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ララコンベの温泉 その3

 一応、温泉宿は完成した。
 店員の方も、宿の完成を聞いて戻ってきた数人の元従業員を加えてなんとかなりそうです。
「さ、きりきり働くのよ!」
 と、女将補佐のブリリアンが一番気合いが入っています、はい。

 ブリリアンの場合
 スア関連の仕事を頼んだ時以外は非情にやる気がない素振りを見せることが多いのですが、
 一度引き受けると、どんな仕事でも頑張ってくれるので非情に助かっています。

 なので、スアにも
「たまにでいいから、スアに手ほどきをしてあげてくれないか?」
 とお願いしているんだけど、スア曰く
「……ブリリアンはね、そもそも魔法の素質がな……
 はいすいません、これ以上は僕、何も聞かなかったということで、はい。

 街道も、どうにか粗悪な土製だったところに石畳を張り巡らせたわけなんだけど、本当ならこれ、王都にやってもらいたかったんだけど、辺境のこういった事案を受け付けている辺境駐屯地のゴルアに確認したところ
「まっとうに申請していたら、おそらく許可がでるのに4,5年はかかりますよ?」
 とのことだった。

 というのも、パルマ国の領土は非常に広大なため、辺境に行けばいくほど、その陳情が受諾されるのが遅くなるのが通例らしく……この世界でも、地方ってのは冷遇されてるんですねぇ
「いっそ、整備していただいて、費用を王都宛てに請求してくだされば、私が王都へ費用請求しておきますが?」
 ゴルアがそう言ってくれたので、その方法を取ったわけです。

 ただ、問題になったのが、いくら請求しようかなぁ、ということで……

 石畳に使用した石は街道に転がっていた物と、ゴルアに聞いた自由採取が許可されてる山から運び混んだ石なので、実質人件費しかかかっていないわけです。
 その人件費にしても、全員スアの使い魔の皆さんのため、それなりに報酬を支払おうとしたんだけど
「スア様と、その旦那様のお手伝いが出来たという栄誉だけで満足です」
 と言って、絶対に受け取ってくれなかったんだよなぁ……

 仕方ないので、コンビニおもてなしのバイト賃金を2割増しにして

 バイト賃金×参加した使い魔数×工事期間

 と、まぁ、そんな感じで算出した書類を、コンビニおもてなしの請求書でゴルアに渡しておいたんだけど、これって、工事施工業者名簿とかあったりするのかな? とか、提出した後であれこれ考えたんだけど、まぁ、使い魔のみんながすさまじく張り切って切れたおかげで、数日で終了した作業ですので、費用対効果はすさまじくよかったはずですから、よしとしてもらおうと思っています。


 ちなみに、カウドン乳シリーズですが、これはコンビニおもてなし各店でも扱うことにしました。
 と、いうのも、イエロ達が張り切ってカウドンの雌を捕縛しまくってくれた上に、スアが、自動搾乳機やら、自動成分調整期といって、いわゆる、ただのカウドン乳・コーヒーカウドン乳・フルーツカウドン乳を自動で材料を投入して作り、なおかつ木樽詰めまでしてくれる機械を作製してくれたおかげで、少人数で大量生産することが可能になったわけです。
 これは、コンビニおもてなしに卸売りしてもらう形にしたので、街財政が困窮しまくっているララコンベに、多少ではありますが、安定した収入源を作る事が出来たことになるので、まぁ、よかったかなと思っています。
 その代わり、スア製の機械代や、木樽代は当然支払って貰います。
 木樽代は、カウドン乳代と相殺し、スア製の機械代は、ララコンベの収入が安定したら、カウドンの飼育施設や、宿の改修費などと一緒にまとめて、後で支払って貰う事にしていますけど、とにかくララコンベが再生しないことには、僕としても、コンビニおもてなしとしても困るわけです、はい。


 と、いう感じでどうにか形になってきたララコンベですが
 街の入り口にある物見櫓から街の中を見渡して見ると……


 すっごく閑散としてます。


 なんと言いますか、
 温泉宿だけど、こう、ど~んと鎮座ましましていてですね、その他の地区の寂れ具合が、もう半端なく際だって見えてしまっているんですよねぇ……

 実際に、温泉周辺だけにでも商店とかを誘致して賑やかな感じにしてほしいと、組合のペレペには伝えていたんだけど
「……すいません、やはりただでさえ寂れているララコンベですので、なかなかいいお話がまとまらないのですよ……」
 と、ペレペ、半泣き状態だったんですよねぇ……

 僕としては、温泉作りと一緒に、街作りも勧めていって、ララコンベの街全体が少しでも賑やかになっていってくれたらと思っているだけに、かなり悩みどころなわけです。


 そんなことを考えながら温泉宿へ戻っていくと、


 ん?

 何やら、ララコンベの住人である鬼の人達が、温泉の裏で何かやってます。
 ちょっとのぞいてみると、スアビールの空樽を並べて、それに向かって石を投げて遊んでいました。
 話を聞いてみると
「鉱山時代からさ、休憩時間とかにこうやって的当てをして遊んでたんだよ」
 そう言って笑っていました。

 鬼の皆さんが的当てねぇ……ははは(乾いた笑い

 でも、どうだろう。
 いっそ、この方向で行ってみたら……

 んで、僕はすぐにペレペの元に戻ると、
「温泉宿の周辺に、娯楽施設をつくって見ないか?」
 と提案したわけです。

 娯楽といっても、成人向けのあは~ん、や、うふ~んな物ではありません。
 違いますから、スアさん、背中をつねらないでください。
 この店では、ボールを投げての的当て
 この店では輪投げ
 そんな感じで、昔の遊園地の娯楽施設の中にあった、体を使って遊べるゲーム的な物を開放型の店舗で展開してみたらどうかなと思ったわけです。

 どうせ今のままでは、入居したいって店もないわけですし、
 温泉宿は、目処がついたので早くオープンしたいし
 
 と、まぁ、
「そうですね、何もしないよりいいですから、やっちゃいましょう」
 となったわけです。

 んで
 最終的に、
・的当て
 鬼の人形を設置し、腹と口にボールがはいったら、鬼が「うぉ~」と吠え
 10弾全部はいったら景品と交換

・輪投げ
 回転する台の上に景品を並べて、それに輪を投げ、完全に入ったらその商品を贈呈

 これに
・魔石の運搬に使用されていて、無駄に数が多い馬を利用した乗馬施設や
・カウドンの搾乳体験コーナー

 さらに
・カウドン専門店
 カウドン丼とカウドン乳シリーズを宿の外で味わえるお店
・常設の串焼き屋台
 宿で使用している肉を使用しや屋台

 と、まぁ、思いつく限りの店を並べていったところ、温とりあえず泉宿の周辺だけですがどうにか格好になった感じなわけです。

 ちなみに、カウドンぬいぐるみも絶賛準備中だそうで……ペレペも結構やる気です、はい


◇◇

 宿周辺の店の準備が、おおよそ整った4日後

 ついに、辺境都市ララコンベこと、『ララコンベ温泉郷』が営業を開始しました。
 正直、見切り発車も良いところですが、出来ることもだいたいやったし、もうあとはやってみるしかないだろう、と、ララコンベの皆さんを集めた会議でもそう結論づけられたわけです、はい。

 このララコンベには、周辺都市を結んだ定期馬車が運行しています。
 この運行は、ララコンベの組合が行っているので、利用者が多くなれば、それだけララコンベも潤うわけです。


 ちなみにですが
 コンビニおもてなしでも、このララコンベの馬車のチケットと、温泉の宿泊チケット、加えて、その両方のセットを販売しています。
 本来なら、割引販売とかするところですが、今のところ、各地の商店街組合と、このコンビニおもてなししかチケットの販路がないララコンベなので、今のところ定価売りにしています。
 一応、コンビニおもてなしで売れた分からは手数料として1割を店の取り分にさせてもらっているのっで、まぁ、コンビニおもてなしにも利益はあると言うわけです。


 さて、そんなララコンベの温泉宿ですが

 結果からいいます。

 初日、大惨敗です……
 
 宿泊客ゼロ
 温泉利用客42人

 ただし、温泉利用客42人のうち
  11人……コンビニおもてなし関係者
   6人……他都市の組合員
  25人……ララコンベの皆さん

 というわけで、外部からの実質的な利用者はありませんでした……はい

 と、まぁ、あまりのショックに、みんなでカウドン丼を肩を寄せ合って食べることになったわけです。

 そんな初日を受けて、
「こりゃまずいぞ」
 と思った僕は、コンビニおもてなし全店で「ララコンベ温泉郷オープンフェア」を急遽開催することにしました。
 具体的には
 カウドン丼弁当を期間限定で販売
 すでに取扱を始めているカウドン乳シリーズも、ララコンベ温泉郷製品としてアピール

 本店では、出店も出してアピールしたりしたわけです。

 その甲斐もあってか、初日散々だった客足ですが、徐々に増え始め、
 初めての週末だった昨日なんかは、温泉利用者が初めて100人を突破するなど、ゆっくりとですが客足は伸び始めているようです。

 後でわかったのですが
 このララコンベ温泉利用者の増加なんですが、イエロ・セーテン・ルアの酔っ払い娘神3が結構貢献していたそうです。
 
 と言いますのも
「いやぁ、ララコンベの温泉はいいでゴザル」
「命の洗濯キ」
「まぁ一度行ってみなって」
 と、ビアガーデンで飲んだくれているときに散々アピールしてくれていたおかげで、
「あの3人がそこまで言うなら」
 と、ララコンベを訪れ
「うん、あの3人が言うだけのことはあったな」
 と、まぁ、結構皆さん満足してくださって、結構な数のリピーターも発生しているようです。

 この世界って、
 ネットなんかありませんから、こういった酒場での飲みにケーションといいますか、情報伝達能力って、馬鹿に出来ないなと思ったわけです。

 これを受け、
 コンビニおもてなし2号店で営業しているビアガーデンでも
「ララコンベの温泉、いいですよぉ」
「ぜひ1度行ってみてくださいな」
 と、アピールを開始したところ、コンビニおもてなし2号店のあるブラコンベからの客も一気に増えたんだとか。
 ブラコンベは、ガタコンベより規模が大きいだけあって、影響力がすごいみたいです。


 これに加えて、ララコンベのみんなも勤勉に頑張ってくれているおかげで、温泉宿の評判も良く……これには、ブリリアンの奮闘のおかげがかなりあったということを、彼女の名誉のために付け加えておきます。
「……初めて、タクラ店長のことを尊敬した気がします」
 いや、ブリリアン、別にそういうのはいいから……とにかくお疲れさん。

 どうにか、ララコンベもこの調子で軌道にのっていってくれたらいいなぁ、と思う今日この頃です。


 ちなみに、我が家では
「パパ、お風呂上がりました!」
 と、元気に部屋に戻ってきたパラナミオが、台所へ直行し、魔法冷蔵庫からカウドン乳を取り出すと

 腰に手をあて
 グイっとカウドン乳を飲む

 という、健康習慣が根付きました。
 はい、僕も、パラナミオと一緒にお風呂に入った後は、腰に手をあてて、グイっとやってます。

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