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お母さまは魔女魔***の…… その1

「ひどいわ、ステルちゃん……ママがいないだなんてぇ」
 その声は、部屋の窓の方から聞こえてきました。

 で、スアはその声を聞くなり目を見開いて窓の方にダッシュしていき、窓にむかって封印呪文をかけました。

 ……ってか、開けないの!? 閉めちゃうの!?

 そんな窓の外にですね……なんかホウキに乗った小柄な女の子がいましてですね、
「ステルちゃん、ひどいわぁ! ママの力でステルちゃんの封印が解けるわけないでしょう!? あ~け~て~」
 駄々っ子のように目から涙を流しながら窓を必死に叩いています。
「……っていうか、スア……君のママじゃないのか? あれ」
 僕がそう言うと、スアは激しく顔を左右に振りました。
「……知らない……どっか余所の人、よ……きっと」
 そう言うと、スアは僕の影に隠れるようにして、窓の外の女性から姿を隠そうとしています。
 そんなスアを見つめながら、僕は思わず大きなため息をつきました。
「……スア。君もママになったんだろ? もしもだよ、パラナミオやリョータが今のスアみたいな態度を取ったら、スアはどう思う? やっぱ悲しいんじゃないかな?」
 僕がそう言うと、頑なだったスアもさすがにまずいと思ったらしく、僕のズボンを手で持って考え込み始めました。

 ……で、考えあぐねること数十分

 その間もスアのことをジッと見つめ続けている僕と、号泣しながら窓を叩き続けているスアの母親らしき人を交互に見つめながら、スアは観念したかのように右手を窓に向けました。
 その途端に、窓を叩いていたスアの母親らしき小柄な女性はホウキに乗ったまま窓を蹴破り、

「ステルちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」

 そう絶叫しなら特攻していきました。

 ……えぇ、言葉、間違ってません。
 ホウキに乗ったまま、まっすぐにスアに向かって突っ込んできたんですもん……『特攻』以外にぴったりくる言葉なんてありませんってば……

 ただ、この特攻を予期していたらしいスアは、右手をかざすと魔法でスアの母親の特攻を止めました。
「あら? あらら?」
 空中で静止してしまったスアの母親は、自分が動かなくなったことが不思議で仕方ないらしく、しきりに周囲を見回しています。

 が

 ホウキから降りることが出来るのに気がつくと、
「うんしょ、こらしょ」
 とホウキから降り……ちょっとお母さん!? 足広げすぎ! 下着見えてますってば!
 で、そんなことなどお構いなしに、スアのお母さんは改めて
「ステルちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」
 そう言い直しながら、スアに抱きついていきました。
 で、思いっきり抱きつかれたスア。
 で、母親さんは、スアに何度も激しく頬ずりしていきまして
「ステルちゃん、会いたかったのよぉ。ようやく会えたわぁ。もう何年ぶりかしらぁ?ステルちゃんの姿が変わってたらどうしようかと、ママどっきどきだったけど、前に会った時と微塵も変わって無くて、ママ感激よぉ」
 そう言ったのですが、それに対しスアは顔を真っ赤にして
「少しは変わってる、の! 大きくなった、の! 色々と!」
 と、必死に反論しているんですが、スアの母親はそんなスアの様子などおかまいなしに、何度も何度も頬ずりをつづけていました。

◇◇

 で、かなりの時間、スアに抱きついて頬ずりを続けていたスアの母親らしき人は、ようやくおちついたらしく
「どうもどうも、ステルちゃんにあえたのが嬉しくて嬉しくて、ちょっと我を忘れてしまって本当にごめんなさいね」
 そう言いながら、何度も何度も頭を下げ始めました。

 ……ただ、その頭を下げている先がですね、たまたま部屋の前を通りかかった黒骨人間(ブラックスケルトン)だったのだけが、ちょっと残念だったわけでして……

 で、改めてスアに即されて部屋の中央、僕達がいる方へ向き直ったスアの母親らしき女性はですね
「ど~も~、ステルちゃんのママで、リテール・アムといいますぅ。ちょっとお茶目でキュートな魔法使いですので、ど~ぞよろしくぅ」
 そう言い、ニッコリ笑いました。
 え~、リアルに自分のことを『お茶目でキュート』とか言う人、初めてみたんですけど……
 僕が苦笑していると、そのスアの母親であるリテールさんはそんな僕へと視線を向けて、
「ステルちゃん、この方がステルちゃんの旦那様かしらぁ?」
「……うん、そう……よ」
 スアは、少し照れているらしく、頬を染めながらそう言いました。
 すると、リテールさんは、僕をマジマジと見つめ続けた後、
「さすがステルちゃんが見初めたお相手ねぇ、ママ、とっても気に入っちゃったわ」
 そう言うと、リテールさんは
「改めまして、これからよろしくお願いしますね……タクラリョウイチさん」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。あと、結婚のご挨拶が遅くなってすいません」
 僕はそう言いながら頭を下げ返しました。
 
 ……しかし、スアのお母さんのリテールさんですけど、若いです。
 スアより小柄でストー……あ、いえ、何でもありません。
 で、スアと並んでも遜色ないほどに若々しいといいますか、ロリロリしいといいますか……

 そんなことを思っている僕に、リテールさんは改めてニッコリ笑いまして
「リョーイチさん、ステルちゃんともどもよろしくお願いしますねぇ」
 そう言って、もう一度深々と頭を下げました。
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」
 僕もそう言いながら、再度深々と頭を下げました。
 こうして、スアの母親と僕は、初めて出会ったわけです、はい。

◇◇

 で、リテールさんなんですけど
「いやぁ、ママさんってば途中まで私は案内していたんですけどね……」
 そう言いながら、ラテスさんが苦笑していました。

 なんでも、オトの街からガタコンベにやってくる途中でですね、森の中をホウキで飛びながら
「ステルちゃんや~い」
 って言ってる、リテールさんに出くわしたらしんですよね。
 で、それを見かねたラテスさんが声をかけたところ、リテールさんが
「こんな顔の娘を探しているんですの」
 と言いながら、魔法で似顔絵を映し出したところ、それがスアにそっくりだったもんだから
「この人のいる場所知ってますよ。ちょうどそこに向かっているところなのでご案内しますわ」
 そう申し出たそうなんですよ。

 ……で、そのリテールさんがなんでこんなに遅れて、しかも一人で到着してるんだ?

「それがですねぇ、道中でですね、初めてみるお花があったもんですから、ついついそっちに行っちゃいましてぇ、気がついたらラテスさん、もういなくなっていたんですよねぇ」
 そう言って、リテールさんはアハハとお気楽に笑いました。

 ……っていうか、ラテスさんもいなくなったんならいなくなったで、気にしてあげないと……見るからにか弱い女性なんだし
「あはは、確かにそうなんですけど、空を飛ばれてたし、何か用事を思い出して別行動したのかな、って思ったわけでして……」
 ラテスさんは、そう言いながら申し訳なさそうに何度も頭を下げていました。

 すると、スアはリテールさんへ視線を向けまして、
「……手紙書いたから、来た、の?」
 そう言いました……っていうか、手紙?
「……子供が出来たの……知らせた、の」
 そう言って、照れくさそうにしているスアは、改めてリテールさんに視線を向けると、
「……何で1人で来た、の? 転移でくればいいのに……ママ、ただでさえ超方向音痴なのに、さ」
 そう言いました。
 すると、リテールさんは、申し訳なさそうに眉をしかめ
「ごめんねぇ、ステルちゃん。パラナミオちゃんとリョータくんのことはダンダリンダから聞いててね、2人に会いたくてうずうずしていたところに、ステルちゃんがまた妊娠したってお話でしょ? もう、ママ、いてもたってもいられなくなってぇ、転移魔法のことをすっかり忘れてぇ、ホウキにのって飛び出しちゃったのよねぇ」
 そう言うと、申し訳なさそうに頭を下げました。
「あれ? ママさんダンダリンダって魔女魔法出版のです? ご存じなんですね」
 僕がそう言うと、リテールさんは
「えぇ、私の会社の社員ですからぁ」
 そう言って微笑みました。
「え?」
 僕は、その言葉に思わず絶句しました。
 そんな僕に、リテールさんは微笑み続けながら
「はい、私、魔女魔法出版の社長をしております、リテール・アムと申しますの」
 そう言いました。

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