Q1.恋ってなんですか?? A.知りません。(ミカ)
僕の名前は如月 深露。
深露と書いてミカと読む。
この名前のせいで女子と勘違いされることが多いが、僕はれっきとした男。
小学生の頃は見た目も女々しくて「ミカは女だ」なんて馬鹿にされていたけれど、中学生になったとたん、なぜかそう言われることはなかった。
まぁ、多少「かわいい名前だね」って照れられながらよく言われることがあったけれど。
それよりも、中学生になった僕は女子から告白を受けること(例外あり)が多くなった。
なぜかなと思っていると、休み時間にふと聞こえてくる女子の会話からたまに「深露くん、かっこいいね」と聞こえ、近くにいた友人から冷やかされることがよくあった。
最初はなんとも思わなかったし、「そっか」って感じだった。
でも、告白してくる人が多くなるにつれ、僕はそのことに飽き飽きして疲れていた。
そんな僕はいつからか柔らかい態度から冷静な態度を取るようになったのだけれど……。
「ねぇ、レン」
「何??」
図書委員の仕事のため図書室に来ていたのだが、いるのは僕と隣にいるレンだけ。
今、穹先生は職員室に行っているようだ。
僕らは適当に入れられてしまった本を元の場所に戻し整理していた。
「なんで顔がいいだけでこんなにモテるの??」
「……そうね。美男美女はよい遺伝子を持っているらしくて、よい子孫を残すため他の人が寄ってくるって聞いたことがあるわ」
「生物学的だね」
「それ以外の理由はどうも私にしっくりこなくて。その理由には納得がいったのよ」
レン。
彼女もまた僕と同じように恋愛に飽き飽きした人間の1人である。
彼女とは学校が同じであったため中学の頃からの顔見知りではあったが、今のように話す機会など全然なかったし、関わろうとする気もなかった。
しかし、高校に上がり図書委員となって交流するようになると彼女もまた同じ悩みを持っていたことが分かった。
今ではよくともに過ごす相手となっている。
虫よけのために。
「羽川さん、いつ来るのかしら」
「はねかわ?? 新しい図書委員の子??」
「ええ。1年4組の
「そのうちに来るんじゃないかな??」
「そうね」
そして、僕らはその元気いっぱいらしい後輩を待っていたのだが……。
外から聞こえてくる声が騒がしくなっていた。
「……なんだか、外が騒がしいわね」
「そうだね……。誰かが先生に
「ちょっと見てみるわ」
レンは太陽の光が入り込む南側の窓を開けている。
僕も作業を止めて、レンの方に行った。
風で髪がなびく彼女は窓の下の方を見て目を見開いていた。
「羽川さん……??」
「え??」
「ああ。やっぱり羽川さんだわ」
レンの隣に立った僕は外の様子を窺う。
図書室は2階にあるが、教棟自体他のところよりも1階高いところにあるため実質3階。
正面に立つ体育館と自動販売機の間にあり、僕らから斜めの位置にあったその道には普段の昼休みも元々人が多く集まる場所であったが、いつも以上に人が集まっていた。
その人の塊の中央には2人の男女が向き合って立っていた。
「あれが羽川さん??」
「ええ。ショートカットの子が羽川さんなのだけれど……。あれはまさか……」
「捕まってるね。羽川さん」
「ああ、かわいそう。人が大勢いる場所で告白だなんて。あんなところでやったって変な注目が集まるだけなのに」
「それにしても羽川さん、堂々としているね」
「何も知らないのでしょう」
僕らが高みの見物をしていると、羽川さんの向かいに立つ男子が何やら話しているようだった。
周りの女子たちは黄色い声を上げ、他の体育系男子からは「いけー!!」などと声援を送られていた。
この学校も相変わらずだな。
男子の子が告白であろうものを言い終えると、羽川さんはニコっと笑った。
「羽川さんっ!?」
レンはその羽川さんの笑みに動揺したのか、声を上げる。
案の定、下にいた皆が僕らを見上げ、多くの視線が集まってきた。
嫌な予感がした僕は窓から離れ、動かないようにレンの背中を押しておく。
すると、レンの方から舌打ちが聞こえてきた。
大きな声で羽川さんを呼んだ君が悪いんだよ。
「あ、あの人キレイ……」
「あの人、阿由葉 怜さんじゃないか??」
「美人だわ……」
「クールビューティで有名な阿由葉さんだ!!」
「昼休みはあまり見かけないと思ったら図書室にいたのか……」
下に集まっているギャラリーたちがレンを見て好き好きに感想を言っている。
すると、数秒で限界に達したレンは窓から体を乗り出して叫んだ。
「羽川さん!! 待ってるわ!!」
レンは「その手をどけてちょうだい」と冷徹な声で僕に言うと窓を勢いよく閉めた。
背中を向けていた彼女の頬は赤く染まり、瞳は僕に睨みを利かせていた。
「ミカぁ……」
「ごめん。注目浴びたくなくて」
「私もなんだけれど」
「で、でも、レンが羽川さんを呼んだせいでこうなったんだよ」
「ええ、そうね。でも、背中に手を置いておくことなんてないのじゃないかしら??」
レンの声が徐々に低くなっていく。
普段は冷静な彼女の手には拳が作られていた。
ええと。
羽川さーん!!
と僕がさっき知ったばかりの後輩に助けを求めていると、図書室の扉がガラリと音を立て開く。
そこには息を切らしている羽川さんの姿があった。
彼女は下から走ってきたのか息が上がっているが、呼吸の合間合間で「れ、れんさん……。き、来ましたよ」と必死に発している。
「羽川さん、足早いのね」
「え、はい。中学では運動部に入っていたので。それで、先輩は何してたんですか?? 拳握って顔真っ赤にして」
「そ、それは大した理由じゃないわ。さ、図書委員の仕事を教えるからこっち来て」
「はーい」
レンは羽川さんを連れて本棚が立ち並ぶ部屋の奥へ姿を消す。
僕は先ほどまで作業をしていた場所に戻った。
さっきのレンの顔を思い出す。
あんなに真っ赤になっていたのはもちろん理由がある。
彼女は人前に立つ事、注目を浴びることが嫌い。
当然、人が多い場所で告白されるのは一番嫌いなことだった。
それでつい自分と同じようなシチュエーションに出くわした羽川さんを大声で呼んでしまったのだろうけど。
僕も同じく人の注目を集めるのは嫌だったので、レンを犠牲にしたのだ。
ごめんね、レン。
きっと、明日は告白しに男子が来るね。
ドンマイ。
僕は古びた本を戻しながら、明日はレンの機嫌が悪くなるなと考えるのだった。