肉まんの季節に起きたこと その1
コンビニおもてなし本店の営業はいたって好調です。
先日猿人4人娘が抜けたことでどうなるかと思ったものの、
後に入ったパートの、魔王ビナスさんとカタツムリ族のテンテンコウが頑張ってくれているので以前と変わらない感じで仕事を進める事が出来ています。
ルアの武具が以前にも増して売り上げが上がっていたりもします。
サラマンダーであるパラナミオの鱗を使用した工具を作成し、それを使用しての武具作成作業を始めたところ、いままででも結構好評だったものが、
「おいおい、ルア工房さん、すごく腕をあげたね」
「これは……王都の一流工房並み……いぇ、それ以上……」
と、さらなる高評価を呼んでいるわけです。
そんなわけで、食料品関連でも何か新商品を……と思いながら、去年の営業日誌を確認していると
『おでん・肉まんフェア初日』
の文字があったわけです。
……そうか、もうそんな時期か
僕は思わずうなりました。
なんといいますか……元の世界にいたころはそんなに不思議には思っていませんでしたけど
冬の風物詩のはずのおでんと肉まんって、毎年夏の終わりから販売してたんだなぁ……と
どこもかしこもがこの時期から販売開始してますんで、コンビニおもてなしでも右にならえでやってたわけですけど……あぁ、なんかそれも今では懐かしいなぁ、と。
まぁ、とはいえ、せっかくです。
とにかくやってみようと思い立ち、まずは肉まんの試作をやってみました。
すると
「て、て、て、店長殿? そ、そ、そ、それは新しいお菓子でごじゃりまするか?」
とヤルメキスが興味を示したので
「ちょっと違うけど、試しに一緒にやってみるかい?」
そんな流れで一緒に作成してみることにしました。
ちなみに
元の世界で、普通のコンビニが販売している肉まんって、だいたいは外注品を暖めてるだけなんですよね。
ですが、コンビニおもてなしではすべて店で手作りしていました。
てなわけで、僕としても体が手順を覚えている感じです。
ヤルメキスに説明しながら、2人で作業をこなしていき、最後は中華鍋に水をはって、その上に蒸し器を乗せて蒸し上げていった結果。
はい、コンビニおもてなし特製肉まんの完成です。
……まぁ、別段特徴があるわけじゃないんですけどね
強いて言えば、味は決して他のコンビニの肉まんに負けていない……はず。
そして、食品添加物類を一切使用していないこと
この2つをですね、地味ですけど売りにしていたんですよね。
で、早速ヤルメキスに試食してもらったところ、
「ほほぉ、これはちょっと小腹が空いたときにいいでごじゃりまするね」
そう良いながら、もむもむと嬉しそうに食べています。
あぁ、なるほど
この世界では別に寒いから肉まん! 寒いからおでん! そんな習慣がそもそもないわけなんだから、コンビニおもてなしの思惑でやっちゃっても別にいいわけだ。
この肉まんにしても、別に時期にこだわらずに販売しても……
っていうか、そもそもこの世界って、冬があるのかな?
最近は元いた僕の世界の夏並みに熱いので当然冬もあると思いこんでいたんだけど……
そう思ってスアに確認してみたところ
「……そうね、冬はあるよ、今よりは寒い、よ?」
とのことだった。
「じゃあ雪とかも降るのかな?」
そう聞いていたところ
「ユキ? 何それ? カガク? ねぇ、カガクなの!? 教えて旦那様」
と、まぁ、すごい勢いで食いつかれたわけです、はい。
その後、みっちり1時間使ってスアに雪を説明したんだけど……
まさか、まず大気中の水蒸気が……ってとこから話をする羽目になるとは思わなかったわけです、はい。
ちなみに、この世界にも雪らしきものが降ったという記録はあるそうなんだけど、やはり珍しいようで、冬の寒さも、話を聞いたところ日中の気温が、まぁ、15度くらいまで下がる感じかなってところのようです。
ちなみに、今の夏の暑さですけど、暑い日でもだいたい日中30度までしかあがらない感じで、しかも湿気がすごく少ないもんだから、とても快適に過ごせるわけです。
元いた世界の夏って、湿気でじめじめしまくってた上に、平気で35度越えてましたからねぇ……
僕が元いた世界にお住まいの皆様は、今頃いかがお過ごしなんでしょうかねぇ。
さてさて、そんな会話を交わしたりしながらですね、
とりあえず肉まんの試験販売を思い立ったわけです。
まずは倉庫の奥で眠っていた肉まん蒸し器を引っ張り出します。
綺麗に掃除して試運転……うん、大丈夫そうです。
で、
作成した肉まんをこの機械にいれて蒸し上げていくんですけど……ここで僕は思わず腕組みをしたわけです。
いえね
元いた世界でも、この時期販売する肉まん類ですごく困っていたのが廃棄処分です。
肉まんは蒸しますので、
あまり長時間機械の中に入れておくとべちゃべちゃになってとても食べられない状態になってしまいます。
店としては、ちょうどばっちりなタイミングで、すべての肉まんが売り切れてくれるのが理想ではありますが、そんな奇跡みたいなことは滅多におきません。
今回、この世界で肉まんを販売するに際しても、この廃棄に関する問題は検討しておかないと……と思っていたんですけど。
……試験販売初日
「な、なんだこれ? 中に肉が入ってる!?」
「じゅわっとしてうまいじゃない」
「もっとだ、もっと買うぞ」
と、まぁ、準備していた20個の肉まんは、蒸し上がった直後に完売しました。
えぇ……元の世界では、奇跡だと思っていたことが、あっさり起こったわけです、はい。
で、この顛末を体験した時に思い出したのが、この世界で弁当販売を始めた当初のことでした。
と、いうのも
その時もですね、弁当の廃棄問題を最初すごく気にしていたんですよね、僕。
その頃って、元の世界からこっちの世界に転移してきたばっかりの頃だったもんですから、やっぱ売れ残りにすごく過敏になってたわけです。
なにしろ倒産寸前の状態だったんですからねぇ……
で、まぁ、すごく心配しながらも手探りでやっていったわけですが
弁当は毎日すべて完売
一緒に作ったパンやサンドイッチも全て完売していったわけです。
そのため、売れ残り対策を考えないと、と、思ってはいるんですけど、今のところその必要がない……そもそも売れ残りが出ない状態なんですよね、今のコンビニおもてなしって。
なので、まぁ
この件に関しては改めて検討するということで、一時保留ということで。
◇◇
さて、そうこうしている間に、別の問題が発生しました。
今、ウチのコンビニおもてなしは
本店
ブラコンベの2号店とビアガーデン
ブラコンベのコンビニおもてなし食堂・エンテン亭
魔法使い集落のコンビニおもてなし3号店
これ以外にも、ララコンベの温泉集落にも肉類を卸売りしていて、その見返りとしてカウドン乳類を入荷しているんですけど
「種類が多すぎるわぁ!? こんなの覚えきれないわぁ!?」
と、荷物運搬業務を一手に担ってくれていたハニワ馬~元レアななんとかユニコーン~が、オネエ言葉で大爆発したわけです。
一応、紙にまとめてはいたんですけど
背に乗せたり魔法袋に詰めたりしていると、紙をみてもよくわからなくなることがあったみたいです。
で、ここにさらに肉まんを追加しようとして、大爆発が発生したわけです。
しかしまぁ、
これは確かに改善すべき案件だよなぁ、とは思ったわけです。
ヴィヴィランテスは、あっちに行ってこっちに行って、で、次はここで商品を受け取って、それを、あっちに配り、こっちに配り……といった作業を全部1人でこなしてくれていたんですよね……なんかやってくれるのが当たり前になってたところがあって、店長としても心苦しい次第です。
「ヴィヴィランテス、本当にすまなかった」
僕が頭を下げると、ヴィヴィランテスは
「い、いえ。そこまできっちり謝罪されたらぁ、アタシとしても立つ瀬がないじゃないのさ」
と、一応許してはくれたみたいでして……僕としても安堵しきりだったわけです。
とはいえ、
これに関しては早速手をうたないとな……
夜、寝る前に机に座ってあれこれ考えていると
そんな僕にスアがお茶を出してくれました。
「……無理しすぎはダメ、よ」
そう言ってニッコリ笑うと、スアは僕の横にイスを持って来て座ります。
「……今回は、何が問題、なの?」
スアは現在妊娠中
悪阻も始まっていて~って、これは自分で作っちゃった改善薬で絶賛沈静化してますけど
とにかく、あまり店のことで手間をかけたくないと思っていたのですが。
「……そんなこと、気にしないで、ね。家族、よ」
スアはそう言ってニッコリ笑ってくれました。
元の世界にいた頃の僕は1人でした。
1人でずっと悩んでいましたけど
今の僕にはこの笑顔があるわけです。
「あのさ……」
僕は、紙を取り出すと、それにあれこれ書き込みながら、スアに相談していきました。