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魔女の夫、本を売る その4

 新たに店内入れ替え制を導入して
 1時間たったら一度退店してもらい
 まだ立ち読みをしたい場合は、もう一回入り直しをしてもらうようにしたところ、
 店内は以前のように客ですし詰めになることはなくなった。

 来店してる魔法使い達も、
 買える本は買ってくれてるってのもわかってきたし
 っていうか、金さえあれば全部でも買いたい、って思ってるわけです、みんな

 あ~
 学生時代の僕も、こんなだったかも

 欲しい本はいっぱいある。
 でも、金はない。
 仕方ないから、今は立ち読みですますけど、いつか買ってやるからなぁ、的な。

 まぁ
 そんなこんなで、頑張れ、将来有望な魔法使い達

◇◇

 で
 この魔法使い達の中でも、特に知的探究心が強い人達って、
 その飽くなき知的探究心を満たすために、何度も何度も入店の列に並び直しているわけです。

 コンビニおもてなし書店は24時間営業なので、
 中には、何日並び続けてるって人もちらほらいたり……
 使い魔に食べ物を調達させてる人もいたりするけど、この周辺、まったく店がないからなぁ……しかも、夜中は、結構害獣とか闊歩してるらしいし……

 そこで僕は
 書店スペースの向かいの部屋
 ここを改装し、ここにコンビニおもてなしの商品販売スペースを作った。
 ただし、この店の営業時間は、朝・昼・夜の各2時間ずつ。
 何しろ、店員がエレとスシスの2人しかいないので、それくらい区切らないと対処出来ない。

 で
 本店で販売用に作ってる弁当にパン、サンドイッチなんかを
 いつもより多めに作成し、その多めの分をそこで販売してみた。

 すると、これが大人気

「ちょ!? これ何!? すごく美味しい!」
「こんなの食べたことないよ!」
 と、魔法使い達、
 商品が並ぶ時間が迫ってくると、今度はこっちの商品販売スペースに殺到するようになった。

 商品があっという間になくなるため
 本店チームが生産を更に強化しつつ、
 セルフサービスのスープも導入した。
 1すくい、元いた世界でいう100円で販売。
 これには、

 味噌汁
 豚汁

 の2種類を寸胴で作成し、
 その寸胴のまま、販売スペースのレジ横に置いたんだけど、これもすごい人気で、あっと言う間になくなっていく。

 このスープサービスは
 本店でもやってるんだけど、それ以上の人気です、はい。

 そうこうしていると
 今度はエレとスシスから救援信号が……
「店長、2人では無理です……」
 うん、そうなるよね……

 かといって、本店や2号店から人を廻そうにも、どっちもギリギリの人数でやってるわけだし、

 ビリ

 さてどうしたもんか……

 ビリビリ

 ……ところで、スアさん?

 ビリビリ、ビリ

 さっきから何を開封しまくってらっしゃるのでしょうか?
 僕には、スアさんが次々に開封してるのって、

『隔週刊 木人形をつくる』
 に見えるんだけど?

 注意:1冊、約100万円
 *元の世界の通貨換算で

 もう、乾いた笑いしかうかばない僕の目の前で、
 スア、この隔週刊木人形を作る、を開けまくり
 これに、エレ達木人形の残骸を組みあわせていき

 なんか、ちっこい木人形が3体出来上がりました。

「……かなり、パーツを節約した、よ」
 と、ドヤ顔のスア。

 でも僕的には
 そんなスアの後方に放り投げられてる、開封済みの隔週刊木人形をつくるの残骸の方が目についてしまって……あれ、どう見ても20冊は開封してるよなぁ……

 注意:1冊、約100万円
 *元の世界の通貨換算で

 そんな、真っ白になってる僕の前に整列したその3体の木人形
「「「よろしくお願いします、ご主人さま」」」
 と
 丁寧に挨拶してくれた。

 まぁ、この臨時の出費は確かにかなり痛いけど
 でもまぁ、それでいい店員を雇えたと思えば、あれかな……
 何しろ、この木人形達は
 作成してしまえば、時折太陽にあたっていれば、それでエネルギー補給出来るらしく
 食事代はかからないし、お給金も必要ないとか
 さすがにそれは、と思って、エレにも何度か給料を渡そうとしたことがあるんだけど
「私達がご主人様からお金をいただくときは、お暇を言い渡される時だけです……」
 って、なんか気持ち悲しそうな態度をとられて以降、諦めてるんだよなぁ。

 なので
 せめてメイド服くらい少し良いものを着させてあげようって思ってる。
 今度どこかへ買いにいってこよう。

 で、
 このミニ木人形達は
 エレが自分用のメイド服を手直しした者をとりあえず身にまとい、早速接客に出た。

 商品販売スペースの営業をしている際は
 こちらに2人常駐してもらい接客対応をお願いした。

 たまに、弁当を持ったまま書店コーナーへ以降とする魔法使いがいるため
 その人達への注意も呼びかけてもらっている。

 まぁ、これに関しては、張り紙もしたところ
 すぐに周知徹底出来た感じなんだけどね。
 ホント、ここのお客さん達は、ルールをよく守ってくれます、はい。

 そう思っていると
「お金がなくて、本をあまり買えない私達に、こうしてあれこれ便宜を図ってくださっているお店に、迷惑をかけるわけにはいきませんから」
 と、ある魔法使い。

 そっか、そんな風に思ってくれてるのか。
 なんか、ちょっと嬉しくもあるな。

 まぁ、経営者としては、むしろ喝!なんだろうけど。

◇◇

 で
 このコンビニおもてなし書店+商品販売スペースを
 正式に、コンビニおもてなし3号店としました。

 商品販売スペースには
 食べ物だけじゃなく、オセロやスアの魔法薬を置くようにしたところ、これまた飛ぶように売れて売れて……

 特に、オセロは
 入店待ちの魔法使い達が、
「どうです? 一勝負?」 
「受けて立ちましょう」
 ってな感じで、なんか、いいコミュニケーションツールになってるし。

 鍋や武具なんかも置いておいて
 営業時間も延長し、書店同様に24時間営業にした。
 ミニ木人形1体が常駐してて
 弁当が届く時間だけもう1体がヘルプに入る形。

 もう1体の木人形と、スシスが書店の方を切り盛りしているんだけど
 こっちは、立ち読み客が大半なんで、……って、それもどうかと思うんだけど
 たまに本の問い合わせをしてくる魔法使いがいるので、その対応くらいだから、こっちはこれで十分手が足りている。

 ミニ木人形が増えたおかげで、エレも本来の業務である屋敷の掃除と、プラントの世話に手がまわるようになった、と、喜んでくれていた。


 とまぁ、良い感じで店が回り始めて、めでたしめでたし……
 そう思ってた僕の耳に、

「なんですの、この本屋は? 私達の許可無く営業するなんて許しませんわよ」
 って、なんか5人くらいの、見るからにゴテゴテしい、無駄に豪華な衣装をその身に纏った……でっぷり……もとい、ふくよかな魔法使い様達がご来店し、なんか声を荒げたとか。

 エレからの思念波を受けて、ボクとスアが駆けつけると

 この魔女達
 書店の中から他の魔法使いを全部追い出し
 出入り口前に、勝手に椅子やら机、ソファを持ち出し、勝手に関所を設けてやがった。

 僕
 つかつかと、そのリーダーらしき、全身紫の衣装に身を包んでいる魔法使いの元へ
「すいません、私、この店の店長なんですが、勝手にこんなことをされては困ります」
 そう告げた。

 で

 魔法使い、無視

 ……おい!?

「すいません、私、この店の店長なんですが、勝手にこんなことをされては困ります」
 再度告げる僕

 で

 魔法使い、またも無視

 ……

「すいません、私、この店の店長なんですが……
「あ~、もう、うるさいわねぇ、聞こえてるわよ、もう!」
 3度目を言いかけた僕に、リーダーらしい魔女、ようやく返事をした。
 で、その魔女、
 露骨に僕に敵意むき出しの表情
「あのねぇ、坊や。
 この世界にはルールってものがあるの。
 魔女や魔法使いの著作物はね、すべて私達、上級魔法使いのお茶会倶楽部が管理することになっているの。
 そのルールを無視して、こんなカスどもに本を見せるとか、ありえないわぁ。
 しかも、私達の許可も得ずになって、ありえないわぁ」
 そう言うと、この魔女、
 僕に右手を差し出した。
「と、言うわけで、慰謝料払いなさぁい」
「は?」
「は?、じゃないわよ、
 私達に無断で書店を開いたこと。
 私達が許可していないカス共に本を閲覧させたこと。
 それに対する、当然の賠償でしょう?」

 は?
 何それ?
 意味がわからない

「魔女魔法出版にはすでに話は通してあるし、組合にも営業許可はとってある。
 君たちに許可を得なきゃならないなんて、聞いてないけど?」
「何を言ってるのかしらねぇ。
 いい?
 この世界の魔法界を担っているのは、この私達、上級魔法使いなのよ?
 その私達が決めたルールに従うのは、当然のことでしょう?」

 ブチ

「ブチ?」
 なんか、後方から、堪忍袋の緒が切れる音が聞こえたかと思うと
 僕的歴史上、1,2を争う形相のスアがズカズカとやってきた。
「なぁにぃ? このおちびちゃんわぁ?」
 そう言い、スアを見てクスクス笑ってる上級魔法使いとその仲間達
「まさか、この私達を追い出そうとでも言うのかしらぁ?
 いい? お嬢ちゃん、私達はねぇ、この世界でも最高峰の魔法を使用出来る……」
「……失せろ、屑」

 なんかタラタラいい続けていた上級魔法使い達に、
 スアが一言そう言うと
 居座っていた上級魔法使い達、
 勝手に持ち込んでた、ソファや机と一緒に、一瞬で消え去った。

 え?
 あんだけ偉そうにしておいて、瞬殺?

 そう思いながら、このときの僕、多分、自分史上最高にゲスい笑顔してたと思う。

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