コンビニおもてなし4号店開店です その4
門の守護者であるララデンテさん~ただし幽霊
「思念体だってば」
そう言い直しを要求してくるララデンテさんがコンビニおもてなし4号店の店員に加わってからというもの、コンビニおもてなし4号店だけでなく、辺境都市ララコンベの様相までもが一変しています。
この辺りでは伝説として語り継がれているララデンテさんが降臨したとの噂はあっと言う間に広まり、ララデンテさんを一目見ようと、街にお客が殺到しています。
そのため、温泉宿は常に満室、温泉街も人々で溢れかえっています。
ララデンテさんの案内で発見された魔界への門の遺跡の周辺を公園化し、温泉宿から崖の上にあるこの公園までの道も整備したおかげで、この道を人々がひっきりなしに往来しています。
この崖の上に出来た公園からはララコンベだけではなく、この辺り一帯の峡谷が一望出来るものですからとても評判がいいです。
そこで、燕人のツメバに弁当の入った木箱を抱えて公園まで飛んで行ってもらい出張販売をしてもらったところ、あっと言う間に売り切れるほどの大盛況でした。
さすがに木箱は重いんじゃないかと思っていたのですが
「翼黒猫宅急便で働いてた頃は、これの10倍くらいの荷物を持っていってましたからね、全然余裕ですよ」
そう言って頼もしく笑ってくれたのですが、
「余裕なのかい? ならもっと持っていけよ若者!」
ララデンテさんは、そう言うが早いか弁当やサンドイッチ、飲み物までをも木箱に詰めていき、都合10個の荷物の詰まった木箱を作り上げていきました。
ツメバが足で持ちやすいように、縄でグルグルまきにしてあります。
それを見たツメバ
「い、いや、あの、ララデンテ様? も、物には言い様と言う物がありましてですね……本当に10倍準備されて、それを持って行けるかと言われますと……」
そう言いながら困惑の表情を浮かべたんですけど、そんなツメバの顔を見たララデンテさん、
「は? 何? お前アタシに嘘言ったのか?」
そう言いながら、ツメバを半目で睨み付けていきました。
で、ツメバ……ビシッと気をつけ! をしていくと、
「やります! やらせていただきます!」
そう言うが早いか、足で木箱の縄を掴み必死に羽ばたいていきました。
そういえば、昔の歌にありましたね
根性根性ど根性
はい、根性この上ない表情のツメバ。
どうにかこうにか木箱10個を足で掴んで飛び上がり、そのまま崖の上まで飛んでいきました。
……相当フラフラしながらでしたけどね。
そんなツメバの姿を見送ったララデンテさん。
「あいつもおとなしく謝ればいいのにねぇ」
そう言いながらカラカラ笑っていますけど……あの表情をされて即座に謝罪出来る人って、そうはいないと思うんですけどね……
ちなみに、空になった木箱を持って戻って来たツメバは
「う、嘘こいて、すんませんでしたぁ」
戻った途端に、ララデンテさんの前でぶっ倒れるように土下座して謝罪し、どうにか許されていました、はい。
で、ツメバが飛んで持って上がれる量が結構少ないというのが発覚したのを受けてですね、新しい輸送方法を考えました。
ここで出てきたのがクーログロです。
黒騎士骨人間(ブラックナイトスケルトン)のクーログロです、はい。
ここ最近のクーログロは、ひたすら荷物の運搬作業に従事していたんですけど、その作業にもどうにか慣れてきて手早くに終わらせることが出来るようになったもんですから、お昼前にツメバと一緒に崖の上の遺跡公園まで木箱を抱えて上がってもらうことにしました。
で
このクーログロはですね木箱10箱を、ひょいって感じで軽々と持ち上げて崖の上への道を楽々と歩いて上がっていくのです。
ときどき、ツメバが飛ぶのをサボって木箱の上にのっかってたりしますけど、そんなの全然問題じゃありません、ってな感じで移動していくわけです。
言葉が話せないので、公園での販売作業はツメバがしていますけど、思いのほか良いコンビが出来上がったわけです、はい。
ちなみにですね、魔王ビナスさんにお願いしているぬいぐるみ作り……カウドンのあれです、はい。
種類を1つ増やしました。
はい、ララデンテ人形です。
これだけ集客しちゃうほどの存在なんだから、そのぬいぐるみを作ったら売れるんじゃないかって思いまして、魔王ビナスさんに作成を依頼しました。
「では、1度ララデンテさんを拝見にうかがいますね」
そう言ってくれた2日後、魔王ビナスさんは転移ドアをくぐってコンビニおもてなし4号店へとやって来てくれたのですが
そんな魔王ビナスさんを見たララデンテさん……思わずその場で固まっています。
「な、何者なんだい、この人は……まだ生きてた頃のアタシの何倍も魔力を持ってるじゃないか……」
え? そうなの?
魔王ビナスさんと言えば、いつも、THE・おかんなオーラを全開にしているイメージしかないだけに、まさかララデンテさんが後退るほどの存在だとわかり、むしろ僕の方がびっくりしてしまったわけです、はい。
で、魔王ビナスさんは、ララデンテさんを店の奥の応接室へ連れて行くと
「じゃ、そこに座ってくださいな」
「はいぃ!」
なんか、そんなやりとりが始まっていてですね……なんか、いつもナチュラルに偉そうな態度のララデンテさんが、魔王ビナスさんの言うことを従順この上ない態度で聞いている姿がすごく新鮮なんですけど……
ほどなくして、ララデンテ人形が完成しました。
ちょっとディフォルメなララデンテ人形ですけど……うん、この可愛さなら子供も喜ぶよ。
「あら、まぁ、そうですか? なら良かったですわ、おほほ」
魔王ビナスさんはそう言って喜んでくれました。
で、このララデンテ人形をとりあえず10個作ってもらって店に置いたところ
「ら、ララデンテ様の人形だってぇ!?」
「あぁ!? こ、神々しい!」
「これは家に飾らないと!」
と、まぁ、店に並べて5分で完売しました。
予期していた子供さんにではなく、熱心なララデンテ信者の皆様に……
で、魔王ビナスさんには、
日に5個くらい売れているカウドン人形を、毎日5個作ってもらうように、
ララデンテ人形は、毎日30個以上、出来るだけ多く作ってもらうようお願いしています。
ちなみに、その初日だった今朝は、
「初めてなので少し手間取ってしまいました」
そう言う魔王ビナスさんですけど、ララデンテ人形100個納品ありがとうございました。
で、この100個、12分で売り切れました。
弁当も、当初の予定以上に売れているため、ダークエルフのクローコさんに、厨房での弁当調理のやり方を覚えてもらいました。
さすがにパンを作るまでは人手が足りませんので、当面は弁当のみ在庫がなくなったら4号店内で追加作成して売ることにしました。
その間、レジは僕が、ララコンベ温泉饅頭の出店はララデンテさんが。
あとは、いればツメバやクマンコさんが接客にあたります。
……さすがに手薄な時間帯が出来てしまうので、場合によっては追加でパートでも雇った方がいいかも、と思っています。
……しかし、
ダークエルフのクローコさん
熊人のクマンコさん
黒騎士骨人間(ブラックナイトスケルトン)のクーログロ
……気がつけば、やたら頭に「ク」の付く人が集まったなぁ、と思った訳です、はい。
毎日好調に売れている弁当や温泉饅頭、ぬいぐるみ類に加えて、ここコンビニおもてなし4号店で意外な人気商品になっているのが、『ララコンベ』の文字が入った十徳ナイフです。
「なんかこれ面白いな。細かな細工が良く出来てる」
「野営の時に便利だね。しかもかさばらないし」
と、温泉にやって来た冒険者の方々にかなりの人気となっておりまして、これも毎日地味に品不足になっているんですよね。
こんな感じで、当初の予定になかったララデンテさんまで加わったコンビニおもてなし4号店は、復興中の辺境都市ララコンベにおきまして、好評なスタートを切ることが出来ました……なんといいますか、やれやれでした、はい。
◇◇
その夜、コンビニおもてなし本店のあるガタコンベの街へと戻った僕は、巨木の家へと帰っていきました。
なんか、ビアガーデンの方からララデンテさんの笑い声が聞こえてきた気がしますが、そこはイエロ達にまかせることにします。
で、部屋に入ると、スアが例の十徳ナイフを手にして、それをマジマジと見つめていました。
「……すごいね、これ」
そう言いながら感心しきりといった表情のスア。
ですけど、僕はそれよりももっと便利な物を知ってます……物じゃありませんけどね
ねぇ、スアえもん?
そんな僕の視線の前で、スアは十徳ナイフをつつきまくっていました。
「……は~、カガクだ、ね」
無邪気な表情でうれしそうに笑うスア。
うん、今日も可愛いです。