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タクラ店長、大いに悩む その3

 三つの辺境都市から、領主就任を打診されている僕なわけです。
 
 辺境にある都市のため、どの都市にも人種の人材が少ないのと、その少ない人種の中で王都の審査を通るような人ってなると限られちゃうもんですから、暗黒大魔道士討伐によって王都から恩賞をもらってる僕のような人種の人間がいれば、どうしてもこういう話が集中しちゃうみたいなんでしょうねぇ……

 で、そんな僕は、他に適任者はいないかあれこれ考えていたところ、スアが息抜きのためにいれてきてくれた紅茶を見て、ある人物のことを思い出しました。

 そんなことを僕が思っていると、ちょうど巨木の家の戸がノックされ
「店長、今日もスアビールと紅茶の葉を買いに寄らせてもらったよ」
 と、女性の声がしてきました。

 で、僕が家の扉を開けますと、そこにはゴルアの姿がありました。
 ガタコンベの近くにある辺境駐屯地の隊長をしているゴルアです。

 ゴルアは、一時期我が家に居候しながらイエロに弟子入りして剣の修行をしていたんですけど、いろいろあって若くして辺境駐屯地の隊長に抜擢されています。
 そんなゴルアは、イエロやルア、セーテンに加えてガタコンベの衛兵をしている猿人達とも連携し、この一帯の治安維持に努めてくれています。
 王都から任命されているわけですし、周辺の治安を常に守ってくれていて、しかも人種であり王都の貴族の出身でもあります。

 こう考えていくと、僕なんかよりよっぽど適任じゃないかって思えてきたわけですよ。
「店長、どうかされたのですか? 私の顔に何かついています?」
 僕が、あまりにジロジロ見すぎたためか、ゴルアはちょっと恥ずかしそうにしながら顔をさわっていきました。
「いやいや、そうじゃないんだよ。実はさ、王都が面倒くさいことを言ってきててさ、ちょっとゴルアに協力してもらえないかって思ってるんだけど……」
 僕がそう言うと、ゴルアは
「店長にはいつもお世話になっておりますし、私で出来ることでしたらぜひともお役に立たせていただきたいと思っておりますので、何なりとお申し付けください」
 そう言いながら笑ってくれましたので、僕は遠慮すること無く、
「じゃあさ、領主やってくれないか?」
「はい?」
 どうやら、ゴルア的にも僕の言葉が予想の斜め上過ぎたみたいで、目を丸くしたままキョトンとした顔をしています。
 まぁ、普通そうなりますよねぇ、こんな聞き方をしたら。

 ってなわけで、僕はゴルアに一度家にあがってもらって、改めて事情を説明していきました。

「……なるほど、事情はだいたい把握いたしました」
 そう言うと、ゴルアはにっこり笑いました。
「辺境駐屯地の隊長は領主を兼ねているケースは他でもありますので、多分大丈夫だと思いますよ」
「え? ホントに?」
「はい。ただ、念のために先に一度王都の衛兵局へ確認の書状を送らないといけませんので、お返事はその手紙の返信が王都から戻ってきたら……」
 ゴウルはそう言いながら、スアが出してくれた紅茶を美味しそうに飲んでいきます。

 ちなみにこの紅茶に使用している茶葉なんですけど、ゴルアが我が家に持ち込んだ物をプラント魔法の木で培養したのが始まりだったんですよね。

 と、いいますのも

 ゴルアが愛飲していた紅茶の茶葉は結構高級品のため、こんな辺境ではなかなか手に入らなかったわけです。で、居候していた当時のゴルアが紅茶を思う存分飲めなくてしょんぼりしていたものですから、そんなゴルアを元気づけるためと、この紅茶の茶葉がこんな辺境都市でもいつでも手に入るようにしてあげようとしたのが始まりだったわけです、はい。
 だから紅茶を見て、ゴルアのことを思い出したんですよね。

 で、ゴルアは
「では、駐屯地に戻り次第手紙の準備を……」
 そう言いながら席を立とうとしたんですが、スアがリョータをフロント抱っこした状態でトコトコと歩いきながらやってくると、ゴルアの前に紙と書く物を置きました。
「はて? これは一体何の……」
 ゴルアがその顔に不思議そうな表情を浮かべると、その視線の先でスアは詠唱しながら転移のドアを出現させていました。

 そして、スアがその戸を開けますと……そこは王都でした。
「……そ、その扉のすぐ向こうにあるのは……王都の、衛兵局ですか?」
 ゴルアがそう言うと、スアはコクコクと頷きながら、扉のすぐ向こうに見えている建物を何度も指さしています。

 ……つまりあれです……ゴルアに『手紙を書いてすぐ行ってきなさい』と、そう態度で示している訳です。

 そんなスアを見つめながら、ゴルアは
「では、手紙と言わずに今すぐに行って直接確認してまいりましょう」
 ゴルアはそう言うと、転移のドアをくぐって王都へと歩いて行きました。

……待つこと1時間

「どうもお待たせしました」
 ゴルアが笑顔で戻って来ました。
「多少条件はつけられましたけれど、私が領主を兼務することは問題なさそうですよ」
 ゴルアがそう言ってくれたもんですから、僕も思わず安堵のため息をもらしていったわけです、はい。

 で、ゴルアの言ってた、王都が言って来た条件なんですが、

・一人が一都市の領主になることは認めるが、二都市以上の領主職を兼務してはならない。
・辺境駐屯地で、領主を兼務していいのは、王都から任命されている隊長と副隊長に限る。
・あくまで兼務として認める案件なので、領主としての仕事と、辺境駐屯地の仕事、その両方ともをしっかりこなすこと。

 とまぁ、こんな内容でした。

 で、この条件がちょっと問題でした。
 
 僕的には、あわよくばゴルアに三都市全ての領主を兼務してもらう気満々だったわけです。
 もしそれがダメでも、駐屯地に勤務している人種の人の中から適任と思われる人物をゴルアに選んでもらえばいいやと思っていたわけですなのですが、

 まず、三都市の領主を兼ねてもらう案が却下され、
 次に、領主になれるのは隊長・副隊長の2人のみって制約もつけられたわけです。

 となるとですね、辺境駐屯地で勤務している騎士達のなかで辺境都市の領主になれる資格をもっているのは、隊長のゴルアと、副隊長のメルアの2人だけってことになってしまうわけです。

 それに対して、領主の座は三つあるわけです。

 実際問題、あと1つ足りないんですよね、これが。
 と、いうわけで、残りの1枠は渋々ですけど……やっぱり僕がするしかないのかなぁ、って事になっていったわけです、はい。

 というわけで、ゴルアには、近いうちにメルアを連れてきてもらって、この件についてみんなで一緒にあれこれ考えて行こう……そう伝えると、ゴルアは再びニッコリ笑い、
「わかりました。では明日にでもまたお邪魔させていただきます」
 そう言いながら辺境駐屯地へと馬に乗って帰っていきました。
 ……当然ですが、スアビールを買って帰らなければならないことを、辺境駐屯地へと戻る途中で思い出したらしいゴルアは、すさまじい勢いで店に戻って来て、しっかりスアビールを買い込んで帰りました。

 んで、翌日。

 早速、副隊長のメルアを連れて店にやってきたゴルアは、僕を交えて喧々囂々とあれこれ話合いをしていきました。
 メルア曰く、
「ゴルア隊長からすでに話は聞いていますが、お役に立てるのでしたら、頑張らせていただこうとおもっております」
 そう言ってくれました。

 で、あれこれ三人で相談していった結果、最後はじゃんけん勝負になったところ、

 ガタコンベの領主→僕
 ブラコンベの領主→ゴルア
 ララコンベの領主→メルア

 一同は、以上の箇所に勤務することがほぼ決まりました。

 で、僕達はそんな商店街の一角にある商店街の組合の建物へと顔を出し、エレエに先ほど決まったばかりの各都市の領主を決めた紙を、エレエと確認していきました。

しおり