おっとそう来ましたか その3
「ご主人様、ちょっとご相談が……」
毎週恒例の店長会議を終えた後、3号店の店長をしている木人形のエレが僕にそう言って来ました。
3号店は基本的に客の9割が魔法使いという独特な環境下で営業されていますので滅多に問題が起きないといいますか、何か問題が起きれば3号店のある僕の別荘の周辺にいつの間にか移住してきた魔法使いの誰かに言っておけば自分達でその問題を解決してくれるという非常に手のかからない方々ばかりなんですよね。
「そうですね……とりあえず見て頂いた方が早いと思います」
そう言われ、僕はエレと一緒に3号店へと移動しました。
3号店は、もともとは火山地帯の麓にぽつんと1件だけ残っていたお屋敷~僕が王都から暗黒魔道士だかなんだかを退治したその恩賞ということでもらい受けた物なんだけど、そこに魔女魔法出版の書籍を置き始めたら、あっという間にその周囲に魔法使い達が集まったって言う独特な場所になってるんだけど、
「こちらから見てください」
そう言われて、エレに案内されたのは屋敷の3階にあたるベランダでした。
で、そこから眼下の景色を見て、僕は目を丸くしました。
魔法使いの居住地域が、見るからに拡大しているんです。
それも、半端ない広さになっています。
それは、1ヶ月ほど前の優に倍……いえ、3倍はあるでしょう。
「ど、どうしたんだ、こりゃ?」
唖然とする僕に、エレが言うにはですね
「あちこちの奥地でひっそり暮らしていた魔法使い達がですね、ここに来れば好きなだけ魔女魔法出版の本を読めて研究できて、しかも美味しい食べ物を買うことも出来るし、仕事も斡旋してもらえると聞いてどんどん移住してきているのですが、最近は、魔法使いの村ごと移住してこられるケースが頻発しておりまして……」
と、まぁ、そういうことらしいんですが……
なんて思っていると、まさに僕の視線の先
森の向こうの方から何やら巨木の群れがこっちに向かってやって来ているのが見えました。
アレはどう見ても、魔法使いが自分の家として使用しているプラント魔法を使用されている巨木達です。
で、その数およそ20本
それらは、すごい勢いで、集落の端にたどり着いたかと思うと、その周辺に整備されている~これも魔法使い達が自分達で作成した石畳の道に沿って理路整然とおさまっていったわけです。
「このようにですね、魔法使いが増えすぎた関係で3号店の物販スペースが手狭になっている上に品不足が深刻になり始めておりまして……」
エレは僕にそう言ったわけです、はい。
確かに3号店はいつも好業績ではあったけど、その大半が魔女魔法出版の本の売り上げだったわけなんであんまり気にしてなかったけど、まさかそんなことになっていたとは……
この魔法使い集落には、店と呼べる物はコンビニおもてなししかありません。
で、魔法使い達は自作した魔石や魔法薬を店に売って生計を立てている者が多いのですが、当然その者達も何か食べないと生きて行けないわけです、はい。
その売り場が手狭になった上に、販売する弁当類も足りないとなると、これは早急に対応しないといけないわけです、はい。
◇◇
で、まずは弁当類の増産ですが
本店に戻り、現在の弁当担当者である魔王ビナスさんと、パン類担当のテンテンコウ♂に相談してみたところ
魔王ビナスさん曰く
「はい、今の5倍くらいまでなら増産することは造作もございませんですわよ」
和装でニッコリ微笑む魔王ビナスさん。
……っていうか、ホントいまだに不思議なんですよね……余所の世界で魔王してた人が、ウチの店でパートしてるってシチュエーション……
で
テンテンコウ♂曰く
「かなり慣れた……今の、5割、増……出来る」
相変わらず人見知りな感じでそう言いながら頷いてくれた。
まぁ、弁当類の方が支障なくこなせそうなので、なんとかなるだろう。
そういえば、エレ曰く
「魔法使いさん達から、ミニサイズのお弁当を販売してほしいとの要望も寄せられています」
との事だった。
というのがですね
この世界では、魔法を使用出来る
男性を魔道士と言い
女性を魔法使いと言うそうなんですが
魔法使い集落は、文字通り女性達の集まりなんですよね。
で、まぁ、この魔法使い達が集まって何をしているかと言いますと、日がな一日魔法の研究なわけで、その合間にコンビニおもてなし3号店の書籍コーナーへ行っては立ち読みしつつ、気に入った本は購入して返って、またそれを使って研究する、と。
そんなわけなので、中には食事時に小腹程度しか空かない魔法使い達も多いそうで……
で、それならば、と
まずルアにお願いして、コンビニおもてなしに納品してもらっている弁当箱を、一回り小さいサイズの物を試しに作成してもらって納入してもらいました。
で、これを使って試験販売をしてみたところ3号店では、このミニサイズ弁当があっと言う間に完売したわけです、はい。後追いで通常サイズも完売したわけですけど……これは、イケるかも。
そう思って僕は本店と2号店でもこのミニサイズ弁当を導入したところ、主に女性陣に大人気になりまして、両店舗でもこれ、あっという間に売り切れて言ったわけです、はい。
当然単価は安くしていますが、ミニサイズ弁当の売り上げ個数がすごく伸びているので、減少した売上単価分を補ってあまりありまくりな売り上げを記録しているわけなんですよね。
で、そんなわけでまたルアに、ミニサイズの弁当用の弁当箱の作成という面倒くさい仕事をお願いしてしまったわけですが、ルアは僕に向かってニッコリ笑ってくれました。
「アタシの工房は今やコンビニおもてなしのおかげで成り立ってるんだからさ。遠慮なくなんでも言ってくれよ」
と、なんとも男前な一言で答えてくれたわけです、はい。
さすがルア、公私ともに絶好調なだけはあります。
「ぶ、ぶぁか! こ、公私ともにって、お前、アタシとオデン6世さんはだな、そ、そ、そ、そんな中じゃなくてだな、その……」
「え? 僕は別に、公私ともに絶好調と言っただけで、それがオデン6世さんのことだなんて一言も言ってないけど?」
僕がそう言いながらニヤニヤ笑うと、ルアは、その顔を真っ赤にしたまま口をパクパクさせていたわけです。
で、
これ以上からかうと、以外にガタコンベ純情派なルアが恥ずかしさでどうかなってしまいかねないため、ここまでにしておいたわけです。
でも、このやりとりを、ニッコリ笑顔で見守ってくれてたオデン6世さん……ホント良い笑顔でした。
その笑顔が、右の小脇にあるっていうのが、いまだにちょっと慣れないんですけどね。
まぁ、オデン6世さん、デュラハンなんで仕方ないといえば仕方ないんですけどね。
さて、今度は店の広さの方ですが、こっちは簡単に解決しました。
もともとコンビニおもてなし3号店はすごく大きなお屋敷をベースにして、その中の1階の部屋を店舗に改造して使用しているのですが、その周辺にまだ空き部屋がいっぱいあったわけです。
で、それを
「……スアにおまかせ、よ」
ここで、やる気満々に登場したスアが、杖を一振りして店舗スペースの周囲の空き部屋を全て結合した上で、その中までしっかり店舗用に改装していくという結構な魔法を展開してくれました。
そのおかげで、3号店の物販スペースは1日も休むことなく営業することが出来たわけです、はい。
何しろ、ここ3号店は、コンビニおもてなしチェーンの中で唯一の24時間営業店舗ですんでね。
休むとなるとあれこれ支障が生じ兼ねなかったわけです……主にここで生活している魔法使いの皆さんの生活に……なわけですが。
で、まぁ、とりあえず3号店の店と商品に関しての問題が解決したわけなんですが、
その夜、
「ひやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
と言う、パラナミオの悲鳴で飛び起きた僕。
パラナミオはガタガタ震えながら僕に抱きついて
「パパ、寝室の入り口に何かいます!?」
そう言っているわけですが、
……よく見ると、確かにそこに何か立っていたわけでして……