暗躍する人達の狂想曲 その2
と、いうわけで……
コンビニおもてなしの一部店員達が何やら暗躍しているらしいというのがですね、まったく嘘がつけないヤルメキスとシャルンエッセンスの2人からバレバレになっているんですが……っていうか、秘密裏に進めたいんだったら、なぜこの2人を巻き込んだのか理解に苦しむところですが……
で、まぁ、スアにもこっそり相談したところ、僕達や店に有害なことではないらしいとのことなので、まぁ、見て見ぬフリをすることにしている僕なわけです。
が
その課程においてですね、僕はあることに気付いたんです。
まずイエロとセーテンですが、
「いやぁ、主殿。25日のヤルメキスの結婚式は今から楽しみでござるなぁ」
「結婚式の後のおもてなし酒場の段取りは全部任せるキ」
と、事あるごとに僕に言ってきます。
次にシャルンエッセンスとシルメールです。
「タクラ様、今度のヤルメキスの結婚式は楽しみでございますわねぇ」
「結婚式の後さ、2号店でお祝いあるからさ、絶対に時間あけといてよな」
と、事あるごとに僕に言ってきます。
先日、ドンタコスゥコ商会が出発する際に僕に相談したかったことってのも、この
「25日の結婚式後に2号店でお祝いするから時間をあけておいてほしい」
ってことだったわけなんだけど……
なんかこれ、被ってない?
イエロ達もシャルンエッセンス達も、揃って
『ヤルメキスの結婚式の後』
って、事あるごとに言ってるわけですよ。
まぁ、僕の考えすぎならいいんですけど、もし仮にダブルブッキングでもしていたら、結構大変なことになるかもしれないじゃないですか……そんなこんなでしばらく考え込んだ末に僕は、本店横にありますルア工房へと足を運びました。
現在絶賛子育て中のため酒飲み娘から離脱中のルアに相談しにいったわけです。
「……とまぁ、そんなわけで、2グループがなんかぞれぞれに何かを計画して裏で動いているみたいなんだけどさ……連携がとれているのならいいんだけど、当日になってダブルブッキングとかなったらあれだしな、と思ってさ」
僕がそう言うと、ルアはビニーにリョータミルクをあげながら、何度も頷いてました。
「なるほどなぁ……今回のイエロ達の話にはアタシは加わってないんで詳しくわかんないけどさ、あとでそれとなく聞いてみとくよ……まぁでも、さすがにイエロとシャルンエッセンスがさ、互いに別々に動いているとは思えないけどなぁ」
そう言って笑っていました。
まぁ、実際のところ、僕もそう思ってたんですよね、
この時までは、
状況が一変したのは翌日でした。
なんかですね、イエロとシャルンエッセンスが店の裏手で何やら話合いを始めていたんです。
「そんな、困りますわ! こちらはすでに全部の手配を終わらせておりますのに……」
「それはこちらもでござる。今更そのような事を申されましてもですな……」
とまぁ、もう少し声のトーンを下げて話せばいいのに……巨木の家の中からでも丸聞こえなんだけどなぁ……と内心で突っ込んでる、僕なわけです。
で、話を盗み聞きしている最中にですね、僕はあることに気がつきました。
……ですが、その前に、まず2号店の現状についてご説明しておきます。
夏場の2号店は、店の前の街道を利用してビアガーデンをやっていました。ちゃんと使用許可もとってますよ。
で、秋になりまして、本店がおもてなし酒場を建設したようにですね、2号店もビアガーデンを屋内に移行する方向で調整を進めているところなんです。
ちなみにですね、2号店はブラコンベっていうこのあたりでは一番大きな都市の中にあるのですが、そのため店舗が割と密集してる場所にあるんです。
そのため、これ以上建物の高さを高くしちゃうと周囲の店から「日が当たらなくなって困る」って苦情がきかねない状況です。
で、以前2号店の改修工事を請け負ってくれたブラコンベの頭領やスアに相談した結果、店の地下に酒場スペースを作ることになりました。
この世界って、地表部分の権利についてはあれこれ条例などが制定されているんですけど、地下空間の使用に関してはほとんど決まり事がないんですよね。
『周辺の迷惑にならないように、事前によく周知しといてね』
てな具合の通知があるだけ、みたいな感じです。
まぁ、この世界では巨大な地下室を作る技術が確率されていないっていうのが一番の理由みたいなんですけどね。
ちなみに本店の地下にあります巨大な冷蔵室は、元いた世界で、店を建設した際に作った物なんです。
実際、ブラコンベの頭領も
「地下に部屋ってのはねぇ……はてさて、どうしたもんか……」
って、難しい顔をしていました。なので、僕も「どうしたもんかなぁ」……と、腕組みしながら考え込んでいたのですが、そんな僕にスアがですね
「……こんな感じ?」
って、言いながら袖を引っ張りました。
見ると、打ち合わせ中の2号店の店内……スアの目の前の壁に、見覚えのない扉が新しく出来ていました。
で、スアに案内されてその扉を通り、下り階段を抜けると、そこは雪ぐ……じゃなくて、だだっ広い空間でした。
スアってば、僕が困っているのを見て、
「……ちょっとやってみた、よ」
ってなレベルで魔法を展開して2号店に酒場用の地下室を作ってくれたんですよ。
その空間はかなり広いため、2号店の左右にある店舗の下にまで浸食していたんですけど、
「……強度とか、ばっちり、よ」
スアはそう言いながら右手の親指をグッと突き立てました。
ですが、やっぱ挨拶は必要だろうと思いまして、僕はシャルンエッセンスと一緒に2号店の左右のお店に事情説明しに行ったのですが、
「あぁ、シャルンエッセンスちゃんとこのお店にはいつもお世話になってるから、全然問題ないわよぉ」
って、どっちのお店も快く快諾してくれました。
これも、シャルンエッセンスが普段から頑張ってたおかげだよなぁ、って、僕は感心しきりだったわけです、はい。
で、現在この地下空間は、ブラコンベの頭領達によって内装工事が行われています。
地下なので、空気の循環機能もなんとかしなきゃ、と、思っていましたら、スアが魔石を使った空気浄化装置を取り付けてくれたので、この問題も解決です。
ちなみにこの空気浄化装置ですけど、洞窟の奥に調査団が向かう際などに持って行く魔道具だそうで、万が一洞窟の奥に空気の流れがなくて窒息しそうになったり、有毒ガスが溜まっていたりした際に使用するそうです、はい。
で、このお店の名前なんですが
『おもてなし酒場2号店』
に、すでに決定しているんです。
はい、ここで話が元に戻ります。
ヤルメキスの披露宴は『おもてなし酒場で行う』って決まっていました。
で、シャルンエッセンスは、この「おもてなし酒場」のことを「おもてなし酒場2号店」の事と思い込んであれこれ話を進めていたらしいんですよね。
で、なんかヤルメキスの披露宴以外にも何か秘密の計画を練っていたみたいなんですけど、その秘密の計画までイエロ達と被っていたことが……
僕に相談されたルアから、
それとなく話を振られたイエロが、
念のためにとシャルンエッセンスに確認したところで、その事実が発覚し、関係者大混乱中
↑今ここ
で、イエロ的には
「もともとそっちの勘違いでござる」
と、至極まっとうな意見を述べているのですが、それに対してシャルンエッセンスは
「こちらもおもてなし酒場2号店のオープン記念イベントと、日頃の感謝を込めて準備しておりますの」
と、一歩も引かないわけです、はい。
「私の人生を暗黒世界から救いでしてくださった救世主なお方のためですわ。ここは譲れませんわ」
「拙者も、行き倒れ寸前のところを救ってくださった命の恩人のためでござる。譲る気はないでござる」
と、まぁ、そんな感じで散々声を荒げている2人なんですけど……ホント、この2人ってば何を企んでるんでしょうかねぇ……
僕は、とりあえず今のところはイエロとシャルンエッセンスの話合いで妥協点が見出されることを祈るしかないわけです、はい。
……しかし、シャルンエッセンスの救世主やイエロの命の恩人って、誰の事なんだろうねぇ