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コンビニごんじゃらす その2

「私、辺境都市ブラコンベに住んでおります、シャルンエッセンスと申しますわ」
 コンビニおもてなしの前で僕を待っていた女性は、
 僕に向かってそう自己紹介したんだけど

 腰に手をあて
 仁王立ちし
 手を口元にあてて

 言い終わった直後から

 お~ほっほっほっほ……

 と、高笑いを始めた。
 
 うわぁ……リアルにいるんだ、こんな痛いお嬢様って……
 思わずそんなことを思うほどに、その女性はイタイといいますか……

 シャルンエッセンスと名乗ったその彼女は、その金髪縦巻きロールを揺らしながら

「今日はあなたのような平民に、貴族とお近づきになれるチャンスを授けに参ったのですわ」
 お~ほっほっほっほ

 って、高笑いは常にセットなんですかね?
 なんて思っている僕の前で、彼女は腕組みすると。

「この私、シャルンエッセンスは、名門・バニラビーンズ家の令嬢でございますわ」
 お~ほっほっほっほ

 ここで、スアのアナザーボディが、スアの書いた紙を僕にそっと差し出した。
『辺境都市ブラコンベの没落貴族』

 ……スア、すごくわかりやすい解説をありがとう

 スアの紙を見て、乾いた笑いを浮かべている僕の様子などおかまいなしに、シャルンエッセンスは
「そんなこの私が、平民であられます貴方から、このコンビニおもてなしがどうしてこんなに流行っているのか……それを、聞いてさしあげてもよろしくてよ」
 お~ほっほっほっほ

 うん?
 なんか今、シャルンエッセンスは妙に小難しくいったけど、

 要は、コンビニおもてなしがなんで流行ってるのか教えてくださいって事なのか?

「いいえ違いますわ。『聞いてさしあげてもよろしくてよ』と、言っているでしょう?
 あくまでも、話したいのはあなたであり、それを貴族であるこの私が広い心で聞いてさしあげてもよろしくてよ、そう申してあげているのがわかりませんか?」
 お~ほっほっほっほ

「……ご主人殿、とりあえずこの者を切り捨ててもよろしいでゴザルか?」
 なんかもう、僕の隣のイエロが、その体をプルプルさせながら、刀を半分抜刀してる。

 そこに、スアのアナザーボディが、再度やってきて
「爆裂魔法でふっとばしていい?」
 ってスアのメモ書きを渡してくるし

 うん、2人とも
 僕もすごくそうしてほしいけど、傷害事件の首謀者にはなりたくないので、とりあえず待て

「とにかく、話がよくわかりません。
 なんで貴方は僕の話を聞きたいんです?」
 そういう僕に、
「ですから、何度言えばわかるのです? 話をしたいのはあなたであり、私が聞きたがっているのではないのです……」

 あぁ、そういうことね

 理由はまだわかんないけど

 シャルンエッセンスお嬢様は、僕からコンビニおもてなしが流行ってる理由を聞きたい
 ↓
 ー 没落してるけど ー 貴族なのでゴリゴリにプライドが高い
 ↓
 平民の僕に教えを請うなんてできっこない
 ↓
 じゃあ、僕が話したがっていることにしてしまえ
 ↓
 お~ほっほっほっほ

「よし、帰れ」
 僕は、そう言うとシャルンエッセンスに背を向け、スタスタとその前を立ち去っていった。

「お~ほっほっほっほ……って、え?」
 相変わらず高笑いをしていたシャルンエッセンスは、その僕のいきなりの行動にびっくりしていたんだけど。

 こっちとしても、これ以上時間の無駄に付き合う気はありません。
 こちとら新婚だ
 嫁と娘とイチャコラしたいんだよ、邪魔すんなゴルァ!
 ってのが本音

 ちなみに
 僕と一緒に来てくれてたイエロとブリリアンの2人も、僕と一緒に引き返してます。
 2人とも、さも当然、とばかりに、ウンウン頷いてます。

 さ、早く家に帰って夕飯の準備を

 そう思っていると

 ガシッ

 僕の肩が後方から捕まれました。
「……お待ちなさい、平民」
 シャルンエッセンスは僕の肩を掴みながら、その体をプルプルさせてます。

 僕は、肩越しにそんなシャルンエッセンスへ視線を向けると
「……先に申し上げておきますが
 僕は貴族のご令嬢様に、何かお話をしたいなんて、これっぽっちも思っていませんので……」
 そう言いかけたんだけど
 その言葉の途中で、シャルンエッセンスは
「……悪かったわ、先ほどの発言は全面的に謝罪いたしますわ。ですから……どうか、どうか、このシャルンエッセンスをお見捨てにならないでくださいませ」
 そう言いながら、なんか今度はその目から滝のように涙を流し始めた。

 最初は、嘘泣きかとも思ったんだけど
 その号泣で、
 付け睫毛は取れて頬のあたりにくっついてるわ
 化粧もどろどろになって、なんか妖怪みたいな顔立ちになっているわ

 これを、嘘泣きで出来るほど
 このお嬢様は器用じゃない。

 でもまぁ、
 さっきの今で、すぐに話を聞くのは、僕としても気持ちの切り替えが着きにくいので
「本気で話を聞きたいのでしたら、明日もう一度いらしてくださいますか?」
 そう告げ、この日は一度帰ってもらった。

 で

 翌日、
 閉店作業をしているコンビニおもてなしに、シャルンエッセンスが再びやってきた。
 服装は昨日と同じなんだけど
 その態度は、昨日とは打って変わって妙にしおらしいというか、

 エビぞってた昨日
 猫背ってる今日

 ってな具合で、昨日は終始腰に当ててた手を、体の前で組み合わせているシャルンエッセンス。

 店の閉店作業をしている僕に遠慮してか、すぐには話しかけてこない。

 よく考えたら
 昨日も一応店は閉店した頃合いでやってきたてたな、シャルンエッセンス。
 一応、そのあたりは配慮してたのかな?

 態度は最悪だったけど。

 で
 お嬢様キャラ全開だった昨日とは打って変わって、妙にしおらしいシャルンエッセンスを、店の奥の応接室へと通して話を聞くことにした。

 差し出されたお茶を一口飲むなり
「……これはなんというお茶ですの? はじめて口にいたしましたけど、なんて上品でまろやかな……」
 感動の面持ちで聞いてくるシャルンエッセンス。

 一応、インスタントではあるけれど、
 玉露入りの煎茶だったんだけど、確かに、この世界ではないもんなぁ。


 ちなみに、この玉露などは、プラントで造成可能なのはすでに実験済なので
 近いうちに、別荘で増産しようと計画中です、はい。


 さて、
 お茶に関しては
「お聞きかどうかわかりませんが……僕は遠いところからやってきておりまして、その祖国でよく飲まれていたものなんですよ」
 と
 異世界から来た、なんて言ってもすぐには理解してもらえないだろうから
 あえて言葉を濁して伝えたんだけど、シャルンエッセンスは、なるほど、ってな具合で、納得したように何度も頷いていた。

 で

 その後、シャルンエッセンスは
「……まずは、昨日の態度を全面的に謝罪させていただきますわ」
 そう言い、深々と頭を下げた。

 その上で、シャルンエッセンスは

「……実は私、隣のブラコンベで、お店を開いたのですが……そこがどうにもうまくいきませんの……
 開店前には、こちらのお店に足繁く通わせていただきまして、しっかりリサーチもさせていただいたのですが……」

 ん?
 リサーチ?

 そう言われて、思考すること3分

 あぁ!? あの共同不審な金髪集団!?
 よく見ると……シャルンエッセンスだわ、あの集団に常にいた金髪さんって

 僕が目から鱗状態になっている前で、シャルンエッセンスは改めて頭をさげ
「……昨日は、この店を勝手にリサーチし、勝手に模倣して、勝手に出店していた負い目を感じさせたくないと思うがあまりに、つい、あのような高飛車な態度をとってしまったのですが……」

 ……おいおい
 高飛車な態度もともかく、その理由も大概だと思うぞ

 そう、僕が内心で突っ込んでいると

「恥を忍んで申し上げます……我がバニラビーンズ家は、没落し

 うん、知ってる。

 その家計は風前の灯火なのでございます……そんな中、家財をすべて売り払い、それを元手にしてお店を開いたのですが……そのお店も、開店当初こそそれなりに客が来たものの今ではさっぱりで……」

 そう言うと、シャルンエッセンスは顔をあげ

「お願いですタクラ様、
 どうか……どうか、バニラビーンズ家が最後の望みを掛けてオープンさせた、コンビニごじゃらすを救ってはいただけませんか?」

 ……は?
 ちょっとまって、シャルンエッセンス……君、今なんて言った?

 え? コンビニごんじゃらす?
 あの悪い評判しか聞かない、あの店かい?

しおり