タクラ店長、大いに悩む その2
さて困りました……
三つの辺境都市から同時に街長になってもらいたいって依頼されてしまいました。
コンビニおもてなし本店があり、暮らしているガタコンベ
コンビニおもてなし2号店とコンビニおもてなし食堂エンテン亭のあるブラコンベ
コンビニおもてなし4号店のあるララコンベ
以上の三都市です。
この三都市に共通しているのは
・昔はとっても賑わっていた
・今は寂れている
・街長がいなくて役場機能していない、そのため商店街組合が役場の代わりを行っている
まぁ、王都も王都だと思うんですよね。
領主がいない状態を十年以上ほったらかしておいて、今になっていきなり領主を任命しなさい! 出来なかったら補助金あげません! なんて、結構横暴だと思うわけです。
……とはいえ、僕が元いた世界のお役所の仕事っていうのも、まぁこんなもんでした。
去年までとやり方を変更したのに、個々には通達せず
『役場に掲示していた。見に来ないのが悪い』
って、言われても、こちとら24時間働けますか? を地でいく生活してたんですもん、そんなの見に行けるわけないじゃないですか、ねぇ?
……すいません、以前追徴金取られたときの苦い思い出が蘇ってきて、つい愚痴ってしまいました。
で、まぁ、この三都市は領主を任命出来ないと、辺境都市の資格を剥奪されて王都からの補助金がもらえなくなるわけです。
実はですね、この三都市のうち、ブラコンベだけはこの補助金を無理にもらわなくてもやっていける状態にあるそうなんですよ。
と、いうのがですね、ここら一帯はかつてかなり賑わっていたらしく、その名残としてあちこちに辺境都市が点在しています。
ブラコンベは、その中心的立場にあります。
このあたりの都市の中では唯一王都へ一直線に続いている石畳の街道がありますし、この一帯では一番規模が大きい卸売市場もあります。
その卸売市場を利用している商会もかなりありますし、その商会相手に商売をしている職人さんも多く暮らしているわけです。
そんなわけで、店や職人さんが納めている税金でかなり潤っているそうなんですよ。
なんですが、ブラコンベは、どうしても辺境都市の看板を下ろしたくないんだそうです。
これはルアに聞いたんですけど
「ブラコンベはさ、もう何十年も前の話だけどこのあたりで一番最初に辺境都市に昇格したんだよ。それを街の人達は誇りに思ってるんだ。で、一番最初に辺境都市に昇格したってので、他の都市からも一目置かれててさ、持ち回りでやってる春夏秋のお祭りも中心になって取り仕切り続けてる。
それがさ、万が一にも辺境都市降格なんて話になったら、祭りを自分の都市で開催する資格を失うわけだし、面目丸つぶれになっちまうってわけさ」
ってな具合なんだそうだ……おいおい、思ってたよりなんか重い気がするぞ、これ……
で、ララコンベには、今、辺境都市から降格するわけにはいかない切羽詰まった事情があります。
ここは、魔石鉱脈で一時賑わってたんですけど、その魔石鉱脈が尽きてしまい、一気に都市民がいなくなって降格どころか街消滅の危機にあったんですよね。そんな中温泉事業をスタートさせてようやく都市の状況が上向いてきたばかりなんですよ。
なので、王都からもらえる補助金はなんとしても欲しいわけです。まだ都市機能を充実させていってる真っ最中なわけですから、補助金がなかったらやっていけないといっても過言ではありません。
その点、ガタコンベはですね、正直どっちつかずっていった感じらしいです。
これもルアから聞いた話ですけど、
「このガタコンベはさ、昔は農耕がすっごい盛んで、でっかい市場もあったんだよ。
それがさぁ……ブラコンベの方が街なわけでさ、そっちに移住する人達が続出したわけよ。
そのせいで、一時期すっごく寂れちまった時期がったんだけどさ、エレエ達組合のみんなが頑張ってさ、職人さんに補助金だしたり、お店に奨励金を出したりして誘致を進めた結果、多少ましになってるわけよ」
とのことだった。
ただ、周囲を森に囲まれているため、危険な害獣が周囲にはいっぱい住んでいます。
そんな魔獣達を駆逐する衛兵を雇うための補助金は確保しておきたいっていうのと、辺境都市でなくなると、例の季節ごとの祭りを主催する権利を失うらしいんですよね。
この祭りを開催すると、街が結構潤うらしいので、出来たら辺境都市のままでいたいなぁ、ってのがガタコンベの本音らしいです、はい。
と、まぁ、三都市ともに、それぞれの理由があって、辺境都市である現状を維持したいと考えているわけです。
そして、その三都市の関係者が全員、街に街長になってもらえないかって打診してきているわけです。
まぁ、住んでいるのはガタコンベですし……そういう観点で考えれば、なるんだったらガタコンベの街長になるのが一番自然かなとは思います。
で、2号店のあるブラコンベなら、元ブラコンベの貴族だったシャルンエッセンスなんかどうなの? って思ったんですけど、その話を夕食の時にシャルンエッセンスにしてみましたら、
「私の父がですね……夜逃げ同然にブラコンベから逃げ出したために、多大なご迷惑をおかけしている方々が多数存在しておりまして……」
そう言いながら、シュンってしちゃったんですよね……
なんか、話を振って申し訳なかったな、と、思った次第です。
本店で言えば、ブリリアンがいます。
近くの街で診療所をやってましたし、シスターの資格も持っています。
うん、これなら申し分ないんじゃない? そう思ったんですが、
「何を言われますか、私はスア様の弟子の座以外には興味がありません」
と、取り付く島もありませんでした。
まぁ、ブリリアンの場合、四号店の店長をお願いしようとしたときもに同じ理由で断られていますし、まぁこうなるだろうとは思ってましたけどね。
ララコンベには四号店があるわけですけど……、ここならいっそ門の番人だったララデンテさんなんかどうだろう? って思ったのですが、これはララデンテさん本人が教えてくれたんですが
「領主はね、思念体はなれないのよ」
とのことでした。
……まぁ、思念体ってぶっちゃけて言っちゃえば幽霊なわけですしね……まぁ、そりゃそうか。
亜人なら推薦したい人はたくさんいるんですけど、審査をする王都が人種至上主義を旨としてますんでね……人種で選んでおいた方が王都の審査も通りやすいって噂もあるわけです。
「困ったなぁ……この辺境じゃあ、領主にふさわしい人種の人材が絶望的に枯渇してるわ」
巨木の家の自室の中で、僕は腕組みしながら考えこんでいきました。
すると、そんな僕の部屋にスアがトコトコ歩いて入ってきました。
その手には、紅茶の入ったカップが……
「……少し休んだ、ら?」
スアはそう言いながらニッコリ笑ってくれました。
あぁ……ついさっきまで悩みまくってた気持ちが、その笑顔のおかげで洗い流されていく気がします。
「ありがとう、ちょうど煮詰まってたから助かるよ」
僕はスアにお礼を言いながら紅茶を口に運んでいきました。
しかし、あれですよねぇ……他にいないもんでしょうかねぇ
この辺境に住んでいて、
ある程度の地位か、表彰経験があって
そんでもって、人種の人材
……まぁ、思い浮かんだ人材は全部ダメだったわけだし、それ以外には誰も思い浮かんで来ませんし……
やれやれ、こりゃホント行き詰まったなぁ。
そう思いながら、僕は紅茶をぐいっと飲み干して……
「……紅茶……あ!?」
ここで、ある人物のことを思い出しました。