結婚したって本当ですよ その2
一夜が明けました。
いやぁ……どうにか生涯初の結婚披露宴を終えることが出来た……らしい、どーも僕です。
いえね、『らしい』がついてるのって、披露宴の最中に胴上げされたんですけど、その時天井にすごい勢いでぶつかってですね、それ以降の記憶がどうにもあやしいわけです。
スアがすぐに治療してくれたんで、かすり傷ひとつ残ってないんですけど、はてさておやしかしねぇ、スアさんだったわけです、はい。
で、今回の結婚披露宴は、おもてなし酒場2号店の開店記念式と、パラランサとヤルメキスの結婚おめでとうパーティも一緒に行われたわけですけど、なぜか
『タクラ店長みたいに天井にぶつけられると商売繁盛家内安全夫婦円満が約束されるそうだ』
って言い出したヤツがいたらしく、
おもてなし酒場2号店開店記念式では、シャルンエッセンスの身代わりとしてシルメールが、
パラランサとヤルメキスの結婚おめでとうパーティでは2人の身代わりとしてオルモーリのおばちゃまが、
それぞれ胴上げされて天井にぶつけられたそうなんですよね。
……いや、シルメールはともかく、オルモーリのおばちゃまはちょっとまずいんじゃないかと思ったものの、まぁさすがに胴上げメンバーも空気を読んで手加減しただろうと思ったのですが、僕が元いた世界から持って来ているデジカメでスアが撮影してくれていた画像を確認してみると、オルモーリのおばちゃまを胴上げしているメンバーの最前列に、
サラマンダーのサラさんがいました。
『空気を読む』と言う言葉がこれほど似つかわしくない人は他におりません。
「……スア、オルモーリのおばちゃまは無事だったのかい?」
そう聞いた僕に、スアは笑顔でこう言いました。
「……ちゃんと再生させた、よ」
と……
『再生』と言う言葉を聞いた僕は、あえてそれ以上突っ込むことはしませんでした。
で、夜が明けた僕ですけど、目覚めたのはガタコンベにある巨木の家でした。
いつものでかいベッドの上で目を覚ますと、パラナミオとたくさん話をしていたサラさんも一緒に寝ていました。
いつもは僕とスアの間で寝ているパラナミオですが、スアの向こう側で、サラさんに抱っこされて寝ています。
……なんといいますか、実の姉妹みたいで微笑ましい光景です。
で、僕は暖かい眼差しでその光景を見つめていたのですが
「……う~ん……」
と、サラさんが寝返りをうち、布団が彼女の体の上からずり落ちまして、素っ裸のサラさんがご開帳になりました。
え~と、あれですか、シャネルの5番で寝られる方でしたか。
僕はサラさんにそっと布団をかけ直すと、そのままコンビニおもてなし本店の厨房へ移動していきました。
……しかし、結構でかかったなぁ……
◇◇
で、披露宴の翌日でもコンビニおもてなしは通常通り営業します。
僕が厨房に顔を出しますと、
「あ、店長さんおはようございます。昨日はお疲れ様でした」
と、披露宴にも参加してくれていた魔王ビナスさんが笑顔で僕を出迎えてくれました。
テンテンコウ♂と、ルービアスも笑顔で作業を行っています。
で、お菓子作成スペースには
「あ、あ、あ、あの、て、て、て、店長様、昨日はお疲れさまでごじゃりました」
と、いまだに顔を真っ赤にしているヤルメキスが、笑顔で挨拶してくれました。
今日は休んでくれていいよと言ったんですけど、
「いえいえいえ、なんと言いますか、その……働いていた方が、落ちつくでごじゃります」
って、ヤルメキス。
まぁ、式本番は25日のパルマ聖祭の日ですしね。
「じゃ、今日もみんなよろしくね」
「「「はい」」」
僕の挨拶に、みんなが笑顔で返事を返し、今日の作業が開始されました。
◇◇
で、その作業が終盤にさしかかったところで、スアの使い魔の森からハニワ馬のヴィヴィランテスがやってきました。
「おはようヴィヴィランテス、今日は少し早くないかい」
「えぇ、そうよ、森の皆からこれを預かってきたからさ」
そう言うと、ヴィヴィランテスは魔法袋を僕に差し出しました。
中身をウインドウで確認すると、酒やら木の実やら果物やらが、すごい量入っています。
「結婚披露宴おめでとうってことで、森のみんなからのお祝いの品よ。ちゃんとスア様に見せてから食べてよね。あんたはあくまでもついでなんだから、つ・い・で・なんだからね」
スアの使い魔の森のみんなは、転移ドアをくぐるにしてもブラコンベまで行くのはあまり気乗りしなかったらしく、昨日はスアが森に設置した水晶画像投影機で会場の様子を空に映し出しての、生中継が行われていたんですよね。
25日は、ここ本店横に併設されているおもてなし酒場本店で開催されますので、この時は代表としてタルトス爺達が参加してくれる予定になっています。
で、その中継を見ていたらしいヴィヴィランテスは、僕の顔を見ながら、
「あら?、天井にぶつかったくせに、普通に戻ってるじゃないの……おもしろくないわね」
って言いやがりました。
「あぁ、スアがすぐ治してくれたんでね」
「……まったく、スア様もなんでこんな何の取り柄もない男を選ばれたのかしらねぇ」
ヴィヴィランテスは、そう言いながらため息をつくと、
「いいこと、スア様を泣かすようなことがあったらただじゃおかないからね」
「あぁ、わかってるって」
僕はヴィヴィランテスにそう答えました。
その時でした。
巨木の家の方からすさまじい勢いでスアが走って来ました。
「あ、スア、おは……」
スアは、そこまで言った僕の胸ぐらをジャンプして掴むとグイッと自分の方に引き寄せました。
身長差が50㎝以上ありますので、ジャンプしないと届かないんですよね。
で、そのスア、目をカッと見開きながら僕を真正面から見据えていまして
「……見た、のよね?」
そう言いました。
……あ~
……あれですね
……スアのこの反応、間違いありません
素っ裸で寝ているサラさんの裸を見たね?
そう言ってるわけです、はい。
で、僕ははっきりとこう言いました。
「サラさんが寝返りを打った際に見てしまいました。胸が大きいなと思いました。でも僕はスアが一番です」
僕が大きな声でそう言うと、スアはしばらく僕の目をジッと見つめた後、スッといつもの表情に戻ると
「……なら、いいの……やきもち焼いて、ごめんなさい、ね」
顔を赤くし、そう言いながら僕に抱きついて来ました。
僕はそんなスアを優しく抱きしめたのですが、ヴィヴィランテスはそんな僕を見ながら苦笑しています。
「あんたってば、少しはごまかすとか、はぐらかすとかしたらどうなのよ。全部直球で返すなんてさぁ」
「え? なんでそんな無駄なことをしなきゃならないんだよ? スアはその気になれば人の心を読むのなんてたやすいじゃないか。それにさ、愛する人相手にチンケな嘘をつくよりも正直に全てを話して怒られた方が後々清々しいと思うんだけど?」
僕がそう言うと、ヴィヴィランテスは
「……なるほどねぇ、スア様がお選びになられた理由が少しわかった気がするわ。今時ここまで馬鹿正直な人種がいるなんてねぇ」
馬鹿正直かどうかはわかりませんが、交差点で100円拾ったら今すぐそれ交番に届けるくらいには正直者だと思っていますけど……
「とにかくさ、スア様をよろしくね、タクラ店長」
ヴィヴィランテスはそう言いながら、準備の出来た荷物から背に乗せ始めました。
言われなくても、僕はスアを目一杯愛し続けますとも。
まだまだ子供も欲しいしさ。
僕がそんなことを思っていると、スアってば自分のお腹をさすりながら、
「……う、うん……頑張る、よ」
真っ赤になってうつむいていました。
伝説の魔法使いのスアですけど、僕にしてみれば最愛の妻以外の何者でもありません。
そんなこんなで、コンビニおもてなしの営業開始時間が近づいています。
さ、今日も頑張りましょうかね。