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店長と魔法使いの奥さまとサラマンダーの娘の休日 その5

川では、パラナミオとヤルメキスの2人が相変わらずキャイキャイ遊んでまして
 スアは、そんな2人を岩場にちょこんと座って眺めています。

 うん、良い光景だ。

 で、
 一方の、酔っ払い娘48の面々はというと
「「「かんぱ~い!」」」
 って、もう何十回めだ?っていうくらいな乾杯をしつつ、皆、豪快に酒を流し込んでいます。

 最初、
 店の用心棒やってる鬼人のイエロ
 元盗賊団で、今は自警団やってる猿人のセーテン
 元武具屋で、今は鉄工房やってる猫人ルア
 と、いつもの3人が始めた酒盛りが

 魔女魔法出版のダンダリンダが加わり
 魔女信用金庫の単眼族のポリロラと巨人族のマリライアが加わり
 元医者で、今はスアの自称弟子のブリリアンが加わって
 元盗賊団だった猿人4人娘が加わり、
 コンビニおもてなし2号店の、シャルンエッセンスとメイド達が加わり、
 駐屯地の女騎士ゴルアとメルアが加わり







 おい、ちょっと待て?
「はい? なんでしょうか? タクラ殿」
 そう言いながら、なんかさも当然とばかりに酒を飲んでるけどさ、ゴルア
 お前、いつのまに加わった? ねぇ?

 さっきまでお前絶対いなかったよね?

 そういう僕に、ゴルアとメルア、
 2人してあははと笑いながら
「いやなに、警邏の途中で、何やら良い匂いでしてきましたので」
「これは何を差し置いても、と駆けつけたのですよ」
 そう言って、再度笑う2人。

 なんかもう、
 ここまできたら、もういくらでも来やがれって思えてくるので人間、不思議なものです。

 で、まぁ
 ワイワイやってる面々はいいとして、問題がひとつ。

 僕は、集団から1人離れてうずくまっているシャルンエッセンスの側へ

 シャルンエッセンスは、無理矢理水着に着替えさせられて以降
 僕のパーカーを着込んで、この一角でずっとじっとしているわけで
「どう? 少しは落ちついたかい?」
 そう言いながら、僕が飲み物を差し出すと、シャルンエッセンスは、最初びっくりしたような表情をしてたけど、しばしアワアワした後、僕の手から飲み物を受け取った。
「とりあえず、果実ジュースを持って来たけど、酒の方がよかったかい?」
「あ、いえ……お店でも販売している果実の飲み物がとても好みですわ」
 と、シャルンエッセンス。

 うん
 なんか今のシャルンエッセンス、
 水着なもんだから、恥ずかしさが先にたってるせいだろう、なんかすごくしおらしいといいますか……なんか普通の女の子ってな感じだ

 でもまぁ、
 冷静に考えたらあれだよね
 履歴書描いて貰ったからわかってるけど
 まだ20才そこそこで、財政破綻した貴族家から親兄弟全員逃げ出されて、
 ある日からいきなりその貴族家の舵取りを任されてたんだ。
 その重荷を取り除いてやれば、ただの女の子しか残らないだろう。

「た、タクラ様には……その、感謝しておりますのよ、これでも」
 ジュースを飲んで一息つけたからか、シャルンエッセンスは、やや上ずった声で話し始めた。
「もう、万策尽き果てていた私たちに、コンビニおもてなし2号店のような道をお授けくださって……そ、そのおかげで、こうしてシルメール達も、お酒を飲んで楽しく出来るのですから」
 いわゆる体育座りをして、立て膝を僕が貸しているパーカーの中に突っ込んだ体勢で、そう言うシャルンエッセンス。
 そこで、「その体勢されたら、パーカーの前が伸びるし」とか思ってるあたりが、小市民なんだよなぁ。

 でもまぁ、シャルンエッセンスの言うように
 イエロやセーテンらと一緒に酒を飲んでるシルメール達の楽しそうな姿……

 ちょっと待て
 シルメール、お前はまだ未成年じゃなかったか?
「ん? 飲酒は15才から認められているから、問題ないのでは?」
 よしシルメール、好きなだけ飲んで騒いでいいぞ。今日は無礼講だ!

 とまぁ、
 話の腰が折れた中、シャルンエッセンス、なんか、すごく緊張して……というか、顔を真っ赤にしたままうつむきつつ
「そ、そこでですね、私、前々から思っていたのですけど……」
 ここでシャルンエッセンス、ガバッと顔を上げ、僕の眼前に肉薄。
 はい、接近はここまでにしとこうね、
 すでにシャルンエッセンスの真上で、スアのファイアランスがロックオンしてるからね、

 で、少し距離を取って、シャルンエッセンス、仕切り直し
「わ、わ、わ、我が、バニラビーンズ家に養子として入って頂き、わ、わ、わ、私のお、お、お、お兄様になっていただけませんこと!?」
 そう言い、顔面真っ赤にしてるシャルンエッセンス。
 おいおい、いきなりどうしたっていうんだ?形はどうあれ、バニラビーンズ家は、今は回復傾向にあるんだし、お前が当主のままでも別に問題ないんじゃないのか?
「そ、それはそうなのでありますけども……」
 なんか、シャルンエッセンス、両手の人差し指を、顔の前でつんつんさせながら、足下に視線を落としてる。

 ここで、メイドのシルメールが、僕達の方へ歩み寄って来たかと思うと
「お嬢様はねぇ、変に頑なというか、頑固というか、恥ずかしがりなんで……ちょっと待ってくださいな」
 そう言うなり、シャルンエッセンスの口にいきなり酒瓶を突っ込んで

*一気飲みは危険です。絶対に真似しないでください*

 数分後

「だかられすねぇ……タクラ様はぁ、あたしの理想のお兄様像に、ばっちりなんれすよぉ……」
 駆けつけ2本でへべれけになったシャルンエッセンスは、僕のまでエヘエヘ笑いながら、僕の顔をにへらぁって笑いながら見上げてます。
「時に厳しくてぇ、時に優しくてぇ、いつも見ていてくださっててぇ、顔もギリギリ及第点だしぃ……」
 うん、酔って本音がダダ漏れてるからとはいえ、最後の1つは地味にダメージが来るな
 ……まぁ、イケてるとまでは思ってないけどさ。
「……れすからぁ……あたしのお兄様になってほしいのれすよぉ……リョウイチお兄様ぁ」
 そう言い、僕の腕に抱きついてくるシャルンエッセンス。

 するとここで
 シャルンエッセンスの反対側から、シルメールが、僕の耳元で
「……あ、シャルンエッセンス様のいうお兄様の中には『禁断の愛』『道ならぬ愛』『兄妹燃』要素がふんだんに盛り込まれておりますんで」
 そう、言うだけ言って、そそくさと宴会の輪に戻っていったんだけど、
 一方のシャルンエッセンスは
「ねぇ、わたくしとぉ、暁の地平線を眺めながらぁ、モーニングコーヒーをいただきませんことぉ」
 そう言い、
 唇を突き出し
 「ん~」と、僕にせまってくるシャルンエッセンス。

 すまんがシャルンエッセンス
 僕は、店長としてお前達の面倒は見てやるが、それ以上の仲になる気はない

 なんて思いながら、シャルンエッセンスの顔を必死に抑えていると
「ビッチが」
 その直度
 僕の後頭部あたりから、スアの声が聞こえたかと思うと、

 次の瞬間
 シャルンエッセンスの体は、巨木の家の一番切っ先に引っかかっており
「やだやだやだぁ、お兄様にもっと甘えるのぉ! お兄様にもっと可愛がってもらうのぉ! お兄様に私の初めてをもらってもらうのぉ!」
 ……なんか、まだ酔いが勝っているせいで、か、世迷い言を口走り続けているシャルンエッセンスなので、酔いが覚めるまであのまま放置しておこうと思う。

「おぉ、いいですなぁ、風光明媚な特等席で」
 って、イエロ言ってるけど
 あれ、酔いが冷めたらえらいことだと思うぞ?


 で、まぁ、
 ようやく酔っ払いから解放された僕は、スアの元へ
 スア、予想通り嫉妬混じりに表情で、その頬をプゥっと膨らませてたんだけど
「どう? パラナミオ達は」
 そう言いながら、その肩を抱くと、
 スアさん、顔をぼふん!と瞬時に真っ赤にしながら
「うん、元気、よ」
 そう言いながら、僕の方にすり寄って来ます。

 うん
 やっぱ、こうしてスアとイチャイチャしているのが、一番落ちつく。 

 そんな僕とスアの前では
「パパ、ママ、みてください、こんなお魚とれました」
 と良いながら、パラナミオが満面の笑みで、岩場からなんかでっかい尾っぽを引っ張て来てます。
 その横では、
「な、な、な、なんかぬるぬるするでごじゃりまするな」
 と、ヤルメキスも、その運搬を手伝ってます。

 うん?
 なんか、すごくでっかい魚を取ったんだなぁ……よく暴れないな、そいつ
 って思ってよく見たら、

 その魚の頭にあたり、ぼっこぼこになってて……
 それを見てた僕に、スアが
「一方的だった、よ」
 そう言いながら、右手の親指を立てて、グッと……

 あぁ、つまり
 パラナミオが、サラマンダーの本能全開にして仕留めたってわけか。

 しかしこの魚
 色といい、
 形状といい
 なんか、僕の元いた世界で言うところの、鰻にそっくりだ
「……え? ウルムナギを食べる、の!?」
 って、なんかスアがびっくりしてるけど、え? こいつ毒でもあるの?
「……いえ、毒はない、けど、骨多いし、泥臭いし……」
 スアの話を聞いててピンと来たのが

 こっちの世界では、この鰻もどきをそのまま輪切りにして焼いてんだな、と
 内臓もそのままにしてれば、そりゃ生臭いわな

 まぁ、物は試し、と
 このウルムナギとかいう鰻もどきをさばき、いわゆる蒲焼きにしていきます。

「うむ? な、なんですか、このやたらと食欲をそそる匂いは!?」
 気がつけば、酔っ払い娘達が大挙して、僕が作業してる竈のそばに寄ってたかってきます。

 が

 最初は、この魚を捕らえた、パラナミオとヤルメキス。

 ちょうど炊きあがったご飯の上に蒲焼きを3枚のせ、そこにタレをかけて
「さ、食べて見て」
 と、僕が手渡すと、2人とも目を輝かせながら
「す、すごく美味しそうです。いただきますです!」
 まるで競争のようにそれをかき込んで行きます。

 ってか、せめて箸かフォークは使いなさい。
 手づかみ甚目だと、いってるでしょ

 そう言う僕に、パラナミオとヤルメキス、
「「美味しい! これすごく美味しい!」」
 そう連呼しながら、がつがつ食べていきます。

 で

 これを見ているチーム酔っ払い
「て、店長殿、もう辛抱たまりません!」
「こちらにも、そのウルムナギをぜひ!」
「こちらはご飯ましましでお願いしたく」
 もう、次から次へと声があがっていき、

 はいはい、わかったわかった
 ウルムナギは、でかいからまだ、いくらでも作れるから

 結局この後は、このウルムナギの蒲焼きを延々作り続ける羽目になった僕なんだけど
 このウルムナギ
 この世界では、蒲焼きという調理法が浸透していないためか、あまり美味しい物とされていないらしく、市場でも安く買えるんだとか。
 
 そう

 いつの間にか、宴会の輪に加わっていた、市場のテイルスが教えてくれましたとさ。

 一生懸命焼きまくってる僕
 その横には、ちょこんと座って、蒲焼きをちまちまと、ハムハムしているスアの姿。

「パパ、おかわりください!」
 ヤルメキスとすっかり仲良しになったパラナミオが
 2人一緒に僕のとこに皿を持ってきました。
 僕は、即座に焼きたての蒲焼きを2枚づつ、2人の皿へ。

 すると、2人とも満面の笑みを浮かべ
 そのまま、スアの横に座りました。

 うん
 なんか、最初に思ってたのとは、かなり違うけど
 こういう休日も、まぁ、楽しくていいな。

 そう思ったわけです。

しおり