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バトコンベの大武闘大会 その5

 ここ、バトコンベで行われている大武闘大会の2日目
 その第2予選が始まろうとしている会場の隅から
「どなたか……どなたか……お助け願えませんかぁ!?」
 とあぁ、なんか女性の声が聞こえてきます。

 なんだろうと思って、出店から顔を出してみると
 会場の一角に、1人の女性が立っていた、なんか、その女性が観客席に向かって一生懸命声を出している。
 その足下には、彼女の関係者なのか、
 数人の剣士というか、騎士らしい人達3人うずくまっている。

 で
 その集団をよく見た僕は
 その女性達の後ろでふんぞり返っている2人組の顔を見て、唖然とした。

 あの、上級魔道使いのお茶会倶楽部の連中である。
 1人は、スアに瞬殺で送り返された豊満な女
 1人は、偽スアから売りつけられた指輪を嬉しそうにつけてた、さらに豊満な女

 っていうかお前ら、イエロ達にこてんぱんに負けてそのまま行方不明になってたんじゃないのかよ?

「失礼ね。お仕事をしに王都へ戻っていた、と、言い直してくださいますか?」
 お~ほっほっほっほ

 ってか、
 なんか、逃げ帰る前の、あの暑苦しいテンションに戻ってるあの2人

 ただ、気になるのが、その前のあの女の人なんだよな
 なんで、あの人は上級魔道使いのお茶会倶楽部の2人の前で、あんなに一生懸命声を上げ続けているんだ?

 そう思っている僕に、
 出店の客の1人が
「あ、あれねぇ、お茶会倶楽部からお金を借りた下級貴族だろうね、おそらく」

 なんでも、その客の話だと
 王都の貴族の世界ってのには、ピンからキリまであるそうで、
 その上位に位置している貴族達ってのは、なんか四公とか言われる、この国の王様なみの地位と権力と金を持ってる人達みたいな人らがいる。

 その一方で、

 毎月の、使用人の給金に事欠くような下級まで、と……まぁ、よくある格差社会ってことらしい。

 で
 その下級貴族の窮状に目を付けているのが、
 あのデブ女率いる上級魔道使いのお茶会倶楽部なんだとか

「あいつらさぁ、金を返せそうにない下級貴族にこぞって金を貸すんだよ」
「え? でもそれじゃあ、損するだけなんじゃ……」
 そう言う僕に、その客は
「あの魔女達はね、貴族の称号がほしいんだよ。
 金貸して、返せなくなった下級貴族達から、その貴族の称号を借金のカタに奪っていくのさ」

 なるほどねぇ……まぁ、だいたいの仕組みはわかったけど

 ……でも、あの上級魔法使い達って、なんでそこまでして貴族の称号を欲しがってるんだ?

 そう僕が思っていると、
 僕の足下に木箱がゴトゴトと移動してきて……あぁ、これ、スアが入ってるんですけどね

「……『私貴族よ、おっほっほ』、って、偉そうにしたい、だけ」
 と、スアが僕にだけ聞こえる大きさの声でそう言ったんだけど。

 ……は? 何それ?

 で、そこからのスアの話を要約すると
 
 上級魔道士は、手に入れた貴族の称号を使って
 貴族のパーティやお茶会に参加し、貴族の偉い方々や、国の偉い方々とお近づきになって、自分達の地位を向上させたいんだとか。
 なんでも、今、王都ででかい顔をしている上級魔法使い達の大半が、こういった手法で手に入れた貴族の称号を持ってて、その称号を使って王都のお偉いさん達にゴマすりまくってて、で、それなりの地位を手にしていて……で、中級以下の魔法使いの前でふんぞり返って偉そうにしている……と。

 なんか、
 上級魔法使い達の自己顕示欲の食い物にされる下級貴族ってねぇ……

「多分、あの姉ちゃんも、後ろにいる上級魔法使いから金を借りてるんだろうよ……
 で、金策のあてがなくなって、この大武闘大会の賞金をあてにして参加しようとしてるんじゃないか?」

 え? 賞金?

「あぁ、この大武闘大会ってさ、結構いい金になるんだぜ。
 予選突破するだけで、~日本円にして、約1000万円~ が支給されるくらいだしな」

 ……ちょっと待て
 イエロ達は、予選を突破して、その賞金の権利をゲットしておきながら、その権利を放棄したっていうの、ねぇ!?
 ちょっとクラッとなりながらも、
、僕はその視線を改めて、いまだに声を上げ続けている女の人に視線を向けた。

 言われて、見直して見れば女の人の前に3人の騎士っぽい人が座ってるし
 多分、あの3人で予選に参加しようとしてたんだろうけど……

 ごめん
 お世辞にも、その3人って、予選を突破できそうには見えない……
 昨日の、イエロ達の予選を見てるからこそ、余計にそう思うわけなんだけど

 まぁ、
 実際問題として、見て見ぬフリをするってのも当然ありだとは思う
 この女の人のことを知ってるだけでもないし

 ただ
 なんかむかつくんだよなぁ……あの、ドヤ顔の上級魔法使い達が……

 なんて考えていると
 なんか木箱が再び僕の足に向かってゴトゴト音を立てながら迫ってきて……あ、中にスアが入ってます、念のため。

「……要は、お金……でしょ?」
 って、スア。
 
 うん、確かにそうではある……

 大会の賞金を当てにしてたとなると、予選突破で手に入るっていう、僕の元いた世界で言うところの、約1000万円ってとこだろうな、借金してるのって
 ……確かに、今のコンビニおもてなしならその額、払えなくはないんだけど、
 帰ってくる可能性がほぼない相手にそれを貸し付けるほど、余裕があるわけでもないし……

 なんて思ってたら、
 スアが木箱の隙間から何かを差し出して来てて……って、何これ? 預金通帳?
 なんか、僕の元いた世界でいうところの預金通帳みたいな物を、スアから手渡されたんだけど
 これ、中には何にも記載されてない……一体なんなんだ、これ?

「……それ持って……言って、話してきて、ね」
 疑問系の僕に、そう言うスア。

 まぁ、スアがそう言うなら、ってんで、
 僕は、出店に殺到してる客に、
「ちょっとだけごめんんさい」
 って謝罪しながら、会場で声を上げ続けている女性の元へ駆け寄った。

◇◇

 通路を通って会場に降りると
「どなたか~、どなたかお願い出来ませんか~……」
 そう言いながらその女性、右手に冒険者組合とかに提出する求人広告の髪を持って、一生懸命声を出し続けていた。

 何々、
『助っ人募集・大武闘大会の予選を一緒に戦ってくれる型を募集します。
 募集用件:予選を確実に突破できる方
 報  酬:お背中をお流しします』

……は?

 ちょっと、ちょっとちょっと、何その報酬!?
 用件が、予選を確実に突破ってなってる割に、なんかしょぼくない?

 まぁ、そんなだから、
 ちょっと近寄った冒険者達も、すぐに立ち去って言ってるんだろうなぁ

「あの、なんとかお願い出来ないでしょうか?」
 って、
 その女の人、遠巻きにそのチラシを凝視していた僕に気づいたらしく
 すごい勢いで駆け寄って来た。

 で

 その女の人の視線の先に、僕の姿を見つけた上級魔法使いの2人
 見るからに狼狽してます。

……あ、あれって、あの小生意気なコンビニおもてなしの店長ではありませんか?
……なんであの者がこんなところにいるのかしら?

 って、なんかボソボソ話始めてるんだけど

「……さっきからどうしたの? 何かお困り?」
 僕がそう声をかけると、その女の人、目に涙をためながら
「……この大武闘大会の予選を突破しないと……あの人達にお金を返せないんです……」

 そう、その女の人が言ったところで、
 例の上級魔法使いの2人
 ずずい、って僕の前にやって来て、
「そうですのよ、この方は私達からお金を借りていますの」
「そのお金を返すために、この大武闘大会に参加しようとしていますのに、ここにたどり着いただけで、部下達が全員倒れてしまったのよねぇ」
 お~ほっほっほっほ

 うん、そのデフォの高笑いはホントむかつくな


 っていうか、あれか
 お金がないから、歩きでここまで来たものの
 来ただけで疲れ切っちゃって、参加するどころじゃなくなった、と……

 それで代役を探してるってことなんだろうけど
 ……悪いけど、その3人が元気満々だったとしても、多分、予選突破は無理だったと思うんだけど……


 そう思案している僕に、2人は、あからさまに嫌悪の表情を浮かべて
「さぁさぁ、部外者は余所へ行ってくださいな」
 しっしっ
「あなたが、この方々の借金を肩代わりしてくださるというのなら、話は別ですけど?」
 しっしっ

 って、2人揃って手を振ってます。
 ホント、やることなすことムカツク奴らだな……

 で、
 その借金の額を聞いてみたら、

 僕が元いた世界で言うところのおよそ2000万円

 ……おいおい、思ったより多いな
 かといって、立て替えたところで、帰ってくるかどうかも怪しいというか
 まず、戻ってこないだろうし……そこまでウチの店も裕福なわけじゃないし……

 などと、あれこれ思案していると

 ……なんか、右手で光ってるような……
 僕が、自分の右手へ視線を向けると、そこには、先ほどスアから手渡された通帳もどきが……

 で、その通帳もどきがなんか光ってるんですけど
 なんか、通帳の表面に文字が浮き出て光っている。

『ご用事ですか? はい/いいえ 魔女信用金庫』
 
 うん? なんだこれ?
 その文字を見ながら、僕が首をかしげていると、
 なんか、文字の上に、文字が上書きされた

『ご用事ですよね? はい/いいえ 魔女信用金庫』

 は? なんだこれ?
 だから、意味がわかんないんだって……
 そう思ってると、
 なんか、さらに文字の上に、文字が上書きされ

『ご用事と判断して勝手にお邪魔します 魔女信用金庫』 
 って、
 なんか選択肢もなくなった文字になったなって思ってると

 僕の目の前の地面の上に、なんか魔法陣が出現して
 その中から2人の女性が出現した。

 で、その2人
 僕を見るなり

「旧名・ステル=アム様
 現名・スア=タクラ様の、家族会員であられます、リョウイチ=タクラ様で間違いございませんね?」
 そう言い、小柄で単眼の女の子が元気にペコリと頭を下げ
「失礼ながら、ご本人確認をさせていただきますわ」
 そう言い、身長2mは楽に越えてる大柄な女の子が、何やら僕の両目の真ん前で魔法陣を展開し
「……角膜魔法認証成功・ご本人確認完了ですわ」
 そう言うと、改めてペコリと頭を下げ
「「リョウイチ=タクラ様、魔女信用金庫にどのようなご用でしょうか?」」
 そう、2人揃って言ったわけで

 ……は? 魔女信用金庫?

 で、その2人
 挨拶もそこそこに、僕の側に駆け寄って来て、僕の耳元に口を寄せると
「恐縮ですがリョウイチ=タクラ様
 あの下級貴族・ララ家のララ様にお金をお貸ししようとなさっているのでしたら、お勧めいたしませんわ……、あ、私、単眼族のポリロナと申します」
「状況は通帳の向こうから聞かせていただいておりましたのですが、
 お貸ししても帰ってこないのは明白ですわ。ララ家の財政は完全に破綻しておりますから……あ、私、巨人族のマリライアと申します」
 と、まぁ、矢継ぎ早にそう僕の耳元に囁く2人
 っていうか、
 僕、まだ状況を理解仕切れてないんだけど……
 君たちの言う、魔女信用金庫って、一体なんなのさ?

「あぁ、申し訳ありません。超上得意顧客・スア=タクラ様のご用命でしたので、ちょっと張り切りすぎて、私どもの詳しいご説明がまだでしたね」
 そう言うと、ポリロナは、改めて一礼すると、
「我が魔女信用金庫は、スア=タクラ様の、魔女魔法出版における印税の全てを管理させていただいている信用金庫でございます」
 その横で、マリライアも、一礼し
「いつでもどこでも、その求めに応じて参上し、お金のご相談にのらせていただきます、スア=タクラ様専属のスタッフでございます」
 そう言いながら、2人は再度僕の耳元に口を寄せて

「では、この案件に関する最善事案をご提案させていただきます」
 そう、言ってきたわけなんだけど……

しおり