コンビニおもてなしの海岸物語 その1
アルリズドグさんが仕切っている海岸一帯は、ティーケー海岸というそうです。
「この一帯は突き出した岬に囲まれててさ、穏やかな海なもんだから魚介類も豊富に取れるんだ……けどさ」
そう言いながら、アルリズドグさんは目をぱちくりさせています。
そんなアルリズドグさんの視線の先には、スアが作り出した転移ドアがあります。
「……あんたの嫁さん……ありゃ何者だ? こんな長距離を結ぶ転移ドアを作れる魔法使いなんて聞いたことがない……」
そこまで言って、アルリズドグさんは少し腕組みして考え込みました。
「……いや、待てよ……なんか数百年昔にいた、あの森の引きこもりの伝説級魔法使いなら出来るかも……あの魔法使い、名前なんていったっけなぁ……確か、なんとかアムって言ったような……」
現姓 スア・タクラ
旧姓 ステル・アム
……スアの旧姓と、アルリズドグさんが呟いている名前が微妙に似通ってる気がしないでもないのですけど、まぁ気のせいだと思うので無視することにします。
……って、いうか、こんなとこにまでその名前が知れ渡ってるのか、スアってば……
で、スアの作り出した転移ドアは、今のままだと海岸の少し奥まったところにある商店街の端っこに、ドアだけポツンと出現しています……このままでは不自然極まりないわけです。
「アルリズドグさん、ここに小屋かなんか建ててもいいですかね?」
「ん? あぁ、別に構わないぜ。この商店街はアタシが仕切ってるからな」
アルリズドグさんはそう言って笑うと、
「なんなら、小屋と言わずに店を作っても構わないぞ。お前、ガタコンベじゃあ、なんか店をやってんだろ?」
「えぇ、確かに店をやってはいるんですけど……そうですね、その時はぜひよろしくお願いします」
一応、出店のお墨付きをもらっておいて、僕はここにコンビニおもてなしの仕入用の倉庫代わりの小屋を建てることにしました。
せっかく海に近いんだし、みんなでやってきて宿泊出来る部屋も欲しいかな。
地下にはアルリズドグさんから仕入れた魚介類を一時保管出来る保冷室を作っておけば、仕入を一時置いておけるし。
本店の地下にも貯蔵庫はあるにはあるけど、あっちはイエロ達が狩ってくる魔獣達の肉がいつも満載だからなぁ……あの肉、毎日のようにイエロ達が狩りまくってくるんですよね。
なんでも魔獣達って産まれて1ヶ月もすれば成獣になる上に、一度に何十匹も産むらしいから、狩っても狩っても極端には減らないらしいんですよね。
以前は適度に増えたところで共食いや縄張り争いなんかしたりして、自然淘汰されていたらしいんですけど、最近はそこにイエロとセーテンという脅威が割り込んで強制的に間引いている感じなわけです、はい。
そのおかげで、ガタコンベ周辺は本当に治安がよくなったってもっぱらの噂なんですけどね。
で、まぁ、せっかくアルリズドグさんから海の幸を購入出来ることになったので、
「アルリズドグさん、もしよかったら山の魔獣の肉とか仕入れませんか?」
「ほう? そんなもの扱ってるのか? そりゃ興味あるなぁ」
そう話を振ってみたところ、アルリズドグさんも乗り気だったもんですから、僕は持参してきていましたコンビニおもてなしのタテガミライオンの焼き肉弁当を差し出しました。
「これが僕の店で提供しています、山の魔獣、タテガミライオンの焼き肉弁当なんですけど」
「どれどれ、じゃ、ちょっと頂くよ」
そう言うと、アルリズドグさんは僕の手から弁当を受け取っていきました。
「こう見えてさ、アタシは結構グルメなんだぜ。マーグロの肉とかさ、超高級魚の肉を食い慣れてるから、ちょっとやそっとの味じゃあ、びっくりは……」
そう言いながら、タテガミライオンの肉を一口頬張ったアルリズドグさん。
「うむ!?」
目を見開きながらそう唸ったかと思うと、すさまじい勢いで弁当をがっついていきまして、
「う、うまい~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
と、まぁ、とある作品でしたら、その場で目と口からビームでも発射してしまいそうな勢いで歓声をあげていきました。
「いや、マジでこれうまいって! この肉、ちょっとやそっとの味じゃないぞ」
「えぇ、このタテガミライオンは僕の地域でも普通の冒険者ではそう簡単には狩れない魔獣の肉なんですけど、この肉が絶品なんですよ」
そう
そうなんですよ。
忘れがちだけど、タテガミライオンって、普通は手練れの冒険者達が複数パーティで、1匹に挑んでいくレベルの魔獣なんですよ。
イエロとセーテン、あと、今は妊娠中のため狩りをお休みしているルア達が、毎日あまりにも簡単に、あまりにも大量に狩ってくるから忘れがちなんですけど、本来、滅多に口に出来ない珍味なはずなんですよね、この肉ってば。
で、相談の結果、アルリズドグさんのアルリズドグ商会へこのタテガミライオンをはじめとしたガタコンベ周辺の魔獣の肉を卸し売ることになりました。
「なぁ、タクラ店長よ。アタシらを相手に卸し売るんだから、お前のとこも商会を作ったらどうなんだ?」
「え? 商会?」
「あぁ、その方がこっちも相手にしやすいし、お前のとこももっと手広く商売出来るようになると思うぜ。中には商会相手でないと商売しない店なんかもあるしさ」
「はぁ、なるほど」
僕はあんまり考えた事がなかったんですけど、よく考えてみればコンビニおもてなし本店では、定期的にドンタコスゥコさん率いるドンタコスゥコ商会と取引しているわけだし、ここで新たにアルリズドグさん率いるアルリズドグ商会とも取引が始まるわけだし……一応商会って組織を作っておくのも悪くないのかもしれないな、と、思った訳です。
で、とりあえず、このティーケー海岸商店街の小屋の建築はアルリズドグさんの息のかかった地元建築業の皆さんにお願いすることにしました。
本来であれば、スアの魔法でちょちょいのちょいっと、で、出来ちゃうんですけど、郷に入り手は郷に従えともいいますし、僕は他の街なんかで出店する際には必ず地元の企業を利用することにしています。
この街での僕らは新参者なわけですし、やっぱ地元の方々に好印象をもってもらうためにも、こういった配慮は必要じゃないかなって思うわけです。
アルリズドグさんが早速手配してくれた、ジャガー人のジェットさん率いるジェット建築の皆さんとあれこれ打ち合わせをしまして、早速工事に取りかかってもらいました。
ジェットさんの店の職人さんには甲虫人の職人さんがやけに多いんですけど、小柄な割にパワフルな人が多いもんですから、
「3日もあれば、十分さ」
ジェットさんは、なんかカクカクした動きをしながらそう言ってくれました。
で、小屋の方は3日後改めて見に来ることにして、この日はアルリズドグさんから海の幸を仕入れさせてもらってからガタコンベに戻りました。
そこで僕は、商会設立のことで、組合のアレアに相談にいきました。
なんか手続きとかいるのかな、と思ったからなんですけど、そんな僕にアレアはニッコリ笑って
「あぁ、王都で店を構えるのならあれこれ大変ですけど、ここガタコンベでなら書類一枚ですよ」
そう言いながら、『商会届出書』って紙を渡してくれました。
注意書きに目を通して見ますと、商会を設立すれば他の都市の卸売市場と交渉する権利が産まれるみたいです。
まぁ、本業として商会をするわけじゃないし、そう深刻に考えることもないか。
そう思いながら僕は『おもてなし商会』として商会の届け出を行いました。
で、3日後
改めてティーケー海岸商店街へ出向くと、ジャガー人のジェットさんが満足そうな表情で僕を出迎えてくれました。
打ち合わせ通りに、小屋は出来上がっていました。
地下1階、地上2階建てで、2階部分が宿泊施設になっており、1階はいつでもコンビニおもてなしを開店出来るように、店舗部分を広めにとってあります。
裏手には、取引用の荷馬車が発着できる場所も完備してあります。
「うん、ばっちりですね」
僕は、ジェットさんの説明を受けながら建物内を確認していき、満足し頷きました。
「あとは、ここで働いてくれる人を探さないといけないなぁ」
僕がそんなことを呟くと、ジェットさんが
「あ、もしよかったら知人を雇ってはもらえないでしょうか?」
そう言ってきたんですよね。