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結婚したって本当ですよ その1

 週末です。
 僕が元いた世界では客商売の週末といえば稼ぎ時でしたのでどこの店も当たり前のように営業していました。
 ……ま、そうはいいましても、時代の流れもありまして地元の商店街は寂れまくってて、郊外型の大型ショッピングモールばかり賑わっていたんですけどね。
 それでも、土日祝祭日に休んでいるお店ってのはまずなかったわけです。
 コンビニに至っては、どこもかしこも24時間営業が当たり前でしたしね。

 ですが、この世界は違います。
 毎週末の休日には、街中が一斉にお休みしてしまいます。
 例外として宿屋と商店街組合は、外部からやって来る冒険者や隊商の相手をしないといけないため開いています。

 で、コンビニおもてなしも週末はお休みです。
 例外として、本店で始めたおもてなし酒場は宿屋を併設しているため週末も開店しています。
 ちなみに、コンビニおもてなし2号店の地下に開店するおもてなし酒場2号店はスペースの都合上宿屋を併設していないため週末はお休みする予定です。

 ですが

 週末の休日の今日、おもてなし酒場2号店は多くの人で賑わっています。コンビニおもてなし2号店はお休みなのですが、その入り口の横に新設されている入り口を通り地下へと移動していくと、その先におもてなし酒場2号店があります。
 本日開店となるおもてなし酒場2号店には多数の花が届けられていまして、階段の途中にわんさか並べられています。
 半分くらいが魔女魔法出版とその関連会社からの札がついた生花のような気がしないでもなかったのですが、あえて気にしないことにしようと思います。

 で、おもてなし酒場2号店には、歌のショーやピアノショーを開催出来るようにちょっとしたステージが設けられているのですが、その壁には、

『タクラ店長とスア様結婚披露宴』
『おもてなし酒場2号店開店記念』
『パラランサとヤルメキス結婚おめでとうパーティー』

 そんな看板が掲げられているのですが……なんで僕とスアのが一番上にあるんでしょうかねぇ……

 で、会場である店内には続々と招待客がやってきています。

 辺境都市ブラコンベの仮領主で辺境駐屯地の隊長のゴルア
 辺境都市ララコンベの仮領主で辺境駐屯地の副隊長のメルア
 辺境都市ガタコンベの商店街組合はじめ、各都市の商店街組合の代表者の皆様方~全員蟻人
 コンビニおもてなし3号店から店長のエレ
 コンビニおもてなし4号店から店長補佐のクローコはじめ全店員+クマンコのお子様軍団
 コンビニおもてなし食堂エンテン亭から猿人4人娘
 ティーケー海岸商店街のアルリズドグ商会からアルリズドグ
 同じく、おもてなし商会ティーケー海岸商店街店からファラ
 テトテ集落から長のネンドロさんをはじめ抽選で選ばれた有志10名
 オトの街からラテス
 ガタコンベからは、オデン六世とルア、オルモーリのおばさま達や商店街のみなさん
 ブラコンベからはペリクドさん一家と、主にシャルンエッセンスの知り合いのみなさん
 魔女集落から抽選で選ばれた有志10名
 魔女魔法出版からは、リテールとダンダリンダ
 はるばるリバティ……おっと、今はリバティコンベって名前なったんだっけ、そこからサラ
 ナカンコンベのドンタコスゥコ商会から店舗責任者のネラミコン

 まぁ、身内というか友人知人関係はこんなところです。

 当然、本店のみんなは全員参加していますし、2号店のみんなは主催者として奔走してくれています。

 で、ガタコンベの仮領主関連として、
 王都の中央辺境局からチョコチープ係長
 あと、バトコンベとか、ベガスコンベとか、グリーンコンベとか聞いた事のあるような無いような都市からもいっぱい人が来てくれています……正直、祝いの手紙が送られてくる程度だろうと思ってたんですけど、まさかこんなに出席率が高いなんてねぇ……ははは (超乾いた笑い)

 で、披露宴開始までの間、ステージでは有志が勝手に出し物を繰り広げていまして……
 今はテトテ集落の皆さんが、パラナミオの愛を誰が一番大声で叫ぶことが出来るかコンテストが開催されていまして……なんか会場に向かって
「パラティ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
 って絶叫しては、任意で選ばれた会場の皆様が10点満点で採点しています。
 ……なんか、僕が元いた世界にそんな芸人いた気がするんだけど……

 で、僕とスアですが……
 控え室になっている奥の小部屋の中で、すでに着替え終わっています。
 僕は黒の燕尾服
 スアはミニスカタイプのウエディングドレス。
 これ、スアママのリテールさんが準備してくれたんですよね。
 ちなみに、スアのウエディングドレスは1000種類準備されていて
「さぁ、ステルちゃん、どれでも好きなのを選んでね」
 って、された時の、スアのドン引きした表情が今も忘れられません。
 で、スアは、イスに座っている僕の膝の上にちょこんと座っています。
「……旦那様、楽しみ、ね」
 スアはそう言いながらお腹をさすっています。
 そうなんですよね……胸からお腹までストーンなスアですけど、第二子妊娠中です。
「……ストーンはいいから」
「はいはい」
 少し唇を尖らせたスアですが、頭を撫であげるとすぐに笑顔に戻っていました。
 で、スアは、
「……旦那様」
 そう言いながら顔をあげて目を閉じました。
 2人きりのとき、こうしてキスをおねだりしてくることが多いスアです。
 で、僕はいつものように唇を重ねていきました。
「……旦那様、私、幸せ、よ」
 唇を離した後、スアはニッコリ微笑みました。
 えぇ、最高の笑顔です。
 今なら、テトテ集落の皆さんの出し物に乱入して
「スアティ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
 って絶叫して優勝をかっさらう自信があります。
「……それは、やめて……かなり恥ずかしい、よ」
「やりませんってば、物の例えだから」
 と、まぁ、そんな話をしていると、控え室にパラナミオが駆け込んで来ました。
「パパ、ママ、出番です。行きましょう!」
 満面笑顔のパラナミオですが、パラナミオもミニスカで純白のドレスを身に纏っています。
 
 その神々しさ、天使としか言いようがありません。
 スアに負けずとも劣らずです。

 今日は、みんな一緒に手を繋いで入場する段取りになっています。
 パラナミオの後方を、僕とデザインがおそろいの燕尾服に身を包んだリョータがトコトコ歩いて部屋に入ってきました。
 最近のリョータは、元気に歩き回れるほどになっています。
 もっとも、スアかパラナミオの後をついて回るのが常なんですけどね。

 と、いうわけで、お呼びがかかった僕達です。
「じゃ、みんな行こうか」
 僕の言葉に、みんな笑顔で頷きました。

『では、タクラ店長とスア様が入場されます、皆様盛大な拍手をお願いしますわ』
 司会進行役のシャルンエッセンスが、魔法拡声器で会場内に向かって声を掛けると、一斉に拍手と大歓声が巻き起こりました。
 超絶対人恐怖症のスアですが、いつもの魔法を……
「……今日は、いい、の」
 スアは、そう言うと僕の手をキツく握り、ニッコリ微笑みました。
「……ありのままの、旦那様の奥さんをみてもらう、の」
「……わかったけど、くれぐれも無理しちゃだめだよ」
 僕がスアにそう言うと、
「大丈夫です、パラナミオもついています」
 僕の横にいるパラナミオも笑顔でそう言い、
「まま~、う~!」
 スアの横にいるリョータもよくわからないポーズを取りながらスアを励ましているようです。
 そんな感じで一致団結した僕達は、会場内に足を踏み入れていきました。

◇◇

 会場に入った途端に、
「ステルちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」
 と、感極まったリテールさんによる魔法の紙吹雪の洪水が僕らに襲いかかってきたのを
「……いきなり、何」
 スアが魔法であっさり打ち消すという波瀾の幕開けとなった披露宴。

 純白ドレス姿のパラナミオの姿を前にして、テトテ集落の皆さんが
「……天使じゃ……」
「どうしようもないワシらに天使が舞い降りた……」
「もう思い残すことはない……」
 満面の笑顔で卒倒していったのを、魔法使い集落の皆さんが慌てて魔法で快方してくれたり、

 リバティコンベ代表としてきてくれていたサラさんが、披露宴開始2分で自分が座ってたテーブルの上の料理を全部食べてしまったり、

 感極まったシャルンエッセンスが
『店長様、今後はお兄様と呼ばせてくださいませぇ』
 って絶叫したり

 テンテンコウ♀に、クローコさんがギャルメイクを教えていたり

 イエロとアルリズドグさんが意気投合して飲み比べを始めたり

 ……と、まぁ、会場のあちこちでいろんなことが起きながらも、披露宴は滞りなく進んで行きました。

 ちなみに、この日の料理はすべておもてなし食堂エンテン亭の猿人4人娘が担当してくれています。

 『伝説の魔法使いであられますスア様の披露宴、是非参加したいです』って言ってきたコンビニおもてなし3号店のある魔女集落の皆さんは、さりげなく会場内に静かな音楽を魔法で流してくれたりしていました。

 ……なんといいますか、主賓席に座っている僕の前は、ある意味すっごいカオスな空間が広がっているんですけど、隣に座っているスアとパラナミオ、リョータ達みんなが笑顔だったので、ま、いいかなと思っています。

 で、いよいよ僕の挨拶の順番になったんですが、
「挨拶なんかよりも、店長さんを胴上げじゃ!」
「「「おー!」」」
 と、テトテ集落の皆さんが駆け出して来たのを合図に、会場中の皆が僕の周囲に集まってきてですね、会場中央まで僕を連れて行くと、
「そーれ! ばんざ~い!」
「「「ばんざ~い」」」
 と、勢いよく僕を胴上げしてくれました。

 ちなみにその1回目。

 おもいっきり放り上げられた僕の体は天井に思いっきりぶつかってしまいまして、僕の意識はここで途切れてしまいました。

 まぁ、僕らしい披露宴ですねぇ……ははは (ガクッ)

しおり