コンビニおもてなし4号店開店です その3
「ララデンテ様がお出ましになったですですってぇ!?」
さきほどいきなり店に出現した門の守護者を名乗るお姉さんと言うか、幽霊のララデンテさんのことを組合のペレペに連絡したところ、なんか血相を変えて駆け込んで来たわけです。
「あん、誰だい? この蟻人さんは?」
先ほどから温泉饅頭をパクついていたララデンテさんは、そんなペレペを不思議そうに見つめています。
……どっちかって言うと、今は温泉饅頭を食べさせろってオーラがにじみ出ている感じです。
で、そんなララデンテさんを見たペレペ。
「ふおおおおおおおおおお!? ま、ま、ま、間違いないですです!? 遺跡のレリーフの模写絵に描かれたお姿とまさに瓜二つ! あの伝説の門の守護者様が、本当にこの地にいらしたのですですねぇ!?」
そう言いながら、なんか土下座して崇め奉りだしたんですけど……え? この幽霊さん、そんなにすごい人なの?
僕がそう唖然としていると、ペレペは血相を変えて僕に顔を近づけてきました。
「あ、あ、あ、あのですね、このお方は今から数百年もの昔に、この世界と魔法界を結んでいた6つの門のうちの1つをお守りになられていた守護者様であらせられるのですですよぉ!」
なんか、すごく必死にそう説明してくれるんだけど……
「悪い、他の世界からやってきた僕には、そもそもその魔法界の門とか、その守護者ってのがどんなもんなのかさっぱりわからないんだけど?」
僕がそう言うと、
ペレペは、なんかこの世の終わりみたいな表情をして、頬を左右から抑え付けてます……ム○クの叫びか、アッ○ョ○ブリケなポーズです、はい。
で、ララデンテさんはというと
「こりゃいいや。いや、むしろそんな感じで相手してくれた方がアタシも気が楽でいいよ」
とか言いながら、僕の肩をバンバンと叩……こうとしてるのでしょうけど、まぁた気が抜けすぎたのか、その手が僕の体をスカッとすり抜けてるんですよねぇ……
で、ここでペレペからわかりやすく教えてもらいました。
なんでもはるか昔のこの世界は、魔法界という別の世界と6つの門でつながっていたそうです。
その世界とは当初は友好的な関係が構築されていたそうなんですけど、ある時その魔法界を制圧した魔法界の王が魔王を称してこの世界に攻め込もうとしたそうです。
その魔王に対峙したのがこの世界の勇者マックスと3人の従者だったそうでして、まぁいろいろあって戦いは勇者マックス優勢のうちに進んでいったそうなんですけど、魔王が悪あがきをして勇者マックスをだまし討ちにしようとしたところ、あえなく失敗。そんな魔王の仕打ちに激怒した勇者マックスは後の世に『勇者の幕引き』として語られ続けているほどの大侵攻をほとんど1人で行い魔王を討伐。その後、6つの門のうち5つを破壊し魔法界との交流を絶ち、はるか北方にあるという残り1つの門を不死となった勇者マックスが今も守り続けている、て……
「で、ですね、この魔王軍が侵攻してきた際にですね、魔王の手先共を門で食い止めていたのが門の番人様なのでございますですです」
そう言うと、ペレペはララデンテに向かって再び土下座していった。
まぁ、確かに、話を聞けばすごいことをした人なんだなってのはよくわかりました。
でもですね……そんなすごい人だからって、人の店に入ってきて温泉饅頭をバクバク食べられたらたまったものではないわけです。
……と、いうわけで、
「あの、ララデンテさん?」
「ん? なんだい?」
「さっきから食べ続けておられます温泉饅頭ですけど、お代はきちんとお支払い頂きますよ」
僕ははっきりそう言いました。
すると、誰よりも先に、その言葉に反応したのはペレペでした。
「た、た、た、タクラ店長!? な、何を恐れ多いことをおっしゃっておられるのですか!? 神にも等しい存在であられますこのお方からお金をとろうだなんて……」
大慌てしながら、僕にそう言うペレペですが、
僕は一歩も引き気はありません。
「例え神様だろうとですね、自分で食べた物の代金は支払うのが世の常というものじゃないんですか?
僕の店にやってきた伝説の魔法使いも、きちんと商品代金を払ってくれましたよ?」
……まぁ、スアのことですけどね。
でも、まだ僕と結婚する前のスアは、店にやって来た時には欲しいと思った物は全てお金を払って買っていったのは事実ですから、嘘は言っていません。
で、僕は毅然とした態度でそう言いますと、ララデンテさんは頭をかいていきました。
「……あ、いや……これはそこの店長さんの言うことの方が正しいよ。神に近い存在だからって、好きに飲み食いしていいってわけじゃないからね」
そう言うと、ララデンテさんは
「で、とりあえずいくら払えばいいんだい?」
そう言いながら、腰のあたりをごそごそしています。
が
「あれ?」
なんか、ララデンテさん、急に体中を触り出しました。
気のせいか、なんか顔が青くなっているような……
「あれ? 財布どこにやったっけ……」
なんか、不穏なことを呟きながら、必死に体をまさぐっていきます。
~1時間経過
その光景に、ペレペは真っ白になっていました。
そんなペレペの目の前では
「ごめんなさい……さ、財布が見当たらないんだ……」
そう言いながら、僕に向かって土下座しているララデンテさんの姿があったわけです、はい。
あ~……
しかしあれですよ……お金がないのに飲み食いしちゃったわけですか……
僕がそんなララデンテさんの前で渋い顔をしていますと、ララデンテさんは僕の顔を見つめながら言いました。
「店長さんよ、代金分この店で働かせてもらおうじゃないか。なに、しっかり代金分の仕事はさせてもらうから安心してくれ」
そう言って胸をドンと叩いていきました。
◇◇
で、翌日。
コンビニおもてなし4号店の中には
「さぁみんな、門の番人ララデンテ様も思わず食べ過ぎちまうララコンベ温泉名物の温泉饅頭だ、みんな買って損はないぞ!」
出店スペースで温泉饅頭を売るララデンテさんの姿がありました。
で、そんなララデンテさんですが
「お、おい、あの店員って、門の守護者様であられたララデンテ様らしいぞ!?」
「な、何だって!? それは本当か!?」
「ララデンテ様が自ら販売している饅頭だとぉ!?」
「こ、これはもう買うしかないぞ!」
と、まぁ、どこからともなくその噂が広まって行きましたですね、店の前がすさまじい人だかりになったわけです、はい。
……ってか、こ、ここまですごい人だったの? ララデンテさんって?
僕が唖然とする中、ララデンテさんは笑顔を絶やすことなく、
「はい、そっちのお客さんは何個だい? あぁ、そっちのお客さんはもうちょい待ってくれよ」
事前に研修したとおりに、手際よく販売を頑張ってくれたわけです、はい。
ちなみにですね
このララコンベって都市の名前は、『ララデンテが守っていた門がかつて存在した土地』ってことで命名されたそうでして……
◇◇
ララデンテさんが、こうして姿を見せた数日後
ララデンテさんの案内で、崖の上に埋もれていた門の遺跡が発見されました。
ペレペ率いる組合の面々は、この門の遺跡周辺を綺麗にしていき、ここを公園化していきました。
すると
「あのララデンテ様の門が見つかったそうじゃないか!」
「何かしらの御利益があるかもしれないな」
そんな感じで、ララコンベを訪れる人の数が一気に増えました。
なんでも、この門の遺跡っていうのはですね、
かつてすごい魔力を発していたということで、ここを訪れると何かしらの力を与えられると信じられているそうなんですよね。
僕の元の世界で言うところのパワースポットとでもいった感じのようです。
しかもですね
「いやぁ、仕事の後の温泉はいいねぇ」
と、ララコンベ温泉を頻繁に利用するようにもなったもんですから
「あの温泉は、ララデンテ様も愛用されているそうだぞ!」
「そ、そんなに効果があるのか!?」
と、まぁ、そんな噂が立った結果
門の遺跡を見物し、
↓
ララコンベ温泉に宿泊し、
↓
帰りにコンビニおもてなし4号店でララコンベ温泉饅頭を買って帰るという
こんなお客が一気に増えているわけです、はい。
その結果、ララコンベ温泉宿もあっという間に稼働率が100パーセントに到達し、温泉街には連日すごい数のお客さんが押し寄せています。
そんな中
「さぁ、ララデンテ様も認めるうまさの、ララコンベ温泉饅頭だ、ララコンベ温泉を満喫したんなら買って帰ってくれよ!」
ララデンテさんは、今もコンビニおもてなし4号店で、温泉饅頭を売り続けています。
「いや、タクラ店長よ。あんたの物怖じしない態度にはホントに感服したよ。そんなあんたの店でこれからも働かせてくれ、頼む」
初日にバクバク食べまくった温泉饅頭代分しっかり働き終わった後も、ララデンテさんはそう言ってウチの店で働き続けているんですよね、これが。
まぁ、僕としてもですね、よく働いてくれますし、言うこともよく聞いてくれますので……異存はないといえばないんですが、
「も、も、も、門の守護者様を働かせるなんて……」
と、ペレペがしょっちゅう泡を吹いて倒れているのが、なんだかなぁではあるんですけどね。
ちなみに、このララデンテさん。
店の営業が終わった後は、転移のドアをくぐってコンビニおもてなし本店へ移動し
「おぉ、貴殿、飲みっぷりでござるな!」
「新入り、もっと飲むキ」
「あ? ララデンテ? なんかどっかの神様みたいな名前だなぁ、まぁ、とにかく乾杯だぁ!」
「テンテンコウ、おっどりま~す、キャハ!」
「いいな、ここは! いや、こんなに楽しいのはたまらないね!」
ビアガーデンの酒飲み娘達にしっかり加わっているララデンテさんなわけです、はい。
◇◇
で、まぁ、なし崩し的にコンビニおもてなし4号店の店員になったララデンテさんなわけですけど、スアに
「いやぁ、こんな事があってさぁ」
そう言って今回の顛末を説明したところ
「……あぁ。あの女、まだ生きてた、んだ」
そう言いながら、へぇ、みたいな顔をしていました。
……って、いうか、スア、ララデンテさんを知ってるの?
僕がそう聞くと、スア、コクンと頷いて
「……昔、一緒に魔族を討伐したことがある、よ」
って。
……え? ちょ、ちょっと待って、スアさん。
ララデンテさんがまだ生身の体を持ってて、門の守護者をしていたのって、今から数百年前のことであってですね……
僕が、そう呟き始めると、スアは急に慌てだしまして
「……そう、わ、私の曾祖母、だったっけ? かな? がね、一緒にやったの……私じゃなかった、うん」
なんかそんなことを必死に言い始めたんですが……
なんか、問いただしたいことは山ほどありますけど
一生懸命言いつくろってるスアの姿が可愛いので、このまましばらく見ていようと思います、はい。