コンビニおもてなし3号店と、魔女集落 その4
コンビニおもてなし3号店の周辺に転居してきている魔法使いさん達の懐事情を
「ハローお仕事依頼掲示板・全国版」で、改善することに成功したわけなんだけど
ここで僕は、もうひとつ思ってたことがあるわけでして……
「スア、魔女魔法出版のダンダリンダを呼んで……」
「はい、何か?」
僕の言葉が終わらないうちに、僕の横に突如発生した魔法陣の中から現れたダンダリンダ。
うん
あとで盗聴器探さないといけないな、これは
で、まぁ、
盗聴器の件はあとでスアに相談することにして、
僕はダンダリンダに
「魔法使いが学校に通うメリットって、何があるのかな?」
そう尋ねた。
するとダンダリンダは、クスクス笑いながら
「タクラ様、そんなの、自らのランクをあげることによって、より良き仕事を手に入れることに決まっておりますわ」
「いわゆる上級魔法使いになるとか、そういうことだよね?」
「えぇ、そうですよ」
「それってさ、学校で試験を受けて、その結果によったりするもんなの?」
「えぇ、そうですね。
あとは、必須単位の取得状況とかありますけど、最終的には試験結果次第ですねぇ」
そこまで聞いて、
僕は腕組みして、しばし考えた。
で
「……たとえばだけどさ、ダンダリンダ、
その試験を、君のとこの魔女魔法出版がやることは出来ないのかい?」
「……はい?」
僕の言葉に、
ダンダリンダは、呆けたような表情して僕を見つめ返しています。
「……タクラ様、私、タクラ様のおっしゃられている言葉の意味がいまいち理解出来ていないのですが……その、試験を魔女魔法出版が行うというのはどういうことです? 魔女魔法出版で学校を作れと仰られているのですか?」
「いやいやいや、そうじゃないんだよ。
僕が言ってるのは、あくまでも試験だけを魔女魔法出版が行ったらどうかって言ってるんだ。
魔女魔法出版がさ、魔法学校並みの試験を作ってさ、それを各地にいる魔法使いに送付するんだ。
で、
それを各地の魔法使いが回答したら、魔女魔法出版に返送する。
魔女魔法出版は、その返送されたテストを採点し、その結果によって、上級昇格とか認定してあげる……こういうのって無理なのかな、って思ってさ」
僕が言ってるのは
僕が元いた世界にあった、いわゆる『通信教育』の仕組みなわけです。
この世界には、魔法使いが通える学校が王都に1つしかなく
しかも、そこを上級魔法使いのお茶会倶楽部が私物化していると聞いてから、ずっと考えてたのが、これなわけです。
別の魔法学校を1から作るとなると、そりゃ大変でしょうよ。
土地の取得に始まって、校舎の建築、教育指導要領の作成・教員の確保などなど
まぁ、ちょっと考えただけでも頭が痛くなるわけです。
でも
これを通信教育として
テストの受け渡しによって成績が決まっていき、その成績によって昇格していく……
そんな仕組みが出来れば、各地の魔法使いは、家にいながらにして、なおかつ、上級魔法使いのお茶会倶楽部が牛耳ってる魔法学校に、無理をして通わなくても、初級から中級、中級から上級へと昇格していくことが出来る。
で、それを魔女魔法出版主催でやったらどうかな?
僕は、そう提案しているわけです。
で、
僕の言葉を聞いたダンダリンダも
僕の言ってる言葉の意味をようやく理解したらしく、ブツブツいいながらあれこれ思案しています。
すると
「タクラ様、これは私1人の一存では決めかねますので……
私、すぐに魔女魔法出版に戻って、この案を会議にかけてみますわ」
そう言うと、ダンダリンダは、あっと言う間に魔法陣を展開し、その中に消えていった。
で、待つこと1刻
「お待たせしました」
手に、山のような書類を抱えて、ダンダリンダが再び魔法陣の中から出現しました。
で、
ダンダリンダは、僕とスアを交互に見つめると
「まず結果から申し上げますと、条件付きですが、タクラ様の案は了承されました」
そう言いながら、ダンダリンダは数枚の書類を僕に手渡してくる。
それには
『魔女魔法出版ツーシン教育に関する契約書 素案』
と書かれていて、あれこれ条項が明記されています。
「魔法学校が認定する魔法使いの階級と同じ階級を、我ら魔女魔法出版ツーシン教育がテストの結果によって認定していく。
そして、そのテストの監修に権威をもたせ、その権威によって、魔法学校の認定する階級と、同等以上の権威を持たせることが可能なら、実施する価値があるのではないか……そういう結論と相成りました」
で、
その素案によれば
テストには制限魔法があらかじめ設定されていて、
・右上にある「開始」のボタンを押すまで内容が表示されない
・周囲に参考書や、助言者がいると開始ボタンが押せない
・テストが開始状態になると、制限時間まで書き込みが可能となる
・制限時間がくると、テストはその場で魔女魔法出版へ魔法転送される
・テスト実施中の状況はすべて空間記録されており、怪しい素振りなどがあれば、即失格となる
まぁ、細かな但し書きも多数含まれてはいるんだけど
大まかに言えばこんな感じ。
うん、さすがは魔女魔法出版が考えた案だけあって、かっちりしてるなぁ
僕は、自分が思っていた以上の内容に、満足して頷いていく。
「……で、ですね。
この仕組みを、昇格案件だけに使用するのではなく、
『魔法薬剤作成免許状取得試験』
『魔法劇物作成免許状取得試験』
などの実施にも応用していけたら、と思っておりますです」
そう言いながら、ダンダリンダはさらに僕に書類を追加していく。
確かに、魔法使いの階級だけはなくて、手に職となりうる資格の取得まで出来るのであれば、そりゃ魔法使い達だって喜ぶんじゃないか?
そう思ってる僕に、
僕の横にいたスアが、その顔を輝かせながら何度も頷いていた。
うん
スアのこの様子を見る限り、いい案だったようだ。
「……この資格があれば、お金稼ぎやすくなる、の」
スアが言うように、
欠損レベルの怪我でも治しちゃう高機能傷薬とか、かなり高額な値段設定
「……ちゃんと適正価格、だよ?」
スアがぼったくってないのはよくわかってるって
で
そんな高額な値段設定の薬からどんどん売れて行く傾向があるわけで
そんな薬を作成し販売出来る資格まで取得出来るとなれば、確かにやりたくなるよなって思うわけです。
ここでダンダリンダは
「そこでですね、我々としては、ここでスア=タクラ様のご協力を仰ぎたいと思っております」
そう言いながら、視線をスアへ向けていく。
「要はですね、
我ら魔女魔法出版ツーシン教育の監修役をスア=タクラ様にお願いしたいと思っているのです」
あぁ、
これってあれか
魔女魔法出版ツーシン教育の実施している試験は、すべて伝説の魔法使いステル=アムこと、スア=タクラがその内容を監修しており、その品質を保証している。
そう、対外的にも、目に見えてわかりやすい仕組みをつくりたい、ってことか
……でも、これだと、スアの負担が増えちゃうし……
そう思っていると、スアは僕の顔を見上げながら
「……これはね、魔法使いみんなのためにも、ぜひすべきこだと思う、の」
スア、なんかすっごい乗り気な顔で何度も頷いてます。
なんか
スアがそこまで前向きに考えてくれてるってことで
僕の案が、この世界の魔法使い達の役に立ちそうなんだ、って思うと、なんかすごくうれしいわけです、はい。
……おっと
これは、言い直しておかないと
『この世界の、ごく一部を除いた、大半の魔法使いの役に立ちそうなんだ……』
そう、ごく一部を除いた
そう、ごく一部を、ですよ
誰ですか? それって上級魔法使いのお茶会倶楽部の奴らの事だな、って言ってるのは?
と、まぁ
こんな経緯の後
ダンダリンダは、この魔女魔法出版ツーシン教育部を立ち上げるべく、この日からあれこれ奔走し始めることになりました。
どうせするのなら、最初からかっちりした物にしたい
そう考えての行動だったわけです。
で
王都パルマからも認可を受けることにも成功し
話はトントン拍子に進んでいきます。
ちなみに
ここまで、ごく一部の方々からの妨害工作はいまだ無し
なんでも
「ツーシン教育? 何それ?美味しいのですかぁ?」
お~ほっほっほっほ
と、いまだに王都でふんぞり返って小馬鹿にしてるそうな。
まぁいいよ
発案者の僕としても、魔法学校やお茶会倶楽部と正面切って喧嘩しようとしてるわけじゃない。
僕の案は、あくまでも「棲み分け」をしようとしてるわけです。
上級魔法使いのお茶会倶楽部の息のかかっていない、別の枠組が出来上がり
その中で魔法使い達が権威を持ち、切磋琢磨していけるのであれば、それでいいんじゃないか、と
別に
上級魔法使いのお茶会倶楽部がいい、そう思ってる人達は人達で、その枠組みの中で頑張ってくれたらいいじゃん。
まぁ、要はそういうことです。
で、
ダンダリンダがあちこち走り回って、準備におよそ半月を要し、
「魔女魔法出版ツーシン教育部」は、やや見切り発車ながらも、開講しました。
で
この魔女魔法出版ツーシン教育部ですが
スアが最高顧問として試験問題の監修を行います。
試験問題そのものは魔女魔法出版ツーシン教育部が準備するので、スアはその内容をチェックするわけです。
ちなみに僕は
この魔女魔法出版ツーシン教育部の名誉顧問に名前があります。
することは特に無いのですが
ダンダリンダ曰く「発案者として、そのアイデア料」としての報酬を受け取ることが出来ることになりました……なんか、元の世界の仕組みを教えただけで、これって、すごく申し訳なく思ってしまうわけですが……
で
このツーシン教育を受けたい魔法使い達は半年ごととの契約を魔女魔法出版ツーシン教育部と結びます。
その間、半年かけて昇級に必要な知識の小テストを定期的に繰り返し、半年後に、昇級試験を実施するわけです。
ここで、もし失格しても、3回までは追試が認められていて……などなど
魔女魔法出版ツーシン教育部は、その内容を常に刷新し、より良い内容に進化し続けているわけです。
これも
校舎をもたないツーシン教育だからこそ出来る柔軟な対応なわけです。
「……これも、カガク、なの?」
スアはそう言いながら、僕を見つめ、その目を輝かせていますけど
これはカガクとは違うよなぁ
知識と経験? とでも言えばいいのかな?
するとスアは
「知識、大事! 経験も大事!」
そう言いながら、フンフンと頷いていきます。
そして、僕にすり寄り
「私、もっともっといろんなことを知りたい、教えて、ね」
そう言いながら、まるで少女のように懇願してくるスア。
……はは、伝説級の魔法使いに懇願される、一市民って……ねぇ
……そういえば、ここでふと疑問に思った。
スアが皆から言われている「伝説級」って、どんな試験をうけることになるんだろう? って
「……伝説は、試験じゃ無理、よ……その実績によって、みんなが認めてくれる、の」
と、スア。
へぇ、実績かぁ、どんなことをするんだい?
そう尋ねる僕に、スアはしばし考え込んだ後
「……攻めてきた邪神を追い返す、とか
……暗黒大魔道士を、退治する、とか
……暴れる龍を退治する、とか?」
……だいたいわかった
要は、世界を救うレベルの実績ってことですね?
僕は、この話を聞くにつけ
自分が娶った奥さんが、とんでもない大物だったってことを再び実感したわけです。
魚を釣ろうとしたら、地球その物を釣り上げた……そんな感じでしょうか?(汗
でも
契約書を眺めながら
「こんな仕組み、すごい……勉強になる、ね」
と、目を輝かせ続けてるスアを見てると、なんか、やっぱうれしくなるんですよねぇ。
この奥さんのために頑張るぞ! みたいな。
そう思いながらスアを見つめていた僕
そんな僕の視線に気づいたスアは、なんか嬉しそうに、僕に向かって微笑んでくれたわけで
-つづく