vs,モスマン Round.2
閑静な住宅が建ち並ぶ舗道は、ボク達〝女子高生〟が醸す青春的若々しさで賑わっていた。
登校に賑わう制服姿の少女達。制服文化の主流が〝ブレザー〟となって久しいが、我が校は〝ボレロ〟──つまり〝綴じボタンが無い前開き仕様の上着〟だ。かつてのJKマスト〝セーラー服〟ですら珍しい御時世だってのに、
まあ、可愛いからいいけど。
ライトブルーのは清楚で品がいいし。
爽やかな
「ハァ……まだ春で良かったよ。時期がずれて、夏服だったらと思うとゾッとする。隠しようがないし」
左腕は包帯グルグルの完全密封。制服を着ている分には見えないけど、露出した手首だけはどうしようもない。
「……やっぱ〈鋼質化〉なんて項目は無いか」
いっそヤケクソで『左腕が鋼鉄になる奇病にかかっちゃったスレ』でも立ててみようかな。前例が無いなら、反応を見てみたい気もするし。
「マドカ、おはよう」
「あ、ジュン。ハロす」
仲のいい級友──ってか、大好きな親友と遭遇。
ボクとは対象的な清楚系美少女〝
ちなみに、学年成績上位の常連。つまり模範的優等生。
フワリと伸びた豊かなロングヘアは、左右側頭部で
顔立ちは美少女フィギュア然と整っているけれど、ほわっとマシュマロのような肉感が
やや色白な肌が
そして何より、Fカップと
二人して、しばらく無言で並び歩く。
ややあって、ようやくボクは切り出す決心を固めた。
「ねぇ、ジュン?」
「何よ?」
「鉄分増えなかった?」
「は?」
「いや……昨日の放課後、屋上でUFO呼んだじゃん?」
「呼んでない」
素っ気なく否定された。
あれ? 心無しか、急にテンション冷やか?
「呼んだじゃん! 二人で輪になって『ベントラーベントラースペースピープル』って回ったじゃん!」
「そうね。休日だって言うのに呼び出された挙げ句、校内に無断侵入──その後、一時間も付き合わされたわね。あのアホくさい儀式。ついでに言えば、その後、あなた一人で『ユ~ンユンユン』って呼び掛けるのを、
「ま、結局来なかったけどね?」
「だから、呼んでない。来なかったから、
「結果論じゃん!」
「結果論よ? 結果論ですけど何か?」
またもや声音は冷たい。
何故だろう? 何故かしら?
「もう! さっきから何さ? ツンケンツンケンタムケンと!」
「自分の胸に
「……小さい」
「……誰もAカップを
──フニン。
「大きい」
「誰が私の胸を
通学鞄がボクの後頭部をスパーン!
ジュンの
「イテテ……あれ? もしかして体育の時間に着替えを盗撮したのバレてた……とか?」
間髪入れずに通学鞄がリターンスパーン!
「そんな事してたの? あなた!」
「うう……配布目的じゃないよぅ? あくまでもボクの趣味用だよぅ?」
「消せ! いますぐ! 消されたくなかったら消せ!」
命の危険を感じたので、
「っていうか! あなた、嫌がる私に
「だってさ? 見たいじゃん、UFO?」
「見たくない! わたしは小さい頃から頻繁に見てるから
そう……彼女は小さい頃から、よくUFOを目撃するという。話を聞くだけでも遭遇率は半端なく、それはもう偶然の域を越えていた。
だから、ボクは思った──「ジュンってば〈コンダクター〉じゃね?」と。
この〈コンダクター〉っていうのは、UFOと精神的に繋がっていて意志疎通ができる人の事。結構ベタなオカルト超能力。
「でさ? あの後、鉄分増えなかった?」
「だから、それ何っ?」
相変わらず、ボクに対しては
「まどろっこしいな! もう! コレだよ! コレ!」
痺れを切らせて、包帯グルグルの左手を見せつけた。
「……マドカ?」
「うん」
「中二病の高校デビュー?」
「誰がさ! ってか、何だ! そのややこしい病名は?」
「頼むから『この封印が解けた時、秘められし恐るべきパワーが
「言わないよ!」
いや、あながち『秘められしパワー
どうしてこうも伝わらないかな?
ジュンにだけは早く打ち明けたいのに。
むしろ泣きついて相談したいぐらいなのに。クスン。
ってか、周囲の人混み邪魔ァァァーーッ!
話すにしても邪魔ァァァーーッ!
そうは思いつつも仕方がないので、今回は見送る事とした。納得はしてないけど。
ま、その内に機会もあるだろう……今日中には。
と、前方の雑踏から、こちらの様子をジッと
小柄な少女だった。
銀髪のシャギーボブで、幼さが残る顔立ちながらも構成するパーツはシャープ。ガラス細工を想起させる繊細な美少女っぷりだ。
着ているボレロ制服から、ボク達と同じ〝私立
受ける心象は、ひたすらクール。とりわけ、こちらを淡々と観察視するような
俗に言う〝クールビューティー〟ってのは、きっとこの子みたいなのを指すんだろう。
いや、これは〝クールロリータ〟だな。
これだけ優良物件な美少女は、ちょっと見た事がない。
きっと一部のマニアから推し人気が高いと思われる。ストーカー紛いの非公認ファンサイトとかもあるだろう……アングラで。そして、彼等が掲げるテーマソングは『がんばれ! ロリコン』に違いない。いや、待てよ……それとも──。
「マドカ、どうしたの? 急に黙り込んで……」
脱線黙想中のボクへと、ジュンが怪訝そうに訊ねてくる。
「──『
「いきなり何をカミングアウトしてんの、あなた」
「いや、ボクの
説明しようとした矢先、クルロリは消えていた。
注視を外した覚えはない。
けれど、人影が重なった一瞬に、いなくなっていた。
(……で、誰さ?)
いやまあ、初面識なんだから〝
それでも何か気になる子だったんだよね。
直感的に──ってか、本能的に。