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スアの使い魔の森 その3

 スアの使い魔達が住んでいる森にやってきている僕ら一家3人ですが

 丘亀(ヒルトータス)族のトルタス爺
 ハニワ馬族のヴィヴィランテス

「水晶一角獣(クリスタルユニコーン)族よ! ハニワ馬じゃないわよ!」
 うるさいなぁ、ヴィヴィランテス。
 まだ姿が元に戻ってないんだから、ハニワ馬族でいいじゃないか。
「よくないし! っていうか、スア様、はやく元の凜々しくて美しい姿に戻してくださいませぇ」
 ヴィヴィランテスが、必死にスアに追いすがるんだけど
 スア、なんか、手慣れた感じで無視しながら進んで行きます。

「あ、スア様ぁ!」
 森の中を少し行くと、木々の中からなんか声が聞こえてきました。

 その声の方へ視線を向けてみると……あれ? 誰もいない?
「いえいえ、ここにおりますよぉ」
 え? え? どこだ?
「ほらほら、スア様の旦那様の目の前ですってばぁ」
 その声が聞こえたかと思うと
 目の前に生えている巨木の幹に、いきなりでっかい顔が出現しました。

 なまじ、本気で目を凝らしてたもんだから
 僕、かなりびっくりしたわけです。
「……キキキリンリン、悪戯しちゃ、ダメ」
 スア、なんか苦笑しながら、その木に向かって言ってます。
 あぁ、なんだわざとか……まったくもう。
「あはは、スア様の旦那様。驚かせてしまってすいません。
 私、樹木の精霊、キキキリンリンと申します。
 スア様がお作りになられております、この疑似空間の中にあります木々の管理を行っておりますの」

 そう言うと、幹に顔が浮かび上がっていたあたりで、ボンっと煙が沸き上がったかと思うと
 その木の前に恰幅のいい、女の子が、なんかどすこい! みたいな感じで現れた。
 その女の子、キキキリンリンは、緑の髪の毛を揺らしながらスアに歩み寄ると
「スア様、何かありましたら遠慮無くお申し付けくださいませ。
 私達使い魔一同、スア様のためならなんでもいたしますですのでぇ」
 そう言いながら、スアの前でニコニコしてます。
 で、スア
 そんなキキキリンリンに向かってにっこり笑い返すと
「……うん、その時はよろしく、ね」
 そう言いながら、キキキリンリンの頭を撫でていきます。


 と、まぁ、こんな感じで
 このスアの使い魔の森って、その名前のとおり、少し歩けばすぐスアの使い魔と出くわします。

 小高い山化と思ったら、岩石巨人だったり
 池があると思ったら、池の精霊だったり、と

「パパ、この森、いろんな使い魔さんがいますね! すごいですね!」
 パラナミオは、そんな使い魔に出会う度に、嬉しそうに目を輝かせています。

 ちなみに、スアの説明によると
 スアが使い魔として契約し、
 この疑似空間に住まわせている者達は、総勢で100近いんだとか
「……みんな、この世界で死滅したか、死滅しそうな、の」
 なんか、そんな種族の者達の生き残りを保護しているんだとか。

 へぇ、異世界でも種族の絶滅とか起こるんだなぁ。

「主に、人種のせいですがのぉ」
 僕の言葉に、案内役を兼ねてずっとついて回ってくれているトルタス爺
 少し寂しそうにそう言います。
「まぁ、全員とはいいませんがの。
 人種の中には、わしらのもっております特殊能力を、自分が独占して使用しようとする者がおるわけです。
 そういう奴らによって、わしらの同族は執拗に狩られまくりましてなぁ……」
 そういうと、トルタス爺、どこか寂しそうに空を見上げます。

 ちなみに、トルタス爺は
 丘亀状態の体内に、珍しい鉱石を多数含んでいて、
 その鉱石が高値で売買されるもんだから乱獲されたんだとか……なんか切ないなぁ

「このヴィヴィランテスは、この額にある水晶の角目当てに乱獲されましてね……」
 トルタス爺同様に僕らの後を付いてきていたヴィヴィランテスは、そう言いながら、ちょっと自慢気に顔をあげてますけど、

 あなた、まだハニワ馬ですからね?

「き~! ですからスア様! 早く元に! あの美しく気高い本来の姿に戻してくださいません!」
 ヴィヴィランテス
 そう言いながら再度必死に懇願していくも、スア、華麗に無視。

 これはあれだな

 胸がなくて
 腰は華奢
 お尻はストーン
 色気もないし
 チンチクリンで

 これを散々いいまくったもんだから、スア、よっぽどへそを曲げてるんだな。

 そう思ってたら、スア
「……ひどいよ、ね」
 そう言いながら僕の腕に抱きついてきました。

 そんなスアの頭を撫でながら、僕とスアは、時折使い魔達と楽しそうに戯れているパラナミオの姿に癒やされながら森の中を散策して回ります。

 なんか、気がついたら
 僕達の後をついてきている使い魔達が、すごい数になってまして。

 で
 みんな、口々に
「スア様~」
「スア様~」
 って言いながら、うれしそうに微笑んでいます。

 その姿をみるだけで、
 スアが、この使い魔達をすごく大事に扱ってきているのがよくわかります。

 ただ
 スアは、この使い魔達をすごく大事にしている反面、
 使い魔達に、特に何もさせていないらしく
「スア様~、何かお命じください~」
「スア様のお役に立ちたいです~」
 と、使い魔達、皆、異口同音にそう言ってきます。

 でも、なんでスアは使い魔に仕事をさせないんだろう?

「……別に……頼まなくても出来ちゃう、から?」
 スア、そういいながら小首をかしげます。

 その表情をみるにつけ、だいたいわかった気がします。

 スアにとっての使い魔っていうのは
 使役対象ではなくて、保護対象なんだろうな

 そのままでは死滅しそうな種族達を、人種の手の届かない場所に住まわせている、と。

「だからこそ我ら、スア様のお役に立ちたいのですよ~」
 使い魔達、
 皆そろってそう口にしますけど、
 スア本人は、なんかすごく困った表情しています。

 まぁ、でも、
 そう思ってもらえるのも、なんか嬉しいもんじゃないのかな。
 いわゆる人望みたいなもんだしね。

 どこぞの魔法学校でふんぞり返ってる、お茶ばっか飲んでる人達に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ。


 んで、
 なんか、一通り周り終えると、なんかすごい数の使い魔達が僕達を囲んでワイワイ楽しそうにしています。

 僕は、せっかくなんだし、と思って
 ようやく増産が出来始めたばかりのビールの実を皆に振る舞いました。

「な、なんですか!? このシュワシュワしたのは!?」
「しかも酒!? こんな酒始めてです!」
「冷えてて美味し~、さいこ~」
 皆、始めて味わうビールですけど、嬉しそうに飲んでいきます。

 それを振る舞っている僕に、スア、なんか心配そうな表情をしながら寄ってきて
「……よかった、の? あれ、大事な飲み物……やっと増産出来た、のに」

 
 スアがそう言うように
 僕が元いた世界から、この世界に持って来ていたビールって、数がそんなに多くありませんでした。
 そのため
 この世界にやって来てすぐの頃は、街の皆に振る舞ったりしていましたけど
 そうしていたら、あっと言う間に、残り本数が乏しくなったため、
 当分の間、表に出さずに隠してあった品物です。

 なんせ、ほっといたら、酒飲み娘48らが、あっという間に飲み干すの確実だもんなぁ

 で
 そんな中、試行錯誤してようやくプラントの実で、このビールをコピーし増産出来るようになったわけですけど、これを商品として販売するには、数を貯める必要があるんですけど、プラントの実だと、1晩で10固程度の実しか出来ません。
 酒飲み娘48筆頭格のイエロやセーテンだと、10個分くらい一人で飲んじゃいますからねえ。

 とまぁ
 そんなわけで、倉庫に貯めてる最中だった、そんな貴重品を惜しげも無く出したもんだから、スアは心配したんだろうけど、
 スアの大事な使い魔達なんだし、これくらいしてあげてもバチはあたらないんじゃないかな?
 と、まぁ、そう思ったわけです。

 で
 この日は、この後
 使い魔の森で取れる山野菜なんかを使った料理を振る舞ってもらったりしながら、ちょっとした宴会を満喫したわけです。


◇◇

 スアの使い魔の森で、家族揃っての休日を満喫した僕達なんですけど
 数日後
「スア様、スア様の旦那様、お時間あられましたら、ちょっと使い魔の森まで来ていただけませんかの?」
 なんか、トルタス爺から、そんな思念波が届きました。

 んで、僕とスア
 早速、使い魔の森に行きました。

 すると、入り口付近には、トルタス爺をはじめヴィヴィランテスや、キキキリンリンが待ち構えていまして……って、ヴィヴィランテスってば、まだ馬のハニワ姿のままだったのかい?
「だからスア様~! 早く元に戻してくださいってばぁ」
 そう懇願するヴィヴィランテスを、スルーしたスアは、トルタス爺に向き直っていきます。

 すると、トルタス爺
 なんか木の実を僕に差し出した。

 すると、トルタス爺、ニッコリ笑うと
「先日ご馳走になりましたビールの実をですな、キキキリンリンを中心に試行錯誤して作ってみたのですが、いかがなもんでしょう?」
 そう言います。

 え? 
 何?

 これ、ビールの実なの?
 僕は、びっくりしながらその実をマジマジと見つめました。
 すると、その実の一角には、すでに丸い穴が開いています。
 そっから漂ってくるのは、確かに酒の匂いといいますか……

 で、それをグイっと一飲み……
「……うわ!? 何コレ、すっごい美味しい!」
 僕、思わず声をあげました。

 いえね
 元の世界から持って来てたビール。
 あれよりもすっごい芳醇といいますか、果物な味わいが、口いっぱいに広がるんですけど
 それが、炭酸とともにのどごししていく感じが、もうこの上ない新体験といいますか……

 思わず一気に飲み干していく僕の姿に、トルタス爺、ヴィヴィランテス、キキキリンリンは、揃って嬉しそうに微笑んでます。
「いやいや、スア様の旦那様にそこまで喜んでもらえたのでしたら、大丈夫そうですな」
 そう言って笑うトルタス爺。
「コレ、森に住んでる使い魔達で材料を集めて、私の巨木で生成したの」
 と、キキキリンリン。
「それを、私は見守っていたのですよ」
 ……おい、そこで何ドヤ顔してんだ? このハニワ馬。

 で、必死に何か言ってくるヴィヴィランテスを無視し、キキキリンリンへ顔を向ける。

 キキキリンリン曰く
「これでよければ、森の使い魔達みんなで増産できますの。
 スア様への日頃の恩返しも兼ねて、このビールの実を作らせてほしいのです」
 とのこと。

 すると
「スア様~!」
「せひやらせてください~!」
「スア様のために頑張ります!」
 森のあちこちから使い魔達が集まってきます。

 スア
 そんなみんなを見回しながら、やや困惑した表情
「……いい、の? なんか、申し訳ない、よ」
 そう言うスアだけど
 使い魔達は一斉に頭を下げ
「「「お願いします、スア様」」」
 そう声を上げていきます。

 そんな皆を前にして、いまだ困惑してるスアなんだけど
 ここで僕は
「スア、どうだろう、お願いしてみたら。
 僕としても、このビールの実が、大量に手に入るのは助かるし
 使い魔のみんなも、スアのために働けてうれしいわけだし、さ」
 そう声をかけていきます。

 すると、使い魔達

……スア様の旦那様! 頑張って!

 的な視線を感じまくります。

 で、そんな中
 スアは、僕の顔を見上げます。
 僕は、そんなスアを見つめながら頷きます。

 で、スア
 使い魔達へ視線を向けると
「……お願いしま、す」
 そう言って頭を下げました。

 すると
「「「こちらこそ!」」」
 そういって、スア以上に頭をさげる使い魔達

 なんか、微笑ましい光景だなぁ、
 って見つめてたんだけど

 スアが、そんな使い魔達よりさらに頭をさげようと頑張り始めたので、必死に止めたわけですが……

◇◇

 こうして増産が始まった使い魔の森産のビールの実ですが
 1日に1000個近く出来上がります。

 んで、使い魔達はこれを
 ビールの缶を模して作られた木の樽に詰めて納品してくれます。
 この木の樽ですけど、いわゆる500mlのものと、1リットルの物の2種類あり
 キキキリンリンが、森の木々を増産しては、木材加工が得意な使い魔達と生成しています。
 炭酸が抜けるんじゃないかとか、木だからしみたりしないか、とか思ってたんだけど
「そこは、私の樹液でコーティングしてますのでばっちりですです」
 と、キキキリンリン。
 で、この木の樽ですけど、その飲み口側の蓋を強く押すと、その蓋が取れる仕組みになっており
 そこから飲むわけです。

 で、
 早速イエロ・セーテンに味見をしてもらいますと
「うむ、ご主人殿、コレはつまみがないと困りますな!」
「昼間っからたまらないっキ!」
「なんか、良い酒の匂いがしたんだけど……」
 と、向かいのルアまで加わって、あっという間に宴会状態に。
 うん、さすがは酒飲み娘48です。
 でも、そんな一同が、デビュー曲「飲みたかった」を熱唱しながら飲みまくっても、

 巨木の家の根っこの冷蔵所の在庫はまったく減らないわけで……
 
 というわけで
 コンビニおもてなしの各店に
 この日から新たに自家製ビールが並ぶことになりました。

 名前をどうしようかと考えていると
『スアビールがいいです!』と、使い魔達が一斉にそう言います。
 日頃お世話になってるからってのもあるんでしょうけど、
 うん、僕的にも異存は無いな、うん。

 ただし、

 当のスア本人は真っ赤になって嫌がった。
 まぁ、いくら本を出版しているとはいえ、それ以外のことで目立つのは本意ではないんだろうな。

 でもまぁ、これは使い魔達の総意でもあったので、僕が説得を仰せつかることになったのですが、

「ねぇ、スア、いいだろ?」
「……こ、この最中に、それ言うの、ずる、い……」
 と、夜の子宝祈願中にしっかり許可を頂きましたとも。
 会わせて、可愛いスアさんをしっかり堪能させてもらいましたとも。

◇◇

「スアビール持って来ましたよ~」
 って、部屋の一角に新たに設置された、使い魔の森とつながったドアから、スアビールの入った木箱を背に乗せたヴィヴィランテスがやって来たのですが、

 ヴィヴィランテス……お前、実はそのハニワ馬姿、気に入ったんじゃないの?

 相変わらずハニワ馬姿のまま、スアビールを運んできたヴィヴィランテスは
 なんか鼻歌歌いながら地下の冷蔵所へ向かっていきます。

 ……うん、間違いない、あれは気に入ったな、うん

しおり