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魔女、本を出す その1

 僕の住んでいる辺境都市ガタコンベの隣街・辺境都市ブラコンベで営業を開始した。コンビニおもてなし2号店ですが、順調に推移しています。

 初日、予想以上のお客さんが来てくれたのですが
 翌日、予想よりかなり多くのお客さんがきてくれ
 3日目、予想出来ないくらいのお客様がっ、てちょっとまってくれい!?

 もともと、そう広くない2号店なんだけど
 初日、2日目来店した客が、

「おい、あの店よかったぞ」
「弁当うまかったし」
「接客もまともになってたしな」

 とまぁ、噂が噂を呼んで、3日目になってど~ん、ときたわけです、はい。

 このブラコンベでは
 春の花祭りの時に、コンビニおもてなしとして出店をやって好評だったわけだし
 そのことを覚えてくれてるお客さんがきてくれたらいいなぁ、って思ってたら
「何言ってんだい、店長さん。俺達ゃあんたの弁当の味が忘れられなくて、週に1度はわざわざガタコンベまで行ってたんだぜ!」

 うわ、そんな方までいらっしゃったんですか!?

 ギリギリ、別荘のエレが、この日まで手伝いにいてくれたのが奏功し、
「店内に入場制限を設けましょう。
 シャルンエッセンスは、店の入り口で、皆様にお詫びと事情説明を
 シルメールはロープを張って、お客様の列を他の店の邪魔にならないように誘導してください」
 と、大混乱寸前だった店内を即座に切り盛りしてくれたそうです。

 ちなみにこの時のシャルンエッセンス
「どうしましょうどうしましょうどうしましょう……」
 と言いながら、レジの中で右往左往してたそうで……

 うん、まだまだ修行が足りないな。

 で
 3日目のこの日、本店の昼のピークが過ぎてから、
 スアの転移魔法で、2号店に出向き、この大騒動に出くわした僕。

「なんじゃこりゃあ」
 とまぁ、あのドラマの台詞をつい、マジシャウトしてしまったわけで。

 エレから、↑の事情を聞き、僕もすぐに調理場のヘルプに入った。

 調理を続けていた猿人娘2人は、朝からずっと弁当やおにぎりの作成を休みなく行ってたせいで、すでにへろへろ状態だった。
 とにかく、これではまずい、と、2人には休憩に入ってもらい、僕は調理を担当。

「お1人で大丈夫キ?」
 って、心配そうな2人なんだけど、

 コンビニおもてなしを開店してすぐの時の混雑具合はこんなもんじゃなかった上に
 その頃は、僕がずっと1人で調理もレジも、品出しも、と、まぁ、全部の作業の陣頭指揮をとってたわけだし、これくらいなら、むしろ楽です。

 しかも
 この2号店では
 商品の補充や、客の誘導、会計作業といった、調理以外の作業は、全部任せておいていいんだし、

「おまかせくださいタクラ様、このシャルンエッセンスが、調理のお手伝いを……

 しなくていい。
 君は、エレの指示に”だけ”従ってくれ。


 なんか、シャルンエッセンスが、ず~ん、と沈みながらエレの方へ歩いていったけど。
 気にしない。

 エレ認定『人知を越えた料理テロリスト』を調理場に入れるわけには絶対にいかない。
 こんどやらかしたら、確実に潰れます。

 そんなわけで
 1人で調理しながらも、猿人娘2人よりも早く、たくさん弁当や惣菜を作っていく僕、

 メイド達に、壁際の棚に弁当の箱をざっと並べさせ
 ご飯だけ詰めさせておき、
 おかずが焼き上がったら鍋ごと移動し、鍋から直接おかずを詰めていく。

「はい、こっからここまで、すぐに店に出して。
 出すとき「出来たてですよ~」ってアピール忘れずにね」
 
 僕は、それだけ指示を出したら、火に掛けたままにしておいた、もう1個の鍋へ
 で、そっちの作業をしながら、空になったばっかの鍋にもまた材料を入れて……

 と

 1人で2つの鍋を操って作業してたら、

「……うわ……タクラ店長、ぱねぇっすね」
 感心はいいから! 見惚れなくていいから! とにかく手を動かせ、メイド達! 

 そんなこんなで、どうにか3日目も終了した。

 結果は当然、大成功。
 予想をはるかに越えても売り上げに、皆、すっごく喜んでいた。

「私たち、やりましたのね!」
 って、シャルンエッセンスが感涙流してるけど

 わかってるかい? 
 これが毎日続くんだよ?

 ……だから、なんでそこで真っ白な灰になるんだよ!ったく。

◇◇

 で、2号店も、本店同様に、月~金までの営業で、土日は休み。
 土曜の午前は休みだけど、午後は、しばらくの間エレと僕で特訓継続。

 エレには接客を
 僕は調理を

 とにかく、シルメールをはじめとした、メイド6人に、今のうちにみっちり仕込んでおかないとね。

 最初の頃は、結構文句も多かった一同だけど
 この1週間
 あの、大混雑を経験したおかげで、皆、すごく真剣だ。

 以前の閑古鳥しか知らなかったシルメール達は
「こんな無駄なことしなうてもさぁ……」 
 平気でそう言ってたもんだけど

 皆
 エレと僕の言うことを、皆、手にメモ帳持って真剣に聞いてます。

 うん
 とにかく、この調子で、頑張ってもらおう。

◇◇

 ゴルアが元詐欺師夫婦を連行して行ってから1週間。
 ゴルアが、結果を伝えに2号店に顔を出した。

 結果から言うと、

 詐欺師夫婦は、

 罪は認めた
 品物は全部売っぱらった
 金も全部右から左へ……

 つまりは、何も戻ってきませ、と……

「一応、2人からはまだ事情聴取を続けてはいるのだが……」
 そう言う、ゴルアの表情も、若干くらい……

 さすがに、シャルンエッセンスもショックを受けているかと思ったんだけど
 以外にも、シャルンエッセンスは、さばさばした表情で
「別に気にしませんわ……全部、自業自得ですもの……」
 そう自分に言い聞かせるように言った後、何度も何度も頷いていた。

 シャルンエッセンスが、そう思えるのも
 店の方に光明が見えたからだろうな、

 とにかく
 僕には、そんなみんなをしっかり鍛えて、コンビニおもてなし2号店がしっかり軌道に乗るよう、その手伝いをするだけだ。

「よろしくお願いしますわ、タクラ様、いずれ私にも、料理の手ほどきもぜ……って、あら? タクラ様、なんでそこで視線を逸らすのかしら? ねぇ? ねぇってば!?」

◇◇

 2号店のスタッフの研修を終えて、巨木の家に戻ると
 スアは、机に向かって何やら書き物をしていた。
 
 何を書いてるんだろう、って思っていると、

「魔道灯の……改良方法……を……まとめてた、の」
 と、スア

 そういえば、店の蛍光灯の仕組みを応用して、従来の魔道灯の3倍が明るい物を作り上げてたんだよなぁ、スアってば。

 で
 その方法を書き物にしてまとめたって、記録として残しておくのかな?
 そう思っていたら

「出版……する、よ」
 と、スア

 へ? 出版?
 びっくりした表情をする僕の前で、スアは、机の上をゴソゴソすると、なんかスイッチみたいなものを取り出し、それを押した。

 待つこと1刻

「こんちは~! 翼黒猫宅配便で~す」
 って、手が羽の女の子……これって、ハーピーか?
 が、背中にリュックみたいなのを背負ってやってきた。

 スアは、その女の子に
 さっき自分がまとめてた書き物を袋詰めしたものを手渡し
「……着払い、ね」
「は~い、いつもご利用ありがとうございま~す」
 って言いながら、それを受け取り、飛び去っていった。

 っていうか、
 この世界にも宅配便とかあるんだなぁ……って、ちょっと感動する僕。

 そんな僕に、スアは
「今のは、……希……普通は……迷宮……でしか……

 え~、要約します。

 この世界の宅配便っていうのは、通常は地下ダンジョンの奥深くや、迷宮の塔の上層部といった場所へ荷物を運ぶのが本来の仕事らしく、先ほどのように、原稿をどこかへ輸送するというのは、希なんだそうだ。

 うまくすれば、今の宅配業者と提携して
 その取り扱い店としても営業出来たら、って思ったんだけど
 さすがにそれは難しい感じかな……迷宮限定みたいだし。

「そういえば、スア。さっきの原稿って、どこに送ったんだい?」
 そう僕が聞くと、スアは
「……魔女魔法出版……」
 そう言った。

 へぇ、この世界にも、そんな出版社があるんだ……

 そう僕が感心してると、スアはおもむろに壁を指さした。

 この巨木の家
 今は、僕とスアとパラナミオが、一緒に暮らしてるけど、
 もとはスアの研究施設みたいなもんだったんだよなぁ……僕と一緒に暮らす前は、ハンモック1つしかなかったし。

 で
 そんな家の壁

 そこには、スアが独身時代にため込んでいた、魔道書や魔法書などがずらっと並んでるんだけど
「これ、全部、魔女魔法出版の本……」
 って、へぇ、そうだったんだ……その出版社って、こんなにたくさん本を出して……

 って

 スアさん
 あの、気のせいですかね

 どの本の背表紙にも、「ステル=アム著」って入ってる気がするんですけど……

「……そう……これ、全部……私が書いた……本……」
 そう言いながら、スア
 壁を全部指指していく。

 って……え? そうだったの!?

 思わずびっくりする僕。
 改めて木の家の中を見回してみたけど……これ、千や二千はくだらないくらいあるよね……

 改めて思うけど
 スアって、ホント、すごい人なんだな、と、再認識した僕

 そんな僕の前で、なんか照れまくってるスア
 ほんと、この生き物は可愛すぎです。

 だから思わず夜

 ……おっと、その時間帯のことは黙秘ってことでどうぞよろしく。

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