魔女の夫、本を売る その3
コンビニおもてなし書店を一時臨時休業した僕は
スアやエレ、スシスを交えて、対策会議を行った。
お金がない中級以下の魔法使い達が、買えない本を読むために居座る。
今のコンビニおもてなし書店の問題点はこれ。
これに対する対策を行わないと、店内が常にすし詰め状態になってしまうわけです。
この人達を無碍に追い出すとなると、王都の王手書店と同じことをすることになるわけで
しかも、その方が商売としては理にかなってる。
うん、頭ではよくわかってる。
で
僕はとりあえず、店内時間入れ替え制度を導入することにした。
入店したお客さんは、最長でも1刻、約1時間しか店内に滞在出来ない。
そのかわり、一度外に出て、再度入るのは可能。
その際に列が出来ていたら、必ずの最後尾に並ぶこと。
これを徹底するため
スアにお願いして店の入り口に、自動で入店を記録できる魔法具を設置してもらった。
客が入店する際、この魔法具が入店時刻を、魔法でその体に記録する。
その魔法により、所定時間である1刻で体が発光しはじめ、
本人にのみ聞こえる音声で『滞在可能時間終了まであと**分です』とアナウンス。
で
滞在可能時間を過ぎても店内に残っていた場合、
強制的に店外へ放り出される仕組みになっている。
その際
店内の物を手にしていた場合、強制回収され
また
入店時に手にしていた手荷物があった場合
少々離れた位置にあっても、自動で一緒に放り出される。
この仕組み
僕が、
「こうこうこんな感じの物が出来ないかなぁ」
って、だいたいのニュアンスをスアに伝えただけで
スア、ふんふん、と頷きながら、ちゃちゃっと完成させてしまったわけで
ホント、ウチの奥さん、過ごすぎます。
スアには合わせて店内の商品にも魔法をかけてもらった。
まず、
皆が立ち読みを繰り返しても本が劣化したり汚れないよう、魔法でコーティングしてもらった。
この作業、
場合によったら1冊1冊行わなきゃならないんじゃ……それってかなり手間なんじゃ……
そう思ったところ
スア、ふんふん、と頷くと、書店内に右手をかざします。
すると、その手の先から魔法陣が展開され、一瞬にして店内を覆い尽くし……
「……出来た、よ?」
と、スア、一言。
「……ついでに、別室の在庫にもかけといた、よ」
と、スア付け加え
……やっぱり、ウチの奥さん、過ごすぎます。
あと、
店内在庫を、誰かが立ち読みで持って行かれた場合
その棚の、その位置に本の残像が残る仕組みにしてもらい
その本を購入したい人が、その残像に触れ、その意思をその残像へ伝えれば
その本を立ち読みしている人に、それが思念波で伝達される。
そんな魔法や、
レジ横に、店内商品を検索来るよう水晶玉を設置。
本を探している人がこの水晶に触れれば、
その脳内に、無数の本棚が出現する格好で、直接店内在庫が表示される。
その表示に対し、客が
「**の***に関する**の本」
といった風に、検索条件を脳内で考えれば、
その検索キーワードに応じて本棚が取捨選択されていき、
本を探している人の希望に近い在庫だけが徐々に残っていく。
最終的に、手に取りたい商品が決まったら
その本を手に取るイメージをすれば
脳内に直接、その本の場所が表示される。
と、まぁ、
これにしても、僕が口でだいたいのニュアンスを伝えていると
スア、それを、フンフンと聞きながら、水晶玉にどんどん魔法陣を放り込んでいき、
「……もっと……何か、ない?」
「……まだまだ、盛り込……める、よ」
と、まぁ、終始ノリノリだったスアだったわけです。
とまぁ、
商売人としては下策をといいますか、
むしろ、商売する気あるの?って言われても仕方ない対応をとった僕。
まぁ、でも
元の世界にいた頃、
学生時代の僕も、いっつもお金がなくて……よく本屋で立ち読みしてたし……その気持ちがわからないでもないわけで……
◇◇
そんな魔法的対処を店内に施し終え
それを店の入り口に掲示した。
そして
それから半刻して、営業再開しました。
お客さん達
今回導入した時間入れ替え制の掲示をしっかり読んでから、皆入店してくれている。
で
皆、自発的に制限時間少し前に店を出て行く。
その後
満足した魔女や魔法使いはそのままどこへともなく消えていき
まだ読みたい人は、そのまま入店待ちの列の最後尾へと回り、文句1つ言わずに待ってくれている。
最初
「何よ、このめんどくさいシステムは!」
「客にわかりにくいったらありゃしない!」
「客をなんだと思ってんだ、この店は!」
などといった不平不満罵詈雑言が飛んでくるんじゃないかっていう、過去のトラウマも若干含みつつ、身構えていただけに、僕としても安堵仕切りだったわけです。
そんな僕に、スアがそっと寄ってきて
「……中級以下の魔法使い……は、みんな……こんな感じ、よ」
と、スア
「知的探究心の塊
向上心の塊
常に新しいことを求め、日々その研究に勤しむ、の」
なるほどなぁ
そうやって向上していって、ゆくゆくは上級魔法使いになっていくんだ……
「……そして、みんな……腐っていく、の」
あれ?
スア、なんか最後の一言、結構怒ってなかった?
僕の視線に
スアも最初は、言葉にするのも汚らわしい的な様子だったんだけど
ぽつりぽつりと話してくれた。
スアの話によると
上級魔法使いになると、美味しいお話が舞い込んでくるのだそうだ。
たとえば、城の魔法指南役とか
たとえば、貴族の家庭教師とか
そういうお仕事って、結構楽な割に報酬はすごくお高いんだとか
だから
上級になった魔法使いは、その既得権益にしがみつく。
しがみつくために、上級魔法使い同士で争い始める
足の引っ張り合い
中傷合戦
呪詛を掛け合ったり、毒を送り合ったり、と
知的探究心とか、向上心など、そこには微塵もなく
ただただ汚らわしい世界が広がっているそうだ。
「……だから……私は、森に引きこもった、の」
そう言われてみて納得した。
僕の知ってるスアは
出会った時からすでに伝説の魔法使いだったけど
僕の前では
「カガク!? これ、カガク!?」
と、元いた世界の道具なんかに異常なまでに興味を示し
それを研究しまくり
それをこの世界の魔法の向上へ役立てている。
しかも
その知識を、独占することなく
書物にして発信もしてるし
……ホント、すごい魔法使いなんだ、僕の奥さんは
魔法の能力とか、そういうのじゃなくて
その飽くなき探究心とか、向上心。
うん、すごく素敵だと思う。
そんなことを思わず呟いてたら、
スア、その顔を真っ赤にして、
「……もう、恥ずかしい、よ」
って、スア。
でも、どこか嬉しそうでもあり
そんなスア
僕の腕をつんつんと引っ張た。
あぁ、この表情は、あれですね、はい。
僕もまんざらでもなかったので、そのまま屋敷の寝室に移動。
当然ここは防壁魔法を何重にもかけてもらっている。
なんせ、魔法使いがわんさといるんだしね。
そんな寝室の中で
僕らは、しばし、黙秘案件を行ったわけです、はい。
「……このことは、公開しない、よ?」
って、スア。
うん、そうだね。
それは頼むからやめてほしいかな、うん。
◇◇
新システムを導入したコンビニおもてなし書店は、好調に推移している。
本の方も、
思った以上によく売れていて、魔女魔法出版のダンダリンダに、追加発注までしたわけで
「まぁまぁ、あれだけ売れ残りを押しつけましたのに、そんなに売れたのですかぁ!?」
って、やや聞きずてならない言葉を発しながらも、ダンダリンダは、ここぞとばかりに魔女魔法出版の倉庫で眠っていた在庫の山を運び込んできた。
ここで少し疑問に思ったのが
魔女魔法出版は、直接注文も出来るわけだし
ウチで本を買っていくお客さん、そっちへ直に頼んだりしないのかな? と
「あぁ、多分、無理ですねぇ。
魔女魔法出版に直接発注出来るお客様っていうのは、
魔女のお茶会に参加出来るくらいの社会的地位をお持ちの魔女や魔法使いの方限定になっていますので」
と、ダンダリンダ。
「代金払えないとか、まぁ、いろいろあったんですよ」
そう言って遠い目をするダンダリンダ。
うん、まぁ、その気持ちはわからないでもない。
まぁ、そんなわけで、
このコンビニおもてなし書店は、とりあえず好スタートを切ったわけです。
「……あぁ、あの本も買いたい……あれも欲しい……でも、お金が……」
なんか最近、ブリリアンの独り言が増えた気がしないでもないけど……