく諭して、泣いて笑って喧嘩して……って、あれ? なんか終盤がなんか違うような気がするんですけど、とにかく必死に説得を続けてですね、ようやく2人は重い口を開いてくれたのですが……

「あ、主殿と奥方殿の披露宴を、さんぷらざでやろうと思っていたのでござる」
 イエロ、それ、サプライズ、な。
「店長様と奥様の披露宴を、おもてなし酒場2号店の完成披露とヤルメキスの披露宴と合わせて複数プレイを行うつもりでおりましたの」
 シャルンエッセンス、複数プレイってのはこういう時には使わないから。
 あと、嫁入り前の女の子はそんな言葉を使ってはいけません。

「ってことは何か……2人とも、僕とスアのためにあれこれ考えてくれてたわけか」
 僕の言葉に、イエロとシャルンエッセンスは申し訳なさそうに頷きました。

 なるほどなぁ……
 イエロの命の恩人ってあれか、行き倒れかけてたイエロに僕が弁当をあげたことに対してだったのか。
 シャルンエッセンスの救世主ってのも、コンビニごんじゃらすとかやって迷走しまくってた彼女達を叱って雇ってあげたことだったのか。

 シャルンエッセンスも、そのことが……っていうか、恩返しの気持ちもあったもんだから引きたくなかったんだろうな……最近の彼女なら、自分の聞き間違えがわかった時点で即座に謝罪して引き下がってたはずだから……
 シャルンエッセンスの行動に感じていた違和感もどうにか溶けたわけですけど……さてさて、問題はどうやってこの話を決着させるかなんですよね……

 僕はしばし考えました。
「……シャルンエッセンス」
「は、はい、なんでございましょう?」
「確かさ、おもてなし酒場2号店って、パルマ聖祭の日まで待たなくても、もっと早くにオープン出来るはずだよね?」
「は、はい……ですが、せっかくのお披露目ですので、ヤルメキスの披露宴と、おもてなし酒場2号店の開店と、店長様の披露宴を複数プレイで、パルマ聖祭の日に……」
 だから、複数プレイはやめなさいね。
「……せめてパルマ聖祭の代わりになるような日がないものか……」
 と、僕は腕組みしながら考え込んでいたんですけど、すると、そんな僕の側にスアがテクテクと歩み寄ってきました。
 で、スアは僕の服をクイクイと引っ張ると、自分の顔を指さしてこう言いました。
「……今週末、私誕生日、よ」

 ……うん、これしかない。

 っていうか、愛する奥さんの誕生日を今初めて知ったのかっていう大問題はあえておいておいて、
「シャルンエッセンス、ボクとスアの披露宴と、ヤルメキスの結婚おめでとうパーティーと、おもてなし酒場2号店の開店をスアの誕生日に行いたいと思うんだけど、どうだろう?」
 僕がそう提案すると、シャルンエッセンスは、
「そ、それでしたら私も異存ございませんわ!」
 笑顔でそう言ってくれました。
 ……ですが、その横で今度はイエロが
「……奥方の誕生日がこの週末とわかっていれば、拙者もそこで披露宴をしたかったでござる……披露宴そのものも出来なくなったわけでござるし……」
 と言いながら、なんかやさぐれモードに突入してしまいました。

 あ~、もう……こなったらやけくそです。

「何を言ってるイエロ」
「は?」
「ヤルメキスの披露宴の日にもやってもらうぞ、僕とスアの披露宴」
「な、なんですと!? そ、それでは主殿は2度披露宴を行ってくださるというのでござるか!?」
「あぁ、もうこうなったら好きにしろ! 何でもやってやるよ!」
 とまぁ、最後はもう勢いだけで言っちゃったんですけど……あ、スアに何にも聞いてなかった。
 
 内心焦りながら、チラッとスアの方を見た僕。

 その視線の先のスアはですね
「……披露宴……2回……」
 顔面を真っ赤にしながら、体をくねらせ続けていました。

 うん、これは喜んでる。

 以前のスアなら超絶対人恐怖症のせいで、話を聞いただけで卒倒してたと思います。
 でも、魔法を使用しながらとはいえ、テトテ集落の皆さんとふれあったり、コンビニおもてなしの店員のみんなと過ごすうちに、いつの間にかスアの超絶対人恐怖症の症状もすごく改善されてきている気がしているわけです。

 と、いうわけで、すさまじい急転直下の結果。
 当初サプライズで行われる予定だった僕とスアの披露宴が、今週末とパルマ聖祭の日に行われることになりました。
 で、ヤルメキスとパラランサが知らないところで、おめでとうパーティーが決定してしまったわけなんですけど、
「お2人の披露宴とご一緒させていただけるのでごじゃりましたら、むしろ光栄でごじゃりまする」
「ヤルメキスちゃんがそう言うなら……」
 と、喜んでもらえたみたいで何よりでした。
 それよりも、すでに尻に敷かれている臭がプンプンしているパラランサが気になったんですけどね……

 で、まぁ、今週末までほとんど日にちがありませんけど、
「万事おまかせあれですわ!」
 と、シャルンエッセンスがすっごいやる気になって頑張ってくれているので、まぁ、よろしくお願いしようと思っています。

 で、まぁ、これでめでたしめでたしになるかと思っていたのですが、そんな感じで安堵していた僕の元に組合のエレエが満面の笑顔でやってきました、
「タクラ様、こんな感じで案内状を送っておきました」
 って言いながら、書類の束を手渡してきたんですけど、それに目を通すとですね……

『辺境小都市ガタコンベ仮領主タクラリョウイチ結婚披露宴招待状送付先一覧表』って

 ……え? 何、これ……僕、聞いてないけど……
「開催まで時間がありませんでしたので、いつものように代理決裁にて施行させていただきました」
 そう言って、エレエはニッコリ笑いました。
 って……おいおい。

 エレエが言いますには
「仮とはいえ領主様なのです。披露宴をなさると言うのに招待状を送付しないと言うのは失礼にあたりますので」
 ってことらしいんですよね……ははは (乾いた笑い)

 送り先を見ると、ブラコンベの仮領主ゴルアと、ララコンベンの仮領主メルアは良いとして、王都の中央辺境局とかいう大層な名前のついているとことか、聞いた事のないような都市や小都市にまで招待状を送りまくってるんですよね、これが。
「でもさエレエ、時間が少ないのにこんなに招待状配れるのかい?」
 僕がそう言うとですね、いきなり僕の横に転移ドアが出現しました。
 で、その戸が開いたかと思うと
「婿様!配布に関しては魔女魔法出版が総力をあげてお手伝いさせていただいていますわ」
 と、魔女魔法出版の社長にして、スアのお母さんにして、パラナミオとリョータのお婆さんにして、僕の義母であるリテールさんが満面の笑顔で登場したわけです。

 このとき、僕はすべてを受け入れる覚悟を決めました。
 うん……こんな大物まで出てきて抗えるわけがありませんもの……ははは (超乾いた笑い)

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