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もう一人の秀長3

 最近再び朝鮮征伐を盛んに秀吉が言い出した。これは信長の夢をかなえるものだが天海はきっぱりとその愚を説いている。それは天海が果心居士だからだ。彼は世界を誰よりも知っている。久しぶりに家康が訪ねてきた。
「どうですか?秀長殿?」
「まだ全快と言えませんが」
と笑っている。狗は床下にいる。
「朝鮮征伐をどう思われる?」
 単刀直入に聞いてくる。
「夢のような話ですね?」
 元々秀長は朝鮮征伐には反対してきた。目の前に家康がまだ残っているのだ。だが秀吉はもう聞く耳を持っていない。
「関東はどうですか?」
 北条の後家康も秀吉に押し切られるように関東に入っている。これを狗は聞いて見たかったのだ。
「我が師の天海殿は喜ばれていますがな、家臣は不満ですな」
 朝鮮征伐では家康と秀長と千利休が反対をした。だが秀吉は千利休だけを血祭りにあげた形だ。どうも利休を失って秀次を見限って秀長に近寄ってきたと見える。今は秀吉も家康も全面戦争と言う状態ではない。現在は石田三成の一派と加藤清正らの武闘派がことごとくぶつかっている。家康は武闘派に力を入れているようだ。それも秀長を悩ませてきた問題だ。
「実は」
と家康が小声で言って近寄った。
「茶々さまがまた懐妊されたようですよ」
 これはまだ誰も知らない情報だ。胡蝶から漏らされたのか。これで秀次の運命は決まった。


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