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デュラハンさんは恥ずかしがり屋 その2

 え~……

 連日店の一角に居座ってたデュラハンを注意したら、布袋に入った首だけ置いて行かれてしまったコンビニおもてなし本店店長の、どうも僕です……

 「て、て、て、店長殿、あれあのままにしておいて、い、い、いいのでごじゃりましょうかぁ!?」
 レジの中でヤルメキスが、わなわなしながら僕に聞いてきます。
 いや、いいわけがありません。
 う~ん、しかし……肝心な体だけは出ていちゃってるわけだし話をしようにも……

 そう考えた時

「あ、そっか……あれ、頭なんだから話は出来るか……」
 そうだよね、うん。
 僕は、レジの中でウンウンと頷くと
「よし、ちょっとあの頭に事情を聞いてくるよ」
 そう、ヤルメキスに言いながらレジを出た……

「店長殿、本の棚の上にあったこの布袋、なんでござる?」
 ……ところ、狩りから戻ってきたばかりらしいイエロが、右手に布袋を持って立っています。

 んで、僕・ヤルメキス・ブリリアンの3人が、ハッとなって視線を魔女魔法出版の書籍コーナーの棚の上へと向けていくと……


 はい、ありません。


 おいおいおい、それ持って来たらやばいんじゃないの!?
 一応ほら、それ、体と精神がつながってるはずだし……

 なんて思ってたら案の定、大慌てしながら走ってくるデュラハンの首から下の胴体部分が、店の中へと走って来ました。
 すると、それを見たイエロ
「おや? オデン6世殿ではござらぬか、今日甲冑は脱いでおられるのでござるな」
 そう言いながら、その胴体に向かって笑いかけていますが

 え? オデン6世?

「あぁ、このデュラハン殿でござるが最近村の衛兵の1人として主に夜勤で働いておられる、
 『おんどりゃあこのやろう=デュラハン=ンでもって変態6世殿』、
 あまりに名前が長いので、『オデン6世』殿と呼ばせて頂いているでござる」
 そう、僕らに紹介しながら笑っているんだけど、

 えっと……イエロ?

 なんかデュラハンさんの胴体が、右手を一生懸命動かして
「違う違う、そうじゃ、そうじゃない」みたいな動きをしてんだけど?

 すると、イエロが持ってる布袋の中から

「……オルドリアーナクォノアロウ=デュラハン=ンデオッテエンダイー6世……オデン6世」
 って、ボソッと声が聞こえたんだが?

 するとイエロはその布袋を自分の顔の前まで持ち上げると、
「あぁ、なんだ。この首、オデン6世殿でござったか、ダメでござるよ、忘れていっては」
 そう言いながら、その首を無いごともなかったかのようにデュラハンの胴体に手渡していくイエロ。

 まぁ、素性がわかって安堵したというか、
 そういえば、組合のエレエが「一晩中警邏出来る衛兵さんを雇えたんですです」ってこないだ言ってたけど、それがこの、おんどりゃあこの……って、イエロ、お前が妙にインパクトのある間違った名前言ったもんだから、そっちで脳内に登録されちゃったじゃないか!
「何を言われます主殿、大して違わないでござる」
 そう言って笑うイエロなんだが、デュラハンのオデン6世さん、やっぱり右手を左右にふって、違う違うそうじゃ、そうじゃないポーズしてんだけど?

 で、まぁ、そのオデン6世さん。
 
 イエロから返して貰った、自分の首入り布袋

 それを持っておもむろに店の奥へと移動していくと、その布袋を魔女魔法出版の本の棚の上に、念入りに固定し、そして、胴体部分だけはそのまま店の外へ

「ちょっとお待ちください! オデン6世さん!?」
 僕は思わず声を裏返らせながらオデン6世さんの胴体を呼び止めた。

 一応、首の方にも聞こえたみたいで、胴体は店を出る寸前で立ち止まった。

 んで、僕は改めて魔女魔法出版の本棚の上に置かれているオデン6世さんの頭の入った布袋をむんずと掴んで……


 ガシィ!


 ……そ、それをオデン6世さんにお返ししようとしたところ、オデン6世さんの胴体部分がすさまじい早さで僕も元にかけよって来て、僕の両手を押さえました。

 そこに、この頭を置いておいてください、と言わんばかりの勢いで


……いや、もう、僕としてはもう、だからその手を離してよってな具合でオデン6世さんの胴体を見つめているわけですけど……あ、この場合布袋に入っている頭の方を見ないといけないのかな?

 なんて思いながら、僕は視線をオデン6世さんの頭の方へ向き直りました。


 すると、
 ちょうどオデン6世さんの顔の向こう……その視線の先が見えたんですが、

 店の前は、街道です。
 んで、その向こう……通りの対面には、猫人のルアが営んでいる工房があるわけです。


 元は工房兼武器屋だったんですけど、最近は店を工房だけにしちゃって、販売は全部コンビニおもてなしで委託販売しているんです。 


 で、そのルアの工房の窓があって、
 そこから、ルアが作業しているのがちょうど見える位置だったんですよね、ここ。

「……あれ? ルア?」
 僕が思わず呟くと、オデン6世さんの顔と胴体が同時にビクッとしていきます。

 ん?

「ルア?」
 僕がもう一度そう言うと、オデン6世さんの顔と胴体、再度びくびくっとしていきます。

 するとオデン6世さん
 頭の入った布袋を小脇に抱えると

「……内密……請」
 そう言いながら、何度も上半身をぺこぺこさせながら、まるで逃げるように店から出ていっ……

 ……ったと思ったら、慌てて戻ってくると、スアビールを1本買ってから帰っていきました。

 ……一応、品物を買って帰るのは忘れなかった律儀なオデン6世さんですが。

 
 状況を整理します。
 いつも店の一角に立っていたデュラハンのオデン6世さん。
 そこからは、ちょうど向かいの工房のルアの姿が見えました。
 んで、それを指摘されると、なんかびくっとしながら、内密を請い願った、と。

 これらから察するに、オデン6世さんは……

「はは~ん、ルア殿の鍛冶の技術を盗み取ろうとしているでござるな? オデン6世殿もなかなかに抜け目がないでございますな」
 イエロは腕組みしながら、なんかウンウン頷いています。

 で、
「当然そうですよね、私は最初からそうだと思っていましたよ」
 と、ブリリアンが、なんかドヤ顔しながら頷いてます。

 って、お前、
「新手の嫌がらせに違いありません、すぐ駐屯地のゴルアさん呼びましょう」
 って言ってたのはどこのどいつだよ!

 んで、ヤルメキスは
「せ、せ、せ、僭越ながらですね、や、や、や、ヤルメキスは思うのですが、オデン6世様はですね、技術云々ではなくてですね、きっと……」
「あ~らヤルちゃま、お仕事ご苦労様ぁ、今日もヤルちゃまのすうぃ~つを買いに、オルモリーのおばちゃまがやってきましたわよぉ。ささ、ヤルちゃま、おばちゃまに今日のお勧めすうぃ~つを……」
 なんか、いきなり来店してきた、ヤルメキスのスイーツの熱烈愛好者のおばさまに連行されていった。

 とにかくまぁ、
 事の真相はともかくとして、オデン6世さんには、次に来た時に直接話を聞いて見ようとは思っているんだけど

 とはいえオデン6世さんって、お話しようにも一言ずつしか言葉をはなさいもんだから、なかなかその意図がわかりづらいんだよなぁ。

◇◇

 で、今日の仕事が終わったところで、僕は用事があったので組合へ
 そこでエレエに、このオデン6世さんのことを少し聞いてみた。

「あのオデン6世さん、すごくよく働いてくれていますですです。
 最初はブラコンベで衛兵してたそうなんですけど、こっちが良いと言っていきなり移動してこられたんですですよ……お給料もブラコンベの方が少し良かったのにねぇ」
 とのことで……

 まぁ、察するに、悪い人じゃなさそうだ
 強いて言うなら、シャイなあんちくしょうとでもいいますか……

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