デュラハンさんは恥ずかしがり屋 その3
「で? おんどりゃあこのやろう=デュラハン=ンでもって変態6世殿がどうかしたでござるか?」
しれっと人の名前を豪快に間違えているイエロに、
「オルドリアーナクォノアロウ=デュラハン=ンデオッテエンダイー6世さんだろ? おとなしくオデン6世さんって言っときなさい」
そう話をしたところから本題です。
ここまでの現状を確認すると
・オデン6世さんは夜から朝まで夜中の間中街の警護をして回っている
・午前中は2つある街の門のどちらかに立って衛兵仕事
・で、仕事が終わったお昼にコンビニおもてなし本店へ
・ルアが、というか、ルアの工房がよく見える位置に自分の首を置きたがる
・コンビニおもてなしの本店の閉店間際に帰って行く
「オデン6世さんって、ビアガーデンには来たりしないのかい?」
「どうでござったかな……いたようないなかったような……開店直後は我らもバタバタしておりますでなぁ」
僕の質問に、イエロは腕組みして考えている。
……しかし、いつも思うんだけど、なんでイエロは、ござる言葉なんだろうなぁ
見た目は普通の女の子っぽいんだけど。
「そんなにおかしでござるか? 拙者の兄上も姉上もこのような口上ですので、別段おかしいなどと思ったことがござらんかったのでござるが」
と、イエロの家族構成が少しわかったところで、この話題はおいておいて、
まぁ、どっちにしてもオデン6世さんが、あそこに首を起きたがる理由を探って、なんか手をうたないと……と思う反面、首だけ置いて行くんなら別にいいかと、心のどこかで妥協し始めている僕もいるわけなんですが、
クイクイ
そんな相談をしている僕らの横に、いつのまにかスアが寄ってきていました。
スアは、小首をかしげながら僕の服を引っ張って
「……問題、なの?」
そういいながら首をひねりました。
「スア、休んでなくていいのかい? 悪阻ひどいだろ?」
僕が慌ててスアを抱き上げ、そのまま巨木の家に連れ戻そうとすると……
って、これ、見る人が見たら幼女連れ去りの現行犯だよな……なんて思っている僕に、
スアは1本の飲み薬を見せてくれました。
ラベルも何も張られてはいないものの、その瓶はスアが自分専用にデザインした瓶です。
「……悪阻……道との遭遇……体の状態、胎児の状態、それにともなう体と精神のゆがみを測定し、そこ……
このあと、10分近いスアによる専門用語を交えた大解説が続いたのち、
……その結果、生成に成功した、母胎にも胎児にも無影響の、悪阻改善薬、なの」
まぁ、つまり
スアは、自分が初めて体験する悪阻にまで、その知的探究心を向けてですね、
その結果、悪阻を治す薬の開発に成功し、その薬のおかげでやっとあのケロケロ地獄の、トイレは友達状態から開放されたそうでして。
で、そんなスアに、これまでの状況を簡単に説明。
「……ってなわけで、最近デュラハンのオデン6世さんって人が魔女魔法出版の棚のあたりに立ち尽くしててねぇ」
んで、僕の話を、僕に抱っこされたままフンフンと聞いていたスアは、おもむろに手を窓の方へ向けた。
で
次の瞬間、
さっきまで窓だった魔女魔法出版の本の棚の後ろが、一瞬にして壁になったわけで。
「……これで、向こう見えない」
そう言い、右手の一差し指をグッとたてるスア。
「さすがスア様! 目の付け所が鋭いです。さすがは師匠! このブリリアン心から尊敬します」
「……あ、師匠、違う」
ブリリアンの賛辞に、正すべき場所にしっかり突っ込むスアですが、
……うん、そうね、確かにこれで問題は解決かもしれない。
そう思っていると、僕に抱っこされたままのスア。
ドヤ顔しながら僕の顔をみつつ
「……ご褒美」
そう言いながら、口をん~っと伸ばしてきましてですね
で、横を見ると、
イエロやら、ブリリアンやら、ヤルメキスまでもがジッと見てるわけでして。
で、僕は慌ててスアを巨木の家へと運びつつ、人気がなくなったところで
ちゅ
と、まぁ、ご褒美をば……
◇◇
さて翌日昼過ぎ
いつものようにやってきたオデン6世さん。
今日も律儀に甲冑姿から、冒険者風の服に着替えてやってきています。
んで、そのままいつものように魔女魔法出版の書籍が置いてある棚の場所に。
んで、その棚の上に布袋に入った自分の頭を起きました。
……が
体を使って、その位置をずるずると右へ動かしていきます。
そりゃそうですよね、
昨日まで窓だった場所が壁になってるんだから、昨日と同じ位置に頭を置いても昨日までと同じ光景は見えないわけで……
で、
ついに魔女魔法出版の棚がなくなった。
そっからはルアの工房が作ってる武具コーナーなんで、棚はない。
……するとオデン6世さん
見るからに慌てふためきながら
もう一回魔女魔法出版の棚に頭を置き直しては、慌て
また、置き直しては、アタフタしているわけで
あぁ、まぁ、なんていいますか、ある程度予期はしてたんだけど
ここまで予期通りに慌てふためかれると、なんかちょっと良心の呵責といいますか……
僕が、慌て続けているオデン6世を見ながらそんなことを思っていると
「あぁ、この人かい? 最近タクラさんとこに出没してるデュラハンさんって?」
そんな店内に、自動ドアをくぐってルア登場。
「いやさ、昨日のビアガーデンのときにイエロから聞いてちょっと気になって来てみたんだけど……」
ルアは、尻尾をひらひらさせながらオデン6世さんの方へと歩み寄っていくと
「あんたなんで毎日ここに来てんの? ダメだよお店に迷惑かけちゃ?」
ルアがそう言うと、オデン6世さんはなんか体をギクシャクさせながら
「否……応……誤……」
顔部分からは、例によって単語だけの会話を発し続けているわけで、
あぁ、あれでもうちょい話をしてもらえたらなぁ、僕が思っていると
「え? 何? 『店に迷惑をかけているとは思っていなかった。すごく申し分けなく思う』って?」
ルアの言葉に、何度も頷くオデン6世さん。
って、
「えぇ!? ルア、オデン6世さんの言葉わかるの!?」
驚く僕。そんな僕の後方では、ブリリアンとヤルメキスもびっくりしてる。
そのヤルメキスにいたっては、「ひょえええええええええええええ」とかいいながら、おそらく高速後ろでんぐり返りしながら厨房の方に転がっていったな、おいってのがよくわかる状況です。
「あぁ、まぁ、なんとなくだけどね、よく見てるとなんとなくわかるもんだよ」
そう言ってニカッと笑うルア。
そ、そうなの?
僕は、ルアに言われて、しばしオデン6世さんを凝視。
……
「ふんふん『そこのとこから窓の外を見るのが日課だった』って、あんたそりゃダメだよ。この店は食堂じゃないんだから、居座っちゃだめだよ」
……
「『だからいつも1品買って帰ってた』って、そりゃお詫びにもなんないって。そもそも居座るのが迷惑なんだと自覚しなきゃ」
……すいません、ルア姉さん
僕、オデン6世さんが何いってるのか、さっぱりわかりませんけど?
言われたとおりしっかり見てたんですんけど……
そう困惑しきりの僕に、ルアはオデン6世さんとの話の合間に僕を見ると
「あぁ、まぁ、そう言う日もあるかもね」
と言って、ニカッと笑った。
……え? そ、そいいうもんなのか?
困惑に我をかけている僕の前で、ルアは、さらにオデン6世さんとの会話を続けています。
「で、なんでそこにこだわるの? そこでなきゃならないことって何さ?」
「いや、黙られちゃわかんないじゃん」
……
「は!?」
……
「ちょ!? ぶ、ぶぁか!? 何いきなり言いだしてやがんだこの!」
…… …… … ……
「あ、あ~……い、いや、そりゃまぁ、そう言われて嬉しくないわけじゃないけどさぁ」
……
「……と、とにかくだ! そういうことなら、この店にはもう来るな」
!?
「あぁ、違う違う、そういうことならアタシの工房の中で見てりゃいいだろって話だ。気が向くんなら手伝いしてくれてもいいんだしさ」
!!
ここでオデン6世さんは、すっごくうれしそうに飛び跳ねたかと思うと、ルアの両手を掴んで上下に振り回していきます。
言葉で聞くとなんか微笑ましい光景ですが
……想像してください。
胴体部分だけで2mはあろうかっていうデカい体がですよ? JKばりに飛び跳ねて喜んでるんですよ?
僕達一同が唖然として見つめている中
「と、とにかく、すぐ移動するぞ、ほら」
ルアは、なんか頬を赤くしながらオデン6世さんの先に立って店を出て行こうとします。
「……で、ルア、結局理由はなんだったの?」
そう僕が聞くと、ルアは顔を真っ赤にして
「そんなこっぱずかしいこと、アタシの口から言えるかぶぁか」
そう言いながら自分の店に戻って行きます。
その後を、オデン6世さん、なんか嬉しそうにスキップしながらついていきます。
言葉で聞くとなんか微笑ましい光景ですが
……想像してください。(以下省略
で、結局何がなんやら……と思っているところに、スアがひょっこり現れました。
スアは、僕にそっと紙を手渡します。
ん、どれどれ……
開いたその紙には……スアが魔法で聞き取ったらしい、2人の会話の内容が書かれていて……
って、スアもあの言葉がわかったっての!
で、まぁ簡単に内容をまとめると
この街に到着したものの、言葉が通じず困っていたオデン6世さんを、たまたま通りかかったルアが助けてあげたらしい。
で、何かお礼をしたいと思うものの、恥ずかしくて声をかけるにかけられず、ひたすらルアの顔が見える場所から見つめ続けていた……と
なんか、その会話の中で、
「お美しい顔を拝見しているだけで幸せな気持ちに……」
とか
「いつも愛らしい瞳が……」
とかですね、会話の端々で、ルアのことをこの上なく褒めまくる言葉が添えられていたわけです。
そこらが、むずがゆかったんだろうなぁ、ルア。
綺麗とか美しいよりも、格好いいって言葉が一番しっくり来る姉さんだしねぇ。
でもまぁ、これでオデン6世さんが僕の店からルアを見つめ続けることもなくなるのかな、と、思うとどこか安堵だったわけです、はい。
「……役に立った? ねぇ」
スアが、僕を見上げながら聞いてきます。
僕はスアににっこり微笑み
「うん、すごく助かったよ」
そう言うと、スアは、
「ご褒美」
といいながら、ん~っと口を……
……なんて言いますか、年齢数百才の伝説的魔女がですね、こんなに可愛くていいんですかね?
僕は大歓迎ですが?