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パラナミオ狂想曲 その3

 頭からすっぽり着込むタイプの灰色のポンチョを着た、5,6際くらいの女の子が、僕に向かってニッコリ微笑んでいます。
「うん、僕がコンビニおもてなしの店長、タクラだけど?」
 僕がそう言うと、その女の子はニッコリ笑いました。
「初めまして。私はテマリコッタと申します。クロガンスお爺さんのお仕事についてきたの」
 そう言うと、そのテマリコッタちゃんは、急にキョロキョロ周囲を見回していくと
「店長さん、パラナミオさんはどこかしら? 集落のみんなが、私と同じ年くらいの女の子が来たって言ってたの。
 私とっても楽しみにしてやってきたのよ」
 そう言いながら、さらに周囲を見回していくテマリコッタちゃん。
「あぁ、パラナミオなら……ほら、そこの集団の真ん中にいるはずだよ」
 僕が指さした先には、集落のみんなが輪になって踊ってはないですけど、押し合いへし合いしています。
 テマリコッタちゃんは小さいから、その輪の中が見えないみたいで、一所懸命背伸びをしながら中を見ようと頑張ってます。

 すると

「ほっほっほ、どれ、ワシの肩にのってみなさい」
 その側にようやくたどり着けた人熊さんが、テマリコッタちゃんを抱き上げて自分の肩に乗せていきます。

 この人熊さん、結構身長高いんですよね、
 190越えてる僕よりも頭一個高い感じです。
 しかも横幅もあるから威圧感半端ないんですよねぇ。

 で、人熊さんの肩に乗っかったテマリコッタちゃん。
「クロガンスお爺さんありがとう」
 人熊さん……クロガンスさんって言うのね、そのクロガンスさんにお礼を言うと輪の中央へ向かって視線を向けています。

 すると

「あれ? 女の子です」
 輪の中からパラナミオの声が聞こえました。

 どうやらクロガンスさんの肩に乗っかってるテマリコッタちゃんに気がついたようです。

「パラナミオちゃん、初めまして! 私はテマリコッタよ」
 クロガンスさんの肩の上で、テマリコッタちゃんは笑顔で手を振っています。

 しばらくすると、集落の皆さんの輪に一本筋が出来まして、その筋の中からパラナミオが笑顔で駆け出して来ました。
 その姿を見つけたテマリコッタちゃんは、クロガンスさんに降ろしてもらうと自分もパラナミオに向かって駆けだして行きました。
「初めまして、パラナミオです」
「初めまして、テマリコッタよ」
 二人は挨拶をし合うと、笑顔で握手を交わしていきました。

 すると

「二人とも可愛い!」
「テマリコッタちゃんも可愛いんじゃよなぁ」
「パラナミオちゃんだって可愛いわい」
「いやいや、二人とも可愛いってことでよかろう」
「おっと、リョータくんとスアさんも忘れちゃいかん」
「みんな可愛い!」
 
 集落のお年寄り達は、なんかあれこれ口走りながらパラナミオとテマリコッタちゃん、それにスアとリョータをも包み込んでいきました。

 いやはや、子供パワーのすごさを改めて実感してる今日この頃なわけです、はい。
 ……1人200才超えてる気がしますけど、きっと気のせいでしょう。

 そんな感じでパラナミオ達の方を見つめていると
「あんたがタクラさんかい?」
 そう言ってクロガンスさんが僕に声を掛けてきました。
「えぇ、タクラです。あなたはクロガンスさんでよかったですかね?」
「うむ、クロガンスじゃ」
 そう言いながら、クロガンスさんが手を出してきたので、僕は握り返していったんだけど


 肉球です

 ぷにぷにです

 熊の亜人さんなんで、もっと硬いのかとおもったら、ぷにぷにですよ、えぇ

「タクラさん、どうかしたかの? ワシの手がなんかあったか?」
「え、いえいえ、すいません何でも無いんです」
 そこにぷにぷにの肉球があっただけです……と、心の中で言っておきました。

 で、集落のみんなが子供達に集まってるもんですから、僕はしばらくクロガンスさんと話をしていきました。


 このクロガンスさんですけど、ネンドロさんと古い友人だそうです。
 ネンドロさんに頼まれて、石畳の道造りの指導に来ているんだとか。

 って、原因僕じゃん!?

「あぁ、聞いてるよ。子供達を連れて商売に来てくれる優しい人じゃとね」
 クロガンスさんは、そう言うと楽しそうに笑っていきました。

 なんでも、

「数年前までは、この集落の皆は元気がなくてなぁ……ワシの家の近くにあるオトの街に引っ越すようだいぶ勧めたんじゃが……みんなここが好きみたいでなぁ」
「そうですね、それは僕もすごく感じてます」
「それが、タクラくんと、奥さんと、その子供さんが遊びにきてくれるようになったとかでなぁ、みんな何十年かぶりにこんなに元気になりおっての……そいつらが笑顔で手を貸してくれって言ってきたんじゃ。ワシも老骨に鞭打ってもうひとがんばりしてやろうと思ってな」
 クロガンスさんは、そう言うと再び笑っていきました。

 そんな僕とクロガンスさんの前では、
「店長、饅頭! 饅頭早く売ってくれ!」
「い、今ならテマリコッタちゃんも『あ~ん』してくれるかもしれんでな
 なんか、すごい剣幕のお爺さん達が足を踏みならしながらお待ちでした。
 僕は、一度クロガンスさんとのお話を中断して、みんなに品物販売を開始しました。

 ……いつも最初は温泉饅頭しか売れないんですけどね
  
 で、温泉饅頭を購入したお爺さんは、早速
「パラナミオちゃ~ん! ワシにあ~んしてくれ~」
 そう言いながら猫なで声をあげながら駆けだして行きました。

 続々売れていく温泉饅頭。
 それに比例して、パラナミオの前に行列が出来ています。

 で、よく見てみると

「はい、私もしてあげるわ。あ~ん」
 と、テマリコッタちゃんまでパラナミオの横で「あ~ん」攻撃を開始しています。

 あぁ……集落の皆さん、今夜は天使の夢確定ですね、これは。

 パラナミオとテマリコッタちゃんによる温泉饅頭あ~ん攻撃は、温泉饅頭が無くなるまで続いていったのですが、
「パラナミオちゃん、私これであ~ん、してちょうだいな」
 そう言いながら、鍋を持って来た狐人のお婆さん……ってか、その中に入ってるのって、拳くらいの大きさをしているジャルガイモの煮付けじゃないですか。
「いいの! これで」
 そう言いながら、その狐人のお婆さんは、パラナミオに念願のジャルガイモのあ~んをしてもらってたんですけど

「あふっ!? あふっ!? あふふっ!?」
 って、ほらやっぱり! 熱くてかみ切れなくて、口の中が火傷寸前じゃないですか!

 僕は持って来ていた水筒を……

 と思っていたら、
「……まかせて、ね」
 スアが右手をクリッと回しました。

 すると
「あら? あらら!? 口の中のジャルガイモがなくなったわ!?」
 と、狐人のおばあさん、どうにか安堵のため息をついていました。
 もうお婆さん、無茶しないで長生きしてくださいよ、ホント。
 僕がそんなことを思っていると、その狐人のお婆さんは、今度はテマリコッタちゃんの前に移動していって
「じゃ、テマリコッタちゃん、あ~んしてくれるかしら? このジャルガイモの煮付け」

 だから婆さん、人生を駆け抜けようとするんじゃありません!

 と、まぁ、そんなこんだで、今日も子供達を中心に集落の皆さんは満喫されました。

 で、テマリコッタちゃんとパラナミオは意気投合して楽しそうにおしゃべりをしています。
 そんなテマリコッタちゃんを見つめながら、クロガンスさんは
「もう少し話をさせてやりたいんじゃが、そろそろ出発せんと家に帰るのが遅くなるでなぁ」
 そう言いながら、腕組みしています。

 あぁそっか。
 クロガンスさん、歩きだっていってたっけ。

 今から3時間くらい歩いてやっと家につくそうです。

 でも、パラナミオとテマリコッタちゃん、すっごくいい笑顔で話をしてるんですよねぇ。

 で、僕はフと思ったんですよね。
「クロガンスさん、子供達すごく意気投合してるじゃないですか。よかったら今日ウチに来ませんか?  家にもすぐにお送り出来ると思いますんですんで」
 僕は、そうクロガンスさんに申し出てみました。

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