夏の元気なご挨拶 その2
夕飯を食べた後、
僕、スア、そしてパラナミオの3人は家である巨木の家の脇に流れている川へとやってきました。
3人の頭上には、握り拳ほどの光の玉がそれぞれ浮かんでいて、周囲を明るくしており、この光のおかげで、夜ですが足元がよく見えます。
「お、頑張るでござるよ」
「気をつけてキ」
「しっかりな~」
そんな僕達を、いまだに営業中のビアガーデン切り盛りしながら、その売り上げにも貢献してくれている神こと、イエロ・セーテン・ルア達3人の声援を受けながら川沿いに遡っていきます。
スアは身重なのだが¥から家で待ってていいんだよ、というのですが、そう言うと
「……行く、の」
と、向きになって頬をぷぅ! と膨らませながらすり寄ってきます。
……うん、怒ってるはずなんだけど、なんですかね、このくっそ可愛い生き物ってば。
というわけで、僕はスアのすぐ横に寄り添いつつ、前を歩くパラナミオをしっかり見守るという、見た目以上に高度なミッションをこなしながら進んで行きます。
川をしばし遡ると、少し川が広がった場所へと出ます。
ここは、周囲を鬱蒼とした木々が覆っており、ちょっとした池じゃないかって感じになっており、川底には大きな石が折り重なるようにして転がっています。
ここが今夜の僕達の目的地です。
「……パパ、パラナミオはこのあたりがいいと思うのですが?」
僕の前を歩いていたパラナミオが、川の流れが緩やかな箇所を指さします。
僕は、そこを後方から確認すると
「うん、そうだね。その左にある岩のあたりに仕掛けてみようか」
そう言いながら、小脇に抱えてきている木の杭をパラナミオに手渡します。
この木の杭、直径10cm・長さ1mはあり、その上部に切れ込みを入れて荒縄がくくりつけられており、その先には釣り針と、餌のミミズもどきがセットされています。
この、針の先にセットしているミミズもどきが僕の小脇の後方でウネウネしているもんですから、スアが、腕に抱きつけないまま、いじいじしているのは、また別の話でして……
で、その木の杭を受け取ったパラナミオは、ズボンの裾を折々すると、ジャブジャブ水の中に入っていきます。
足元は、滑り止めがついている、ビーチサンダルもどきでして、この世界では一般的な水辺の履き物です。
しばし移動し、目的の場所にたどり着いたパラナミオは、杭を目当ての場所にあてがい
「よいしょ!」
そう言いながら、右手で杭を打ち込んでいきます。
え~、普通の人間なら、この時点で「あいたぁ!?」とかいいながら飛び上がるところなのですが、サラマンダーであるパラナミオは、その拳も固く、またパンチも非常に強力なこともあり、こうして腕力だけで大きな杭をどんどん打ち込んでいきます。
この調子で、最終的に6箇所に杭を仕掛けた僕達は
「よし、パラナミオ。明日の朝が楽しみだね」
「はい!! パラナミオ、早起きします!」
そんな会話をしながら帰路につきました。
んで、川を下っていくと、ほどなくビアガーデンの明かりが見えてきます。
暑さもなかなかではありますが、このビアガーデンは、川の脇ということで、心地よい風が吹き抜けています。
それに加えてのスアビールです。
そりゃ、杯も進むってもんでしょう。
そこに、我がコンビニおもてなしビアガーデンが誇る3人娘、イエロ・セーテン・ルアが、お呼びとあらば即お酌までしてくれるのです。
そりゃ、無理矢理にでも杯が進むってもんでしょう。
なお、肉焼きなどの食い物系は、ここではルアが、飲みながら対応してくれています。
最近は、僕がお試しで作っている極太ソーセージ焼きや、プラントの実で増産中の焼きトウモロコシなんかも人気メニューになっています。
お客のお金の精算なんかは、酔っ払っているように見えて、セーテンがビアガーデン内のお客の会計を脳内で全部把握しており、お帰りの際にきっちり精算してくれています。
イエロは、主に力仕事担当で
酔っ払って眠ってしまった客を、
「では、送ってくるでござる」
と、肩に担ぎ上げて自宅まで運んでいきます。
すでに、イエロは。この街の住人の顔と家なら全て把握していますので、ばっちりなわけです。
んで、見覚えのない顔の者は、おそらく旅行者か流れの冒険者なので、そのまま馴染みの宿へ放り込みます。
もちろん、その際、懐の財布から代金分は差し引かせて貰っているのですが、これもまぁ、客と店に信頼関係が成り立っているからこそなわけです、はい。
よく考えたら、1名向かいの工房の人間が混じっていますけど、まぁ、そこは深く考えないことにして。
「お疲れでござった。明日は大量だといいですな!」
「きっと大量キ」
「となると、お昼がまた楽しみだねぇ」
そう言って、戻ってきた僕らを暖かく迎えてくれる3人。
そんな皆に、パラナミオは、満面の笑みで
「はい、いっぱい取れたらうれしいです」
そう応えていきました。
そういえば
店の界隈から、この川沿いなんですけど、僕の世界で言うところの蚊のような生き物がまったく存在しないんですよね。
いえ、この世界にも蚊は存在しているそうなんですけど、ホントまったく見かけない。
窓を開けて寝ても、被害ゼロなわけです。
ただ、少し離れた雑貨屋のテラリアなんかは、
「昨日うっかり窓をあけて寝たせいで、モスキント~あ、この世界の蚊の名称です~に刺されまくったよ」
って、僕の店に、スア印のかゆみ止めの薬を買いにきてましたし……
まさか、スアが、店の周囲のモスキントを全部殺して、近寄らないように結界でもはってるとかしてるならあれですけど、まさかそこまでは……あれ? スアさん、なんで横向いて、ごまかすように鼻歌歌ってるんですか? ねぇ?
……どうやら、やっているようです。
ま、そのおかげで、ビアガーデンのお客もモスキント被害にあってないし、まぁ、よしとしますけどね。
正直、僕もあの蚊というか、モスキントは大嫌いですから。
◇◇
んで、翌朝
夜明けと共に起き出した僕
まず第一の作業は、僕にギュッと抱きついて寝ているスアを、起こさないように引きはがす作業からなんですけど、中途半端に覚醒させると、スア、たまに拘束魔法を使ってくるので要注意です。
んで、どうにか無事、脱出に成功した僕は、その横で寝ているパラナミオをそっと揺り起こします。
「あ、パパ! おは……」
寝ぼけながらも、元気に挨拶をしかけたパラナミオなもんですから、スアを起こさないように、僕は慌ててパラナミオの口を押さえます。
んで
パラナミオも、僕の意図を察し、慌てた表情。
なんか、そんな感じでしばし見つめ合うと、僕とパラナミオはどちらからともなくクスクス笑っていきました。
んで、
起き出した僕とパラナミオは、腰に魔法袋をつけていざ、昨夜罠を仕掛けた地点へ!
すると、ビアガーデンから
「お、回収でござるな」
「頑張るキ!」
「いってこ~い」
と、まだ飲んでいる、3人娘に見送られながら川を遡っていく、僕とパラナミオ。
で、
罠の場所なんですけど
ばしゃ
ばしゃばしゃ
……なんかね、もうすでに罠に何かかかっているのが間違いない状態なわけで、
その罠らしきあたりを中心に、でっかい何かが身をよじっているわけですよ。
「パパ、かかってます!」
それを見たパラナミオ、満面の笑みです。
うん、そうだね
パラナミオがいなかったら、父さん、一目散ににげ出しているシチュエーションなんだけどね。
んで、パラナミオ
まずは、罠の1つに歩み寄っていき、その杭の先で暴れている何かの頭あたりに
「とぉ!」
と、右の拳を叩き込みました。
1発です。
暴れていたそいつ、パラナミオの右1発で、ぷかぁとその場に浮かんでいきました。
そこに浮かんだいるのは、まごうことなきウルムナギです。
罠で狙った獲物です。
「パパ、やりました!」
パラナミオ、満面の笑みを浮かべながら、そのウルムナギの巨体を持ち上げて運んできます。
全身、結構ぬるぬるなウルムナギなのですが、そのエラの中はぬめっていないのを把握したパラナミオじゃ、その中に腕を突っ込んで、手慣れた感じで持ってきます。
……我が娘ながら、なんともワイルドです。
それを、僕が持って来た魔法袋へ収納し、これで罠1つ目は終了です。
この調子で、罠6個すべてを確認して回ったところ、4箇所でウルムナギが取れました。
「4匹です! 上々です!」
パラナミオ、この成果に大喜びです。
で、僕は
「じゃ、罠は針を杭の上に突き刺しておいて、また夜に餌をつけにこよう」
と、罠のアフターケアをきちんとしてから戻っていきます。
で、当然のようにビアガーデンで、3人娘の出迎えを受けたわけですが……君たち、いつまで飲んでいるんだよ……
さて、
パラナミオの罠で捕獲したウルムナギですが、早速河原で解体作業です。
この段になると
「うむ、拙者の出番でござるな」
と、イエロが刀を構えてやって来ます。
んで、その刀で、ウルムナギは綺麗に腹から捌いていきます。
「腹からというのは、切腹のようでどうにも……」
と、若干嫌な顔をするイエロですが、元の世界で僕が住んでいた地域ではこれが一般的でしたので、許して貰う事にします。
んで、これを蒲焼き大の大きさにまで刻んでもらいます。
以前は、これ、僕が包丁でやってたんですけど、でかいもんだからホント、死にそうになってたんですよねぇ。
んで、これを一度魔法袋へ詰めると、
「イエロ、そろそろビアガーデンの片付けも頼むよ」
と、一声しながら店に戻っていきます。
ここで、僕は、パラナミオと一緒にシャワーを浴びて、
パラナミオは、スアと一緒に2度寝をしにいきます。
2度寝が目的では無く、スアのお腹を触りながら寄り添うのが目的なんですけどね。
さて
この楽しいパラナミオとの一時をすごした僕は、こっからがクライマックスなわけです、はい!