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店とビールと魔法使いと村と…… その1

 スアの使い魔の森に住んでいる、スアの使い魔達って
 スアが必要としているというよりも、いろんな理由で絶滅しそうになってる種族達を保護してる、そんな感じなわけです。

 他の魔法使いを見ていると
 使い魔に家事や荷物運びなんかをさせているのをよく見るんだけど
 スアって、滅多に使い魔に何かさせたりしてないわけです。

 何かあると、もっぱら自分の思念体であるアナザーボディを駆使して、それでなんとかしてしまうんですけど。

「……いつか、ね
 みんなをいっぱいにして、ね
 みんなで、楽しく暮らさせてあげたい、の」
 スア、そう言ってニッコリ笑います。

 だからスアは
 今も、こういった絶滅しそうになってる種族達を気にしているんだとか。

 なんていうのかな……聖女様?
 うん、それ以外に言葉が見つからないんですが……

 そう、僕が言うと
 たまたまスアビールを納品にやってきていた使い魔達が、ウンウンと頷いてくれたわけです、はい。


 このスアビールは
 使い魔の森の奥で、酒の妖精バルンカッスが中心になって生成されているんだとか。
「わしだけじゃ、このシュワシュワまで再現できんかったでのぉ」
 そう言いながら、木樽の山を背にして笑うバルンカッス。

 その周囲には、この酒造りに携わっているらしい、使い魔達が集まっているんだけど
 なんかこの森では、何かしようとすると、すぐにこうやって皆が協力しあう、そんな体勢が出来上がっている感じです。

 ちなみに、この酒の妖精は
 一時、この妖精を使った酒は至福の味になるらしい、と、どこかの本が紹介したせいで乱獲され、あっと言う間に絶滅寸前にまで追い込まれたんだとか……
「俺達の『作』った酒は至福の味ってのがさ、たった1文字誤植されたせいで、このありさまなんだぜ……」
 バルンカッスは、そういって寂しそうに笑うんだけど、しかしその出版社ってのもひどいもんだなぁ……まさかそれって魔女魔法出版なんじゃあ
「……もうない、よ……潰れた」
 スア、そうボソッと言いました。

 あぁ、やっぱなぁ、そんな本出してるようじゃ、そうもなるわなぁ

……っていうか、潰した

 ……ん?
 スアさん、なんか物騒な一言が最後に聞こえた気がしないでもなかったんだけど?


 まぁでも、その酒の妖精がスアのおかげで生き延びてて
 そのおかげで、こうして至福のスアビールが出来上がったわけだし、
 ホント、何がどうなってこうなっていくのか……世の中わかんないもんですよね。

◇◇


 こうして、増産体勢が整ったスアビールですが
 満を持してコンビニおもてなし全店で販売を開始しました。

 本店には、元の世界で使用していた内部ウォークイン式の冷蔵商品棚があるけど
 2号店と3号店には、そういった施設がない。
 っていうか、そもそもこういった冷蔵商品棚のような大型家電類を動かすために必要な電気を産み出す施設、『太陽光発電システム』が、そもそも本店にしかないわけなので、2号店と3号店で、同じシステムを導入出来るわけがないわけです。
 で
 この2店には、魔道大型冷蔵庫とでも言うべき代物を導入しました。

 大型で、戸の部分が透明なガラス水晶製になっていて、外から見えるようになっていて、その内部は冷蔵水晶石で、常に冷蔵状態に保たれているという代物で

 ……まぁ、ぶちゃけ、スア作成なんですけどね。

 このガラス水晶
 かけらを集めて加工すれば、透明な板状に出来るんだけど、
 その珍しさもあって、すごく重宝されています。

 で、このガラス水晶は

「そうなのよ……私達の背中で定期的に出来上がるのよ」
 そう言いながら、ガラス水晶魔獣ガルギニーニー、はぁ、とため息をつきます。
 この魔獣も、他の例に漏れず、その珍しい鉱石を産み出す特性ゆえに乱獲され、その背から産み出されるガラス水晶を詐取され続けたあげく、その体から生えている水晶の鉱石まで無理矢理取り出され命を……
「私は両親が捕まった頃さ、まだ、背中に鉱石が生えてなかったから助かったんだけどね……」
 なんとも世知辛い話だなぁ……

 で、スアが使用しているこのガラス水晶は、
 ガルギニーニーの体からこぼれ落ちた物を、提供してもらってます。
「スア様みたいに気長に待ってくだされば、半永久的にガラス水晶を産み出すのにね、アタシらってば」 
 スアは、こうして提供された品「だけ」を使ってあれこれ作業しているわけです。
 まぁ、このガラス水晶にしても、僕ら人種にしてみれば超貴重な品ですけど、ガラス水晶魔獣にしてみればただの老廃物なんだそうで……
 

 で、話を戻しますが
 このガラス水晶製の戸を持つ大型冷蔵庫のおかげで、コンビニおもてなし2号店および3号店でも、スアビールを常に冷えた状態で提供出来るようになったのですが、その両店で、即座に問題が発生しました。

 まず2号店ですが
「このスアビールっての、ぜひ店の商品として売り出させてほしいんだが」
 と、ブラコンベ内の酒場のおっちゃんが申し出てきた。
 それだけなら別段問題ってほどじゃないんだけど
 そのおっちゃん曰く
「このスアビール、このコンビニおもてなし2号店で販売する分、全部購入するから店では販売しないでほしい」
 だそうな。
 ……まぁ、独占販売したいってことなんだろうなぁ。
 その気持ち、わからないでもないんだけど、そこはひとつ共存共栄といきませんか? と、僕
「コンビニおもてなし2号店の営業時間は夕方までですし、そちらの飲み屋は夕方からの営業でしょう?
 実質的に販売している時間は被らないわけだし……」
 そう、コンコンと、粘り強~~~~~~~~~~~~~~~~~く説得し続けた結果。
「……まぁ、確かにそうだな……」
 ってな感じで、渋々ながらも了承してくれた。
 これで、めでたしめでだし……と、ならないのが、現実なのよね……

 今度はこのおっちゃん
 やれ

 まとめて買うから安くしろ……だの

 常にキンキンに冷えた状態で納入しろ……だの

 挙げ句、いっそその魔道大型冷蔵庫を提供しろ……だの

 とまぁ、
 とにかく後から後から、あれこれあれこれ言ってくるもんだから、僕としても辟易してたんだけど
 僕以上に辟易したのが、2号店店長のシャルンエッセンス。
「もう、たいがいにしておくんなましぃ! き~~~~~~~~~~~~~~~~!」
 と、
 店にやって来ては自分に有利な条件を引き出そうと、延々居座り続ける酒場のおっちゃんに、とうとう堪忍袋の緒がぶち切れて、
「もう、貴方様の店には買って頂かなくて結構ですわ!」
 そう啖呵を切って、このおっちゃんを追い出してしまったんだそうな。

 あ~……

 僕がいなかったときとはいえ、これはまずいんじゃないか?
 と、言うのも、
 この酒場のおっちゃんって、ブラコンベの商店街組合の役員を古くからやってる、いわゆる顔役みたいなおえらいさんなんだよね。

 とはいえ
 僕個人としては、むしろ「よくやった」と思ったわけです。
 ただし
 コンビニおもてなしの総合店長としては、う~ん……なんですけどね。

 で、まぁ、2号店の話はここで一度置いておいて


 もう一箇所の3号店です。
 こっちでも、スアビールを販売したところ、これがまた爆発的に売れてます。

「えぇ! スア様の名前を冠したビールですってぇ!?」
「買います! 買いますわ!」
 と、まぁ、そんな感じで、3号店周辺に住んでいる魔法使い達が、とにかくすごい量といいますか、
 販売する端から端からどんどんどんどん買っていくもんだから、あっと言う間に売り切れていくわけです、はい。

 なんでも魔法使い達の家には、大なり小なり魔法冷蔵庫があるので、保存も可能なため
 こうしてまとめ買いも可能なんだとか

 ……に、しても、買いすぎじゃないか? ここの魔法使いさん達もさぁ

 さしずめ、MSS48とでもいいますか……
『M・魔法使い S・集落の S・酒飲みの皆様』ですが、何か?

 なんか、本店に生息している酒飲み娘48達が、勝手に作って勝手に歌ってる『飲みたかった』が、こっちでもいたわれ出す日が近い気がしないでもないな、と、思ったりするわけです。


 で

 この現状を踏まえて、2号店と3号店でのスアビールの販売方法を変更しました。

 まず、2号店
 ここでは、しばらくの間、スアビールは扱わないことにしました。

 まぁ、先の酒場のおっちゃん追い出し事件のほとぼりが冷めるまではおとなしくしとかないと、と思ったわけですけど
「……タクラ様、本当に申し訳ないことをしでかしてしまい……」
 と、あのシャルンエッセンスが、すっごくしょぼくれて、僕に謝罪してきました。

 最初は、店の売れ筋商品がなくなって落ち込んでいるのかと思ったんだけど
 そうじゃなくて、コンビニおもてなしという店の看板を傷つけてしまった、という自責の念で、しょぼくれているわけです。

 ……なんといいますか
 あの自己中心的で、唯我独尊な、お~ほっほっほっほ娘だったシャルンエッセンスが
 よくぞまぁ、ここまで……

 思わず、僕の目にも涙なわけです、はい。

 シャルンエッセンスをしっかり励まし、フォローしながら
 その2号店で販売する予定だった品を3号店へ

 最近、ハローお仕事掲示板のおかげで、割と懐具合も改善されてる魔法使い達
 なんかもう、こぞってこれを買っていくわけです。

 ……しかし、いくらなんでも、これ、売れすぎじゃないか? と思っていたらですね
 いつの間にか3号店周辺の魔法使い集落の人口が、すでに500人を軽く越えていた訳でして……おいおい、これ、いくらなんでも集まりすぎなんじゃないか?
 
「……安住の地が出来て、みんな喜んでる、よ」
 そう言って、スアがニッコリ笑うもんですから
 まぁ、ならいいか、と、このときは思っていたのですが、

 問題が起きたのは、その3日後でした。

「タクラ殿はおられますか?」
 本店の営業時間終了の頃合いを見計らうかのように、近くの駐屯地の隊長であるゴルアが、メルアを引き連れてやって来ました。

「やあ、ゴルア。今日は何の用だい? スアビールを買いに来たのかい?」
「うむ、それは当然木箱で買って帰らせていただくのだが……その前に、仕事の話をさせていただきたい」
 そう言いながら、ゴルアは1枚の紙を僕に差し出しました。

 はて?……なんだなんだ?

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