ルアのなが~~~~~~~~~~~い友達と…… その2
「あなたがコンビニおもてなしの店長さんかい? あたしゃネリメリアって言ってね、ルアの母親なんだけどさ」
その年配の人猫の女性はそう言いました。
ここで、一点お気を付けください。
ルアは猫人です。
人の容姿をしていて、猫耳猫の尻尾がついている感じです。
一方、このネリメリアさんは人猫です。
完全に猫の容姿なんですけど、人型をしていて二足歩行しているんですよ。
母親と言われてはいるんですけど、容姿が決定的に違っているんです。
で、僕がそんなことを考えているのを察したのか、
「あぁ、父親がね、猫人だったんだよ。ルアはそっちの血を強く引いててねぇ」
そう言って笑うネリメリアさんなんですが、ちょっと白い毛が目立ってますけどすごく品のいいお婆さまって感じです。
「で、工房に行ったら娘はこっちだって聞いたからお邪魔したんですけど」
「あぁ、はい、ルアなら僕の妻と……あと、さっきラテスさんも加わってますんで、3人と子供達で、奥の部屋ですごしていると思いますよ」
そう言いながら、僕はレジを抜けまして
「ご案内しますからどおぞこちらへ」
そう言ってネリメリアさんの前に立って歩いていきました。
「仕事中なんだろ? なんだか悪いねぇ」
ネリメリアさんは、そう言いながら嬉しそうに笑っています。
「そう言えばラテスから聞いたけど、店長さんとこも子供さんが出来て間がないんだよね? おめでとう」
「あ、こりゃどうもありがとうございます……実は、新たに妊娠しているのも発覚してまして」
「おやおや、こりゃまたおめでたいねぇ」
僕とネリメリアさんはそんな感じで和やかに会話を交わしながら廊下を歩いていたんですが、
ドタドタドタ……
ん? なんか店の方からすごい駆け足が聞こえてきます。
僕とネリメリアさんが
「なんだなんだ?」
「何事だい?」
って、振り向きましたらですね、その視線の先にオデン六世さんがいました。
オデン六世さんは、いつもの甲冑姿の上に、なんかすごい紳士服っぽい物を身につけて、慌てふためきながら廊下を駆けてきています。
で、オデン六世は、僕とネリメリアさんの前で立ち止まると……なんか、ここでアタフタし始めたんですが
「あらあらあら、オデン六世様ぁ、頭がお店に落ちてましたわよぉ」
と、魔王ビナスさんがオデン六世さんの頭を抱えて駆け寄って来ました。
あぁ、なるほど……オデン六世さんってば、ここまで駆けてきたところで頭がないのに気がついて、で、慌ててたんだ……っていうか、見えてないのによく立ち止まれたなぁ……と、僕が感心していると、
「……気配で、障害物や人は、わかります」
そう言いながら、頭を首の上に据えていきました。
なんでも、ある程度意識していれば、頭を首のところに固定しておくことが出来るそうなんですよね。
で、オデン六世さん。
ネリメリアさんの前で片膝を付いて座りまして、
「……お初に、お目に……かかります……オルドリアーナクォノアロウ=デュラハン=ンデオッテエンダイー6世と申します」
……そうでした。
すっかり『オデン六世』の名前が定着してましたけど、オデン六世さんって正式な名前がすっごく長いんでした。
で、その名前を聞いたネリメリアさん、
「あん? おんどりゃあなこの野郎デュラハンんでもってんだい6世っていうのか……長くて言いにくいから、オデン六世でいいかい?」
うん、そうなりますよね、やっぱ。
で、オデン六世さんも、コクコクと頷いています。
で、そんなオデン六世さんの態度を確認したネリメリアさんは、
「まぁ、もういいから立ちなさいな婿殿」
そう言いながら、オデン六世さんの肩に優しく手を置きまして
「あの子を妻にしてくださってありがとうございますね」
そう言って深々と頭を下げていきました。
すると、オデン六世さん、
「と、とんでもない! あ、挨拶がすっかり遅くなってしまって……その子供まで先に……」
しどろもどろになりながらネリメリアさんの前で手をばたつかせているんですけど、そんなオデン六世さんを見ながらネリメリアさんは優しく笑っています。
「そんなこたぁ気にしないさ。あんたがいい人なのは、今のこの態度で十分わかったしさ。あの娘をよろしくお願いしますよ、婿殿」
そう言ってもう一回深々と頭を下げました。
すると、オデン六世さん、感激しまくっちゃったみたいで、頭から涙が滝のようにあふれ出しつつ、しかも首が外れてですね、涙の勢いで巨木の家の方にゴロゴロと転がっていってしまいまして……
「あらあら、こりゃ大変だ」
そう言うとネリメリアさんが先頭に立ってオデン六世さんの頭を追いかけていきます。
その後ろを僕が追いかけて、さらにその後ろをオデン六世さんが……って、オデン六世さん! そっちは店の方! 方向逆ですってば!
で、僕とオデン六世さんが遅れる中、
「あれ? なんで旦那の頭が転がってきたんだ?」
と、巨木の家の中でルアがオデン六世さんの頭をキャッチしまして……そこに、ネリメリアさんが駆け込んでいきまして……
「……か、母ちゃん……」
ルアってば、ネリメリアさんを見て思わず絶句しています。
そんなルアを見つめながらネリメリアさんは一度大きなため息をつくと
「結婚と、出産おめでとう。まったく、弓矢の矢みたいに飛び出したまま、手紙の一つもよこさないんだからね、この娘ったら……」
そう言いながら、ルアが抱っこしているビニーを受け取っていきました。
「この子、名前はなんてぇんだい?」
「あ、あぁ、ビニーって言うんだ」
「そうかい……はいビニーちゃん、アタシがお婆ちゃんだよぉ」
そう言うとネリメリアさんはビニーに笑顔を向けていきました。
ビニーは、デュラハンであるオデン六世さんの子供だけあって、頭が胴体から離れているんですけど、頭がどっかにいったりしないように、ベビー服の胸の所に頭がすっぽり収納出来るポケットがありまして、そこに頭が入っているのですが、そこからネリメリアさんを見上げながらビニーは嬉しそうに笑い声をあげていきました。
すると、ネリメリアさんは嬉しそうに微笑みながら、ビニーを抱っこしたままゆっくり部屋の中を歩いて行きました。
その光景を、部屋の奥にいたラテスさんとスア、そして廊下から部屋の中に駆け込んで来た僕とオデン六世さん、そしてルアがですね、みんな笑顔で見つめていました。
なんと言いますか、いいですよねぇ、こういう光景って。
ルアだけは、どこか『勘弁してくれよぉ』みたいな表情を後方のラテスさんに向けながら困惑しきりな様子なんですけど、その視線の先でラテスさんは『ドッキリ大成功!』的ないい笑顔をしています。
オデン六世さんは、そんなルアの肩を抱き寄せると一緒にネリメリアさんの方へ歩みよっていきました。
すると、ネリメリアさんは、
「ほらビニーちゃん、パパとママが来たわよぉ」
そう言いながら、笑顔でビニーをルアへと渡していきます。
しかし、あれですね。
その光景を見つめながら、僕はふと思ったわけです。
……そう言えば、スアのご両親って……
……いえね、スアがすでに二百才を超えているエルフの魔法使いなのは知っています。
ですが、聞くところによるとエルフはかなり長命らしいですので、ひょっとしてまだ健在なのでは……だったら、僕もこうして挨拶をした方がいいよなぁ……なんて思ったわけです。
すると、スアはそんな僕の思考を読み取ったらしく
「……いないから、いい」
そう言いました。
あぁ、やっぱそうなのか……確かに、今まで一度も話題にもなってなかったし……なんか悪いことを考えちゃったなぁ……僕はそんなことを思っていたんですけど、
しくしくしく……
「ん?」
なんだろう……どこかから誰かが泣いてる声が聞こえてきたような……