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vs, フラモン Round.7

 
挿絵


 グラウンドは、再び異能バトルの戦場と化した。
 得意の空中戦能力を(ふる)うシノブン!
 だが、この前とは戦況が違う!
 (ひと)り舞台にはさせない!
 何故なら、今回は〈PHW〉を着ているから!
 ボクはヘリウムバーニアの機動性を活かし、四方八方からヒット&アウェイ!
「チィ! 小賢(こざか)しい!」
 忌々(いまいま)しそうに舌打ちするシノブン。
 ()(はら)いに(やいば)を振るも、一向に(かす)る気配すら無かった。
 けれども、それはボクの攻撃にしても同じか。
 手数を出せども、(いま)だ有効な一撃は入っていない。繰り出す鉄拳も、全て微々(びび)たる体捌(たいさば)きで紙一重(かみひとえ)に回避されてしまう。相変わらず、実戦的な戦闘技量の差がある。
「シノブン! どうして、そんなにボクへと固執(こしゅう)するのさ!」
「貴様には分かるまい! 自分が如何(いか)に〝特別〟かを自覚していない貴様にはな!」
 意味分からん。
 何だ? ボクが〝特別〟って?
「ラムスとかいう〈ブロブベガ〉といい〈A3-2006〉といい!」
 ああ、やっぱ〝モエル〟とは呼ばないんだ?
「とりわけ腹立たしいのは、貴様だ! ()も当然のように!」
 憤慨(ふんがい)(まか)せの(よこ)()一閃(いっせん)
 本能的に察知したボクは、緊急離脱で距離を取った!
 安全確保も(つか)()呪怨(じゅおん)宿(やど)すシノブンの瞳力(どうりょく)爛々(らんらん)赤色(せきしょく)発光(はっこう)
 それは、つまり〝ルー ● ーズ大先生〟の御登場って事!
「ぎゃーーす!」
 降臨なされた! 
 ナイスガイなサムズアップで!
 超電磁眼の直視を喰らい、ボクは無様に墜落!
 濛々(もうもう)たる土煙(つちけむり)を噴き上げて地表へと沈んだ!
「マドカちゃん!」
 安否を案じたモエルが遠巻きに呼び掛ける。
 その声を活性力に、ボクはダメージから()い起きた。
「ぐ……う……ッ!」
 地表へと降り立ったシノブンに、再び身構える。
 かと言って、間合いに飛び込むのは躊躇(ちゅうちょ)した。
 だって、ピリピリと殺気立ってるんだもん。まるで凄腕の浪人みたいだ。
「警告しておくが、貴様の硬度は解析済みだ」
「ふぇ? 解析?」
アレ(・・)の外装に使用されている〈金星産金属ヴィシウム〉の前では、()しもの〈エムセル〉も歯が立たなかったようだな」
 流す視線でフラモンを()す。
「なるほど……その情報収集も()ねて〈フラットウッズ・モンスター〉を投入したのですわね?」
「分析観は鋭いな、ラムスとやら。その通りだ。戦闘データを即時解析して、刀身素材を同金属へと差し替えた。我が居合(いあ)いを()ねれば、最早(もはや)〈エムセル〉とて斬り捨てられるぞ」
「そんなの文字通り〝付け焼き刃〟じゃんか!」
 ボクは虚勢を()えつつも、内心では(あせ)りを(いだ)いた。
 何だかんだ言っても、ボクが無茶をできるのは無敵の硬度を誇る〈エムセル〉有りきだからだ。
 それを切断される危険性が確定してしまっては、さすがに後込(しりご)みをしてしまう。
迂闊(うかつ)には仕掛けられない……か)
 叶わぬ反撃に()れる。何も出来ない。
 と、不意に美声が割り込んだ。
「では、(わたくし)が御相手致しますわ」
「ラムス? キミはダメだよ!」
「仕方ありませんわよ。見ていられませんもの」
 対峙する慧眼(けいがん)が敵意を向ける。
「〈ブロブベガ〉の〝ラムス〟……敵に(ほだ)されるとは、()(もの)が」
「別に(ほだ)された覚えはありませんわよ? そもそも、この〝胸ペッタン〟に肩入れする義理はありませんし」
 ヲイ、この豊乳メイド。
「けれど──」一呼吸(ひとこきゅう)の間を置いて、彼女は清々しく言い放った。「──この地球には、(わたくし)のスウィーツファンがいらっしゃるものですから」
「……よくも(うそぶ)く」
 興醒(きょうざ)めとばかりに吐き捨てるシノブン。
 ま、彼女には分からないだろうな……この〝ひとりぼっちの異邦人〟が(こた)えたいものは。
 さりげなくボクを背後に(かば)い立つと、ラムスは相手に気取(けど)られない小声で(ささや)いた。
「マドカ様、(わたくし)が仕掛けた後で間髪入れずに攻撃を……」
「何か策あんの?」
「いいですか? これから何が起ころうとも、決して動揺せずに……」
 イヤな予感が過ぎる。
 まるで死亡フラグみたいな台詞(せりふ)だ。
「ちょ……ちょっと待ってよ?」
 戸惑うボクへ、彼女は淡く微笑(ほほえ)むだけ。
 (はかな)さを(はら)んだ(うれ)いで……。
 静かに(やいば)を収めたシノブンが、腰を落として(つか)へと手を掛けた!
 典型的な居合(いあ)()りの構えだ!
「参る!」
 瞬発!
 巨大な()の羽根が地表を(すべ)()ぶ!
「受けて立ちますわ!」
 右腕を小斧(アックス)と変質させたメイドベガが、それを正面から(むか)()った!
「ちょっと待てってば! ラムス!」
 斬撃を()わして走り抜ける両者!

 ──静寂が吹き抜けた。

「ふぅぅ……」
「ぅぁぁあああぁぁぁーーっ!」
 呼気(こき)(ととの)える剣客(けんきゃく)の背後で、メイド少女の身体(からだ)が真っ二つに斬り崩れる!
「ラ……ラムスゥゥゥーーーーッ!」
 悲痛な絶叫を上げ、ボクは駆け出していた!
 彼女の意向を実行するためじゃない!
 (あふ)(たぎ)る激情のままに!
 (かり)何人(なんぴと)であっても、いまのボクを止める事は出来ない!
「よくもラムスをーーッ!」
 繰り出す拳に怒りを乗せる!
 無慈悲なる刺客は、それさえも涼しく達観した。
「逆上任せとは……あの雑魚(ざこ)も無駄死にだったな」
雑魚(ざこ)なんかじゃない! ボクの家族(・・)だぁぁぁーーッ!」
 大振りな軌道を微々(びび)たる動きで()わすモスマンベガ!
 けれど、ボクは形振(なりふ)り構わず繰り出し続けた!
 繰り出す!
 繰り出すッ!
 繰り出すッッッ!
 当たる気配がしない。
 全て紙一重(かみひとえ)で回避されている。
 まるで駄々(だだ)()とプロボクサーだ。
 それでも、ボクは繰り出す!
(すき)だらけだ」
 眼界(がんかい)から敵の姿が消えた!
 本能的な直感が視線を落とす──巨大蛾は腰を低く落とし、ボクの(ふところ)(もぐ)り込んでいた!
「あぐっ!」
 (あご)に強い衝撃を受け、ボクの足が地面から浮く!
如何(いか)に〈鋼質化細胞(エムセル)〉が外的ダメージに対して無敵といえど、内部浸透ダメージはそうでもあるまい」
 氷の眼差(まなざ)しが(あざけ)る。
 脳味噌が鈍く苦悶した!
 (はじ)き上げた刀の柄尻(つかじり)を突き上げ攻撃と転じたようだ!
 それだけで、この威力!
 以前、同様の攻撃を受けた事があったけれど、その時は苦無(くない)だった……今回は得物(・・)が違う!
 日本刀のガッチリした造りのせいか、重いダメージが浸透した!
 意識が白くなり掛けた刹那(せつな)──「マドカちゃん! しっかりして!」──モエルの声援がボクを()()ます!
「んにゃろ!」
 根性で体勢を押し戻した!
 空中ヘディング(さなが)らに上半身を折った瞬間、冷酷な殺気と目が合う!
「終わりだ」
 間髪入れずに(きら)めく抜刀(ばっとう)
「終わらない!」
 横凪(よこな)ぎの刀身(とうしん)を、条件反射任せに鉄拳で迎え打った!
「ダメだよ! マドカちゃん!」
 モエルの戦慄を受けて、先刻の警告を思い起こす──「我が居合(いあ)いを()ねれば、最早(もはや)〈エムセル〉とて斬り捨てられるぞ」
(しまった!)
 だけど、刹那(せつな)的な攻防に体勢を立て直す(ひま)など無い!
 鋭利な凶刃(きょうじん)餓獣(がじゅう)の爪と斬り掛かる!
(クソッ! (まま)よ!)
 ──パキン!
 あ、折れた。
 ボクの腕、無傷なのに……。
「何? 我が宇宙刀が!」
「もらったぁぁぁああーーっ!」
 動揺を突いて拳を振り抜いた!
 渾身(こんしん)の鉄拳制裁がクリーンヒット!
「グアッ!」
 殴り倒されたシノブンは、そのまま地面に沈黙した。
 息はある。
 意識が果てただけだ。
 例え相手が誰だろうと殺すのはイヤだ。
 誰かが死ぬなんてイヤだ。
 なのに──「何だよ、この勝ち方は……」──(いきどお)りを(なげ)(こぼ)す。
 とことん後味が悪かった。
 虚脱のままに折れた刃身を(つま)み拾う。
 よくよく観察してみれば、腐食に()こぼれしていた。
 原因はブロブの付着滓(ふちゃくかす)だ。
「この(ため)先鋒(せんぽう)を買って出たっていうのか……」込み上げる感情をグッと(こら)え、悲嘆(ひたん)を吐き捨てた。「ラムスのバカ……ヒメカに何て言えばいいんだよ」
「バカのくせに『バカ』とは失礼ですわね。勝因に貢献(こうけん)して差し上げたというのに」
「だって、こんな勝ち方なんて望んで……うん?」
 聞き慣れた声に、ハッと顔を上げる。
 ラムスがいた。たおやかに(てのひら)を振って。
 両断されたメロンゼリーが結合して、メイドさんを再生している。
「生きてたんかーーっ!」
 悲喜交々(ひきこもごも)が混然となった感情が噴き出したよ!
「ゲル体質ですもの。斬られたぐらいでは死にませんわ」
 完全再生を終え、しゃあしゃあと(のたま)う。
(だま)したんか! 敵のみならずボクまで!」
「人聞きの悪い事を言わないで頂けます? 別に『犠牲になって死ぬ』とは言ってませんけれど?」
 しれっと微笑(ほほえ)む小悪魔。
 冗談じゃないぞ!
 絶ッッッ対、納得できない!
 だから──「生きててくれて、ありがとう」──ボクは小憎らしさを(いと)しく抱き締めていた。

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