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スアの使い魔の森 その2

 スアが『使い魔の森』と書かれた書物を手に取ると、
 僕・スア・パラナミオの3人はスアの使い魔の森にいました。

 スア曰く
「……あの本の中、に、もうひとつの……

 え~、要約しますと

 あの本の中に、森を中心にした擬似的空間を構築していて、その中にスアの使い魔達が住んでいるんだとか。


 コンビニおもてなし3号店でよく見かける使い魔達っていえば
 皆、使役主である魔法使いの家で一緒に暮らしているイメージしかなかったもんだから、スアの使い魔達がこんな森の中で暮らしているって、結構以外というか……

 ……そこまで僕が考えた時だった。


 ドスドス……

 なんか、いきなりすごい地響きがし始めました……

 よく見ると、
 目の前というか、かなり奥の方に見えていた小高い丘みたいなのが、なんかすごい勢いで動いているような……
「どこのどいつじゃ! このスア様の使い魔の森に入り込んだ不届き者は!」
 なんか、その小高い丘から、えらく物騒な声が聞こえてきたんだけど、
 す、スアさん、これ大丈夫なのか!?

 僕が慌てていると、
 スア、なんか、
「……はぁ」
 って、大きなため息をついたかと思うと、おもむろに右手をその丘へ向かってかざし、
 小さく詠唱していき

……チュド~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン

 巨大な雷を、その小高い丘に落としました。

「にょほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
 すると、その丘
 壮絶に飛び上がったかと思うと、それでも、フラフラっと前進してきて
 ついに僕達の眼前にまで移動してきたんだけど
「……なんと、よく見れば、スア様本人ではございませんか!? このトルタス爺としたことが、侵入者と見間違うとは……」
 そう言いながら、その小高い丘、一度激しく上に伸び上がった化と思うと
 その頭らしい部分を、今度は地面に擦りつけんばかりに下げていきます。

 で
 その一連の動作を見ていて、やっとわかった。

 この小高い丘、
 僕の世界で言うところの、亀だ。
 しかも、おっそろしく大きい上に
 その甲羅部分が、そのまんま小高い丘になってる。

「……トルタス爺、いい加減覚えて……あなたをとめる魔法……加減が難しい、の」
 スア、そう言いながらも、
 再度詠唱し、そのでっかい亀、トルタス爺の頭の上にでっかい手の平を作り出したかと思うと、その手の平でトルタス爺の頭をやさしく撫でていきます。
「いやいや、申し訳ござらぬ、スア様。このトルタス爺、まだまだ若い者には負けておらぬところをお見せせねば、と、常に気を張っておるものですからのぉ」
 撫でられながら、このトルタス爺
 すっごく嬉しそうな声でそう言います。
 でっかい顔も、どこか嬉しそう。

 しかし、このトルタス爺って、すっごいでっかいなぁ
「……丘亀(ヒルトータス)族、よ……表の世界では、もう絶滅した、はず」
 スア
 そう僕に説明しながら、少し寂しそうな表情を、その顔に浮かべた。

 僕らが見上げ続けているトルタス爺
 なんか、よっこらしょ、っとばかりに、詠唱を始めたかと思うと、おもむろに1人の老人の姿へと変化した。
 ……ただ、老人といいながらも、このトルタス爺
 顔こそ白い髭で覆われてはいるものの、全身見事なマッチョバディで……ちょ!? なんかすごいな……
「スア様のため、日々精進しておりますでのぉ」
 ほっほっほと笑うトルタス爺

 うん……スアのために、と言われると、僕ももう少し鍛えた方がいいのだろうか、とか思っちゃうんだけど……
 すると、スア、僕の腕をつんつんと引っ張って
「……マッチョは、ちょっと苦手、なの」
 そう、困惑した表情を浮かべながら、首を左右に振るスア。

「な、なんですとぉ!?」
 なんかスアの言葉にショックを受けてるトルタス爺なんだけど、
 スア、また大きなため息をついて
「……トルタス爺、いつも言ってる、よ」
 そう、言葉を向けて行ったわけです。

「……ちょっとあなた?」
 トルタス爺とスアのやりとりに苦笑していると
 なんかいつの間にか僕の背後に、巨大な1本角を持った馬が……あ、これ、ユニコーン!?
「そう、アタシは水晶一角獣(クリスタルユニコーン)のヴィヴィランテス。
 ……でもね、そんなことよりも、お前よ、タクラリョーイチ! アタシはアナタを許さないよ」
 そう言うと、その水晶一角獣のヴィヴィランテス、
 その、綺麗な水晶で出来ている角を僕の背中に押し当ててくる。
「アタシの大事な大事な大事な大事なスア様の純血を破った男を、アタシは許すわけにはいかない。
 ったく、スア様のように

 胸がなくて
 腰は華奢
 お尻はストーン
 色気もないし
 チンチクリンで

 それでいて崇高この上ないお方に、よもや手を出す不逞の輩が現れるなんて、このヴィヴィランテス、一生の不覚です。
 タクラリョーイチ、せめて、この私が貴様をここで葬り、せめてもの……」
 そこまで言ったヴィヴィランテス
 そこで、はた、と動作を止めます。

 僕は、両手を上げた状態で振り向くと

 なんか、ヴィヴィランテス
 僕の横にいるパラナミオをジッと見つめています。

「……あらあらまぁまぁ、何ということでしょう!?
 スア様に負けずとも劣らない、この

 胸がなくて
 腰は華奢
 お尻はストーン
 色気もないし
 チンチクリンで

 それでいて、まるでドラゴンのような気品をそこはかとなく醸し出している素敵なお嬢様が、まさかこの世に存在していようとは……」
 そう言うと、ヴィヴィランテス、
 詠唱したかと思うと、その姿を人型に変え……って、あれ? 女?
 
 幼女然とした、頭に角の生えた姿に変化したヴィヴィランテスは
 その姿のまま、パラナミオに抱きつき、頬をスリスリしています。

 その姿を見つめながら、スア
 またも大きなため息をついて
「……ヴィヴィランテスは、乙女が大好き、というか、乙女の言うことしか、聞かない、の」
 
 で、なんでも
 このヴィヴィランテス
 昔は、普通に男の姿をしていたそうなんだけど
 幼女然とした少女を好き過ぎたあまり、自分の人型時の姿を、幼女然としたものに強制変化させちゃったんだとか……

 ……つまりあれですか? 萌え幼女好きなオタクが、自分自身を萌え幼女の姿に……

「っとタクラリョーイチ、何か失礼な妄想してない?」
 なんか、僕の脳内をのぞき見たかのように、声を荒げるヴィヴィランテス

 あ、その怒り声は男のものだ

 すると、ヴィヴィランテス、
 大慌てで口元に手をあて、
「あらあらあら、このアタシとしたことが、おほほほほ」
 ってやってるけど
 このヴィヴィランテスに抱きつかれていたパラナミオは
「この人怖いです、パパ」
 そう言いながら、僕の影に隠れました。

 すると、ヴィヴィランテス
「お、おのれタクラリョーイチ! スア様の純血を奪ったばかりか
 そのパラナミオ様にまで手を出そうとしてますね!
 そのような不埒な輩、このヴィヴィランテスが、月にかわって成敗してくれる!」
 そう言いながら、頭の角を僕に向けて突進してきた。

「……まったく、もぅ」
 すると
 そんなヴィヴィランテスに向かって右手をかざしたスア。
 次の瞬間、

 僕達の目の前で、ヴィヴィランテス、焼き物の馬の姿に……

 え~、これ、僕の世界で見たことがあるぞ
 ハニワの王子のお供の、あのハニワの馬だよね、これってば

 で、その姿に変えられたヴィヴィランテス
「す、す、スア様ぁ!? こ、こ、この姿は美しくありません!? 愛でるべき対象になりえません!?」
 ヴィヴィランテス、自分の手足を確認しながら、号泣してます。

 でも、スア

「……おしおき、よ。しばらく、そのまま」
 そう言いながら、その頬をプゥ、と膨らませてます。

 で、その時スア、

……胸がなくて
 腰は華奢
 お尻はストーン
 色気もないし
 チンチクリンで

 って、言い過ぎだし……そこまでひどくない……と、思うし……

 ブツブツそう言ってるのを、僕は聞き逃さなかったんだけど
 僕はそんなスアを抱きしめて
「……スア、愛してるよ」
 そう耳元で囁くと

 スア、ぼふん、と、その顔を真っ赤にして
 エヘヘ、と照れっ照れな表情を浮かべたんですけど、

 今日は、もう一人
「パラナミオも、大好きだよ」
 そう言って、僕の後方に隠れていたパラナミオも一緒にギュッと

 すると、パラナミオ
「パパ、ママ、パラナミオもお2人が大好きです」
 って、ニッコリ笑って抱きついてきます。

 そんな僕達を
「ほっほっほ仲良し家族でございますなぁ、よきかなよきかな」
 そう言って笑うトルタス爺が、いい笑顔で笑いながら見つめてました。

 その横で、
「この姿はいやぁぁぁぁぁぁ」
 って、叫びながら走り回ってるヴィヴィランテスは、ちょっとうざいんだけどね……

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