バトコンベの大武闘大会 その6
スアの通帳から現れた魔女信用金庫の単眼族のポリロナと巨人族のマリライア。
2人は、僕の耳元に口を寄せると
「……見なかったことにして、この場からとっとと立ち去りましょう」
とポリロナ
「はい、それが一番だと思います」
とマリライア
2人はそう僕の耳元で囁くと
ガシッ
左右から僕の腕を掴んで、コンビニおもてなしの出店に向かって引っ張って……って、おい!?
その場から強制退去させられていく僕の姿を見て
上級魔女のお茶会倶楽部の2人
「さすが、魔女信用金庫のお二人ですわ」
お~ほっほっほっほ
「よく状況を理解なさっていらっしゃる」
お~ほっほっほっほ
あぁ、もう、
あのデフォの高笑いはホントむかつくな
とはいえ
魔女信用金庫の2人が言うことは、まぁ間違いじゃない
この場合、むしろ正しいと言えるだろう
もし仮に、
ここで僕が、この女の人、ララ家のララさんだったか
……に、お金を貸したとしよう
すると
『コンビニおもてなしの店長は見ず知らずの相手にも大金を貸しちゃうお人好しだ』
なぁんて噂がたったりして
「金を貸してくれ~」
「金を貸してくれ~」
「金を貸してくれ~」
ってな具合で、明日からウチの店の前には、借金の申し込みにやってくる有象無象が殺到してくるのは明白だ。
なんて思ってたら
ピタ
僕を出店に引っ張ってた2人
その場に立ち止まり
「あらあら、ただの甘ちゃんかと思いましたら、意外と事と次第は理解なさっておいでなのですね」
とポリロナ
「さすがは、スア・タクラ様の旦那様、といったところでしょうか」
とマリライア
「『どうでもいいから金をなんとかしてやってくれ』ってごねられるお方でないとわかれば、ちょっとお手伝いしちゃいますわよ」
ポリロナはそう言うと、
僕らと、上級魔法使いの2人の間でへたり込んでるララ家のララさんの元まで引き返し
「ララ様、私、魔女信用金庫のポリロナと申します。
ぶしつけな質問で恐縮ですが、あなたはこの魔女達からお金を借りられた……それは事実ですか?」
そう、ララに聞いていく
するとララは、へたり込んだまま
「……は、はい、オお恥ずかしいお話ですが……領地経営がうまくいかず、お屋敷の皆に支払う給金に困り果てて、つい……」
そう言いながら、その目から涙をボロボロと……
あぁ……
その気持ち、わからんでもない……
元の世界で、コンビニおもてなしを営業してた頃
数字の7のつくコンビニとか、あなたとコンビだなんだと抜かすコンビニとかに押されまくって、連日閑古鳥の鳴いてたウチの店でも、バイトに金払えなくなって、何度か銀行に頭下げに行ったんだよなぁ……
……まぁ、最後はそのバイトすら切り詰めて、1人で店やってたんだけどね……
で、そんな泣いてるララに、
「失礼ながら、賃金借用書は存在していますか?」
と、今度はマリライア。
ララは
「はい、ここに……」
そう言いながら、腰の魔法袋の中から1枚の書類を取りだした。
それを受け取ったマリライアは、内容をフンフンと確認していく。
で、
僕もその書類をのぞき込んだところ
『借用書
ララ家当主ララは、上級魔女のお茶会倶楽部より、金 ~元いた世界のお金で2000万円~を借り受けます。
返済出来なかった場合は、相応の対価をもって、支払いにあてます』
ってな内容がずらずらと書かれた後、最後に血判が押されている。
……これってあれか?
前に聞いた血の盟約とか言うヤツ?
「あら、よくご存じですね」
と、とポリロナ
「破ると地獄から血の盟約の執行管理人がきちゃいますよぉ」
とマリライア
毎回思うんだけど、そんな子供だましで今時ビビるやつなんて……
って思ってたら、
なんか出店で、僕の事を心配そうに眺めていたパラナミオが、なんか真っ青な顔をして
「ひ、ひ、ひ、ひぃぃ……血の盟約の執行管理人、怖いぃ!?」
って……あれ?、なんかすっごくビビってる
よく見ると、僕の周囲に、いつの間にか集まってた野次馬達も
……おい、血の盟約らしいぞ
……おいおい、マジか
っとか言いながら、若干引き気味になっている
……え? マジなのか? これって……
まぁ、血の盟約云々は置いておいて、
僕はこの契約書を見ながら、上級魔法使いの2人に
「おかしくないか? この契約書には、金が払えなかったら『相応の対価』で支払うとしか書いてないしさ、貴族の称号で支払えなんて書いてないじゃないか」
そう言う僕に、上級魔法使いの2人
「あんた馬鹿ぁ?」
お~ほっほっほっほ
「あんた馬鹿ぁ?」
お~ほっほっほっほ
と、まぁ、ひとしきり高笑いすると
「貴族の称号は本来売買を厳禁されているのよぉ?
そんな物を、契約書に記載出来るわけないでしょ?」
お~ほっほっほっほ
「でもね、その貧乏貴族は、借りたお金に相応する対価たりえる価値を持った資産なんて持ち合わせていない。つまりは、禁忌とわかった上で、その貴族の称号を差し出すしか、もう手は残ってないのよ」
お~ほっほっほっほ
ポチ
「え? 何、よく聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」
僕は、やや芝居がかった仕草で右手を耳にあて。
まぁ、あれだ
白塗りの馬鹿なお殿様が
「あんだって?」
って、やる、あの仕草
それをしながら2人へ耳を向けて行く
そんな僕の仕草に、若干イラッとした表情を浮かべながらその2人
「いいわ、耳の遠いあなたにもう一回だけ言って差し上げるわ。
(こほん)
いいこと? 貴族の称号はね、本来売買を厳禁されているのよぉ?
そんな物を、契約書に記載出来るわけないでしょ?」
お~ほっほっほっほ
「でもね、その貧乏貴族は、借りたお金に相応する対価たりえる価値を持った資産なんて持ち合わせていない。つまりは、禁忌とわかった上で、その貴族の称号を差し出すしか、もう手は残ってないのよ」
お~ほっほっほっほ
とまぁ、
律儀に高笑いまでしっかり際限してくれた上級魔法使いの2人
「ってことは、お前さん達も、その禁忌を承知の上で、ララさんに金を貸したってことなんだろ?
それって法律的にやばいんじゃないのか?」
「何言ってますの?
ララ家当主ララは、貴族の称号を我らに譲渡するのであって、借金の対価として手渡すわけではないのですよ?」
お~ほっほっほっほ
「例え、それが譲渡ではなく、借金の対価として手渡された物だとしても、
どこに証拠がございますの? このとおり契約書には明記はないし、手続きもあくまで譲渡として行わさせていただきますもの」
お~ほっほっほっほ
「……でもさぁ、今おまえらが言った内容をさ、僕や、魔女信用金庫の人達が法廷で証言したらお前らまずいんじゃないの?」
「やっぱ、あんた馬鹿ぁ、ですわねぇ」
お~ほっほっほっほ
「王都の裁判は完全証拠主義。
証言は証拠としては採用されませんわ」
お~ほっほっほっほ
「まぁ、この話の内容を魔法録音機で録音でもされてれば、私たちも焦りますけど」
お~ほっほっほっほ
「この界隈には、魔法録音機無効魔法を展開しておりますから、対策は万全ですわ」
お~ほっほっほっほ
律儀に、毎回高笑い付きで回答してくる上級魔法使いの2人
そんな2人の言葉を聞きながら、僕の後方の魔女信用金庫の2人
「あ~、ホントですねぇ」
と、ポリロナ
「言質撮れたと思ったのに、雑音になっちゃってますねぇ」
と、マリライアは、なんか小型の箱みたいなのを耳にあてて確認してる……ってか、しっかり録音しようとしてたのか……さすが魔女信用金庫ってとこかね
そんなマリライアの様子を見ながら、
上級魔法使いの2人、なんか勝ち誇ったように笑ってやがる。
ポチ
僕は、胸ポケットに、スイッチをオンにして入れて置いたある物のスイッチをオフにした
ICレコーダー
相手の言質をとるために使用される小型録音機
太陽光発電にて電力事情がばっちりなコンビニおもてなしにて、充電もしっかり行っており
12時間連続録音可能
で、棒状のICレコーダーのスイッチをオンにした僕
『え? 何、よく聞こえなかった。もう一回言ってくれないか……』
うん、しっかり録音出来てる。
魔法じゃないから、消えてもないな
で、まぁ、
僕の手の中で、先ほどの会話を延々繰り返していくICレコーダーを前にして
上級魔法使いの2人
真っ青
「あ~、これは完全にアウトですねぇ」
と、ポリロナ
「貴族の称号目当てで金を貸したって、完全に言質とれてますねぇ。これを証拠として裁判に提出されたら、有罪確定ですねぇ」
とマリライア
魔女信用金庫の2人の言葉を聞いて、さらに真っ青になった上級魔法使いの2人は
「な、な、な、なんですの!? なんですの!?」
「ど、ど、ど、どうしてその魔法録音機は無効魔法の影響を受けていないのですか!?」
とまぁ、必死の形相。
そんな2人に、僕はドヤ顔でこういった。
「これは、魔法じゃない……『カガク』だ」
と
「か、か、か、カガクですって!?」
「あ、あ、あ、あの、ステル=アム先生の最新著書に明記されていた異世界の魔法!?」
そう言い、抱き合って震え上がってる2人に僕は、さらなるドヤ顔でこういった
「なぁ、お2人さん、取引といかないか?」
◇◇
この後の細かい契約に関しては
この世界の金融事情及び契約事情に精通している魔女信用金庫の2人に任せたんだけど
大まかには
・上級魔法使いの2人は、ララ家に無理な取り立ては行わない。
・貴族の称号を借金の対価としてはならない
・これを破ったら、ICレコーダーを証拠として王都裁判所に提出する
とまぁ、こういったところ
一応、金を借りたのは事実なんだし
それを無かったことにしろとまで言うのは横暴と言うものだろう。
ただし、その督促に制限を設けさせなかったので、
ララ家には、今後は死ぬ気で頑張ってもらい、1日も早く借金が完済出来るように頑張ってもらわないとな。
そんなこんなで
この新しい契約が結ばれると
「「今に見てなさい!」」
って捨て台詞残して小走りに立ち去っていった上級魔法使いの2人。
そんな2人の姿に
事の成り行きを見守ってた一同から一斉に歓声が沸き上がった。
「ざまぁ! 上級魔法使いどもざまぁ!」
「あいつら、いつも威張り散らしてやがるから、むかついてたんだ」
「か~! す~っとしたぜ!」
ってか、
上級魔法使いって、すっごい嫌われてんだねぇ……
この状況を見回しながら、僕は改めてそれを実感。
「今回の件は、本当にありがとうございました。
時間はかかると思いますが、しっかり頑張ろうと思います」
ララさんも、そう言いながら僕に何度も頭を下げていた。
一応
魔女信用金庫の2人に、ララさんの相談にのってあげてほしいと伝えておいたので
今後、また変な話にひっかかることは無いと思う。
で、まぁ、
そんな感じで、安堵しながら周囲の歓声に、照れまくってた僕なんだけど
そんな僕の足下に、木箱がごとごと音をたてながら近寄って来た。
……って、あれ? スアだよね?
すると、スア
その木箱から右手を出すと
「そのカガク見せて! もっと見せて!」
って言いながら、ICレコーダーを指さしてきたわけで
はは
なんともスアらしいと言いますか。
◇◇
この後、5日間にわたって開催されたバトコンベの大武闘大会中
コンビニおもてなしは、出店を出し続けたんだけど
今回の上級魔法使いを追い払ったって話が漏れ伝わったせいもあってか
もう、連日押すな押すなの大盛況。
すさまじい人手不足に陥りかけたところを
「ぜひお手伝いさせてください!」
って、ララさんをはじめとしたララ家の皆さんが手伝ってくれたおかげで、
どうにか乗り切ることが出来た次第です、はい。
とにかく、今夜はゆっくりさせてくれぇ
って思った僕の足下には、いつの間にか木箱がゴトゴトと近寄って来ていたわけで……
どうやら、
ゆっくりする前に、奥さんのためにひと頑張りしないといけないようです。
まぁ、のぞむところなんですけどね。