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コンビニおもてなしの海岸物語 その2

 ジャガー人のジェットさんが連れてきたのは、ひょろっと背の高い眼鏡の女性でした。
「ジェット、この人がアルリズドグさんも太鼓判を押しているっていう店長さん?」
「はい、間違いありません。私も個人的にやりとりをさせていただきましたが、非常に誠実かつ合理的なお話が出来る方でアルと保証させていただきマス」
 ジェットさんがそう言うと、その女性は
「アルリズドグさんだけじゃなくて、あなたがそこまで言うとなると……安心してもよさそうね」
 そう言うと、改めて僕に視線を向けてきました。
「ごめんなさいね、ご本人を前にしてあれこれ話し込んでしまいまして……私、ファラランシアと申します。気軽にファラとお呼びくださいな」
 そう言いながらその女性~ファラさんはペコリと頭をさげました。
 そんなファラさんを見つめながらジェットさんもニッコリ笑っています。
「このコ、とっても馬鹿正直で、曲がったことが大嫌いなんです」
 なんか、思わず『まがったことが大嫌い、は~ら~だ……』なんて歌が頭をよぎりましたけど
「それで、前に勤めてた商会が不正していたのに気がついてですね、店ごとぶっ壊してしまったのデスよ」
「は?」
 僕は、その言葉に唖然としてしまいました。
 そんな僕の横で、ファラさんは苦笑していました。
「いやだ、ジェットったら。あれは不正を指摘して即刻辞めるように進言したら私を殺そうとしたから仕方なく反撃しただけよ」
 そう言っているんですけど……あぁ、商会を建物ごと破壊したことは否定しないんだ。

 でもまぁ、話を聞けば、悪いのはその商会の方だし、ファラさんも自己防衛のため……にしては、ちょっとド派手過ぎないかと思わなくもないんですけど、
「まぁ、僕も不正行為は大嫌いだからさ。もし何か気がついたことがあったら遠慮無く言ってくださいね」
 僕がそう言うと、ファラさんは少し目を見開きました。
「へぇ……アルリズドグさんとジェットが薦めるだけのことはあるわね。店長自らそこまで言う人なんて、この200年の間では初めてね」
 そう言うと、ファラさんはニッコリ笑いました。
 ……っていうか、二百年?
 え? ファラさんてば200才超えてるの?
「まぁ……亜人の中でもちょっと変わった種族なんですよね、私」
 そう言うと、ファラさんはおもむろに着衣を脱ぎ去りながら少し離れた場所へと移動していきました。
「雇用主ですから申告しておきますね、私、リヴァイアサンなんです」
 そう言ったかと思うと、ファラさんの体が一気に巨大化し、そこに大きな青い竜が現れました。

 あぁ……これが水の竜のリヴァイアサン……

 ……って言ってますけど……実は僕、リヴァイアサン化したファラさんをまったく見ることが出来ていません。
 ファラさんが服を脱いで裸になり始めた~おそらく、巨大化して服が破れるのを防ぐための措置だと思うんですけどね~ところで、それを察知したスアが僕の背後に転移で現れてですね、後ろから両目を押さえているんですよ、これが……

「……あの、スア……ファラさん、もう龍になってない? 一応その姿見ておきたいんですけど……」
 僕がそう言うと、スアは何度も前方のファラさんの様子を確認してから、僕の目から手を離しました。

 で、やっぱ壮大なんですよねぇ。

「サラマンダーのサラさんも大きかったけど、リヴァイアサンのファラさんも大きいですねぇ」
 僕が感心しながらそう言うと、
「あら? 店長さん、サラのことをご存じなの? あの子と私は無二の親友なのですよ」
 そう、言葉を返してきたんですよね。
「えぇ、養女の娘がサラマンダーでして、何かと気にかけてくださってるんですよ」
「あらあら、あなたってばサラマンダーを保護してまでいるのね」
 ファラさんは、僕の言葉を聞くと、なんか気持ち嬉しそうな声を発していきました。
 そのまま人の姿に戻ると、ファラさんはそのまま僕に歩み寄って来まして、
「あなたのように、私達、竜属と友好的なお付き合いをしてくださっている方の元で働けるなんて感激ですわ。このファラランシア、身を粉にして働くことを誓わせて頂きます」
 そう言ってくれたファラさんなんですけど……感激のあまり裸のままの姿で歩み寄って来たもんですから、僕の目はスアによって再び塞がれていましてですね、
「こちらこそよろしく……」
 そう言って差し出した僕の右手は、明後日の方向へ差し出されていたらしく、ファラさんも思わず苦笑していました。

◇◇

 とまぁ、そんな経緯でおもてなし商会の経理役として雇用することになったファラさんですが……いやはやホントによく働いてくれます。
 
 ファラさんには、基本的にティーケー海岸商店街に出来たおもてなし商会の建物の2階の1室で暮らしてもらいながら勤務をしてもらっているのですが、

 ・アルリズドグ商会との卸売りの交渉
 ・その出納の管理及び帳簿づけ
 ・商品の運び込み
 ・店舗や近隣の掃除

 こういった作業をきっちりこなしてくれています。

 アルリズドグ商会から仕入れる魚に関しても、僕が「こんな料理に使える魚が欲しいんだけど」って伝えておくと、
「それには、これとこれ、そしてこれが適していますので、仕入れておきました」
 と、きっちり仕事してくれるんです。
 そして、その商品を地下室へ運んで一時保管しておいたり、僕が必要に応じて仕入れた魚を本店に持って来るようお願いすれば即座に対応してくれます。
 ファラさんは、人型とリヴァイアサン型以外にも、竜人型と言いますか、人のサイズで人の格好をしている竜の姿形、いわゆるドラゴニュート形態にもなれるらしく、魚を一度に大量に移動させるときはこの姿になって荷物を運んできてくれます。なんでもこの姿だとかなりのパワーが出せるそうなんですよね。
「なんなら専用の魔法袋を渡しておこうか?」
 僕がそう言うと、
「いえ、この程度の荷物の輸送に魔法袋など不要ですわ。万事このファラにおまかせくださいな」
 そう言ってニッコリ笑ってくれました。

 で、ファラさんにですね、事前にコンビニおもてなし流の帳簿付け方を知ってもらうために、本店の会計関係書類を貸してあげていたところ、
「この書類を見るだけで、店長さんがいかに経理処理を誠実に行われているかわかりますわ……あなたの性格がにじみ出ていますわね」
 そう言って嬉しそうに笑ってくれたんですが
「私、こんな誠実な方をお婿さんにしたいと、昔からずっと思っていたのですが、店長さんは独身ですか?」
「あ、いえ。嫁と子供がいますので」
 僕がそう言うと、ファラさんは
「残念……こんな誠実な方ですもんね」
 そう言いながら、本当に残念そうな顔をしていました。

 僕は、ファラさんがここで、必要以上に食い下がってきたり、
「なら、愛人でも……」
 なんて言い出さなかったことに心底安堵しました。

 ……だって、転移ドアの隙間から、スアの殺気まみれの気配がダダ漏れてたんですもん。

「まぁ、配偶者がありながら、それを隠そうともしないその誠実さもまた魅力ですわ。こんな素敵な店長の下で働けることを心から感謝いたします」
 そう言って、ファラさんは改めてニッコリと微笑んでくれました。

 このファラさんがおもてなし商会を仕切ってくれることになり、コンビニおもてなしでは、アルリズドグ商会から定期的に海の幸を仕入れる事が出来るようになりました。
 これで、今月末にドンタコスゥコさん達がやって来たときにはいい話が出来そうです。

 ……ただ

 スアだけは、いまだにファラさんのことを警戒しているらしく、僕がおもてなし商会に赴く度に同行するようになっているんですよね、これが。

 で、その夜になると、ベッドの上で

「……私が、嫁ですから、ね?……満足してもらいますから、ね」
 そう言いながら、いつも以上に積極的に僕の……

 おっと、ここからは黙秘させて頂きますよ。

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