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パラナミオと その3

「は~……これがあの龍の鱗かぁ……」
 パラナミオの鱗を1枚、工房のルアに見てもらったところ、すっごいびっくりしながら見ています。
「龍の鱗なんて、アタシは初めて手にしたよ」
 そういいながらマジマジと鱗を見つめています。

 僕の感覚だと
 異世界っていうとドラゴンがいっぱいいて、そんでもってその鱗を使った武具もいっぱい出回ってるイメージだったんだけど、以前スアからも
『この世界にはドラゴンは希少』
 聞いていたのを改めて実感したわけです。

「私も、一緒に生活しているワイバーン姉妹以外には、リヴァイアサンを1体くらいしか知らないな」
 サラさんもそう言いながら頷いていた。

 そんな訳なので、
 ルアが龍の鱗を初めてみたといっても、よくある話なわけでして。
 ただ、サラさんの話だと、今後パラナミオが成長していくにつれて、脱皮後の龍の鱗がどんどん溜まっていくことになりそうなんですよね。
 まぁ、僕としては、これを全部記念に保存して置きたいと思っていたんですが
「パパ、やめてください……それはとても恥ずかしいです」
 パラナミオが真っ赤な顔をしてイヤイヤをしてきました。

 アレ? 脱皮後の鱗って、サラマンダーというか、龍にとっては恥ずかしいものなのかな?
 僕がそう思っていると、
「恥ずかしいです! なんだかすごく恥ずかしいです!」
 パラナミオはさらに顔を末期にしてイヤイヤをしてきます。

 サラさん曰く
「そうだな……脱いだ服を下着ごと保存される感じといえばわかりやすいか?」

 ……あぁ、はい。なんだかすごくよくわかりました。

 とはいえ
 パラナミオの体から初めてこぼれ落ちた鱗は飾っておきたいなぁ、と思っていたところ
「パパ、その鱗ならいいです」
 と、パラナミオの許可がでましたので、スアに保存魔法をかけてもらった上で、僕の書斎に飾って……
「……私の研究室にも欲しい、よ」
 ……と、スアもごねて来たため今回回収した鱗の中からパラナミオの許可が出たもう1枚が保存処理されてスアの研究室にも飾られました。

 で

 サラさんの話だと、今後もパラナミオの脱皮によって鱗がどんどん溜まっていくことになりそうなわけで、パラナミオもそれを出来れば処分して欲しいと思っているわけです。

 なので、これをルアに
「武具か何かに加工出来ないかな?」
 と、相談してみました。

 するとルア
 目を輝かせて僕に言いました。
「い、いいのかタクラ! こ、こんな超高級素材を使わせてもらっても!」
 なんでも、ルアによれば
 龍の鱗は滅多に市場にも出てこない素材らしく、たまに出れば各地の工房や・名の知れた職人達がこぞって買い付けにやってくるため、量が少なくても毎回高騰するんだとか……
「だからさ、アタシのようなド田舎の鍛冶職人なんざ、一生縁がないと思ってたよぉ」
 そう言いながら、喜色満面、大喜びしながらパラナミオの鱗を抱きしめていたわけです。

 そんなルアの姿を
「……ルア、喜ぶ……我も嬉しい」
 工房の奥からデュラハンのオデン6世さんも、嬉しそうに自分の頭を両手でコクコクと頷かせていました。
 デュラハンですから、基本、首は小脇ですからね。

 パラナミオの鱗は、幼体の物な上に脱皮して間がないこともあってすごく柔らかくて加工しやすいそうで
「これなら楽に作業出来るよ」
 ルアも大喜びしていたんですが、そこにサラさんが話に入って来た。
「そうだ、忘れていた。
 最初の鱗で鱗加工用の道具を作っておくことをお勧めする。
 成体になった龍の鱗はドワーフの上級鍛冶職人でも加工が難しいんだ」
「あぁ、なるほど……そうすれば今後作業しやすくなるもんね」
 サラさんの言葉に納得しきりなルア。

 で
 最初の鱗は、その3分の1ほどがルアの加工用道具になっていきました。
 すると、ルア
 なんかすごく困った顔をしながら僕に歩み寄って来ます
「あ……あのさ、タクラ。加工しちゃった後でこういうことを言うのは反則だと、わかってんだけどさ……
 その、龍の鱗を加工出来ることに浮かれてさ、アタシの道具作るのに勝手に鱗を使っちまったんだけど……その、いくら払えばいい?」
 そう言いながら、若干青くなりながら僕に聞いてきます。
 
 すると、そんなルアの前に、オデン6世がずいっと割り込み、僕に結構でかい布袋を差し出しました。
「これで……頼む」
 と、オデン6世さん。
 どうやら、ルアのために自分の全財産で支払いをしようとしているらしい。

 なんと言いますか……ひゅ~ひゅ~、なわけですよ。

「ぶ、ぶぁか! 何やってんだよ、お前! あ、アタシの店だって結構儲かってんだ、多少の蓄えはあるんだ」
 そう言いながら、オデン6世さんのお金を必死に押し戻そうとするルア。
 それでもそれを僕に差し出そうとするオデン6世さん。

 あ~
 なんか、僕の目の前で押し問答が始まっちゃったんですけど、

「ルア、こうしよう。
 その龍の鱗の工具は、僕の店の所有物ってことにして、ルアに永久無償貸し出しをします、と。
 その代わり、パラナミオの鱗の加工を格安で請け負うってことでどうかな?」
 僕がそう言うと、ルアは嬉しそうに笑顔を浮かべながら
「ほ、ほんとか!? ほんとにそれでいいのか!」
 そう言いながら、僕の腕を握って激しく上下させていきました。


 蛇足ですが
 ルアの役にたてなかった、と、しょげ気味だったオデン6世さんですが
「……あぁ、いや。き、気持ちはうれしかったからさ……なぁ」
 ルアがそう言いながら慰めていたわけです、はい。

◇◇

 と言うわけで、
 パラナミオの鱗を使った武具がいくつか出来上がりました。

 まずは盾と剣
 いずれも試し打ちのレベルなのでまだ売り物には出来ないとルアがいうので、コンビニおもてなしの中のルアの武具コーナーの看板横に展示しておいたところ
「て、店長さん、あれはまさか龍の鱗の武具かい?」
「頼む! 売ってくれ! ぜひ売ってくれ!」
 と、まぁ、ルアの腕に惚れ込んで足繁くウチの店に通ってくれている常連の冒険者達が目の色を変えて僕に直訴してきたわけです、はい。

 とはいえ、ルア本人がNGを出している以上
「これはお売りできないんですよ、そのかわり、お売りできる商品も近いうちに店頭に並ぶと思いますのでもう少しお待ちください」
 僕がそう言うと、冒険者達も一度は引き下がってくれたんですけど
 その結果、毎日開店直後に冒険者達が店にやってきて、龍の鱗の武具が並んでいないか確認しにやってくるようになったんですけどね。

 ちなみに、この数日後に
「タクラ殿~! 龍の鱗の武具を入荷したという噂は真か!」
 辺境駐屯地隊長のゴルアと、副隊長のメルアまでもが馬を飛ばして店にやってきたんですよね。

 どうやら、パラナミオの鱗製の武具が店に並ぶ日も近いかな、と思っているわけですが
 あの試作品は、ずっと店に飾っておくつもりですが、何か?

◇◇
 
 で、まぁ、
 パラナミオが初めての脱皮を無事済ませたんですけど
 これって大人に一歩近づいたってことなのかな?
「そうだな、この脱皮が出来るようになり始めたら、一歩大人になったと言えるだろう」
 サラさんがそう言ったので、

 とりあえず、今日のご飯はお赤飯にしてみました。

 ……うん、まぁ、なんとなくなんですけどね
「パパ、今日の赤いご飯、もちもちしていて美味しですね」
 パラナミオも嬉しそうに食べてくれたので、まぁよしとします。

 ちなみに、このお赤飯の風習についてスアに根掘り葉掘りきかれましたので、おそらくそのうち魔女魔法出版から本になってこの世界に紹介されていくことになるでしょう。


 そうこうしていると
「さて、そろそろ私も帰らねば」
 サラさんがそう言いました。

 パラナミオも寂しそうでしたけど
「また遊びに来てください、サラお姉さん」
 そう言いながら、最後は笑顔でサラに抱きついていました。

 で、適当に馬車を乗り継いで帰るというサラさんでしたが
「……まかせて、ね」
 と、スアが、サラさんのお住まいである辺境小都市リバティまでの転移ドアを作成し、即時お帰りが可能となったわけです。

 で、せっかくなんで
 サラさんが滞在中にすごく気に入って、すっごく飲みまくっていたスアビールも木箱で5つほどお土産として持って行ってもらいました。
 
 で、ドアの向こうまでハニワ馬のヴィヴィランテスが輸送してくれたんですけど
「な、なんか変な馬が来たクマ!?」
「ナンカ、可愛イ」
「だ~!? そこのデカい恐竜の女の子、この気安くヴィヴィランテス様を舐めるんじゃないわよ!」
 なんか、扉の向こうで一悶着あったみたいです。

 で、手を振りながら戸の向こうに消えていったサラさん。
 
 そんなサラさんを、パラナミオと僕、スアが笑顔で見送りました。

 なんか、大武道大会で出会っただけなのに、こうしてわざわざパラナミオに会いにきてくれたなんて……
 その気持ちがすごくうれしかったわけです、はい。
「今度はこっちから遊びに行くのもいいかもね」
 僕がそう言うと、パラナミオも満面の笑顔で
「はい!」
 そう応えました。

◇◇

 こうして、
 コンビニおもてなしに、龍の鱗の武具という新商品が並びそうな予感をはらみながら、
 今日もコンビニおもてなしは元気に営業開始です

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