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コンビニごんじゃらす その3

 シャルンエッセンスが経営しているコンビニごんじゃらす。

 僕が今までに聞いているこの店の噂話って言えば

 ・愛想が悪い
 ・接客がなっていない
 ・品揃えが悪い
 ・弁当やパンがまずい

 ……よく思い返してみれば、接客業における厳禁要素をいくつやらかしちゃってんだ、な話なわけです。

 正直、気が乗らない。

 すでに悪評が立ちまくってる店をゼロから建て直せとか
 普通、どう考えても無理。

 僕自身、
 元の世界では潰れる寸前だったコンビニチェーン店の最後の店長だったわけだし
 正直、経営のノウハウなんかをもってるわけじゃない。

 僕がこの世界に来てやっているのは、

 出来ることを一生懸命やって
 お客様や、近隣の商店街仲間と楽しくやっていく

 おおまかに言えば、これだけだ。

 一応、
 シャルンエッセンスにもそう伝えたんだけど

「出来ることは一生懸命やっているつもりなのですが……」
 そう言い、ひたすら首をひねるばかりのシャルンエッセンス。

 とにかく
 そんな感じでまったく引かないシャルンエッセンス。
 ……まぁ、話が本当なら、一族の最後の金を、勝てる見込みのない仕事に全額突っ込んで、
 もう、尻に火がついてる状況なんだし、なりふりかまっていられないんだろう、というのもわからないでもないけど……

 とにかく、
 今日はすでに時間が遅く
 今から辺境都市ブラコンベに行くと、このガタコンベの閉門に確実に間に合わないため
 明日、コンビニおもてなしの開店準備が出来たら、様子を見に行かせてもらうと約束し
 この日はそのまま帰ってもらった。

 店を出てシャルンエッセンスを見送ると、
 彼女は、えらく痩せた馬に乗ってとぼとぼと帰っていった。

 最初の印象は最悪だったけど
 叱り飛ばして移行の彼女は、割としっかり僕の話を聞き
 受け答えもしっかりしていた感じ。

……まぁ、僕だって鬼じゃないし
……お人好しって笑われるかもだけど、まぁ、なんとか出来るんならしてあげたいって思ってもいるわけで

 その夜
 夕飯を終えて、家族3人でお風呂に入っていると、
 スアはにっこり笑って
「タクラは……みんなに……やさしい……好き」
 そう言うと、裸のまま僕の背中にピタッと
 それを見たパラナミオまでもが
「パパ! 私も大好きです!」
 って、横からピタっと

 ……ここで、2人がおしつけてる胸の感触が大差ない、なんて言うと、またスアに頬をはつり飛ばされるので死んでも言わないけど

「……言ってる……よ?」

 ばち~ん

◇◇

 翌朝、
 いつものように、朝売り用の弁当を作成し、店の棚に並べ終えた僕は
「じゃあブリリアン、悪いけどあとは頼むよ」
 と、ブリリアンに後を任せて、隣町である、辺境都市ブラコンベへ出発。

 店の屋上に設置してある太陽光発電のおかげで充電ばっちり状態の電気自動車おもてなし1号で街道を進むことおよそ30分で僕はブラコンベへと到着しました。

 春先に、花祭りで1度訪れたことのあるこの街は
 ガタコンベより一回り大きく、人口も多い。
 そういう点で言えば、この街にコンビニをオープンさせれば、成功する土壌はしっかりある、といえなくもない。

 おもてなし1号を、商店街の入り口にある荷馬車停泊所に預けて、僕は徒歩で商店街を歩いて行きます。
 昨日、シャルンエッセンスに教えて貰った道を進んでいるわけです。
 朝早くにもかかわらず、
 商店街には、すでに結構な数の人が往来しており、活気に溢れている。

 朝一は、
 コンビニおもてなしに、弁当を買いに来る客以外はほとんどいないっていうガタコンベとは偉い違いだ……

 そんな客相手のために開店している飲食系の店も多く、
 どの店もそれなりに客が入っていて、どこも盛況だ。

 そんな人混みが途切れ、
 見るからに商店街の外れですよ的な場所へさしかかった僕は、
 ようやく『コンビニごんじゃらす』って書かれた大きな看板のある店にたどり着いた。

 ……ってか
 何? その看板?
 店舗の入り口の5倍はあろうかっていう巨大な横長の看板が店の入り口らしき扉の上にど~んと掲げられている。

 その看板の周囲はゴテゴテと悪趣味に飾られており、
 ……これって、どう見ても、場末のスナックかバーにしか見えない……

 で、
 店の外見だけど、
 この世界で言うところの平均的な、居住区タイプの店舗だ。

 僕の元いた世界で、コンビニっていえば、通りに面した側は、一面ガラス張りになっていて
 お客さんが店内の様子を、店外からでもわかりやすくしてある。
 で
 僕と一緒に飛ばされてきたコンビニおもてなしも、当然そういう作りになっています。

 で
 まぁ、それを、この世界でゼロから始めた、このコンビニごんじゃらすに求めるのも酷なので
 とにかく、店に入ってみました。

 カランカラン

 戸を開けると、それに連動して、鐘がなりました。

 店内を見てみると、
 いかにもメイド服って姿の女の子が3人、
 店の奥にあるカウンターらしき場所にいます。

 で
 店内は、至ってシンプルな作り。
 壁が全部棚で、店の中央に背中合わせにされた棚が1つ
 そこに、商品がいろいろ並べられている。
 
 窓が2つしか無いため
 陽光があまり差し込んでいない店内は、どこか薄暗く感じるわけで

 ……って

 こうやって、店内を見回しながらあれこれ見て回っている最中の僕
 すでに店に入って5分は経過してるんだけど


 誰一人『いらっしゃいませ』って言わない。


 ……気づかなかったのかな?
 そう、好意的に考えた僕は、一度店を出て

 カランカラン

 もう1度店に入り直した。

 今度の僕は
 最初から店員を凝視。

 そんな僕の前で、メイド服姿の3人は、やはりカウンターに集まったまま。
 どうも、小声で雑談に夢中なようだ。

 ……
 さすがにムッとなりながらも、僕はもう一度店を出て

 カランカラン

 三度店に入り直した。

 すると、3人のうちの1人がようやく口を開いた。

「……あしたぁ……」
 
 ……おいおい
 こっちを見もしないで言う?
 しかも、入ってきたばかりの客に言う?
 その上、短縮形で、言う?

 僕は、ツカツカとカウンターへ移動
 
 カウンターのすぐ前に立った僕なんだけど
 
 3人はいまだにおしゃべりに夢中らしく
 僕に、「レジ、どうぞ」とか言うそぶりもない。

 ……おいおい、どうなってんだ、これ?
 そう僕が思っていたところに、店の奥から

「お客様じゃないのかしら?」
 シャルンエッセンスの声が聞こえてきた。

 シャルンエッセンスは
 店の奥で調理をしているらしく、声がした方からは、何やら香ばしい……香ばしい?……いや、なんか焦げたような匂いが……

 で、
 シャルンエッセンスの声を受けた3人のメイドは
 カウンター脇に立ってる僕にようやく気がついたらしく
「……みたいっすね」
 そう言うと、ようやくおしゃべりをやめて、僕へと向き直った。

 で
 その3人のリーダーっぽい女の子は、おもむろに言いました。
 けだるそうに、カウンターにもたれかかって言いました。
 口を、ガムか何かでクチャクチャさせながら言いました。

 「……なんか用っすか?」
 
◇◇

 ここで、店内の空気がおかしいのに気がついたシャルンエッセンスが顔を出し、僕に気がつかなかったら、

 うん
 僕間違いなく、帰ってた。

「こちらが及びだてしておりましたのに、お出迎えすらいたさず、本当に申し訳ありません」
 そう言い、深々と頭を下げるシャルンエッセンス

 1人だけ。

 ……おい、そこの無愛想メイド1号、2号、3号
 お前らは?
 お前らは挨拶というか、謝罪しないのか?

「は? なんで?」
「ってゆ~か、いきなり説教?」
「偉そ~、バッカじゃね?」

 メイド達
 3人揃って、ジト目で僕を見て
 すっごい、冷めた笑いを浮かべてる、

 で
 さすがに僕が注意をしようと思ったところで、

「貴方達、いい加減になさいまし! 
 そんな接客はありえません!
 いつもちゃんとしろと言っているでございましょう!」
 そう言いながら、右手を振り上げるシャルンエッセンス。

 ……なんだけど
 そんなシャルンエッセンスに、メイドの1人
「……あ、そういうこと言うんだ、じゃ辞めるよ? 辞めちゃうよ? いいの? 辞めても?」
 そう言いながら、逆ににじり寄った。

 すると
 シャルンエッセンス、手を振り上げた姿勢のまま、固まった。

 ぐぬぬ、と口をへの字に曲げて、必死に怒りを抑えている。

 そんなシャルンエッセンスの前で
 そのメイドは勝ち誇ったように、ニヘラぁって笑いながら。
「お嬢様はさぁ、世間のこと全然わかってないんだからさ、アタシらに全部任せておけっていってんじゃん。そのうち、売り上げV字回復させてあげっから、さ」
 そう言いながら、椅子にドッカと腰を

 降ろしかけたので、僕がスッと横にどけてやった。

 着地点を失ったメイド
 そのまま床に倒れ込んでいき、黒の下着を露わにしながら、床の上で後方でんぐりがえり1回転。
「ってめぇ、何しやがんだ!」
 威勢はいいんだけど、育ちの悪さというか、素行の悪さというか……

 僕は、そんな3人をジト目で見つめていたわけです、はい

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