夏の元気なご挨拶 その3
パラナミオが取り
イエロがさばきしウルムナギ
うちわを片手に焼くはタクラってな具合に、昔の人が似たようなことを言ってたような気がしないでもないんですけど、
僕は、いつもの焼いた肉入り弁当と同時進行で、うちわ片手にウルムナギの蒲焼き弁当を作ります。
もともと食べられていたウルムナギではありますが、この世界では細切れにしたのを野菜のごった煮に混ぜて食べるくらいしか調理方が無く、しかもこの方法だと非常に泥臭くまずいため、食べる魚としての認知度がそもそも低かったわけですが、
僕が、蒲焼きを持ち込んだところ、これがとても好評です。
すでに何十年にもわたってすり込まれているウルムナギへの先入観もあり、すぐには浸透していませんが、夏祭り以降も、時折店で試食を配ってくれているパラナミオのおかげもあり、徐々に売り上げはあがっているのですが、さぁ、ここいらから一気に勝負なわけです、はい。
僕は、通常販売分の弁当を作り終えると、
いつものタイミングでスアビール・タクラ酒・パラナミオサイダーの納品に、スアの使い魔の森からやってきたハニワ馬のヴィヴィランテス……あまりにもその姿が長くなってきているもんだから、ヴィヴィランテスがもともとユニコーンだったのを時折忘れそうになりながらも、とにかく一緒に、3号店の販売分を運んでいきます。
しかしあれです。
スアの転移ドアが常時店の壁に発生しているのって、本当に便利なんですけど、この戸をあけるだけで、右が2号店に、左が3号店につながっていて、その向かいの戸がスアの使い魔の森に直行出来る……前者は結構な遠方で、後者は異世界らしき場所なわけで、そんなところと行き来出来る扉を作れてしまうスアって、
「そうなんです。だからいつも私が言っているでしょう?
スア様は本当に素晴らしい魔法使いなのですよ。いいですか……」
……うん、スアの話題になると、必ず割り込んでくるスアの自称弟子のブリリアンが、ドヤ顔で語っていくわけです、はい……
んで、今日はこっからもう一仕事です。
「タクラ殿、こんなもんでいいかい?」
店の前から、向かいの工房の猫人ルアの声がします。
僕が出てみると、店の入り口脇に、石組みでかまど風の調理場が出来ています。
その横には、ちょっとした作業が出来るスペースと、弁当を置いて販売出来るスペースが併設されています。
今日から数日間、
ここでウルムナギの蒲焼き弁当を店頭実演販売するわけです。
それもあって、いつもより大目のウルムナギを、パラナミオと一緒に捕獲したんですよね。
んで
このかまどの中で僕は炭をおこしていきます。
ちなみに、この炭なんですけどこれはこの世界でも普通に買えます。木や木炭、石炭に加えて魔石が家庭内エネルギーの主流ですので、当然のように市場に出回っています。
この中では、魔石が一番高性能です。
煙も出ないし、専用の魔法具を使用すればボタンひとつでエネルギーの入切が出来ますから。
ただ、その分、やはり高価なため、木炭や石炭の需要もあるわけです。
ちなみに、この魔石の価格破壊をおこなっているのが、今のコンビニおもてなしといいますか、スアをはじめとする、コンビニおもてなし3号店のある魔女集落の魔法使い達なんですけどね。
で、ついでにもうひとつ言っておくと、従前の魔石売買をすべて牛耳っていたのは、王都出ふんぞり返ってる、上級魔法使いのお茶会倶楽部なわけです、はい。
まぁ、ぶちゃけ、あのお~っほっほっほ集団が売ってる魔石より高性能高品質な魔石を、だいたい10分の1以下の値段で売ってますんでね、コンビニおもてなしでは。
で、上級魔法使いのお茶会倶楽部の面々による
「この魔石は偽物よ!」
「この魔石はインチキよ!」
といった、匿名かつゲリラ的なネガティブキャンペーンといいますか、営業妨害をされまくっているんですけど、
「おお、確かにこれは粗悪品だ!」
として、上級魔法使いのお茶会倶楽部のやつらが売ってる魔石の方が売れなくなってるんですよね。
そんなことをやってるから、王都の魔法学校が、上級魔法使いによる授業を全廃して、魔女魔法出版による通信教育に切り替えようかって話もでたりするんだよ、まったく。
とまぁ、尻に火がつきまくって、すでに手遅れじゃないかってくらいな状況に陥っているとしか思えない上級魔法使いのお茶会倶楽部が、またぞろ何か仕掛けてこないとも限らないんですけど、こいつらスアが怖いせいでか、ちょっかい出すときは必ず2号店か3号店に仕掛けてくるんですよねぇ……ホント、そんなことする間には、魔法の力を磨きなさいってやつです。
壮大に話が逸れましたが
かまどに炭の火をおこした僕は、その上にバーベキュー用の網をのせ、その上にウルムナギを乗せて焼いていきます。
蒲焼き用に作ったタレを壺風の容器に入れて横に置いてるんですが
焼いて、壺のタレに漬けて、でまた焼いて……と
この作業を繰り返していると、あっと言う間に周囲に蒲焼きの美味しそうな匂いが充満していきます。
「ほほう、これはうまそうですな」
って、真っ先にお前が釣れてどうするかイエロ。
「これは試食を所望ですキ」
2番はセーテンかい!?
っていうか、2人ともついさっきまで夜通しビアガーデンを切り盛りしながら飲み明かしてたはずなのに、ホント元気だなと思うわけです。
ちなみに2人は、この後昼間で寝てから狩りに行き、戻ったら、ルアも合流して、そのままビアガーデンに入り浸り、そこの管理をしながら飲み明かすという……え~、なんだかよくわからない生活を送っているわけですはい。
んで、イエロとセーテンに出来たての蒲焼き弁当を店先で食べてもらったわけです。
「うむ!」
「キ!」
と、すでに蒲焼き弁当の味をよく知っているはずの2人なんですけど、出来たてほやほやの魔力もあってか、すごい勢いでがっついていきます。
んでもって、
そのあまりにも美味しそうに食べていく2人の姿に、匂いにつられて集まっていた皆様
「お、俺にも売ってくれ!」
「私も買うわ!」
と、まるで堰を切ったように屋台に殺到してきました。
作戦、大成功です。
朝一からこの屋台には客が殺到し、行列が耐えません。
んで、しばらくすると
「パパ! パラナミオもお手伝いします!」
と言いながら、僕とおそろいのエプロンを着けたパラナミオが駆け出してきました。
パラナミオには、弁当のケースにご飯をもりつけてもらったんですけど、
「んしょ……っと」
と、たどたどしいながらも、1個1個一生懸命詰めていくパラナミオの姿に、行列のお客さん皆が、
「がんばれ!」
「その調子!」
と、固唾をのみながら声援を送ってくれました。
なんか、妙な一体感が出来ながら、ウルムナギの蒲焼き弁当店頭実演販売は、結局夕方まで客足が途切れることなく続きました。
◇◇
「ふい~」
今日は朝から晩まで立ちっぱなしだった僕は、今日は湯船にお湯をためて、ザブンと浸かっています。
この風呂は、本店2階の居住区にあるんですけど、太陽光発電による蓄電を利用した電気温水器の湯でまかなわれています。
……ホント、オール電化にしてよかったとつくづく思うわけです……おかげで、異世界に家ごと転移しても電気に困りませんから……って、そんな経験、僕以外まずしないですよねぇ。
んで、湯船で足を伸ばしていると
「パパ、パラナミオも一緒に入ります!」
といいながら、すっぽんぽんのパラナミオが、満面の笑顔で乱入してきました。
僕は、そんなパラナミオの髪の毛を洗ってやり
その間に、パラナミオは体を洗い
んで、洗い終わったら、頭から湯船のお湯を桶でざば~っと、
「ぷはぁ! 気持ちいいです!」
と、嬉しそうなパラナミオと、再度ゆっくり湯船につかる僕なわけです。
はたして、パラナミオがいくつになるまで、こうして僕と一緒にお風呂にはいってくれますやら。
でもまぁ、今は僕の前にちょこんと座って嬉しそうにしているパラナミオの頭を、何度も撫でておこうと思ったわけです、はい。
ちなみに
「……2人だけ、ずるい」
って、すっぽんぽんのスアまで乱入してきたのは、その数分後だったわけで。