パラナミオと その1
コンビニおもてなし本店で販売を開始した昆虫ゼリーは思った以上によく売れています。
単価的に安価な品なので利益がどどーっと上がったとまではいっていませんが、それでも昆虫族のみなさんの喜んでもらえたのはなによりだったと思うわけです。
ちなみに、この昆虫族さん達が組合から依頼されてやっている山の仕事というのがですね、
茂りすぎた木の余分な枝を伐採したり、落ち葉の量を調整して地面が適度に湿るように配慮したり冒険者が荒らしていった後を修復したり、と、非常に多岐にわたっているそうです。
「昆虫族が居を構えた森は、ほっといても栄えますので」
甲虫人のツンツクさんは、そう言って誇らしそうに笑っていました。
そう言えばですね、この昆虫ゼリーを販売していて面白い事が起きていました。
パラナミオが召喚した骨人間のことです。
骨人間は、日が暮れてから店を開け、店番を始めます。
そして明け方近くまで販売を続け、商品がすべて売り切れると店の窓をシャッターで閉め、店内を清掃して、最後店の片隅に体育座りをして休んでいます。
その後、次の営業までに裏の入り口から商品を補充しに持って行くと、骨人間はここで起きだして商品を受け取り陳列していきます。
ここまでの説明でおわかりかも知れませんが、この骨人間ですがパラナミオが最初に召喚した1体がずっと勤務してくれていたんですね。
まぁ、ずっと日が当たらない時間に販売員をして、日中はシャッターで締め切られた実の部屋の中でジッとしていますので、当然と言えば当然ですが。
で、今日の夕方、今夜販売する分の昆虫ゼリーを持って行ったところ、
骨人間が黒くなってました。
え? 何?
今朝まで、確か白い骨だったよね?
そんな骨人間が、全身真っ黒な骨になってて、僕もびっくりだったんですが、
「……存在進化してるわ、よ」
だそうでして……
まぁ、僕の感覚で言えば、経験値が溜まってレベルが上がってジョブチェンジした……みたいな感じでしょうか。
というわけで、この骨人間はですね
骨人間(スケルトン) → 黒骨人間(ブラックスケルトン)
へと存在進化していたわけです。
っていうか、店番してただけで存在進化ってのもすごいなと思ったんですが、
「……それだけ、術者が優秀、ということ」
スアがそう言いながら、パラナミオを優しく抱きしめました。
「え? そ、そうなんですか? パラナミオお役にたったんですか?」
スアに抱っこされて、パラナミオってば、またうれし泣きを……
もう困った奴だなぁ、とばかりに、それを僕が抱きしめ
かけつけてきた黒骨人間が、その上から抱きしめ、
さらに駆け寄って来たイエロや、セーテン、何故かヴィヴィランテスまで、と
タクラ家名物家族達の輪が出来上がったところでめでたしめでたしだったわけです。
スアによると
個体さはあるものの、最高で究極黒騎士骨人間(アルティメットブラックナイトスケルトン)にまで存在進化出来る可能性があるとかで、それを聞いたパラナミオが
「今日はシンカしましたか!?」
と、毎日実の店へ確認に行くのが日課の1つに加わった次第です。
このパラナミオの期待に応えて、黒骨人間は、黒骨人間改にまで成長しています。
なお、スアにこっそりと
「……スアって、究極黒騎士骨人間を召喚出来るのかい?」
そう聞いて見たところ、
「……出来るけど……出来ないことにして、ね」
そう良いながら、パラナミオを優しい笑顔で見つめていたわけです。
なんていいますか、さすがは僕の奥さんです。
ちなみに、パラナミオは、究極黒騎士骨人間と遊んでいる自分の絵を描きまして、これを夏休みの宿題にするそうです。
ちなみに、この骨人間達ですが、新たに地下の保冷倉庫の中でも5体働いてもらっています。
おかげでイエロ達が狩ってくる害獣の処理から切り分け、そして包んで保管する作業まですべてやってくれるようになったものですから、今までこの作業をほとんど一人でやっていた僕の負担がすごく減ったわけです。
なので
「パラナミオの骨人間達のおかげですごく助かっているよ」
そう言いながら笑顔でパラナミオを抱きしめると
「パラナミオ、お役になってますか! だったらすごく嬉しいです!」
そう言って、うれし泣きを初めてですね、
そこにスアが加わり
(中略)
タクラ家名物家族達の輪が出来たところでめでたしめでたしだったわけです、はい。
◇◇
パラナミオですが、最近はヤルメキスともとても仲が良いです。
もともと仲良しだったのですが、
「パラナミオちゃん、こ、こ、これよかったら食べて感想を聞かせてほしいでごじゃりまする」
と、ヤルメキスが試作したお菓子をパラナミオによく食べてもらっているから、というのもありそうです。
でもまぁ、パラナミオは何を食べてもすごくいい笑顔で
「はい、美味しいです!」
と元気に言ってくれるわけなんですが、ヤルメキスによると
「あ、あ、あ、あの笑顔で美味しいと言ってもらえると、て、て、て、店長に味見してもらうゆ、ゆ、ゆ、勇気が出るのでおじゃりまするぅ」
なんだそうです。
まぁ、確かに僕は店に並べるという観点で厳しめに見てはいますけど
「ヤルメキス、君がいままで作ったお菓子は全部美味しいよ。それは自信もっていいから」
そう、本当のことを伝えたところ
「ひ、ひ、ひ、ひょええええええええええええええええええ、な、な、な、なんたるありがたくお言葉をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
と、久々に壁にぶつかるまで高速後方でんぐり返りからの土下座を行っていくヤルメキス。
っていうか、ヤルメキスのことも家族同然だと思っているんだから、そんなに恐縮しなくていいってば。
そう伝えると、ヤルメキスは本当に嬉しそうな顔をするんですよね。
思えば、春の花祭りの裏街道で出会ったヤルメキスは、本当に苦労してたんだよな。
やっとの思いで手に入れた材料で、どうにかこさえたカップケーキもどきを売ってたのを、僕がたまたま見かけたのがきっかけだったわけです、はい。
今ではそのカップケーキもどきも、立派なカップケーキに進化し、コンビニおもてなしの主力商品の1つになっています。
何より、オルモリーのおばちゃまを始めとするヤルちゃま親衛隊が組織されてることでも、それが実証されているわけです、はい。
そんなヤルメキスが、パラナミオと仲良く話をしている姿を見ると
なんだか、本当の姉妹みたいに思えてくることがあるんですよね。
2人とこうして縁があった僕なわけですから
スアも含めて幸せにしていかないとなぁ、と強く思っている僕なわけです。
そんなことを思っていると
「ダーリン、アタシもしあわせにしてほしいキ」
と、セーテンが突っ込んで来たんですが、
即座に小転移で僕の横に出現したスアが、その顔面に
「……この猿」
そう言いながら雷撃を……
え~、スアさん
あなた妊婦なんですから、もう少し自重をしてだね……
「ダーリン、こっちも心配してほしいキ!」
「お前は自業自得だろうが!」
とまぁ、そんなやりとりが日常化しているわけです、はい。
そんなある日、
パラナミオを尋ねてふらっと1人の女性が現れました。
ん? この人どこかで……
そう思っていたら、あぁ!? 思い出しました。
辺境小都市リバティにお住まいのサラマンダー・サラさんです。
以前、イエロ達が辺境都市バトコンベってとこの大武闘会に参加したときに会ったんですよね。
なんでも
「サラマンダーの仲間に会えるとは思わなかった」
って、パラナミオを見てすごく喜んでいたんだっけ。
サラさんは、かなり長身で、かなりなナイスバ
「……あなた?」
い、いえ、何でも無い……うん、何でもないってば、スア。
「少し長いお休みをもらったので、約束通り会いに来た」
そう言って笑うサラさん。
パラナミオは、そんなサラさんに、
「サラさんも、パラナミオと同じサラマンダーなんですよね……エヘヘ」
と、嬉しそうです。
お姉さんが1人増えたって感じみたいです。
で、このサラさんですが、日中はパラナミオと遊んでくれて
そしてビアガーデンが開店すると、あのイエロ達酒飲み娘48に違和感なく溶け込み、朝まで飲み明かしていました。
なんか、しばらく賑やかになりそうです、はい。