もう一人の秀長5
秀次が高野山に押し込められた。くノ一からすでに揚羽は姿を消したと報告があった。秀長から書簡が届いて狗が秀次の最後を見届けるよう指示を受けた。伝えたいこともしたためられていた。それでその書簡を届けに来た蝙蝠と高野山に走った。その時すでに秀次の身内と腰元達の処刑が決まっていた。秀吉に家康に黒田に捨てられた秀次だった。
山に付いて寺の屋根を走る。まず蝙蝠が囮で走って服部を引き離す。すでに秀吉の兵が寺を取り巻いている。切腹を伝えられたのだ。秀次はすでに白装束で座っている。だがまだ誰も部屋にはいない。目を見ると何時かの狂気は見られない。揚羽が去ったのだ。
「秀次殿?」
「秀長殿からの」
「狗か?あの時にもっと忠告に耳を貸していればよかったのだ。お元気か?」
「伏せられております」
「殿下も変わられた。秀長殿はそれに早く気づいておられた。でも秀長殿がおられなかったらこの豊臣も長くないような気がします」
「天下を取ると人は変わるとおっしゃられていました」
「私もそうだったな」
「近く私も参るので一緒に酒でも飲もうかとの言葉です。登りつめているときは大変だったが楽しかったと」
「そうですね。楽しかった」
その時ゆっくり襖が開いた。狗は頭を下げるとそのままそこから去った。寺の屋根を飛び越え走る。すでにその頃は秀次は果てただろうと思う。登り切ると見えるものが見えなくなるようだ。尾根道に出ると後ろから追ってくる足跡がある。
「服部が10人、結構走り回りました」
「もう少し走るぞ蝙蝠。久しぶりに里に戻る」