ジワジワくるコンビニおもてなし その1
今日もコンビニおもてなしの営業が始まりました。
出勤前にすぐに食べる朝ご飯用のパンやお弁当とお昼に食べるそれらを買い求めるお客さんや、家の朝ご飯をコンビニおもてなしの弁当で済ませようという方々で混雑する時間帯です。
この世界にやってきて開店してすぐの頃のコンビニおもてなしのお弁当は、タテガミライオンを中心とした肉が美味な害獣の焼き肉をメインおかずにして、市場で仕入れた野菜のサラダを添える程度の物が中心でした。
何しろ、その頃は作業をすべて僕一人でやっていましたしね。
ですが、猿人4人を経て魔王ビナスさんが弁当スタッフに加わってからはかなり種類を増やしています。
イエロ達が毎日狩りで害獣を仕留めてきてくれるので肉類が中心なのは相変わらずですが、
食パンからパン粉を作成し、ララコンベの牧場で飼育している害鳥『クッカドウゥドル』の卵を仕入れて、それらを使用してトンカツを作って、キャベツもどきな野菜の千切りを添えてみたり、
テトテ集落から豊富に仕入れている野菜類を使用し、肉の厚切りを混ぜて炒めた肉野菜炒めにしてみたり
相変わらず北上してくるジャッケを捕縛して塩焼き弁当にしたり
卵と、クッカドウゥドルの肉を使用して親子丼弁当を作ってみたり
そんな感じで少しずつ定番メニューを増やしていっているところです。
あまり種類を増やしても、作業が繁雑になって準備するのがえらいことになってしまいますので、毎日の弁当は4種類まで、添える野菜サラダなどを兼用出来るようにしたりして、とにかく効率化を図りつつ頑張って作っている次第です。
……最近、すっかり手慣れた魔王ビナスさんの作業量が僕の3倍くらいになってる気がしないでもないのですが……ははは。
ちなみに、この害鳥のクッカドウゥドルなんですが、害鳥認定されている理由が、夜明と共に鳴きまくるからだそうで……まぁ、僕の元いた世界のサイズならともかく、野生のクッカドウゥドルの成獣は身の丈3mはありますので、その声もすごいわけです、はい。
ララコンベの牧場で飼育されているのは、身の丈が50cmくらいまでの幼獣だけでして、このサイズの頃はまだ鳴かないので飼育できているんですよね。
鳴きはしませんけど、このサイズの頃から卵は大量に産むため、ララコンベ温泉で温泉卵にしたり、親子丼の材料にしたり、加工してタマゴサンドに流用したりと、あれこれ有効活用しているわけです、はい。
しかしまぁ、これだけ栄養価も高くて料理に使える卵を、以前は、害鳥の卵だからってんで見つけ次第破壊して埋めていたっていうんですからもったいない話なわけです、はい。
◇◇
そんなわけで、コンビニおもてなし本店は今日も朝からかなりのお客さんで賑わっています。
現在のコンビニおもてなしでは
『パルマ聖祭フェア』を行っていまして、ケーキを予約してくれた皆さんに、店内で販売しているスイーツの割引券をさしあげています。
ちなみに、一時はどうなるかと思ったパルマ聖祭ケーキですけど、どうにか予約数をこなせる目処がついています。
オトの街のラテスさんと、その友達のヨーコさんが毎回すごい量のスポンジケーキを仕上げてきてくれる上に、デコレーション作業の方も、テンテンコウ♂と魔王ビナスさんが作業に加わってくれたおかげで毎日の生産数が一気に増加したからなんですよね。
ちなみに、このパルマ聖祭フェアですが、当初は『ヤルメキス結婚おめでとうフェア』にしようとしていたのですが、
「ご、ご、ご、後生ですからそれだけはご、ご、ご、ご勘弁願いたいのでごじゃりまするぅ」
と、ヤルメキスに懇願しまくられたため、今の名前に落ちついていた次第です。
フェアに合わせて、昼過ぎの店内の一角では、ヤルメキスがパルマ聖祭ケーキのデコレーション実演を行っていまして、出来上がった品はショートケーキにして数量限定販売したりしています。
「うわぁ、イルチーゴをこんな風に使うんだ」
「白くて綺麗ねぇ」
「ママ、これ買って」
と、老若男女問わず、みんなヤルメキスの手元を楽しそうに眺めては、出来上がったショートケーキを買い求めてくださっています。
ちなみに、本来であればこういう時には真っ先にやってくるはずのオルモーリのおばちゃまとヤルちゃま親衛隊のおばさま達は、実演を行っているヤルメキスの周囲に陣取って
「ヤルちゃま可愛いわぁ」
「ヤルちゃま素敵よぉ」
と、その手元ではなく、ヤルメキスの事ばかり眺めては
「これが孫の嫁なのよ、オルモーリのおばちゃまの孫の嫁なのよ。おばちゃま超感激なのよ」
と、別な感動を味わわれているご様子です。
あ、限定販売のショートケーキも、自分達が食べる分だけ購入して、後は他の方が購入出来るように配慮もしてくださっています。
最初の頃はヤルメキス製のスイーツと聞けば全部買い占めていた皆様だけに、進歩してくださったなぁ、と別な意味で感動しているわけです、はい。
◇◇
そんなコンビニおもてなしなんですが、最近ちょっと気になっていることがあります。
コンビニおもてなしは大っぴらな宣伝はしていません。
地元の皆様に繰り返し利用していただけるお店をモットーにして、弁当やパンなどは薄利多売で頑張っているわけです。
なので、お客の大半は顔なじみの地元の皆様なのですが……最近、そんなお客の中に見慣れない方々が増え始めているように思うんですよね。
……で、よく見ると、そんな皆様は同じ本を手にしておられます。
よく見ると、それ、魔女魔法出版から出版された僕の本、『異世界コンビニおもてなし繁盛記』なんですよ。
お客さんに聞いてみたところ、
「この本、王都でも『じわじわくる』って話題になってまして、それでどんなお店なのか興味がわいたから旅行がてら来ちゃいました」
とのことで……
あ、でも、これ、ここがガタコンベだから出来ることなんですよね。
といくのも、王都からは各地に向かって駅馬車の直行便が出ています。
ド田舎であるここガタコンベにもありがたいことに直行便が1本出ていまして、この辺りの中核都市であるブラコンベを通って、ガタコンベが終着駅になっているんです。
公共の交通網が整備されていますし、公共の交通網ですので当然護衛もついています。
ですので、
「ちょっと行ってみようかな」
で、行けなくもない場所なんですよね。
本の帯に、
『このお店のスアビールとタテガミライオンの焼き肉弁当は死ぬまでに一度は口にすべきです』
って、キャッチコピーを入れてもらえているもんですから、この2つが飛ぶように売れています。
スアビールは、スアの使い魔の森の皆が頑張って増産してくれているんですけど、増産したらしただけ売れているもんですから、全然製造が追いついていないわけです。
なので、わざわざ王都から来てくださった皆さんが店に着たときには売り切れになっているケースも多々あったのですが、夜経営しているおもてなし酒場では飲めるとあって
「じゃあ、街に泊まって飲んでいっちゃおう」
と、わざわざ宿泊してスアビールを満喫しようという方々も増えています。
で、酒場で消費してしまうと、翌朝、店に出す量が減ってしまうため、さらに買えない人が増え、で、その人達がまた宿泊して、酒場でスアビールを……
と、まぁ、そんな流れが徐々に出来始めていまして、ガタコンベで宿屋を経営している皆さんから
「タクラ店長のおかげで宿泊客が増えまくりだよ」
「ホント、ありがたいわぁ」
と、わざわざお礼を言いに来てくださるほどでした。
で、この都市の宿屋って、だいたい酒場も併設していまして
「出来ればついでにスアビールも回してもらえたら……」
なんて話になるんですけど、
「申し訳ない、ウチの店だけでも足りてない状態なんですよ」
と言いながら、頭を下げるしかないんですよね。
で、あまりに申し訳ないもんですから、
「あ、あの、タクラ酒ならお回し出来ますけど」
って言うと、皆さん、ニッコリ笑って
「じゃあ、スアビールの件よろしく」
って言いながら帰っていきました。
いえね、タクラ酒がまずいわけじゃないんです。
それよりも、炭酸でシュワシュワしていて、のどごしスッキリな、スアビールの人気が高すぎるだけなんですよ……ははは。
ま、というわけで、そんな王都の皆さんがお目当てにしてくるタテガミライオンの焼き肉弁当を今日も頑張って多めに作っておきましょうかね。