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肉まんの季節に起きたこと その4

 ドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコ会長さんが尋ねて来たわけですが、なんでも
『コンビニおもてなしさんの商売のお手伝いをさせていただきたい』
 とのことだった。

 はて? お手伝い?

 僕が首をかしげていると、ドンタコスゥコさんは
「私達はですね、ブラコンベの西にありますナカンコンベを拠点として活動している女性だけで運営している商会なのですよ。最近はブラコンベの荷物を仕入れて売りさばいているのですけど、コンビニおもてなしさんの商品をぜひとも扱わせてほしいのですよ」
 そう言うと、見事に絶壁な胸をドンと叩いて笑いました。

「あぁ、つまり、ウチの商品を卸売りしてくださいってことですか?」
「はいですね、そういうことなのですよ」

 ふ~む……

 ドンタコスゥコさんはそう言って笑ってますけど
「……ちなみに、何を購入したいとお考えですか?」
「まずスアビール! これははずせないですねぇ」
「あ~、すいません、スアビールは毎日生産した分、全部売れてるんで卸売り出来る量ないんですよ」
「んな!?……」
 僕の返答に、ドンタコスゥコさん、下あごをカコーンと落として固まってます。

 その後方では、彼女について来ていた女性従業員達もドンタコスゥコさん同様に目を見開いて床にへたり込んでいきました……って、おいおい……要はスアビール目当てのみだったってことですか?
「あ……いえ……その……決してそういうわけではないのですがねぇ……そうですか、無理ですかねぇ……」
 なんか、見るからに真っ白な灰状態になっているドンタコスゥコさん。
「いえねぇ……最近、やっと通商にこぎ着けたバトコンベって街の領主さんがですねぇ
『うまい酒を入れてくれよ』
 って言われてですね……そのうまい酒としてスアビールをご指定なのですよ」
 なんか譫言のようにそう言うドンタコスゥコさんなんですけど

 あれ?

 バトコンベって、なんかきいた事があるなと思って思い返していたら……

 あぁ、あそこだ、イエロ達が参加した大武道会があった辺境都市だ。
 
「あれ? 店長さんはバトコンベをご存じなんです?」
「あぁ、あそこで開かれた大武道界会にウチの社員が参加したんですよ」
 僕がそう言うと、ドンタコスゥコ商会の皆さん、思わずおぉ、とどよめきました。

「我ら女性ばかりの商会ですので、皆武術の嗜みもあるのですよ。
 ですので、あの大会にも毎年すごく注目しているのですよ」
 とのことだった。

 そこで、イエロの名前を出すと、皆からさらなるどよめきが
「あ、あの予選をトップ通過したのに決勝トーナメント出場を辞退したあの伝説の方々がここの社員さんだったのですね!?」
 なんか、さっきまでスアビールアウトからの廃人化状態から一気に生き返ったドンタコスゥコさん。
 社員の皆さんと生き生きとしながら話を再開していました。

 で、まぁ、
 イエロ達のことを良く言われて、まぁ嫌な気はしないわけで
「スアビールを商品として卸売りは出来ませんけど、何か他に卸売り出来る商品があれば、それのおまけでおつけしてもいいですよ。バトコンベの領主さんへの手土産になるくらいの量ならですけど」
 僕がそう妥協案を提示すると、ドンタコスゥコさん、ぎらっと目を輝かせて
「ちょっと店内を拝見するのですよ!」
 そう言うと、店員さん達と一緒に、わらわらと店の中へと移動していきました。

 ただまぁ、そんなに良い物が見つかるかな、と、思っていたのですが……どうやらあっという間に見つかったようです。

 ドンタコスゥコさんのグループは、主に2箇所で固まっています。

 1箇所は武具売り場
 言わずとしれたルア工房自慢の武具が並んでいる場所です。
「会長……この武具、どれもすごく出来がいいですよ」
「うむ……これならあの衛兵騎士団が充実してるバトコンベの騎士さん達もフィーバー間違いなしなのですよ」
 最近、特に出来映えがアップしているルアの武具を前にして、賞賛の声が続々なわけですよ、見えてますか? 向かいのルア~……って、あれ? なんですか? オデン6世さんに、手に持ってる自家製のお弁当を「あ~ん」とかやっていますね……

 あ……僕が見てるのに気がついた。

 ルアの顔が真っ赤になったぞ。

 なんか最初に「ぶ、ぶぁ~か」って言ったのはわかりました。
 とりあえず、ご馳走様とばかりにしっかり拝んでおきました。


 さて、もう一箇所はスア印の薬コーナーです。
 ここも安価な傷薬とかはすぐに売り切れるんですが、1本100万/元いた日本の通貨円換算するような上級治療薬~欠損も修復可能~なんて物は、やっぱたまにしか売れないわけですが
「こ、こんな貴重な薬がこんなに安く売られていますよ」
「し、市価の半値以下じゃないですか」
 と、なんかヒソヒソ話していますが……なんか、ただでさえ高いなと思ってたこの薬達って、余所で買おうとしたらもっと高かったんだ、と、僕の方がびっくりな状態だったわけです、はい。

 で、まぁ
 
 ドンタコスゥコさん達は、一度店の外に出てヒソヒソヒソヒソ相談した結果。
「武具と薬、これをぜひ卸売りしていただきたいですねぇ、そのついでにスアビールを数本付けて頂けるととてもうれしいですねぇ」
 と、言ってきた。

 僕は、ドンタコスゥコさんにちょっと待ってもらって、
 
 まずは向かいのルアの工房へ。
 玄関を開けて工房の奥へ視線を向けると……あれ? コンビニおもてなしからは見えない位置に移動して、まだあ~ん、をしてたのね?
「な、何工房にまで来てんだよ、ぶ、ぶぁ~か!」
 ルア、真っ赤になって怒ってますけど、工房のみんながなま暖か~い笑顔で見守っているところを見ると、すでに日常茶飯事のご様子ですね、はい。

 で、まぁ、照れ隠ししているルアに本題です。
「……と、いうわけでドンタコスゥコ商会ってとこが卸売りを希望してきてるんだけど」
 って話を振ったところ
「あぁ、アタシはさ、タクラの事を信用してるからさ、ウチがコンビニおもてなしに置いてる商品を好きに卸売りしてくれていいよ」
 と、まぁ、なんとも男前なお言葉を頂戴しました。

 これはご祝儀はずまないといけませんね。

「ぶ、ぶぁ~か! な、何いってやがる、この……」
 はいはい、用件は済んだので邪魔者は退散しますよ、っと。


 次いでスアですが、
 僕がコンビニおもてなしに戻るとすでに店に来ていました。

 ただ、見知らぬ人々~ドンタコスゥコさんご一行が店の中をみているもんですから、レジの脇に隠れていたんですけど、

「……薬、いいよ」
 と、それだけ言うと、あっという間に巨木の家の方へ向かって駆けていきました。

 うん
 スアの対人恐怖症ですけど、ずいぶんよくはなりましたけど、やっぱまだまだだなぁ。

 で、まぁ
 とりあえずドンタコスゥコさん達がご所望の品の管理者から許可をもらえたわけなので
「はい。その品なら卸売り出来ますよ」
 そうドンタコスゥコさん達にお伝えしたところ、
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます」
 と、もう涙ながらに喜んでもらえた次第です、はい。

 なんでも、バトコンベまでは結構距離があるため、道中の警護をしてくれる傭兵を頼んでいるそうで
「その母子の傭兵さんのご都合を確認してから再度まいりますので、その時改めて卸売りの相談をさせてくださいですの」
 とのことで、無事話がまとまったわけです、はい。

 ちなみに
「このスアビールって、そんなに美味しいのですかねぇ」
 と、ドンタコスゥコさん。
 どうやら皆さんスアビールを経験したことがなかったようなので、とりあえず1本ずつ差し上げて飲んでもらったところ、

「「「ん!?」」」

 皆さん、一斉に目を丸くし

 ゴッゴッゴッゴ……ぷはぁ!

 とまぁ、いい飲みっぷりでした。
「いや、これはバトコンベの領主さんがほしがるわけですねぇ」
 と感動しきりのドンタコスゥコさんなんですけど

 ……果たして、バトコンベの領主さんの元にスアビールは無事届くのか……ちょっと不安になったわけです、はい。

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