……やりました その2
はやる気持ちを抑えつつ、僕はスアに
「えっと、お医者様には聞いたのかい?」
と、なんとも珍妙な質問をしてしまい……
と言いますのも、
スアは医師としての免許状も取得しているため、自己診断できるわけなんで……
で、
そんな僕に、スアは、
「まだ……自分だけ、よ」
と
んで、スア曰く
魔法使いが自分の診断をする場合は、誤信を防ぐために、他の医師資格を持っている人間か、魔法使いに念のため診察してもらうのが通例だそうで……となると、さて、誰にお願いを……
と、思っていると
「師匠の診断でしたらぜひこの私に!」
と、ブリリアンがすごい勢いで右手を上げました。
確かにブリリアンは、クレリックで、医師の免許状ももっている……でも
「ブリリアン……もしもだけど、スアの診断が誤診だった場合、君はちゃんとそれを指摘できるかい?」
そう、僕が尋ねると、ブリリアンは
「師匠の意に反することなど、言えるわけがないじゃないですか!」
そう、ドヤ顔で言われてしまいました。
さて
公明正大で
かつ
きちんとした診断を下せる人となると……
「あ、教会のシングリランなら、資格をもってるかも……」
と、パラナミオの先生でもあるシングリランの名前を出してみたんだけど、
その名前を聞いただけで、スアが物陰に隠れていきます。
……むぅ、まだそこまで慣れていなかったか……
んで、
腕組みしながら、さらに考えている僕の前に
「そろそろお呼びがかかるかなぁ、と思ってやってきたんですけどぉ」
と、魔女魔法出版のダンダリンダが、転移魔法で姿を現しました。
「え? ダンダリンダって、医師の資格ももってるの?」
「えぇ、当然のように……」
と、笑顔で応えるダンダリンダ。
で、その後方で、うぬぬ、と地団駄踏んでるブリリアン……
結局、
スアとも、出版の関係で長いつきあいのダンダリンダに診察してもらったところ
「えぇ、間違いなく妊娠なさっていますね」
そう言って、にっこり笑ってくれました。
その言葉に、パラナミオがぱあっと顔を明るくし
「ママに子供が出来たのですか!」
そう良いながら、スアに嬉しそうに駆け寄ります。
スアの、笑顔でパラナミオの頭を撫でながら
「……あなたの、弟か……妹、ね」
そう言います。
うん、そうだね。
パラナミオもついにお姉ちゃんかぁ……
僕も、なんか、スアとパラナミオの姿を見ていたら、どうにも感動してきたんだけど、そんな僕にダンダリンダが笑顔で付け加えました。
「じゃあ旦那さん、これから出産までの2年間、しっかりスア様をサポートなさってくださいね」
……は?
……2年間?
「えぇ、スア様はエルフですので……だいたいエルフの妊娠期間は2年前後半年といったものですので」
……てことはスアの場合、
早くて1年半
遅かったら2年と半年後に出産ってことになるのか
「ただ、お父様がタクラ様のような人種の方ですので……その場合、若干早まる可能性がなきにしもあらずですが、エルフと人種の妊娠という案件に関しましては、あまり聞いたことがありませんので……」
とのことだった。
まぁ
時間がかかるのはしょうがない。
一番大事なのは母子ともに健康なまま無事出産を終えてくれることだしね。
いやぁ、しかし……
僕も、こう……本当に感慨深いというか、嬉しくて仕方ないわけです。
毎晩のようにスアと一緒に努力を積み重ねたわけですよ。
時に、
『僕って、犯罪行為を行ってるんじゃ……』
とまぁ、あまりに若すぎるスアの容姿を意識し過ぎてそんなことを思ったり
『スアって、ちゃんとアレ、始まってるんだよな……』
とまぁ、あまりに若すぎるを通り越して、幼さまで感じさせるスアの容姿を意識し過ぎてそんなことを思ったり……と、
とにかく、色んな事を思っていたのが、これで一気に解決したわけです。
これを早速聞きつけた、イエロは
「タクラ殿、このめでたき日に飲まずにどうしますか!」
と、店のスアビールを箱で抱えて店裏のビアガーデンコーナ-へ移動していきます。
と、いつもならここで
『そうそう、私も飲むキ』
とか良いながら、その後についていくはずの、猿人セーテンが妙におとなしい……と、思ったら、
セーテン、艶っぽい視線を僕に向け
「ダーリン……奥方様がアレで出来なくて溜まったら、いつでもご用命くださいキ」
と、本気モードで、誘ってきたわけです、はい。
んで、
当然のように
『……このクソザル』
と言って、スアが爆裂魔法でもかますかと思っていたら、スアもまた、なんか妙に神妙な面持ちで
「……ど、どうしても我慢出来なかったら……その……セーテンなら仕方ない、かな」
って、かなり複雑そうな表情尾浮かべてます。
多分
僕のことを思ってくれての一言なんだろうけど、
「スアが出産するまでくらい、問題なく待てるって……僕は君だけだからさ」
そう言って、ぎゅってスアを抱きしめます。
スア、なんかすごく嬉しそうに微笑みながら僕を抱きしめ返します。
「……ベッドの下の本……全部処分しちゃってるけど……ホントに大丈夫」
と、スア。
う、うん……だ、大丈夫だってばさ……
で
多分、意味はよくわかっていないままに、パラナミオもボクとスアを、その手を目一杯伸ばして抱きしめてきて、
で、
ここにセーテンが
「美しい家族愛に負けたキ」
と、涙を流しながら抱きついてきて、
と、まぁ気がついたら、イエロの呼びかけで集まった、いつもの飲み会メンバー達までもが、この抱擁の輪に加わってて……うぉい!?
で、まぁ、そのままなし崩し的に
「ではぁ、スア様のご懐妊を祝ってぇ、かんぷぁい!!」
と、まぁ、イエロのど派手な挨拶で、急遽宴会がスタートしました。
「いやぁ、タクラってばちゃんとやり方知ってたんだな」
と、向かいの工房のルアが、はっはっはと笑いながらスアビールをジョッキで飲み干していきます。
あはは、それくらい僕だってさぁ
「何しろ、あの容姿のスア様だろ?
そもそも、アレがちゃんと反応するのかってさ、そっから心配してたんだぞ、マジでさぁ」
うん、ルア……
言いたいことはよくわかったから、そこまでにしておこうよ。
スアも、その炸裂寸前の爆裂魔法の魔法陣はしまってしまって!
とまぁ、
気がつけば、いつものように、商店街の皆が集まっての大宴会が始まったわけです、はい。
しかも今日は、ダンダリンダを呼んでるせいでか、魔女魔法出版の面々まで数人同席しています。
おそらく、もう少ししたら役場のエレエ達もやってくるだろうなぁ
気がつけば
こんな賑やかな光景が、しょっちゅうになってたわけです、はい。
こんなの、
前いた世界では絶対考えられないよなぁ……
田舎の畑に囲まれた中に、ぽつんと1件しかなかった、このコンビニおもてなしだったわけで、僕自身、周囲の町内会からは距離を取ってたし、向こうは向こうで、こっちに微妙な距離をとってたし。
そんな事を思っていると、
スアが、深刻そうな顔をして僕の側にやってきました。
スアは
「……ねぇ……もとの世界に、帰りたい?」
そう、聞いてきました。
そういえば、前にもなんか唐突にそう聞かれたことがあったような記憶がある。
……伝説級の魔法使いのスアだもんな
ひょっとしたら、本当に僕やこの店を、僕が元いた世界に戻す方法を見つけてるのかもしれない。
……このタイミングで、これを聞いてきたってことは、やっぱあれなのかな
この世界で、ずっと一緒に暮らしてくれるの?
そう、確認されてるのかな……
僕は、改めてスアへ視線を向け直す。
スアも、僕をジッと見つめている。
うん
この顔を見ていたら、答えは1つしかないわけで
「一緒に暮らそう……この世界でずっと」
そう言うと、僕はスアをギュッと抱きしめた。
スアは、そんな僕に
「……うれしい、よ」
そう言いながら、抱きしめ返してきた。
この後で、スアが言ってくれたんだけど
もし、僕が出来たら帰りたいっていったら
一緒についてきてくれるつもりだったそうだ……
そこまで、真剣に考えてくれてたんだな、僕の事を
「……家族だもん、ね」
スアはそう言いながら僕にもたれかかってきます。
そんなスアと僕を、パラナミオサイダーを飲んでたパラナミオが抱きしめてきて
「家族です!」
と、満面の笑顔
そしてそんな僕達を、イエロが、セーテンが、ルアが
みんながどんどん抱きしめてくれていって、なんかでっかい輪が出来てって。
いや、ホント
思わず、目から汗が……だったわけです、はい