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パラナミオ狂想曲 その1

 というわけで、ガタコンベの街長候補となった、ど~も僕です。

 蟻人のエレエ達が書類は全部準備してくれまして、僕はその内容を読んでサインするだけですみました。
 いや、エレエ本当にありがとう。
「いえいえ、何をおっしゃいます。街長の件を引き受けてくださっただけで、ホントこっちがありがとうございますなのですよ」
 エレエは、僕がサインし終えた書類を確認しながらニッコリ笑ってくれました。
「さしあたっては、今月末に開催予定の収穫祭をみんなで頑張りましょう」
 あぁ、そうだったそうだった。
 春の花祭りと、夏の夏祭りに続いて、今月は秋の収穫祭があるんだった。
「えっと、主催はララコンベだっけ?」
「はい、夏祭りをスキップしていますのでそうなりますね」
「となると、ララコンベの領主はメルアだったから、挨拶とかは全部まかせておけばいいんだね?」
「はいです。今回のタクラ店長は、会議に顔を出して頂くのと、終了後の懇親会に顔を出していただけば十分なのですよ。あとはコンビニおもてなしの出店を頑張ってくださいなのですよ」
 エレエからそう言ってもらえて、僕も安堵しきりなわけです。

 まぁ、まだ王都から正式な辞令が来てませんから正式にどうなるかってのはわからないんですけど、
「タクラ店長は王都から恩賞をもらわれてますし、まず大丈夫なのですよ」
 エレエがそう言ってくれるので、まぁ、安心しておこうと思っています。


 で、領主だなんだ言いながらもですね、僕の一番はコンビニおもてなしなわけです。
 コンビニおもてなしの店長としてすべきことを優先的にやっていかないといけないわけで……
「パパ……あの、忙しい時にごめんなさい」
 夜、寝る前に新商品の試作を厨房で作っていましたらパラナミオがすごく困った顔をしてやってきました。
「あの……脱皮が始まったみたいで……」
 パラナミオはそう言いながら、体をモジモジさせています。


 解説しよう
 パラナミオはサラマンダーっていう龍です。
 そのため、時々脱皮します。
 その脱皮するときはサラマンダーの姿にならないといけない上に、まだ幼いパラナミオは一人でうまく脱皮出来ません。

 そんな僕の手元には、試作しかけだった小麦粉の塊があります。
 今、結構調子にのっていました。

 ですが、

 僕は躊躇すること無く、作業途中だった小麦粉の塊を魔法袋に突っ込むと、

「よし、パラナミオすぐに使い魔の森にいくぞ」
「ありがとうパパ!」
 僕はパラナミオに駆け寄ると、一緒にスアの使い魔の森への転移ドアをくぐっていきました。

 ちなみに、パラナミオが僕を頼ってきたってことは、スアが熟睡中なんだと思われます。
 最近のスアは、リョータのミルクの時間に起きているため、数時間ごとに起きているのですが、そのせいか間の眠りが異常に深く、絶対に起きません。

 ですが、それもスアがそんだけリョータのことをしっかり見てくれていることの裏返しなわけです。
 なら、こんな時に僕がパラナミオのために頑張ってやらなきゃならないじゃないですか。

 さっきの言葉を訂正します。
 僕の一番は家族です。スアでありパラナミオであり、リョータです。
 僕の二番がコンビニおもてなしです。
 店員のみんなのことも、一番と同等くらいに思っていますとも。

 スアの使い魔の森に移動したパラナミオは、服を脱ぐとすぐにサラマンダーへと変化しました。
 服を脱がないと、大きくなりながら服が破れちゃうんですよね。

 リアルにケン○ロウです、はい。

 で、大きくなったパラナミオですが……なんか今日はかなりダイナミックに脱皮していました。
 いえね、体が一回り大きくなったんじゃないか? ってくらいに膨張してまして、古い鱗達が弾け飛んでる感じになっちゃってるんですよね。
 まぁ、おかげで剥がしやすかったんですけど。
 僕は、パラナミオの体に乗っかりながら、鱗を丁寧に剥がしていきました。

 ……やっぱりおかしい。

 いえね……以前なら、低めの木にちょっとのっかるくらいでパラナミオの背中の上にまで登れていたのに、なんか今日はとどかないんですよ。
「パラナミオ……大きくなったか?」
 僕がそう言うと、パラナミオは『自分ではよくわかりません』ってな感じで首をひねっていきました。
 まぁ、そりゃそうですよね。
 僕だって、パラナミオの脱皮を数十日に一回手伝う時だけしかパラナミオのサラマンダー姿を見ていないわけですので、前回と比べて今回どうだったって言われても、若干記憶が怪しいわけです。

 で、まぁ、とにかく高い木の側に移動してもらって、えっちらおっちら作業をやっていきました。
 夜で暗いんですけど、スアの使い魔の森は、綺麗な星空が広がっていまして、星明かりが半端ないんです。
 なので、灯りをつけなくても作業は問題無く行えました。

 で、回収したパラナミオの鱗を魔法袋につめると、僕はパラナミオと一緒に川の側へと移動していきました。
 そこで僕は、ある物を魔法袋から取り出しました。

 高圧洗浄機です。

 いえね、脱皮し終えたばかりのパラナミオの体表って、すごくぬめっとしてるんです。
 パラナミオはこれが苦手なんですよね。だから綺麗にこのぬめりを落としてあげないといけません。

 スアが起きていれば、スアの洗浄魔法ですぐに綺麗にしてもらえるんですけど、こうしてスアが寝ている時は、店の壁を掃除するために購入しておいた、この高圧洗浄機を使用しているんですよね、最近。

 水圧は結構ありますけど、サラマンダー状態のパラナミオの体は鱗で覆われていますので、そう問題はありません。
 初めて使用したときは、人間の姿に戻ったパラナミオが
「パパ、とっても気持ちよかったです!」
 って言いながら、嬉しそうに笑ってたんですよね。

 ってなわけで、今回も僕は川から水を吸い上げながらパラナミオの体を高圧洗浄機で洗っていきました。
 
 パラナミオも、なれたもんでして、重点的に水をあててほしい箇所に体を動かしていったりしています。
 僕も、パラナミオの動き方を見ていればだいたい見当がつきますので、そのあたりに重点的に水をあててあげますと、パラナミオは気持ちよさそうに鳴き声をあげています。

 しかしあれですよねぇ……

 まさか僕が、サラマンダーのパパになるなんてねぇ……いやぁ、夢にも思いませんでしたよ、ホント。

 で、30分ほどで無事水浴びも終了。
 僕が、持って来ていたバスタオルを準備していると、パラナミオが人の姿へと戻っていきます。

 で、人型に戻ったところで、
「パラナミオ、はいバスタオルだ……って、え?」
 僕は、バスタオルを手渡そうとしたんですけど、そこで思わず目を見開きました。

 そこには、確かにパラナミオがいるんです。
 いるんですが……
「パラナミオ、背が伸びたねぇ」
 僕は思わずそう言いました。

 多分、脱皮前から言うと、10cm近く伸びてます。
 あぁ、そういえば、以前パラナミオのことを気に掛けてくれて遊びにきてくれたサラマンダーのサラさんが言ってたなぁ
『サラマンダーは脱皮しながら大きくなる』って
 今回のパラナミオは、その大きく成長する時とちょうど重なったんでしょう。

 僕に、大きくなったと言われたパラナミオですが、満面に笑みを浮かべながら
「パパ! パラナミオ大きくなってます? なってますか?」
 そう言いながら自分の頭に手をあてて嬉しそうにしています。

 うん、嬉しいのはわかったからさ、パラナミオとりあえず体を拭いて服を着ような。
「あ、はい、そうでした」
 パラナミオは、そう言いながら裸のままで照れ笑いしています。

 パラナミオが成長してくれるのは嬉しいんですけど……
 僕といつまで一緒にお風呂にはいってくれるのかなぁ……とか、
「パパのパンツと私の下着、一緒に洗わないで!」とか言い出すのかなぁ、とか、
 なんか、色んな事が頭をよぎるんですけど、
「パパ、ありがとうございました! パラナミオとっても気持ちよくなりました!」
 そう言いながら、パラナミオは僕に抱きついてきました。
「パパ、大好き」
 そう言いながら僕の胸に笑顔で顔を埋めるパラナミオ。

 僕は、この娘のためなら魔王でも倒せるかもしれないって本気で思いました。
 あのラノベの主人公の気持ち、今ならすっごく理解出来ます。
 やっぱ、娘って偉大です。

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