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魔女の夫、本を売る その5

 魔女魔法出版のダンダリンダが発注しておいた本を納入しに
 コンビニおもてなし3号店にやってきたので、
 昨日やってきた上級魔法使いのお茶会倶楽部の連中のことを話してみたところ、
「あいつらここにまで来ましたかぁ」
 って、なんか顔を押さえて、肩をがっくり落としていった。

 え? 何、この反応?
 上級魔法使いとかって、本をバカスカ買ってくれる上得意様じゃないの?

「えぇ、まぁそうなんですけどねぇ……」
 そう言うと、ダンダリンダは大きなため息をついた。
「確かに、あの方々はウチの本をいっぱい買ってくれますので、上得意様です。
 ……ただねぇ、それをいいことに、王都をはじめとする各地の大手書店を軒並み占拠して、上級魔法使い以外の者が利用出来なくしちゃってるんですよねぇ」
 
 ダンダリンダがそう言うと
 この話に聞き耳をたてていたらしい店内の中級以下の魔法使いの皆さん、一斉に頷いた。

「……問題なのは、その理由です。
 あの方々は、中級以下の魔法使い達が、書物を読んで勉強し、
 いつしか自分達より優秀になることを恐れているんですよ……まぁ、これを言っても絶対認めようとはしませんけどね」

 で、店内の中級以下の魔法使いの皆さんも、一斉に頷いていく。


「結局、上級魔法使いの方々は、今、自分達がついている役職を後輩に奪われたくないもんだから、
 後輩達の貴重な勉強の場である書店から、閉め出しちゃってるんですよねぇ……」

 で、店内の中級以下の魔法使いの皆さんも、一斉に頷いていく。

「魔女魔法出版としては、上級魔法使いさんが増えて、本を買って売れるお客さんが増えてくれるのが理想なんですけどねぇ……正直、中級以下の魔法使いさんって、ほとんど本、買ってくれませんし」

 で、店内の中級以下の魔法使いの皆さん、一斉に明後日の方向を向いていく……って、おい!

「でもねぇ、
 そうなったのにも1つ事件があったんですよ。
 もう随分昔なんですけどね……」

 そう言って、ダンダリンダが語ってくれた話だと

 
 百年以上昔のこと
 1人の天才魔法使いが出現した。
 この魔法使いは、独学でどんどんどの魔法の才能を伸ばしていき
 あっという間に、この世界で最高の魔法使いにのしあがった。

 その魔法使いを
 各地の王や貴族達は、こぞって召し抱えようとし
 それまで雇っていた上級魔法使い達をほとんど解雇してしまった、と


「……で、その魔法使いは、結局どうしたんです?」
「結局ですね、
 あまりにしつこい勧誘の嵐に嫌気がさして、そのまま森に引きこもってしまったわけです」
 そう言いながら、紅茶を一口すすると

「まぁ……あなたの奥さんなんですけどね?」

 ぶ~っ
 思わず口に含んでたお茶を噴き出してしまった僕

 で
 この話を聞いた、店内の中級以下の魔法使いの皆さん、一斉にざわつき始めた。

 っていうか、
 スアってばそこまですごい魔法使いだったんだ、と、改めて実感。

 でも
 この話題に関しては、スア、あんまり喜んでない。
 ぷぅ、と頬を膨らませて横を向いている。

 ってか
 ゴメン、スア……その怒り顔、すっごく可愛いんですけど!?

「で、まぁ、あれです。
 スア様が引きこもられたあと、上級魔法使い達は、それこそ血のにじむような努力をして、元の地位や役職を取り戻していったわけなんですが……と、ここまではよかったんですよ」
 
 ここで、ダンダリンダ、再度大きなため息。

「で、ようやく元の地位や役職を取り戻した上級魔法使いの皆様は
『この地位を2度と手放すものか!』と、一致団結して、魔女のお茶会倶楽部を作ったんですね

 ……この倶楽部も結成当初はね、今の地位を維持するための上級魔法使い同士の勉強会の場だったんですよ……

 それがいつの間にか、勉強そっちのけで、自分達の既得権益を死守するための……」

「ちょっと、聞きずてなりませんことよ」
 ダンダリンダの話の途中で

 なんかまた、えらく場違いな女達がコンビニおもてなし3号店書店コーナーに入ってきた。

 これから、どこぞの晩餐会に出席なさるので?
 的な、豪奢なドレスに身を包んでいるその一行。
 その後方をよく見ると、
 さっき、スアにどっかへ吹っ飛ばされた魔法使い達の姿があった。

 ……っていうかお前ら、よくまた顔を出せたな、おい

 必死に笑いをかみ殺してる僕の前で
 この集団のリーダーらしい、すっごいデ……ふくよかな体型の魔法使いさん
 その目をキッと見開いて僕とスアを交互に見つめていく。

「そこの小娘……何? あなたの奥さんらしいけど
 伝説の魔法使いを騙って何、皆をだまくらかしているのかしら?
 私、本物のステル=アム先生にお会いしたことがありますけど、こんなチンチクリンのピ~では、ありませんでしたのことよ」
 お~っほっほっほ

 おい
 その高笑いは、シャルンエッセンスでもう懲りてるから、勘弁してくれ。

 で、
 何?
 あんた、スアにあったことがあるの?

 スア
 僕の横で激しく首を左右に振ってるし……

「私、その時、ステル=アム先生から
 あなたにはまだまだ引き出せていない魔法の力がいっぱいあると言われましたの。
 その魔法の力を引き出せるという、伝説の魔法使いにしか作れない

 『伝説の宝珠のついた指輪』

 を買わせていただいたのよ」
 お~っほっほっほ

 そういえば、この魔法使い
 さっきからやたらと右手につけてる、ごてごてしい指輪を誇示しまくってるんだけど
 要は、これがその、ステル=アム先生から購入したっていう指輪ってことかい?

「おやおや、下等生物にも、それくらいの判断は出来るようですのね」
 お~っほっほっほ

 うん
 そろそろむかついてきた。

 っていうか、スア
 あれ、偽物だよね? 聞くまでもないけどさ

 スア、
 そう言う僕に、コクリと頷いた。

「な、なんですってぇ!? この指輪にケチをつけるというのですか、あなた方は!
 これだから下等な者達は……」
 お~っほっほっほ

 そう笑い続ける上級魔法使い

 そこに、スアがおもむろに歩み寄った。

「な、何よ、何か文句でもあるの?」
 そう言いながら、この魔法使い達
 さっき仲間が一瞬で飛ばされたのを聞いているためか、なんか必死に壁とか柱にしがみついて警戒してる。

 で

 そんな魔法使い達の前で
 スア
 その指輪に手をかざすこと1分

「……はい、こいつ」
 そう、スアが言うと

 なんか、スアの隣に、見るからに怪しい紫のローブを身につけた、派手な化粧のおばはんが出現した。

「おばはんですって? 失礼な、この伝説の魔法使い、ステル=アムに対して何を……」
「……久しぶり、ね、デラスコッタ」

 なんか、ステル=アムを騙りはじめたこの女に、
 スア、なんか別の名前を言ったぞ?

 で
 その女、

 その名前を言われた途端に、なんか真っ青になって

 で

 スアの顔を見て、さらに真っ青になって

「ご、ご、ごめんなさいぃぃぃぃ。つい出来心だったんですぅぅぅぅぅ」
 そう言うが早いか、スアに向かって土下座して謝り始めた。

 で、スア

 その視線を、指輪をつけてる魔法使いに向けると
「……指輪の痕跡を……たどって、売りつけた……人間の素性も……調べられない、の?」
 そう言うと、
 その顔に、僕が出会ってからはじめてみる顔で、スアは言いました

「……よく、上級魔法使い、名乗れるわ、ね?」
 
 その言葉に、
 指輪してる魔法使い
 事態がまったく理解出来てないらしく、目を白黒させるばかりで……
 っていうか、そもそもスアって、本の著作近影みたいなとこに自画像載せてなかったっけ?
「あ、あれは世を忍ぶ仮の姿だと言われていましたしぃ……」
 ……おいおい、そんなのに騙されたのかよ……
 

 で、スアの話をまとめると
 ステル=アムを名乗っていたのは、スアの元弟子だった魔法使いだそうな。
 ただ、この弟子、金になりそうな魔法しか覚えようとせず、基礎をまったく学ぼうとしなかったため、すぐに破門したんだとか……

 で

 指輪から、この弟子の波動を読み取ったスア
 この弟子索敵魔法で探しだし、この場へ無理矢理転移させてきたんだそうな

 要した時間、およそ1分


 で、スア
 僕の解説が終わると、
 
 僕達の前で、床に座って震え続けている、上級魔法使い達と、スアの偽物を前に
「……あとは、……好きなだけ……話し合ってきなさい、な」
 そう言うと
 そこにいた全員を、一瞬にして消し去ってしまったわけで

 で
 僕を見上げるスア。

 そんなスアに、僕は、ニカッと笑って親指を突き立てた。

 スア、
 僕に、うれしそうに微笑みながら抱きついてきた。

 この成り行きを見守ってた、中級以下の魔法使いさん達が、なんかすっごい歓声あげてるんだけど……偉そうにしてた上級魔法使い達が目の前でこてんぱんというか、酷い目に遭わされたのを見て
 溜まってた鬱憤が晴れたのかもね。

 まぁ、そんなことはどうでもいい
 早く店を再開しよう。

 ……え?
 ……何? どうしたのスア?
 ……え? もっと褒めてほしい?

 ……もう、しょうがないなぁ……じゃあ、寝室へ行こうか……

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