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パラナミオと その2

「そうそう、パラナミオに伝えたいことがあったんだ……」
 そう言って、辺境小都市リバティから遊びに来ているサラマンダーのサラさんが腕組みしながら言い出しました。

 んで、それを聞くため視線をサラさんに向けた僕とパラナミオ。

~そして30分後

「……なんだったかな?」
 って、サラさん!?
 いきなりこっちに聞かれても、わかるわけないってもんですよ!?


 っていうか、このサラさん、
 物覚えが悪いというか、思い出すのがすごく遅い感じです。
「えっと、あれはだな……」といって1時間考えこんだり
「さっき飲んだあれは……」といって3時間思い出せなかったり
 とまぁ、そんな事が多々あるものの

 基本的にはのんびりで気のいいお姉さんなもんですから、パラナミオがよく懐いています。

 どれくらい懐いているかといいますと
 若干僕がジェラシーを感じるくらいに……あ、いえいえ、冗談ですよ、もちろん冗談です。

 で、翌朝
 みんなで朝ご飯を食べている最中に
「ほうほう。ほもひはひは」
 おそらく『そうそう、思い出した』と言われたと思うんですが、サラさん、丼飯を口いっぱい頬張ったまま話すのは辞めた方がいいと思うのですが……

 で、朝食後

 サラさんと僕とパラナミオとスア
 以上の4人で巨木の家の応接間へ移動。
 その途中サラさんは、パラナミオに
「最近、体がむずむずしないか?」
 としきりに聞いています。
 それに対してパラナミオは、
「少しします。なのでしっかり体を洗っています」
 と元気に応えています。

 で、サラさんはここで僕とサラに視線を向けました。

「サラマンダーは、個体数が少ないのであまり生態も知られていないと思うのだが……」
 サラさんがそう言うと、スアがコクコクと頷いています。
 数百年生きているスアが頷くとなると相当でしょう。
「……生きているサラマンダーに出会ったのは、初めてかも、よ」
 ……うん、やっぱり相当だ。

 で、サラさん
 パラナミオに額に手をあてて何か調べています。

「……サラマンダーは鱗を脱皮しながら成長していく。
 私くらい成長しきってしまうと、数年に1回のペースになるが、パラナミオの年齢だと、鱗がしっかりしてくると月に2、3回のペースで脱皮が始まるはずだ」
 そう言うとサラさんはパラナミオに
「どれ、サラマンダーの姿になってごらん」
 そう言います。
 ただ、部屋の中でいきなりサラマンダーになられても困ります。

 以前、まだ幼体だった頃のパラナミオのサラマンダー形態でも結構大きかった記憶がありますから。

 なので、僕らはスアの使い魔の森へと移動
「……ここなら安心、よ」
 スアのお墨付きのもと
「じゃ、じゃあ久々に変身します」
 そう言うと、パラナミオは体に力を込めました。

 すると、服をビリビリに破りながら、パラナミオの体が巨大化しました。
 以前見た姿より一回り大きくなっています。
 そしてよく見ると、サラさんが言ったとおりパラナミオの全身をいつの間にか鱗が覆っていたのです。
「前の時はここまで綺麗な鱗はなかったよなぁ」
 僕がそう言うと、それが聞こえたらしいパラナミオが「綺麗」と言われて嬉しかったらしく、なんか甘声で鳴きながら僕に頭を擦りつけてきました。

 で、サラさんがその鱗を確認したところ
「この調子だと、数日のうちに初めての脱皮が始まりそうな感じが……」
 そう言い始めたのですが、

 なんか、そんな僕らの目の前でパラナミオの背中の鱗がずるっと落ちてきました。
「え?」 
 びっくりしている僕とスアの前で、サラさん
「……数日先と思っていたが……どうやら始まったようだ」
 そう言うと、サラさんはパラナミオに向き直っていきました。

 で

 サラさん曰く
・サラマンダーにとって脱皮は大事な事
・幼少期は最低でも週に1回はサラマンダー形態になって鱗を直接外気にあてる
・最初の頃は、うまく脱皮出来ないので、出来るようになるまでは手伝う
・脱皮がすんだら、人間形態の体もしっかり洗う

 などなど、詳しくあれこれ教えてもらえた次第です……いや、これはマジで助かります。
 スアの、フンフン言いながらメモを書きまくっています。

 で、手伝うと言われたわけですが……この全長5mはありそうなパラナミオの脱皮をどう手伝えばいいのやら……
 そんなことを思っていると、パラナミオの鱗がズリズリとずれ始めているではないですか。

 で、当のパラナミオは、これがくすぐったいらしくて、しきりと体をよじっています。
 そんなパラナミオにサラさんが色々アドバイスをしているんですが
「気合いだ」
「根性だ」
「もっときばって」
「呼吸を合わせて……ひ・ひ・ふー」
 なんか最後の方のは別物じゃないかと思うようなアドバイスがあった気がしないでもないんですが、

 とにかくそうこうしていると、パラナミオの体から鱗がどんどん剥がれていきます。
 よく見ると、その下にはすでに新しい鱗が出来ています。
 新しい鱗はまだ柔らかいみたいで、ふにゃふにゃしていますが、落ちた古い鱗は結構固いですね。

 ……って
 ちょっと待って

 パラナミオはサラマンダーであってですね
 サラマンダーは、ドラゴンであってですね

 え? これって『龍の鱗』なわけですか?
 あのロールプレイングゲームとかでも結構強力な武器の素材として使用されてる、あのレアアイテム?

「まぁ、貴重だな。私の鱗は30年分くらい土中に埋まっているのだが
 街ではそれを掘り起こして武具を作っていて、かなりの収益をあげているらしいぞ」

 は~、さいですかぁ

 なんか、パラナミオの体から剥がれ落ちてくる鱗を見ながら、ただただ感心しきりな僕ですが
「これを武具にねぇ……」
 と、しげしげと見つめてきました。

 まぁ、何はともあれ、パラナミオの体から最初に剥がれ落ちた一枚は、床の間に永久保存する予定ですが。

 んで、ある程度パラナミオの体から鱗が浮いた感じになったところで、スアが一歩前に出ました。
 パラナミオに向かって軽く右手を振ると、パラナミオの体に光のシャワーが降り注いでいき、浮いていた鱗をすべて綺麗に剥がしていきました。

 あっと言う間にパラナミオの体は、まだ柔々な感じが一目でわかる鱗に入れ替わったわけです。

「ほう、見事なものだ。こんな魔法が使える人がいるのなら心配ないな」
 そう言いながら満足そうに頷くサラさん。
 えぇ、僕もそう思います……ほんと、僕には勿体ない奥さんですので。
 
 そう思っていると、スアが僕にツツツと歩み寄って来て
「……ガンバった、よ?」
 そう言いながら、頭を僕に寄せてきます。

 えぇ、なでなでご所望モードです。

 で、僕が
「お疲れ様スア。すごくいい仕事だった」
 そう言いながら頭をなでなでしていくと、スアはとても嬉しそうにニパァと笑い
「エヘヘ」
 と言いながら喉をならしています。

 ……いつも思うのですが
 ウチの奥さん、なんなの、この愛くるしい生き物ぶりは!

 ……で
 あのサラさん?
 なんでサラさんまで僕に向かって頭を差し出しているんですか?

「……いや、私も頑張ったぞ?」
 
 そう真顔で言うサラさん。
 で、スアも「お世話になったし、ね」と、推奨モードだったので、僭越ながらサラさんの頭もなでなで……

「ふむ……これはなかなかいいものだな」
 サラさん、そう言いながら嬉しそうに微笑んでいます。

 スアの可愛さ全開笑顔が最強なのは間違いありませんが
 大人な女性が垣間見せるフとした笑顔というのもなかなかな……

 あ、いえ、スアさんなんでもありません。
 なんでもありませんから、見るからにライトニング系の魔法をため込んでるその両手を思いとどまっていただきたい。

◇◇

 で、脱皮が終わり、
 滑っていた表皮もスアが魔法で綺麗にしてくれましてですね、しばしひなたぼっこをしたパラナミオは、人の姿に戻ると、
「パパ、初めてが出来ました!」
 って、聞く人が聞いたら絶対に勘違いするよねって言葉を口にしながら僕に駆け寄って来たのですが

 巨大化するさいに服が破れていたため、素っ裸なうえに、その体がなんかすごく滑っています。
「あぁ、サラマンダー形態でいくらぬめりをとっても、脱皮後に人型化するとどうしても滑っているものなんだ」
 サラさんの説明をうけて納得しきりな僕なんですが……

 気のせいか、パラナミオが全体的に少し大人っぽくなったような
 今までは5才くらいだったのが、なんか小学校低学年くらいにまで成長したような感じといいますか。
 多分、これがサラさんの言ってた「脱皮しながら成長」ってことなんだろうな。

 僕は、とりえず素っ裸のパラナミオに僕のシャツを着せました。
 んで、みんなでコンビニおもてなしへ戻ると、パラナミオをお風呂に入れました。
 で、まぁ、僕も滑りまくっていたパラナミオに抱きつかれたせいで、滑りまくっていたものですから
「パパ、一緒に入りましょう!」
 そう言うパラナミオと一緒にお風呂タイムになったわけです。

 気持ち長くなった髪の毛を念入りに洗っていき、ぬめりを取っていきます。

 すると、
「……私も」
 と言いながら、スアもお風呂に入ってきました。
 こうしてみると、少しお腹が目立って来たかなって気がします。

 で、
 親子3人でワイワイお風呂に入っていると、

「ちょうどよかった、私も入らせてくれ」
 と、素っ裸のサラさんが風呂に入ってきました。

 確かに、コンビニおもてなしの共同風呂は一度に5人は楽に入れるように増築していますが……

 で、まぁ、
 大慌てで僕が風呂から脱出し、女性陣だけ風呂に残してきたわけです。
「なんだ? 私なら別に見られても気にしないぞ」
 サラさんはお風呂の中で笑ってますけど、今のスアがどんな顔をしているのか、想像するのも怖いので、とにかく服を着替えた僕は、巨木の家へと駆け足で戻って行きました。

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