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ジワジワくるコンビニおもてなし その2

 僕が魔女魔法出版から出版した書籍ですが、担当のダンダリンダの話だと
「ジワジワ売れてますね、すっごくジワジワと」
 だそうです。
 出せば即ベストセラーで重版確定のスアの本の売り上げには遠く及ばないそうなんですけど、発売以来一度も前の週の売り上げを下回ったことがなく、ひたすらジワジワ右肩上がりなんだそうです。
 もともとそんなにすごい内容を書いたわけでもありません。
 元いた僕の世界において、コンビニおもてなしがどうやって出来たのかから始まって父さんの代を経て僕の代になり、この世界に飛ばされてきてからの奮闘を暗黒大魔道士を倒して恩賞をもらったあたりまでまとめているわけです。
 この暗黒大魔道士のエピソードは
「読者受けしますから、ぜひ!」
 と、ダンダリンダから強く希望されたため、かなり脚色を交えて加筆したのですが、後から読み直してもですね、よくもまぁこんな命知らずなことをしたもんだと、つくづく思うわけです、はい。
「ほんとだね、アタシもすっごくそう思うよ」
 と、当時の対戦相手でした暗黒大魔道士ダマリナッセさんもそう仰っています。
 ちなみに、今はスアによって封印されて、コンビニおもてなしのレジの後ろに飾られている黒い招き猫の中にいらっしゃいます。
 そんなダマリナッセさんですが、招き猫の手を巧みに動かして僕の本を読んでいたのですが、
「……しかしあれだね、あんたの無謀な挑戦はともかくさ、自分が登場してる本を読むのって、こそばゆいと言うか、なんというか……ちょっと嬉しいもんだね」
 と、まぁ、どうやら喜んでくださっているようです、はい。
 
 ちなみにこの招き猫ダマリナッセですが、週に一度パラナミオが学校に持って行ってですね、そこで子供達を相手に昔話をしてくれています。
 何しろ知識は豊富ですので、いろんな英雄譚もご存じなんですよね。
 それをパラナミオだけに聞かせてくれていたのが、いつの間にかパラナミオの友達も一緒に聞くようになり、それが評判になって「学校でもぜひ」って話になって、そして今に至るわけです。

 で、このダマリナッセが封印されている招き猫のことも当然本に記載されているのですが、その本を読んで辺境都市ガタコンベを訪れたお客さんは
「あ、きっとあれね、この本に出てくる招き猫って」
「じゃあ、あの中にタクラ店長とスア様によって封印された暗黒大魔道士が……」
 そんな会話をしながらレジの奥に置かれている招き猫を指さしては嬉しそうにされているわけです。
 で、結構サービス精神が旺盛なダマリナッセは
「そうです、アタシが封印されてる暗黒大魔道士です」
 なんて答えていたりします。

 これもいわゆる聖地巡礼ってやつになるんですかね?

 で、その流れでですね、オセロの人気が再燃しています。
 このオセロ、ダマリナッセを討伐してすぐの頃は「あの暗黒大魔道士もはまった面白さ」的なキャッチコピーをつけて販売したところ爆発的な売り上げを記録したのですが……これって一度購入しておけば、基本的にいつまででも使用可能なわけです。
 そのため、だいたいの人に行き渡ったあたりで売れ行きがガタンと下がったわけです。

 で、ですね、書籍の中に僕とダマリナッセがオセロ勝負をした件もしっかり記載しておいたところ
「おぉ、これがあの暗黒大魔道士もやったという……」
「タクラ店長が暗黒大魔道士と対戦したアレなんだ……」
 そんな感じで、王都からいらした皆様がお土産の品として大量購入して帰られるケースが増えていまして、コンビニおもてなしとしても嬉しい出来事になっています。

 いえね
 オセロってば、かなり好調な売れ行きだったもんですから、僕にしては珍しくかなりイケイケな感じで製造し続けていたんですよね。
 その結果、売り上げがガタンと下がった際にすぐ対処出来なかったもんですから、結構な数の在庫を抱えていたんです。
 その不良在庫化していたオセロが、今回かなりの勢いで売れていっているものですから嬉しくならない方がおかしいわけですよ。

 そんな感じで、今日もお客で賑わったコンビニおもてなし本店の営業時間が終了した頃、

「パパ、ごめんなさい、あの……」
 学校からすごい勢いで駆け戻ってきたパラナミオが何やら困惑の表情を浮かべています。
「あ、アレかい?」
 パラナミオの表情でピンと来た僕がそう言うと、
「はい、アレです」
 と、パラナミオも答えました。

 脱皮です。

 いえね、パラナミオはサラマンダーなわけなんですけど、サラマンダーって定期的に鱗を脱皮しながら成長していくんですよね。
 特にパラナミオの場合、まだまだ子供ですので最低でも月に1、2度脱皮をしています。

 で、脱皮はサラマンダーの姿になって行うため、店の周囲では出来ません。
 僕はパラナミオを引き連れて転移ドアをくぐり、スアの使い魔の森へと移動しました。
 ここは、スアが自分と契約している大量の使い魔達を住まわせている異空間らしいんですよね……スアが何やら詳しく説明してくれた事があるのですが、僕の頭では理解しきれませんでして……ははは。
 で、ここなら普通の人はいませんし、広大ですのでパラナミオがサラマンダー化しても全然問題ないわけです。

 僕の目の前でパラナミオは服を脱ぐと、素っ裸になってから巨大化していきました。
 こうしないと、お気に入りの服が破れてしまうんですよね。
 で、サラマンダーの姿になったパラナミオの体の鱗はすでにかなり剥げていまして、サラマンダーの姿になっただけでかなりの量が地面に落下していきました。
 すると、おもてなし酒場の宿に宿泊しながらいまだにガタコンベ滞在中だったサラさんがやって来ました。

 サラさんは、パラナミオと同じサラマンダーのお姉さんでして、この世界で希少な生き残りであるサラマンダー種のパラナミオの事を実の妹のように気に掛けてくださっていまして、たまにパラナミオの様子を見に来てくれているんです。

「ふむ……順調に成長しているな。これはストレスもなく、栄養状態もよいからこそだ」
 古い鱗を落とし終えて、体をブルブル震わせているサラマンダー状態のパラナミオを見ながら、サラさんは満足そうに頷いていました。
 なんといいますか、すでに何十年と生きているサラマンダーの方の言葉だけに、僕もとてもうれしくなりました。

 で、僕はコンビニおもてなしの倉庫から持って来ていた高圧線洗浄機を使用してパラナミオの体を洗っていきます。
 脱皮してすぐのパラナミオの体って、粘液でどろどろなんですよ。
 パラナミオ的には、それがすっごくかゆいらしいんです。
 で、それを、この高圧線洗浄機で漏れなく取り除いてあげているわけです。
 店の外壁清掃用に購入しておいて、ホントよかったと思っている次第です……い、いえ、別にあれですよ、某テレビショッピングの声の甲高い某社長さんの口車にまんまと乗せられて購入したわけじゃないんですからね。

 川から直接水を吸い上げながら、パラナミオの体を洗っていきます。
 高圧洗浄ですので、パラナミオの体にまとわりついている粘液も根こそぎ取り除かれていきます。
 その水を浴びながら、パラナミオも嬉しそうな鳴き声をあげています。

 ちなみに、この時に出たパラナミオの鱗は、ルアの工房に持ち込んで武具に加工してもらっています。
 この世界に龍種って希少な存在らしく、そのため龍の鱗の武具って結構貴重なんですよね。
 なんでも、それを生産して卸売りしている都市もあるらしいんですけどそれはあくまでも例外らしく、このパラナミオの鱗製の武具を店に並べていると
「お、おい、この店、龍の鱗の武具があるぞ」
「しかも、どれもすごい出来じゃないか」
 と、街を訪れた冒険者達のみならず、最近増えている王都方面からの観光客の皆様の間でも話題になっているわけなんです。
 これには、ルアの腕の良さがあってこそなんですよね。
 いくら龍の鱗があっても、それを加工する人が三流だったら、目も当てられない悲惨な物しか出来上がらない、それ以前にそもそも加工そのものが出来ないそうですから。

 で、そんなことを考えながらパラナミオの体を洗っているとですね、その様子を眺めていたサラさんってば、何を思ったのか急に素っ裸になると、自分もサラマンダーの姿になりました。

 で、パラナミオの横に並んでいきまして、僕をジッと見つめています。

 ……どうやら、高圧線洗浄機で自分も洗ってほしくなったようですね。
 パラナミオがあまりにも気持ちよさそうにしているから……

 で、別に脱皮はしていないサラさんの体を、高圧線洗浄機で洗ってあげていったのですが、サラマンダー姿のサラさんってば、嬉しそうに空に向かって声をあげています。
 どうやら、サラさんも相当気に入ってくれたようです。

 ……しかしアレなんですよね。
 さっきのサラさんの裸を見たときですけど……サラさん、スレンダーな割に出るとこは出ているナイスバディなんですよ。
 以前の僕なら間違いなく赤面必死だったはずなのですが……なんといいますか、
「へぇ」
 程度の反応しかなかったわけです。
 かといって、パラナミオの体を見てどうこう思うことももちろんありませんよ。血はつながっていませんが父親ですし。

 ですが、僕はスアの体にはとても敏感に反応します。

 ツルーンでストーンでペターンなスアの体でないとダメな感じになってるんですよね、はい。
 ……やはりこれ、愛ゆえにですね、うん
「……私も、そう思う」
 そう言いながら、スアってば顔を真っ赤にしながら、後ろから僕に抱きついて来ました。
 って、うわ!? スア、いつの間に後ろにいたんだよ!?

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