グルグル回った挙げ句の果てに その1
最近、週に1回コンビニおもてなしの各店の店長が集まって店長会議を開いています。
で、今日はその会議の日
2号店と3号店には、スア製の転移の戸が設置されているので、どちらの店からもすぐにやってこれる仕組みになっています。
スアは、太陽光発電や、蛍光灯の事を
「カガクすごい!」ってもてはやしていますけど……どう考えても、スアの魔法の方がすごいよね? って常々思ってしまう今日この頃なわけです、はい。
会議は、本店の営業が終了した後、
店の営業が終了して、ビアガーデンが営業し始めるタイミングで行われます。
2号店からはシャルンエッセンス
3号店からは木人形のエレ
各店で売っている品物の仕入れは、本店が一括で行っていますので、
2号店と3号店からは今週の売り上げと、最近の傾向の報告がメインになります。
まぁ、こうして会を持つことにしたのも、先日シャルンエッセンスが頑張りすぎて倒れたように、そんなことが起きないよう、事前に情報を共有しておこうと思ったのが主な理由なわけです。
全店員が木人形の3号店だからといって、安心していると
「たいしたことではないのですが、先日ちょっと腕が外れてしまって……」
と、エレが一時片腕で接客していたのに気がつかなかったってこともありましたし……
この会議には、本店からは僕とブリリアンが出席します。
ブリリアンは、元々個人で医院を経営していたこともあり、それ以前には薬局を経営していたこともあるそうで、そのため、経理関係にも非常に強いわけで、コンビニおもてなしが夏祭りなどのイベントに参加する際には、僕の代わりに店の方をまかせていることもあり、情報共有の場に一緒にいて貰った方がいいかな、と思っている次第です。
最初は、スアの薬に難癖をつけてきたのが出会いだったわけですが、
今ではブリリアンも店に欠かせない存在なわけです。
それを伝えると、ブリリアンは、胸をはりながら
「でしょう? ですからスア様はやはり偉大なのですよ。私のような愚か者を、あの薬でお導きくださったわけですから」
ここまでくると、もうこじつけにしか聞こえないんだけど、ここで突っ込むとまた長いので、会議を始めます。
「2号店のシャルンエッセンスですわ。
売り上げは順調にのびております。特に顕著なのはスアビールの売り上げでございます。
ビアガーデン用のビールは別ですので、こちらの営業には支障は出ておりませんけど、スアビールを今以上回して頂ければ、今でしたらいくらでも売れる状況と思われますわね」
「店員の状況はどうだい? 人手が足りないとかいうことは起きてないかい?」
「昼間の営業には支障がありませんが、ビアガーデンの方には、少し人手がほしいかもですわ。
夜の営業ですので、3交代であたっておりますけど、あと1人くらいの人手があると安心出来るといいますか……」
スアビールの増産に関しては、これは僕も頭を悩ませているところなんだよなぁ。
実際問題として、これは本店もほぼ同じ状態で、店売りは昼過ぎにはすべて売り切れています。
で、買いそびれた人達は、みんなビアガーデンが開くのを待つといった状況です。
で、まぁ、本店の場合は、ビアガーデンでスアビールが終了すると、そこからはタクラ酒に切り替わるのが常になっていて、で、朝方までにはこれもなくなるというのが最近のパターンなわけです。
ただ、これに関してはバルンカッスにも相談していて
「今、スアビールの製造ラインを新しく2つ増やしてますので、もうしばらくおまちくだれ」
との報告をもらっている。
この件でありがたいのが、スアの使い魔のみんながすごく喜んで暮れていることです。
「スア様は、私達を保護してくださるだけで、なかなか仕事をさせてくださらなかったので、もうホントに日々充実しているのですよ」
と、バルンカッスを始め、このスアビールの製造を取り仕切っているトルタス爺や、キキキリンリンと、その夫ユーヤンウーチーらが、毎日笑顔で頑張ってくれているわけです。
コレには、スアも
「……こんなに喜んでもらえるとは、思わなかった、よ」
と、びっくりだった様子で、
「……旦那様に、感謝、ね」
そう言ってにっこり笑ってくれたわけでして、
これにより、僕のやる気ゲージも3割ほど上がったわけです、はい。
というわけで、シャルンエッセンスには、スアビールに関してはもう少し待って欲しいということと、ビアガーデンの人員補充に関しては、1人なら人件費を本店で持つのでバイトを募集してもいいと伝えました。
んで、他に何かあるかい?
と、聞いたところ
「……その、やはり店が少し手狭といいますか、なんとかもう少し広く出来ればな、というのは常々思いますわ」
と、少し申しわけなさそうに申し出てきました。
うん、これはわかってはいるんだよね。
実際、旧コンビニごんじゃらすを、コンビニおもてなし2号店に改修する際にも、旧コンビニごんじゃらすが使用していたこの店舗では手狭だから、と、一度は他を探したくらいだったわけだし……
ただ、これは2号店のあるブラコンベの組合にもお願いはしているんだけど、なかなか空き店舗の情報はないんだよね。
というのも、
先日少し話題になった、ララコンベからの移民がすごい数流れ込んできているからなんだとか。
ララコンベは崖の狭間の集落に毛が生えた程度の街だったんだけど、一時魔石鉱脈が見つかったとかですごく規模がでかくなってたんだけど、その鉱脈があっという間に尽きてしまい、今やゴーストタウンに近い状態になっているんだとか……
ちなみに、この魔石鉱脈が
「100年掘っても大丈夫ですわ」お~っほっほっほ
と、金をもらって調査したのが、例の上級魔法使いのお茶会倶楽部が派遣した上級魔法使いだったらしいんだけど、ララコンベの関係者が抗議しに王都まで行ったら、こいつら
「ちょっと地方の様子を見て参りますわ」お~っほっほっほ
と言いながら、1人残らず王都から消え去ったらしい……
その際、王都の魔法学校で教員やってた上級魔法使いまでとばっちりを恐れて逃げ出したもんだから、全員教員職を首になったそうだ……まぁ、自業自得とはいえ、上級魔法使いのお茶会倶楽部が、どんどん追い詰められている気がするのは僕だけだろうか……まぁ、こいつらがのさばってても百害しかないので、ほっとこうと思うんですけどね……
で、まぁ、そんな理由もあって、2号店の店舗に関しても、なかなか解決策が見つかっていないのが現状です。
2号店の別室みたいなのを別の場所につくって、そこと2号店を転移ドアで繋いだらってのを考えたんだけど、スアいわく
「……大勢が常に出入りすると、接続が不安定になる、の」
と、言ってしゅんとなってしまった。
……僕の役に立てなかったのが心の底から残念だったらしいわけです。
まぁ、2号店の店舗問題は継続審議と言うことで。
「で、エレ、3号店はどうだい?」
「はい、問題ありません」
と、まぁ、ここはいつも通りの返事です。
というのも、3号店はもともと魔法使いしか住んでいない集落の中にありますので、傾向が大きく変わることがまずありません。
ゆるやかに人口が増えていますので、売れる量も少しずつ増えてはいますが、まぁ、想定の範囲内というわけです。
むしろ、3号店は、魔女魔法出版の在庫を販売している書籍部門の方がメインな店ですし、ここを有効活用してもらって中級以下の魔法使いの皆さんのお役に立てたら、と、思ってやってる店でもありますんで、まぁ、収益云々はあまり考えない事にしてます、はい。
とはいうものの、ハローお仕事掲示板や、薬の買い取りなどのおかげで少し潤った魔法使いの皆さんが、こぞって本を買ってくれているので、十分収益があがっているわけです、はい。
その後、雑談をしてこの日の会議も終了となったわけですけど、
シャルンエッセンスの話だと、やはりララコンベ問題はあちこちに影響が出始めているようです。
ブラコンベに限らず、その周辺の都市に住人がどんどん移住しているらしく、そのため、ブラコンベでは住居が足りないという状況が発生しているとか。
その余波は、ここガタコンベにも押し寄せ始めていまして、初めて見るお客さんが、コンビニおもてなしでも増えてきているわけです。
◇◇
「パパ! 今朝もいっぱいとれましたね!」
川にしかけた罠にかかっていたウルムナギを回収して、僕とパラナミオは意気揚々と川を下ってきます。
最近はこれが毎朝の日課になっているわけですが、ホントこのあたりは自然が豊かといいますか、ウルムナギがとってもとっても減りません。
「まぁ、この川ってさ、昔っからウルムナギがわんさかいるので有名だったし、パラナミオちゃんが罠しかけてるあたりは、その住処で有名な場所だったしね」
と、ここに住んで長いルアが教えてくれました。
この分だとまだまだ罠漁も行けそうだな、と、ホクホクな僕なんですけど
……あれ?
なんか、ビアガーデンの辺に見慣れない誰かが立ってる気が……って、あぁ、組合のエレエだ、あれ。
こんな朝早くにどうしたんだろう。なんか僕に向かって手を振っているような……
僕とパラナミオは、一度顔を見合わせると、
僕らを手招きしてるように見えるエレエの方へと急いだわけです。