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もう一人の秀長4

 大和の秀長と狗はこの時期書簡を足の速い下忍を2人使ってやり取りしている。秀長は起き上がれないが頭は聡明だ。秀次のことはもう秀長は諦めているようだ。それに今の秀吉には諌言は効かない。寧々に手紙を書いたがもはや私のいうことは効かないと返事が来た。だからと言って家康と組むわけにはいかない。
 だから今は入ってきた情報を細やかに報告するしかない。それと合わせて狗は今の仲間の先行きを考えている。秀長の命は限られている。影武者と言う手を使っても長くは引っ張れないと秀長自身も思っている。だが秀長に代わるものがいないのだ。と言うことは狗達はよりどころを失うだけではなく柳生や服部に抹殺されてしまう。
「もう行くか?」
「ええ」
 狐の茶々の監視の意味合いがなくなった。逆に狐に新たらしい村作りを伝えて城を出した。これに下忍を警護で付けた。
「しっかり狐は狐で将来のことを考えていてくれ?」
「でどの位?」
「1年も持たせれないだろうな。すでに大和には服部が次々送られている。天海のことだ。秀長殿の寿命を見抜いているように思う」
 その日のうちに茶々の懐妊が公になった。同時に巫女の胡蝶は消え狐の代わりに新しい腰元として入った。相変わらずの化け猫だ。その夜狗は茶々の部屋の天井裏に潜んだ。ちょうど秀吉が去った部屋で茶々はもう眠っている。胡蝶が枕元で何か話している。口元が見える位置に移り変わる。
「浅井の敵を討つ時よ。恨みを思い出すのだ」
 この言葉が呪詛のように続く。いつの間に現れたのか式神が舞っている。
 闇の中から手裏剣が飛んでくる。これは服部ではない。屋根裏部屋を抜け大屋根に出る。追ってくるのは3人。中庭に飛び降りるとその1人を切った。
「久しぶりだ狗?」
「弾正の忍者か?」
「今は活躍の場を失った。道ずれにしてやろう」
と同時に2人っで切りかかってきた。彼らも働きの場を失った忍者だ。飛び上がると一人の背中に回り突き刺しその体に隠れて弾正の忍者の下腹に剣を突き出した。

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