No.20 譲り合いと出現
「姉さんにはその犬をつれてどっかに消えてほしんだ」
「はぁ?? なにいってんの、お前??」
うちはルイの意味の分からないお願いに困惑というかいらだちが隠せずにいた。
なんだ??
急に??
うちは愛犬サンディをぎゅっと抱き、訳の変わらないことを言ってきたルイを睨む。
あ、もしかして。
「ここの小屋、お前の遊び場だったのか?? だから、こんな綺麗に…」
異常に綺麗だからな。
小屋を汚くした仕返しに何かしてやろうと企んでいいたのか。
「悪かった。すぐにどっか移動するから……」
「そういうことじゃないよ」
ルイは真顔で言い放つ。
「そういうことじゃない。姉さんには死んでほしいんだ」
「はいはい、行くね。よし、サンディ。遊び場としては最高の場所の山に行くぞ」
うちはサンディに乗り、風のごとくルイを通り過ぎて小屋の外に出た。
「姉さんっ!! 話聞いてるっ!?」
うちは叫ぶルイをガン無視で山へと向かった。
★★★★★★★★★★
「なんなんだ、あの女。山に行くなんて、どういう神経してるんだ」
ルイはぶつくさ言いながら、山へと向かった姉となったアメリアを追いかけていた。
しかし、相手は犬に乗っており、追いつくことはできず、見失っていた。
でも、山に行くって殺してほしいとでも言ってるの??
この状況は僕にとっては絶好のチャンスであり、アメリアを物理的にこの世界から消せるチャンスであった。
ルイが山の中を歩いていると、草むらからカサカサという音が聞こえた。
もしや、あそこに……。
音が聞こえた方に向かって足を進めていく。
チャンスだ……。
がむしゃらに走っていると、横脇の草むらから黒い物体が出てきた。
「!!!」
それは
「こんなところに魔物がいるなんてっ!!」
魔物なんてそうめったにでない。
特にこの辺りでは10年に一回程度しか出現したことがなかった。
僕が見たのも本当に幼いときだった。
新聞とか図鑑では見たことがあったけど……。
もちろん、魔物と出会った時の対処方なんて知らない。
それに勉学の方しかやってこなかったため、戦闘も皆無だった。
どうすれば……。
座り込んでいると、僕に向かって魔物が襲ってきた。
「わあぁ――――――――――――!!!!!!!」
頭を手で覆い隠し、ぎゅっと目を
「よっと」
ん?
魔物に襲われると思っていたが、自分に痛みなどはなかった。
恐る恐る目を開くと、話を聞かないアメリアと白い毛並みが美しいサンディが目の前にいた。
襲って来ていたはずの魔物はどこかに消え去っていた。
何も言えず座り込んでいると、小さな背中を向けていた彼女がこちらに振り返る。
「全くお前なにしてんだ?? 1人できたら危ないだろ??」
姉さん、あなたもですが……。
「うちはこのくらいのやつは平気だけど……って、ゲっ!!」
僕を見るなり姉さんは呆れた顔をして、はぁーとため息をつく。
「お前さ、怖いのならもうここに来るんじゃねーよ」
僕は泣いていた。
静かに涙を落として。
「怖くな……」
「ほら、泣くな。うちがいるから」
姉さんは座り込んだ僕の頭を優しく撫でる。
僕の心の枷が外れ、涙をボロボロと流した。
★★★★★★★★★★
「なんで、お前あんなこと言ったんだ」
うちとルイはサンディに乗って家に帰っていた。
サンディは立派に大きくなったので子ども2人は余裕に乗せていた。
草木の間からは夕日の光が差し込んでいた。
「あんなことって??」
「しらばっくれんな。死んでくれとか言ってたじゃねーか」
うちはルイのほっぺを思いっきりつねる。
容赦なんてしないぞ。
「痛い、痛い。それ聞こえてたんだ……それは姉さんが消えてくれたら僕がホワード家を継げると思っていたからさ」
うちが消えたら継げる??
何言ってんだよ。
「お前が長男なんだから、普通は継ぐことができるだろ??」
「普通ならね」
ルイは寂し気に少し俯く。
「でも、やってくる人が僕より年上。もしかしたらって思ったんだ。その人が僕より能力があるんじゃないかって……」
「それでか……」
うちはほっぺから手を放し、義弟の頭を優しく撫でてやった。
「安心しろ、うちはそんなものに興味がないから家を継ぐことなんてしないぞ。家はお前にまかせた」
「って、僕も思っていたんだけど、家って守らないといけないじゃない?? だから、強い姉さんでもいいなって思い始めてる。僕はサポートに回るから」
「遠慮はいらん。お前が継げ」
心配事が消えたのか、ルイはハハッと楽し気に笑う。
「うん。分かった。姉さん、さっきはごめんね。改めましてよろしく」
「ああ、よろしく」
そして、うちら2人は仲良く帰って、仲良く鬼の義母に怒られた。
★★★★★★★★★★
「へぇ……ここが王都……」
少女は大きな荷物を持って、ウィンフィールド国の街を歩いていた。
「私、ここで暮らすのかぁ」
少女は街の景色に感嘆していた。
この街に着くまで、少女にはウキウキな気持ちより不安な気持ちが大きかったが、今はそれが逆転していた。
「さぁ!! がんばろっ!!!」
少女は気合を入れると、自分が通うことになる学園へと向かった。