パラナミオ狂想曲 その2
今日は、電気自動車おもてなし1号にのってテトテ集落へと向かっています。
「今日も気持ちいいです!」
パラナミオは後部座席から窓の外に顔を出して、嬉しそうにしています。
助手席では、スアがリョータをフロント抱っこしているのですが、魔法で体を浮かせているので、悪路をガタガタしながら進んでいるコンビニおもてなし一号の中でもまったく揺れていません。
リョータは随分首が据わってきましたし、身振り手振りと「あ~」だの「う~」だので意思表示をするようになってきています。
「スアならリョータが何を考えているのか、魔法でわかったりするのかい?」
僕の言葉に、スアは、ん~、って考え込んでいきました。
「……わからなくは、ない、よ。……でもね……なんか、絵がド~ン!って浮かんでるだけで、……それを、どうしたいのかまでは、わからない、時多い、の」
あぁ、なるほどなぁ。
つまりリョータの頭の中の思考がまだ幼すぎて、その思考をのぞき見ても何が何だかわからないって感じなのか。
そんなリョータが、どんな風に育っていくのか……なんかすごく楽しみなわけです。
そして、同じくらい楽しみなのが言わずもがなのパラナミオの成長なわけです。
パラナミオは、初めて出会った時はすっごいガリガリだったんですけど、僕ん家の子供になって、ちゃんとご飯を食べられるようになってからは、ごくごく普通の女の子になっていきました。
……いえ、すいません……私としたころが言葉を間違えてしまいました。
とっても可愛い女の子になっていきました。
昼間は教会の学校に通っているのですが、どうもパラナミオの事を好きな男の子が結構いるらしいんですよね。遊びに誘いにくるお友達の中にも男の子が多いもんですから、そうなのかなぁとは思っていましたけど。
まぁ、まだ子供なんだし、しっかりみんなと遊べばいいよって思いながらも、将来
『パラナミオさんを僕にください』
なんて言いながらやってくる男がいたら、
『まずは拳で語り合おうか』
ってなシチュエーションに……
いえいえいえいえ、そんな事、微塵も思っていませんよ? えぇ。
パラナミオが選んだ人なら、そりゃ僕は笑顔で……ねぇ
そんな事を考えていると、スアが僕の肩をポンと叩きました。
「……早すぎる、よ」
……うん、そうだね
僕は、改めて運転に集中していきました。
◇◇
ほどなくしてテトテ集落が近づいて来ました。
道の横に『テトテ集落こちら』って立て看板が立っています。
しかもこの看板、このあたりから10mごとに設置されています。
しかも、このあたりから、道が石畳で舗装されています。
以前のこの辺りは、獣道と見間違うばかりの荒れた山道でした。当然看板もありませんでした。
それが、僕がおもてなし1号で定期的にテトテ集落へ通うようになってからというもの、この道が石畳になっている距離がどんどん長くなっています。
集落の長のネンドロさんに以前聞いたのですが
「こういった土木作業が得意な古い友人に来てもらって、手伝ってもらってますニャあ」
って言われてたんですよね。
いえね、僕としてはそこまでしていただかなくても大丈夫だから、ってお伝えはしてはいるんですけど、すでにこの作業が集落のみなさんのライフワークになっているとかで、今更止まれない状態らしく……いやはやなわけです、はい。
さてさて、そんな中テトテ集落の木の柵が見えて来ました。
今日もきっと集落の皆さんが総出で待ち構えて……
……アレ? いませんね。
おもてなし1号をいつものように集落の入り口近くの広場の脇に止めたところ、なんか集落の真ん中の方にすごい人だかりが出来ていました。
「なんでしょう? お祭りでもやっているのでしょうか?」
パラナミオが怪訝そうな表情を浮かべながら広場の方を見つめています。
すると、どうやら集まってる人達が僕らに気がついたらしく、全員がすごい勢いでこちらに向かって駆け出して来ました。
「パラナミオちゃ~ん!」
「待ってたよ、パラナミオちゃ~ん!」
「リョータくんもいますかねぇ」
「今日も抱っこさせて~」
「スアさんもお疲れ様じゃ~」
いっぱいの声が響く中……僕への声が全く聞こえなかった気がしないでもないんですけど、きっと気のせいですよね……あれ、どうしたんだろう、目から汗が……
いつものように車から降りたパラナミオは、わざとおもてなし1号から離れていきます。
これは、僕が出店を準備するのに人混みが邪魔にならないように、って、パラナミオが自分で気がついてやってくれてるんですよね。
ホント、のく気のつくいい子です。
で、『私は対人恐怖症じゃない、よ』って自己暗示魔法を自分にかけたスアも、リョータを抱っこしながら笑顔で集落のみなさんの輪の中に入っていってます。
ちなみに、大半のみなさんはパラナミオとスア&リョータを囲む輪に加わっているのですが、一部の皆さんは、出店の準備をしている僕の前に一列に並んで待っています。
温泉饅頭を買って、パラナミオに「あ~ん」って食べさせてもらおうとしている方々です。
はいはい、ちゃんと持って来てますからもう少しお待ち下さしね。
僕が準備を急いでいると、ネンドロさんが笑顔で歩み寄ってきました。
「いやぁ、店長さん。今日はお出迎え出来なくて申し訳なかったニャあ」
「あ、いえいえお気遣い無く。むしろいつも過剰に出迎えてもらっちゃってて逆に申し訳ないですから」
僕がそう言うと
「そんなことは無いですのじゃ」
「店長さん、いつもきてくれてありがたいのよぉ」
「出迎えくらい当然じゃて」
パラナミオ達に群がっている集落の皆さんが一斉にそう言ってくれました。
いやはや、嬉しいんですけど……やっぱ申し訳ないって気持ちがどうしても出てしまいます。
「そう言えば、今日は何かあったんですか? 街の真ん中に皆さん集まっていらっしゃったようですけど」
「あぁ、あれですかニャあ」
そう言うと、ネンドロさんは、ある人の方へ視線を向けると手を振りました。
それを受けて、1人の人熊さんがこっちに向かって歩いてきます。
ただ、ちょうどパラナミオを愛で隊の集団の向こう側なもんですから、こっちに向かってくるのに苦労なさっているみたいで、なかなか前に進めていない様子です。
「あの人熊がですな、ワシの古い友人でして……ちょうど今日、石畳の道の制作指導に来てくれてたんですにゃあ」
あぁ、なるほど
その指導を聞くために、皆さん街のど真ん中に集まってたのか……っていうか、それって僕のおもてなし1号が通ってくる道を舗装するためなんですよね? そのためにわざわざ技術指導をしてくれる人に来てもらってるんだよねぇ……
僕がそう言いながら苦笑すると、ネンドロさんはニッコリ笑いました。
「いえいえ、アレも山奥でひっそり暮らしておるですにゃあで、こうして皆に会うのが楽しいようですにゃあ」
そう言ってくれたんですけど……ホント、いいのかなぁって思ってしまうわけです。
で、僕がそんなことを思いながら出店の準備を急いでいると
「あなたがコンビニおもてなしの店長さん?」
なんか、そんな声が聞こえてきました。
よく見ると、出店を準備しているテーブルの前に女の子が立っています。
年の頃、5,6才ってとこでしょうかね、頭からすっぽり着込むタイプの灰色のポンチョを着た女の子が、僕に向かってニッコリ微笑んでいました。
あれ? こんな女の子、この集落にいたっけ?